浪花花形歌舞伎 初日 二部2007/04/01 22:35

2007年4月1日 松竹座 午後2時45分開演 1階8列20番

「雨の五郎」

五郎が進之助、若い者二人は千次郎、佑次郎。チラシと番付の写真は吉例寿曽我の五郎の写真で黒地の衣装を着ているが、実際の舞台では白地の衣装だった。前回観たのは歌舞伎座の吉右衛門で、舞台背景の絵がそのときと同じで、右が手前か左が手前か、じっと見ていると反転するので気になっている。

15分程度の踊りの後でいきなり20分間の休憩になったので面食らった。

「かさね」

かさねが孝太郎、与右衛門が愛之助。フェルゼン以来の愛之助は上手から筵をかぶって出て来た。顔は見えないが下に見える太い足がまさしく愛之助。筵をとると顔は孝夫の若いときを髣髴とさせる綺麗さ。与右衛門の方はかさねと比べて舞踊的な所作が少ないから踊りのうまい下手はわからないが、去年のこんぴら歌舞伎の録画を観ておかしかった海老蔵の歩き方のようなおかしなところはなかった。愛之助は長身ではないが孝太郎よりは少し背が高く、がっちりした男性的な体型で、太い足で舞台を歩く様子は力強いのに、かさねと与右衛門が並んだときに男女が並んでいる感じがあまりしない。

孝太郎のかさねのよしあしはわからない。たぶん悪くはなかった。かさねについては玉三郎の印象があまりにも強くほかの人を評価できない。

「曽根崎心中」

扇雀のお初、翫雀の徳兵衛は昔中座で観たと思い込んでいたが、番付によると国立小劇場で観たらしい。そういういい加減な記憶ではあるが、扇雀はそのときよりうまくなっている。二十年前ということなので当然と言えば当然だが。この演目は最初に観たのが映画だったので映画のお初役の梶芽以子のイメージが強い。かの有名な藤十郎のお初は観ていない。

月曜日には歌舞伎座で小金吾を演っていた人がきょうはお初で、ご苦労なことである。

番付に書いてあることが本当なら私が曽根崎心中を観るのも二十年ぶりなわけだが、今回、話題になるお初より徳兵衛の役の方が難しいとわかった。二十歳の役者が演じて大評判になったのも当然だ。翫雀の徳兵衛はあまり良くないのではないかと感じるが私は東京の人間なので断言できない。関西の人にきいてみたい。

大きなお世話なのだが、翫雀は関西に住んで関西歌舞伎を演じていくのが役者として幸せなのだろうかとふと思った。この人は良い役者で、本来は江戸の世話物に向いているような気がする。本人は東京育ちなわけだし。この兄弟を見ていると勘三郎と一座することが多い扇雀の方が自分の資質にあった道を選んでいるように思う。

話がきょうの芝居の話からはずれて来たので元に戻す。二度目に観て感じたのは、この演目がやや冗長であることだ。二人で花道を走っていくところで終わりにすればいいのに。

亀鶴が出てきたとき、ずいぶん痩せてると感じた。お初徳兵衛との対比のせいか。竹三郎は持ち役で、立派だ。

帰るとき、1階の最後列2列は空席なのに気づいた。日曜日なのに。

浪花花形歌舞伎 初日 三部2007/04/02 09:58

2007年4月1日 松竹座 午後7時開演 1階10列8番

「夏祭浪花鑑」

いろんな意味で愛之助にぴったりの役なので期待していた。その期待を上回るすばらしい団七だった。去年のはじめから愛之助の追っかけをやってきたものの「この役だったら愛之助が一番、次も絶対愛之助で観たい」と言えるのはなかったが、団七は愛之助が一番。

堺の魚売りで、筋肉の力のいる団七の役は、堺出身で筋肉系が強い愛之助にぴったり。当たり役になるのは間違いない。

去年の福岡貢は悪くはなかったが気持ちが貢になっていなかったと見えて要所要所のつなぎ目のあたりで気が抜けてブツ切れの印象があった。「歌舞伎おもしろ講座」で本人が言っていたとおり難しい役なのだろう。今回は心から団七になっていて最後の花道のひっこみまで団七になりきっていた。

上手から囚人のなりで縄につながれて出てきたときはヒゲも伸びていて、長い眉は去年の藤十郎襲名のときの修験者を思い出させた。「おありがとうございます」という声がかなり太く、おっ、こんな太い声で行くのかと思った。声は太かったが去年の羽倉斎宮と権太のときに感じたかすかな聞き取りづらさはなかった。床屋に入り、駕籠屋とのゴタゴタを片付けるために出てくるとき「待ってました」と声がかかった。出てきたときはいい男。眉も伸びるものなのかとつっこみを入れたいが吉右衛門も藤十郎も釈放されたとき同じ顔をしていたので不問に付す。

駕籠屋と話がついて花道を引っ込もうとすると徳兵衛が「ちょっと待ってもらおうか」と声をかける。二人が飛んだり跳ねたりするケンカは去年の二つの夏祭のときと比べると役者が二人とも若く身長が揃っているので楽しい。徳兵衛は去年仁左衛門がやったときは団七より強そうだったが亀鶴は強そうには見えない。女房のお辰から判断するともう少し強いはずだと思う。

団七の女房お梶の孝太郎は姉さん女房気味だが落ち着いていていい。高い声といっしょに出るミイミイいう音さえなくなれば文句ない。徳兵衛に「下がれ下がれ」というところなどが面白い。花道で団七の髪を直してやるあたりは夫婦の間に色気がない。愛之助は琴浦役の千壽郎と並ぶ方が合う。

磯之丞の薪車は和事味を出そうとはしているが身についていない感じで硬い。助六をやったほうが似合いそう。琴浦の千壽郎とはとても綺麗なカップルだが千壽郎の方がうまい。

翫雀は曽根崎心中より釣船三婦の方が良かった。もうそんなに若くないし、老け役がぴったりくる。浴衣を着替えるところ、去年の7月の我當が、手伝ってもらわずにすごくいいかげんな着方をしているように見えるのにちゃんと格好がついていたのが印象的だったのだが、翫雀はおつぎ役の竹三郎に手伝ってもらって着ていたがなんとなくすそが開いて変な格好だった。

おつぎの竹三郎は7月と同じ。年はとっているがスラリとした美人の女房。訪ねてきたお辰を見てやきもちを妬くところがおもしろい。亭主が若くなると嬉しいかも。

お辰の扇雀はとても良い。お初も良いがお辰の方が年齢とニンに合っている。この人は綺麗だとは思うがうまいと思って観たことはなかったが今回の浪花花形ではじめてうまいと思った。

義平次の橘三郎も安定していて良かった。

殺しの場で赤褌姿になる愛之助のお尻はもう少し丸みがあった方が形が良いのではないかと思うがこれは個人的な趣味で、日本人はあれで良いのかもしれない。花道を踊りながらひっこむところは狂気を感じさせてとてもよかった。

浪花花形歌舞伎 二日目 一部2007/04/02 23:17

2007年4月2日 松竹座 午前11時開演 1階4列19番

「敵討天下茶屋聚」

主役の翫雀はとてもよかった。愛之助のことばかり考えていたが、去年は確かに愛之助が一番大変だったかもしれないが今年は翫雀の方が大変だったのではないだろうか。この演目では二役だし元右衛門はけっこう芸がいる役。

前に猿之助の公演を観たことがあるが印象が散漫だった。今回の舞台から推測するに兄弟が二組出るしその人間関係が頭に入っていないと全体の筋が理解しづらい話なのではないか。場面場面はそれなりに面白い。

変に色気のある尼の扇之丞も良かった。

愛之助は三部の最後まで出て朝もかなりはじめの方から出演で、ご苦労様なことである。去年もそうだったが、まあ若手ということでしかたないだろう。そんなことをしているうちが花。 黒い衣装に深編笠で出てきたとき愛之助にしてはほっそりしていると感じたのだが声をきくと愛之助だった。声は団七よりさらに太く、顔は仁左衛門そっくり。

浪花花形歌舞伎 2日目 2部2007/04/04 00:50

2007年4月2日 松竹座 午後2時45分開演 1階6列5番

松竹座の花道のすぐ横の席にはじめて座った。花道との間に通路がないから出入りが不自由かと心配したが、花道との間には下に荷物を置く人がいなければ通れるくらいの隙間があるし、松竹座は前後の座席の間が歌舞伎座より広く、人の前を通るのにそれほど気を使わなくてすむ。

愛之助の与右衛門の顔が綺麗すぎてまるで女剣劇のようだ。そのせいで男女の差が際立たない。与右衛門の顔はどの程度決まっているものなのだろう。1部の東間に近いような顔ではだめなのだろうか。

私が「かさね」を初めて観たのは団十郎襲名のときの菊五郎孝夫のコンビだ。今回と型が違って、最初に2人で花道を出てきたのだったと思う。私はすっぽんのすぐ後ろの花外の席で、与右衛門役の孝夫が舞台に出たところで花道に向き直った姿が記憶にあり、菊五郎はすっぽんのところで倒れていて着物のすそを覗いたが特に何も見えなかった。 孝夫も今回の愛之助のように花道で両足を交互に前に持ち上げて跳ねたりしたのだろうか。記憶にない。毛をそっておしろいを塗った足と貼ってあった絆創膏しか覚えていない。

孝夫の与右衛門の顔はあまり好きではなかった。権助を理想としていたからか?愛之助の顔はやや女っぽいかもしれないが綺麗だとは思う。顔についてはテレビで見た海老蔵の与右衛門が一番だ。

2回目の曽根崎心中はきのう観たときより良く感じた。きのうは眠くて途中何回か眠ったのかもしれない。

浪花花形歌舞伎 2日目 3部2007/04/05 00:46

2007年4月2日 松竹座 午後7時開演 1階右12

松竹座の桟敷まがいの横から見る席に初めて座った。去年の顔見世で南座の桟敷に座ったのが初の1階桟敷経験だが、方向はともかく舞台に対する高さは見やすい。花道が観やすいのは去年最初に感じたことだ。ただ昨日のように花道に近い席の方が団七の熱気が強く伝わってきて、それがこちらの気持ちにも影響するような気がした。全体をよく見通せる位置にいる今日は案外気持ちが醒めていた。

愛之助にとって団七はやりやすい役なんだからうまくできて当たり前。うまいとは思うが孝夫の女殺油地獄を観たときのような「こんなすごいものを」と感じるほどの感動はない。何度でも観たい、と思うほどでもない。作品自体がそれほど好きではないのが大きな理由だ。殺しの場の見得が見せ所のようなのだが、私はあの散発的な拍手が嫌いだ。ある一瞬に集中して拍手する方が好き。ひょっとすると歌舞伎の見方が少し間違っているのかもしれない。

男女道成寺 歌舞伎座 昼の部2007/04/05 23:46

2007年4月4日 歌舞伎座 昼の部 3階1列21

きょうは午後二時間ほど勤務中に外出させてもらって歌舞伎座で男女道成寺を見た。昼の部の3階1列目があったので昨日急遽オンラインで買った。

所化が出てきたら隣の人が「お、獅童、勘太郎、七之助・・・」と言ってくれたので先頭の3人がわかった。浅草組が出ると嬉しい。 それ以外でわかったのは種太郎だけ。

3階の1列目なので役者の顔は判別できるはずなのに、はじめ仁左衛門と勘三郎を逆に思っていて、勘三郎は踊りがうまいから立ち姿も綺麗だし扇の使い方が段違いにうまい、と思って見ていたのは仁左衛門の方だった。女になろうと努力してるほうが仁左衛門で、自然体なのが勘三郎。設定としても桜子実は狂言師左近だからそれで良いのだ。

仁左衛門と勘三郎は、美しさ担当とうまさ担当に分かれていて良いコンビだった。孝夫玉三郎で観たのは15年くらい前で細部は覚えていないのでこんぴらの前の良い予習になった。狂言師左近が桜子でいる時間が思ったより短くて残念。左近は綺麗な衣装で踊るので、それを楽しみにしよう。 仁左衛門は踊りのうまさより愛嬌で見せている。愛之助も同じだろうか。それもいいが、左近の踊りを勘太郎で見たくなった。きょうは弟と2人で所化姿でほんの少し踊っただけだ。勘太郎は手足が長く、かつ踊りがうまいので私の好みに合う。9月に錦秋公演で兄弟で男女道成寺を踊るそうなので是非見たい。遠くから見るのでも立ち見でもいい。

第二十三回 四国こんぴら歌舞伎大芝居 第一部2007/04/16 00:03

金丸座

2007年4月15日 金丸座 午前11時開演 へ列2番

こんぴらに行くについていろいろ検討した結果、大阪に二泊して大阪から日帰りすることにした。宿を朝の7時に出てこだまと普通列車を乗り継いで10時40分に琴平着。タクシーで金丸座へ。

そろいの法被を着た琴平町のボランティアの人たちが世話をしていて、入る前に切符を切ってくれたのは小学生の男の子。この子も法被を着ていた。鼠戸という頭を下げないとくぐれない戸から入り、渡された袋に靴を入れて上がるのだが、モタモタしているとお茶子さんが靴を袋に入れてくれて、案内のお茶子さんが席まで案内してくれる。私の席は外の縁側のようなところを通り、花道に向かうやや幅広の道があるところから入って、へ列3番に座っている人の間を通らせてもらってへ列2番に行く。花道のすぐ外側だ。内側の枡は仕切られているがヘ列の場合は仕切りがあるわけではなく、へ列1番~3番まではそれぞれ6枚の座布団が敷いてあってそこに6人座る。行ったのは私が最後で一つしか空いていなかったので自然にそこに座った。真中。他の5人は3人と2人のグループなので私はいずれにせよ真中に座ることになったろう。案内してくれたお茶子さんが「素敵な席ですね」と言った通り、花道が私の前に座っている人のすぐ前にあり、役者さん達がそこで止まって台詞を言ったりするところなので近くでいろいろ見ることができた。

「正札附根元草摺」

翫雀の五郎と孝太郎の舞鶴。浪花花形の五郎は白地の着物だったが今回は普通の黒地。2人が花道に来たとき翫雀の裸足の足と反り返った親指がよく見えた。舞台が近いせいか、普段あまりよく見ない舞鶴の髪飾りや着物の柄に目が行った。遅れたら捨てても良いと思っていた演目だったが意外に楽しめたと思う。孝太郎は踊りは良いが相変わらず声が気になる。

「芦屋道満大内鑑 葛の葉」

これは今の藤十郎がやったのを観たことがあり、葛の葉が子供を抱きかかえ、口にくわえた筆で障子に歌を書く器用さに驚嘆した。今回は同じ場面であのときほど感動しなかった。私の記憶の中では口にくわえた筆で半分以上の文字を書いたように変容されているが実際には最後の一句程度で、あのくらいならまあ書けるかなと思った。

扇雀は浪花花形を観て気に入ったが、子供に対して優しい母親には見えない。晴明の母なのだし、実は狐なのだし、優しくない母でも良いかもしれない。保名役の愛之助とも夫婦に見えない。これは別に扇雀だけの責任ではなく仁左衛門が保名なら可愛い妻に見えるだろうから二人のバランスの問題だ。

ただ、藤十郎だったら四十歳年下の愛之助と夫婦役をやってもかわいい妻に見せる腕があるような気がする。扇雀みたいなタイプの女が私はけっこう好きなので、ニンの役をやってほしい。

愛之助の保名はあまり感心しなかった。声は数馬の時よりやや低い程度で、そうすると愛之助は子供っぽくなり扇雀の夫に見えない。保名という役の正しいイメージがわからないのでこれ以上は何とも言えない。花道で立ち止まったときに手の血管が見えたのでファンとしては満足。

廻り舞台が動くと、大きな音がする。下で人が動かしているのだと思った。

後の晴明になる子供がなんともかわいらしい。愛之助はこの子をおぶって仮花道から引っ込む。

愛之助の保名が引っ込んだ後、花道の前後から面明かりを持った黒衣さんがあらわれ、スッポンに向かう。そしてスッポンから葛の葉が上がってくる。 最後は葛の葉が引き抜きで狐になり、宙乗りをした。天井から葉が落ちてきた。二階には引っ込むところはなく、花道の揚幕から引っ込んだ。

「英執着獅子」

第一部では「英執着獅子」の前半の踊りに一番「有難味」のようなものを感じた。藤十郎以外のメンバーは浪花花形に出てたわけで言わば藤十郎だけが大人の役者。スターのオーラがある。顔もかわいいと思うし踊りもうまいし花道に来たときに至近距離で顔を見ても70代半ばの老人の顔には見えない。引き抜きも手際よく一瞬で決めてみせる。白地に牡丹と蝶の模様は古風かつ関西風のような気がする。 似合っていた。

藤十郎がこの着物で花道を引っ込んでから小姓役の亀鶴と薪車が出てきて二人で踊る。薪車の前髪姿は初めて見たかもしれない。去年の染五郎と亀治郎の技量には遠く及ばないが同い年の2人の踊りは比較して観るので面白い。亀鶴の方がうまいが薪車は華やかな容貌で補ったかもしれない。

藤十郎は花道から獅子の姿で出てきた。花道では鬣がすぐそこにあったが、客席の方には出てこないのでその熟練度に感心した。舞台で毛振りもしたがあまり迫力がなかった。獅子の役は若い踊り手のものではないかと思った。

幕がしまった直後にまた幕が開いて藤十郎がカーテンコールのようなお辞儀をした。

四国こんぴら歌舞伎大芝居 第2部2007/04/17 22:56

男女道成寺

2007年4月15日 午後3時開演 金丸座 西出孫席2

第1部が終わったあと、外の売店でうどんを食べて土産を買ってトイレに行っていたら、開場を待つ第2部の客の列が道路に降りる階段の下までできていた。

花道を歩くことは許されないが、仮花道は客も出入りのときに歩く。出孫席は仮花道との間にほんの少しの段差と低い柵があるだけでくっついている。一つの枡が3人用で仮花道に向かって横並びに一列にすわる。後ろの桟敷席との間の柵に寄りかかれるし一人なので完全ではないが足も伸ばせるので特等席。

「傾城反魂香」

翫雀の又平はよかった。梅雀に似通っているといつも思うのだが、梅雀が大河ドラマでやった徳川家重をちょっと思い出す又平だった。今まで観た仁左衛門、富十郎、三津五郎の中で一番ニンに合った又平だと思う。藤十郎は、典侍の局のときと同じく台詞が聞き取りにくい部分があったが、全体としては良い。自分で鼓も打つ。良い芝居だったのだろうが実は私はやや苦手な演目で、途中で眠った。

「お目見得ご挨拶」

藤十郎が裃姿で舞台に座って挨拶。金丸座に最初に出たのは1954年だと言っていた。今の場所ではなく資料館のあるところにあったとか。扇雀時代に金毘羅さんに夫婦で;献石したが、台風のときに扇雀の石碑の方は倒れてしまって扇千影の方はしっかり立っている、という話で笑いをとっていた。 「おかげさまで藤十郎を襲名させていただき」と言ったところで私の近くの男性が「山城屋!」と掛け声をかけたので、そちらを向いて軽く頭を下げた。

「男女道成寺」

ほんの二週間で別の役がベストになるのは節操がないかもしれないが、もう一度観るなら団七より狂言師左近を観たい。そのくらい愛之助の狂言師左近は生き生きと楽しそうに踊っていて感動した。

桜子は左近に変わるのを予定した化粧のせいか期待ほど綺麗ではなかったし踊りも孝太郎の方がうまそうだった。大股ですそを割ってしまい男であることがばれて左近の姿になった後、振袖から狂言師の衣装に着替えて出てきて踊る。最初の引き抜きの後、あでやかな花柄の衣装になるがそれが愛之助には似合う。女っぽく首を振って歩くのも愛之助がやると本格的。鞠をつく格好でぐるっと回るのは腰をしっかり落として筋肉力を見せていた。写真の絵にある黄色い衣装のときにやる海老反りはくるんと見事に反っていた。最後に鈴太鼓を持ったときも身体が大きく動いていて気持ちが良かった。

愛之助の本格的な踊りを初めて観たような気がする。9月に勘太郎の左近を観る予定なので、勘太郎の方がうまいことは十分承知しているが愛之助にも何か取りえがあれが良いと思って観ていたが、男の子らしい元気な踊りで期待以上だった。他にもいろいろ踊りを観たい。

孝太郎は愛之助よりうまいのだが、2人で踊るときはどうしても愛之助ばかりに目が行くし、一人で踊るときは私の玉三郎至上主義が邪魔をして正当に評価できない。花子と桜子が花道に出る一瞬があったが残念ながら私の近くの仮花道には孝太郎の花子の方が出てきた。そして、長い帯の先が私の指に当たった。

手ぬぐい撒きは主役の2人は前の方にパラッと撒いただけだが、所化さんの一人が投げた手ぬぐいが私の荷物の近くに落ち、一枚もらうことができた。五枚銀杏の左右に2人のサインが染めてある。

4月大歌舞伎 夜の部2007/04/23 00:48

2007年4月22日 歌舞伎座 午後4時半開演 2階5列41番

今月は信二郎あらため錦之助の襲名披露興行だ。信二郎は、歌舞伎を観始めた頃何回かいっしょに観に行った友人のご主人と高校の同級生で、高校のときの集合写真を見せてもらったことがある。二枚目だった。

「実盛物語」

瀬尾役の弥十郎が大きいので並んでいると仁左衛門が長身に見えない。仁左衛門は物語のところが凄くうまい。太郎吉役の千之助は足をパッと開いて踏ん張るのがかっこいい。声もよく出ている。幕間に、祖父と孫が馬に乗っている写真を買った。

「よしかた」と聞いて頭の中で「義方」と変換したが実は「義賢」で、これは「義賢最期」の後の話なのだ。そういえば小万という女が出ていたし、身重の御台様もいた。

「口上」

横にずらっと大人数が並んだ口上。種太郎も口上を述べたが、初代錦之助が幡隋長兵衛をやったときの初舞台を思い出すと感慨無量。自分が何をやってるかもわからない風情の全く物心ついてない子供だった。あのとき子分の役で出た獅童について「背もずいぶん伸びてもうすっかり大人だ」と日記に書いてあるが、同じ子分の役で出た愛之助は当時全く眼中にない。

信二郎を最初に見たのはたぶん猿之助の歌舞伎なので、福助、門之助の口上が私には嬉しかった。従兄の歌六、歌昇の兄弟も昔はもっぱら猿之助の歌舞伎で見ていた。弥十郎は覚えていないのだがたぶん何回も猿之助の歌舞伎で見ている。

「角力場」

新錦之助が放駒長吉と与五郎。去年の9月に染五郎がやった役だ。染五郎の方がうまかった。つっころばしとしてはどうなのか、ということを不問にふせば与五郎の役は悪くない。綺麗な若旦那だ。長吉役がチョコチョコして全然ダメ。信二郎はチビではないが、相撲取りの役のときに大男の弥十郎を横に置くのはどうかと思う。獅童の三原の役は可もなく不可もなし。閂役の隼人は筋書きの写真で見ると大人の顔になって子供のときより更にイケメンになった。もっと舞台の近くで観たかった。

長吉と与五郎役については是非愛之助のを観たい。愛之助なら2人の声のトーンにもっと変化をつけられるだろう、と新錦之助を見ながら思った。

「魚屋宗五郎」

宗五郎役の勘三郎は最初の方の台詞まわしがしつこくて深刻で重くて感心しなかった。江戸の世話物はやっぱり菊五郎に限ると思った。勘太郎は下手ではないが声がもっと男っぽい方が良いのではないか。ニョキッと出ている腕や足がほっそりとして綺麗だ。七之助のおなぎはおつたが殺された事情を語る長い台詞がとても良く、聞きほれた。ここまでの登場人物の中で一番うまいと思った。勘三郎は、お酒を飲み始めてからの芝居がうまい。