芸能花舞台 舞踊・清元 「流星」2007/07/07 23:15

2007年7月7日(土) 午後1:00~1:45 NHK教育

松竹座に七月大歌舞伎を観に行くのはまだ先のことなので、愛之助の舞踊をテレビで観られたのは嬉しかった。45分のうち舞踊は最後の30分で、最初にアナウンサーと水落潔で、この舞踊についての話と、愛之助や上方歌舞伎塾についての話をし、次に愛之助の短いインタビューがあった。

「流星」は去年の松島会でも観た。あのときは女の人が流星を踊っていた。数ある演目の中で中国風の衣装は珍しいので覚えている。

今回は牽牛織女が千志郎と千壽郎。千志郎は上背があるので中国の皇帝のような衣装は似合っているが踊りはあまりうまくない。千壽郎はうまい。

スタジオの中に作ってある舞台のようで、その花道を流星役の愛之助が「ご注進!ご注進!」と走って来る。雷の夫婦喧嘩の話になると、面を変えながら夫、妻、子供、婆の4人を踊り分ける。頻繁に面を変えるが、後見の千蔵とよく息が合っていた。愛之助が女を踊るのを見るのは好きだ。妻役も良かったが一番うまかったのは婆。腰の曲がった婆をうまく踊っていた。話が終わって面をとると良い男に戻る。

上半身が少し硬いかなとも思うし、下半身の動きもすごくうまいとは思わないが、役者の踊りとしては合格点だったのではないだろうか。愛之助は先月の歌舞伎座の出番は短かったが、今月の稽古と、この舞踊の稽古に時間を割いていたのだろう。

七夕の話なのに天上界というより下界の世話物めいた踊りなのが面白い。

仁左衛門の与兵衛2007/07/17 22:58

きょう、松竹座七月歌舞伎の夜の部の「女殺油地獄」で仁左衛門の与兵衛を観た。この前観たのは.1998年9月の歌舞伎座だった。そのときの感動が尋常ではなかったので、たとえ愛之助が与兵衛をやっても観ないで、仁左衛門の与兵衛を最後にするつもりだった。ところが今月の松竹座で海老蔵がやるときいて観るのを即決した。いいかげんな決心だと思っていたが、海老蔵は怪我で休演し、再び仁左衛門の与兵衛を観ることになった。

まるで、仁左衛門が.「俺の与兵衛以外観るな」と言っているようだ。わかった。もう別の役者の与兵衛は観ない。

松竹座七月大歌舞伎 夜の部2007/07/17 23:18

2007年7月17日 松竹座 午後4時15分開演 1階6列16番

「鳥辺山心中」

今回唯一の初見演目。事前に各ブログを読んで、つまらない話なのは予想していたのでその点については驚かなかった。きょうは身替座禅でも、ましてや油地獄でも眠るわけにはいかないから、この演目中に睡魔に襲われたら逆らわないつもりだった。眠らなかったのは愛之助と薪車の言い合いと果し合いが面白く、その後のつまらない愛之助と孝太郎二人のシーンがあまり長くなかったからである。特に薪車が良かった。みんながいる座敷に乗り込んできて怒鳴りはじめると眠気が吹き飛ぶ。芸質が新歌舞伎に向くのかもしれない。薪車は玉三郎と並んでも会うが、遊女お花役で出ている師匠の竹三郎と並んでも合う。いずれも大人びて華やかな美貌である。孝太郎は高音に雑音が入る以外はうまい女形だと思うが愛之助と並ぶと似合わない。座敷にいるときは愛之助に膳を出す千壽郎の方が愛之助と似合う。死装束を着て鳥辺山に向かうところも顔が似合わないのでちっとも綺麗ではない。特に孝太郎の顔をどうにかしろと思う。顔が似合わない以上に不満なのは恋人らしい所作.のときに全く情愛を感じないことである。原因をみつけて対策を講じるべきである。

「身替座禅」

この前仁左衛門の右京を見たのは15年前の中座。孝夫は美しい右京だった。きょうの右京は顔が疲れていた。皺とか頬のたるみとか、近くで顔を見ればさすがの仁左衛門も年は争えないが、きょうは、風邪をひいたときの顔のように眼のあたりが疲れて見えた。それでも相変わらず美しく楽しい右京だった。揚幕から出てきたばかりの時の語りの.「会いたい会いたい」を、仁左衛門はあんなに情感こめて言っていたのか。花子のもとに行くときの花道に出る直前の嬉しそうな様子.はいかにも仁左衛門。花子と一夜を過ごして戻ってくる花道の表情は、前回見たときの呆けたような目の焦点が合わない「よかったー」みたいな顔が好きだったが今回は浅草の勘太郎がやっていたような思い出し笑い風だった。花子との逢瀬を語る踊りは楽しいが、膝を傷めているようで、長袴の捌きがあまり上手くいっていないように見えた。きょうは他の場面でも、時折右の膝に手を当ててぐっと力を入れて立ち上がる様子が何回か見られた。

玉の井役の歌六の女形ははじめて見たが、ちゃんとした女形ができることに驚いた。この役は立役が加役としてやるもので愛之助のようにきちんとした女形の声を出せるのは例外なのだと思っていた。歌六は仁左衛門やその流れの愛之助のように急に立役の太い声になることも少なく、自然に笑わせていた。

愛之助の太郎冠者は顔も素顔との落差があまりなくて好もしいし、うまいだろうとは思っていたが予想以上に良かった。踊りで玉の井がお化粧する真似をするところが特に良かった。

浅草と比べると右京と玉の井が円熟のカップルであるのに対し、千枝小枝が若かった。千枝の壱太郎は女形の台詞は初めてきいたがうまい。

右京が戻ってきてお囃子連中が現れると、太鼓の傳次郎さんがいたので嬉しくて拍手をした。

「女殺油地獄」

昼に知盛、夜に右京、与兵衛という豪華メニューは孝夫ファンとして今まで経験したことがない。今回の事態では、個人的には海老蔵よりも孝夫について思うことが多い。

もう観られないと思っていたものを思いがけず再見できて嬉しいに違いはないが、きょうはじめて孝夫の与兵衛に年を感じた。だから本当は凄いと感じた前回で見納めにした方が自分としては幸せだったのかもしれない。ただ、前回見たときは最後だとは思っていなかったので、これで孝夫の与兵衛は終わり、そして自分が見る油地獄もこれで終わり、と覚悟を決めて観ることができて良かったのかもしれない。

はじめの二幕は年を感じたが、最後の幕は暗いし頬かむりをして出てくるのでそうでもなかった。特に殺しの場の、あの狂気を含んだ目はやはりものすごく魅力がある。最後に花道を逃げて行くとき、スッポンのところで転び、揚幕の方に向き直った時の顔。この役が孝夫にとって最高で、この役にとっても孝夫が最高の演者なのだろう。

私はもう観ないが、新しい与兵衛は必要なのであり、孝夫を継ぐのはやはり海老蔵だろうと思った。孝夫の青白い炎に対して海老蔵が持っている深い闇。

愛之助の七左衛門は軽すぎる。海老蔵が与兵衛の時はそう見えなかったのかもしれないが。

孝太郎のお吉ははまり役。何をやっても世話女房風になってしまう人。

壱太郎のおかちは良かった。台詞が良いので期待できる。

松竹座七月大歌舞伎 昼の部2007/07/19 00:17

2007年7月18日 午前11時開演 1階5列5番

「鳴神」

代役の愛之助は鳴神上人の役をよくやっていたと思う。素人目には技術的には何も問題ないように見えた。最初、高潔な上人でいる間は文句なし。雲絶間姫の色仕掛けで落とされるあたりで、愛之助がこの役をやるにあたって足りないのは「若い男」らしさかもしれないと思った。

私の鳴神は団十郎が基準なせいか、愛之助には珍しく台詞回しで団十郎を思い出した。最後の引っ込みの後姿に「夏祭浪花鑑」を思い出した。

孝太郎は全体的にうまい。美人ではない絶間姫だが、上人を落とすまでは芝居自体が面白いので不美人がやっても面白い。ただ、上人に酒を勧めるところが怖くなりすぎて玉の井のようで、玉三郎ならあれでもかまわないが孝太郎の顔であれをやったら鳴神が心変わりするだろう。 最後に注連縄を切って花道から引っ込むあたりは動きだけなので、玉三郎の見せ場だが孝太郎のはあまり見たくない。

きょうの席は雲絶間姫が花道に出てきて座っているときの後見さんのすぐ横で、衣装の柄や顔の凹凸まで、こんぴらの時のようによく見えた。鳴神上人の六方のひっこみもよく見えて、喜ぶべきなのだが、海老蔵がここで見られたはずなのにと思うと悔しかった。

[橋弁慶」

田中傳次郎が小鼓を演奏しているのをはじめて見た。

前の演目の鳴神で最後に花道をひっこんだ愛之助が三十分の休憩をはさんだこの演目の最初に「船弁慶」の弁慶の衣装で揚幕から出てくる。壱太郎が牛若丸の役。きょう観た限りでは綺麗な軽い舞踊の演目だ。

「渡海屋・大物浦」

仁左衛門の知盛はうますぎて今まで他の役者で観たものとは別の役のようだ。すっきりした人がやるこってりした演技。

三月に歌舞伎座で同じ演目を観たときにも思ったが、一月の浅草の「渡海屋・大物浦」は若い役者が演じた口当たりの良い芝居で、大歌舞伎でやるのは大人向きなのかもしれない。大人向きばかり見ていてこの演目の良さがわからなかった私が子供向きのを見て感動のポイントをつかみ、以後大人向きも鑑賞可能になったということか。今でも浅草の「渡海屋・大物浦」が一番好きだ。比べ物にならないくらい仁左衛門の知盛がうまいのはわかるが獅童の知盛にも魅力があった。

七之助がすでに演じた典侍の局を秀太郎が初役で演じるのも不思議。藤十郎は平家の一員としての立場が強く出ていると感じたが、秀太郎はあくまでも乳母。 日和見の話をするところは藤十郎とおなじく普通に台詞を言うように言っていた。

愛之助の相模五郎は亀鶴の相模五郎よりおっさんぽく、後から出てくるときは熱血漢。

1階席でも知盛が後ろ向きに飛び込むときの足の裏が見えた。

義経の代役の薪車が引っ込むのによく見えてまた悔しくなった。

松竹座七月大歌舞伎 夜の部 2回目2007/07/19 01:21

2007年7月18日 午後4時15分開演 1階5列21番

「鳥辺山心中」

愛之助の声は低すぎるのではないだろうか。年齢は二十代前半の設定らしいし、もう少し普通の良い声を出せないものだろうか。仁左衛門のを見たことがあればどんな声であるべきか見当がつくのだが。

「身替座禅」

右京、玉の井、太郎冠者が昨日よりハイテンションになっているような気がした。特に玉の井役の歌六の演技が大げさになっているような。

「女殺油地獄」

仁左衛門の老けた顔に慣れたせいか、昨日より良いように感じた。あごが見えると年齢は隠しようもないし、継父役の歌六の方が年下なので、息子が父親とけんかしているように見えない。それでも、継父の嘆きを無視して腹這いで算盤をはじいているところは、あごが手で隠れ、後ろに綺麗な足が見えるので若く見える。

先代の権十郎の印象が強くて愛之助を軽いと思ったが、与兵衛親子の年齢のアンバランスさに比べて愛之助、孝太郎、その子の家族は(孝太郎はお吉の設定年齢より十以上上にしろ)普通に若い親子であり、愛之助はあれで良いのかもしれない。

殺しの決心をしたあたりから仁左衛門の与兵衛は目を大きく見開くので、殺しのシーンでは仁左衛門の顔が海老蔵に似て見えた。

右膝を傷めていることは昨日から気づいていたが、昨日は正座を避けていることについて確信ができなかった。しかし今日ははっきり、右膝は正座できないとわかった。不具合はあるものの、芝居自体は滞りなく進めているようである。殺しのシーンもそれを織り込んで、油樽の倒し方などを孝太郎と打ち合わせて、やり方を変えているのかもしれないと思った。

最後は全身びしょ濡れ。犬の声におびえながら逃げる。あの犬の声は歌舞伎座で見たときもあったのだろうか。忘れていた。記憶は変容しているかもしれないが、今回の方がみすぼらしさが増しているような気がする。

松竹座七月大歌舞伎 昼の部 2回目2007/07/23 01:38

2007年7月19日 午前11時開演 1階5列15番

「鳴神」

最初に観たときも感じたのだが、松竹座は歌舞伎座に比べると舞台の幅がずいぶん短い。今までそれほど強く感じなかったが「鳴神」の舞台装置で岩屋と崖があまり離れていないので気づいた。最初の「鳴神」を観たときは岩屋はもっと上の方にあったような気がしたが、もう20年以上も前のことで記憶違いかもしれない。

この日は中央の席で観たので、鳴神が欲望に目をギラつかせて雲絶間姫の胸深く手を差し込み、姫が「お師匠さま」というあたりがよく見えた。悪くはなかった。

一夜漬けで代役をこなした愛之助の精神力はすごい。周囲の人たちはずいぶん助かったろう。

「橋弁慶」

亀治郎の公式サイトで見た「船弁慶」の弁慶を生で観られて嬉しかった以外は自分にとってはあまり魅力のない演目だった。

「渡海屋・大物浦」

昼はやっぱりこれが一番。前日は花道のすぐ横だったので銀平の出の全体はよく見えなかったが、この日はばっちり。脊が高く、颯爽と歩いてきて完璧なかっこよさ。舞台中央に座って煙管をくゆらせているところも前の人の頭にじゃまされずによく見えたので、相模五郎と入江丹三のやりとりよりも銀平を見ていた。下に着ている着物は平右衛門が着ていたものと同じ模様だった。2人をつかまえての、義太夫にのせた台詞はすばらしい。

相模五郎が衣装を変えて「ご注進、ご注進」と出てきて、舞台中央で踊るのも今回はじめて観たと感じるくらいよく見えた。鎌倉武士のいでたちのときも衣装を変えた後も、浅草の亀鶴に比べると愛之助は濃い。

典侍の局たちが座敷から海戦の様子を伺うシーンで、今月は沖に見える船の灯が消えた後、海に沈むのだが、浅草は灯が消えるだけだったような・・・。3月の歌舞伎座は覚えていない。

血染めの知盛が「生き変わり、死に変わり・・・」と語るあたり、仁左衛門はカッと目を見開いて観客に向かって語っているようだ。仁左衛門の壮絶系の役はうまいだけでなく気持ちがこもっていて、そして美しい。

魔笛2007/07/24 23:06

魔笛のチケットをくれた友達から電話があって、日比谷シャンテの上映はもうじき終わると言われたので、23日に会社を半休して1時から魔笛を見た。

平日の昼のせいか客席の平均年齢が高い。

この映画について、オペラの「魔笛」だが舞台の録画ではなく映画のような作り、という以外は何の予備知識もなく行ったので歌い手の第一声が「ヘルプミー」だったのには驚いた。ケネス・ブラナー監督だったわけだ。この後、歌舞伎座に回る予定で、歌舞伎のときに寝ると嫌なので「魔笛」では眠ってもかまわないと思っていたが、傷ついたパミーノを見つけた若い看護婦3人が「魅力的な若い男を見るのは嬉しいことだ」と言ったり「この男は私が残って看てるからあんた達は2人は~」と争ったりするのが面白かったので気を入れて見始めた。

プログラムによると、第一次世界大戦の塹壕戦から話が始まっていて、夜の女王とパミーノがいっしょに戦車の上に立ったりする。絵が綺麗で脚本も力が入っていて芸術性の高い作品だ。ただ、オリジナルでは高僧のザラストロが、この話では夜の女王に敵対するグループの指導者に置き換えられていて、「指導者を讃える群衆」の様子が全体主義国家を思わせる。最後の方は敵が負けるのが簡単すぎてつまらない。これはたぶんオリジナルのストーリーも同じだ。ただオリジナルはイシスやオシリスが出てくる神話の世界で、予定調和的でもそんなものだと受け入れられるのだが、話が現代の世界に設定されていると単純な勧善懲悪はつまらない。

私は全体的には面白いと思って見ていたが、しばらくして出て行く人もいた。入れ替え制なので、前の回を途中から観た、ということではないはずだ。後半、少しウトウトして目覚めたときには私の隣りの人もいなくなっていた。正統派のオペラファンが失望したのだろうか。

音楽の素養がないので、オベラ映画だが音楽については語ることができない。

NINAGAWA 十二夜2007/07/26 22:54

2007年7月23日 歌舞伎座七月大歌舞伎 夜の部 午後4時半開演 2階1列32番

舞台に鏡があると聞いていたので幕が開くのが楽しみだった。照明が客席を照らし、幕が開くと舞台の後方と左右に置かれた鏡に客先全体が映り、観客がわーっと言う。

この鏡はマジックミラーで、照明が舞台を照らすと向こう側に大きな桜の木と子供たちと鼓の奏者が見える。とても綺麗な舞台だ。そこに花道から出てくる大篠左大臣役の錦之助も綺麗だ。この舞台装置を見られただけでも来た甲斐があると思った。イギリス人にも見せたい。鏡のおかげで、舞台にいる役者の方から花道はあんな風に見えているのか、と初めてわかった。

難破する船のシーンでは菊之助が琵琶姫と主膳之助を見事に早代わり。琵琶姫が男に化けた獅子丸の時間が長かったが、綺麗な小姓の獅子丸が時々元の女に戻る瞬間が愉快。去年弁天小僧を観たとき感じたように菊之助は両性具有的な役が合う。

亀治郎の麻阿は私の予想より大人っぽい女だった。ビッチキャラというか。声も、本人の地声がわかる声だった。こっそり這って逃げようとしたり、棒で打つ真似をしたり、普通の歌舞伎の所作とは違うものがあった。

配役を頭に置いて書いた脚本なのか、各役が役者の個性に近づいている印象を受けた。それなのでキャラが立っている。時蔵の織笛姫はしっかりしたお姉さん風。

船の遭難で別れ別れになった、そっくりの兄妹がいて、妹は男装して小姓として働き、実は使えている殿様に恋をし、殿様の恋の相手は男装した妹を男と思い込んで恋をし、というストーリーは普遍性を持った面白さがある。歌舞伎化にも向く話なので歌舞伎のレパートリーになることを望む。個人的な好みから言うと、毛色の変わった演目というより、シェイクスピアを翻案した歌舞伎らしい歌舞伎になってほしい。たとえば、最初のシーンの音楽も小鼓は出るもののシェイクスピア劇で流れるような音楽だが、完全な邦楽にしてほしい。

愛之助の「鏡獅子」2007/07/30 23:00

2007年7月29日 「一の会」 先斗町歌舞練場 午前10時開演

10時前に会場前に到着した時は長い列ができていて、ようやく最後列の席が確保できた。娘道成寺の前の休憩時間に戻るのが遅れてしばらく通路に立って見ていたら、舞台も花道もよく見通せることが分かったので、最後の「鏡獅子」の前に座席を人に譲り、後ろの真ん中に立って、上様になったつもりで弥生を真正面から迎えることにした。いまだかつてあんな良い位置から鏡獅子を観たことはない。忘れがたい舞台になった。

愛之助は六役をこなした今月の松竹座の楽日から2日をおいただけで疲れているかと思いきや、ますます身体がよく動いて気力も充実しているように見えた。肩から下の動きが柔らかく、動きにメリハリもある。女らしい弥生だった。日舞をやっている知人から、弥生はずっと一人で踊っているから大変なのだと聞いたが、愛之助は獅子頭に引っ張られて揚幕に消えるまで、集中力が途切れることもなく踊っていた。個人的に不満といえば不満なのは顔立ちと首が骨太でごついのでオカマっぽく見えることだ。もっと思い切った化粧をして華やかな顔をつくったらどうだろう。扇を2つ合わせてクルクル回しているとき、俯いた顔が仁左衛門の女形の時の顔に似ていると思った。それではいけない。

弥生が引っ込んで、胡蝶の役は千壽郎とりき弥。大人の、色っぽい胡蝶もなかなか良いものだった。

間奏曲の間に千志郎と松之が獅子の乗る台と花を用意する。

先斗町歌舞練場の花道は下手の一段高い席の横にくっついている。獅子の愛之助が一度出てきて後ろ向きに引っ込むとき、揚幕が真後ろでなく斜め横の位置にあるので最後に少し曲がらなければならない。

三響会は赤獅子だったが、今回は白獅子。綺麗な鬣だった。花道で頭を振る時は下手の来賓席にかからないように振っていた。三響会の時の毛振りは下手だと思ったが、今回は良かったのではないか。最後の方は速いスピードで頭を振っていた。飛び上がって舞台に座り込む所作も力強い。満場の拍手を浴びて幕が閉まった。