4月大歌舞伎 夜の部2008/04/05 22:24

2008年4月3日 歌舞伎座 午後4時半開演 2階5列5番

「将軍江戸を去る」

舞台が暗く、遠い席からだと役者の顔がよくわからない。途中で少し眠った。障子に影が映ってその人物の声が聞こえるのは珍しかった。慶喜と誰かの会話の中に大鳥圭介と榎本という知っている名前が出てきて嬉しかった。幕切れ、慶喜が橋を渡って江戸を去ろうとするときに見送りの人たちが橋の近くに集まっているが、慶喜のように水戸から来た人ではなく二代以上直系で続いた将軍だったら旗本や御家人たちは将軍の意向はともかく幕藩体制維持のために戦ったのかも、とか想像した。将軍は梅玉で見たかった。三津五郎はうまくても将軍の雰囲気がない。

「勧進帳」

21年前、孝夫の弁慶で「勧進帳」を初めて観た。今回の立鼓の傳左衛門は子供の頃だ。台詞の内容は半分もわからなかったが大好きな演目になった。

今回は義経の役がなんと玉三郎。玉三郎は花道に出てくると客席全体に顔をめぐらせる。客席に静かに広がる「きれいね~」という囁き。弁慶の仁左衛門と花道で並んだのを見るだけでも嬉しい。しかし、富樫の目を欺くためにとっさに義経を叩いたことを詫びる弁慶に語りかける台詞は男とも女ともつかず、義経らしくなかった。前回、玉三郎の義経を観たときも感心しなかった。幸四郎・吉右衛門兄弟の弁慶・富樫のときだったので、兄弟が親密なので玉三郎が疎外されていると解釈していたが、元々、玉三郎のやるべき役ではないのだろう。

富樫役の勘三郎は扇を後ろに投げたりする所作は綺麗だし台詞もうまいが、仁左衛門の弁慶と並ぶと大人と子供のような格の違いを感じる。年下の人間が富樫の役をやるのは大変なのかもしれない。

仁左衛門は孝夫の時と比べると声が割れてしまったが、華があるのは相変わらず。台詞は昔もうまいと思ったが、きっともっとうまくなっている。弁慶はそんなにうまくなくても良いんじゃないかと思うほどうまい。

勧進帳は目も耳も楽しませてれる演目だ。去年団十郎の弁慶で勧進帳を観たときに舞台の視覚的美しさを再認識したが、今回は傳左衛門の鼓も気にしていたので、役者の演技と鼓の音、「イヨー、イヨー」という声の呼応を感じた。

「浮かれ心中」

井上ひさしの「手鎖心中」を歌舞伎化したものだそうで、原作を読んだことはないが粗筋はかすかにどこかで聞いたおぼえがある。前の演目で富樫だった勘三郎が戯作者栄次郎だが、同じ人が本来の姿に戻って出てきた風に見える。

一年たったら別れる予定で結婚したおすず役の時蔵と勘三郎は互いの持ち味がうまく混じってまろやかな味を出している。時蔵は、喧嘩の時に男の声を出したり、栄次郎の妹役の梅枝は時蔵に庭に落とされて、そこでえび反りをしたりして、親子で楽しそうだった。

花魁の箒木役の七之助はニンに合った役だった。籠釣瓶の見初めの場のパロディのようなところでは、そのうち七之助が本当に八ツ橋の役をやるだろうと思いながら見た。恋人役の橋之助とは2人とも長身で綺麗でお似合いだ。

最後に大きいネズミが出てきて嬉しかったが、宙乗りはネズミに乗ってい。猿之助の宙乗りの時と違って宙乗り用のワイヤーに吊られた状態でスッポンから出てくる。私の席はほとんど真正面だったのでネズミの顔がよく見えた。「おもだかやさん、早くよくなるといいね」と言っていた。初めは瓦版だの手ぬぐいだのを撒いていたが、ピンクのポシェットにいろいろ入っていてテープや紙吹雪も撒いた。歌舞伎座の観客席の上にあんな風に紙吹雪が舞っているのを見たのは初めてだ。

4月大歌舞伎 昼の部2008/04/12 19:16

2008年4月5日(土) 歌舞伎座 昼の部 午前11時開演 1階2列26番

「十種香」

中央線が遅れていたので10分程遅刻。通路際の席で良かった。 八重垣姫が出てくる話は玉三郎で観たことがあり、その時は他の客が「玉三郎、うまい」というのが聞こえたので玉三郎の出来は良かったようだが、自分が睡眠不足の状態でうとうとし続けだったので、最後に玉三郎が花道を引っ込むところを2階から観た記憶しかない。今回のは八重垣姫の花道の引っ込みはなかった。なんとなく観ていただけで、感想はなし。

「熊野」

私の好みではない能風の玉三郎をまた見せられるのだろうと覚悟していったので、まあ予想通り。それでも前から二番目の席だったので、玉三郎、仁左衛門、錦之助、七之助という綺麗どころを間近に見られたのが良かった。仁左衛門は最初のうち座ってるだけだったので、去年の紅葉狩の海老蔵を思い出し、もったいない、これなら海老蔵で良かったと思ったが、玉三郎と2人で踊りだしたらやっぱり綺麗だった。

「刺青奇偶」

後ろ向きだが、玉三郎が最初から舞台に立っている。勘三郎は本領発揮で、特に初めの方がかっこよかった。途中で気がついたのだが、これは前にも見たことがある。それも同じ配役で。玉三郎が出たのを忘れてしまっていて、最後に仁左衛門がヤクザの親分の役でちょっとだけ出てくる演目、としか覚えてない。他に覚えているのが、ものすごいあばら家と、針でちょっちょっと刺青をいれるところ。 玉三郎と仁左衛門がすれ違いなのは悲しかった。

風林火山2008/04/13 02:55

2008年4月12日(土) 日生劇場 午前11時半開演 GC階A列21番

GC階には前にも座ったことがあるが、今回は正面下手寄りで、花道も舞台も見易かった。開幕前にロビーを歩いていると大河ドラマの「風林火山」のテーマソングが聞こえた。

オープニングで弟達と家臣2人が横に並んで順番に語る。こんな形式はヤマトタケルにもあったような気がしてスーパー歌舞伎風の演出なのかと思った。一通り語りが済んだ後、「たけきこと風の如く」・・・と風林火山を一行ずつ順に言ったが「しんりゃくすること火の如く」はテレビと違い「おかしかすむること火の如く」という読み方だった。最後の「動かざること山の如し」が亀治郎の声になって、クレーンの上に乗った亀治郎が後ろから登場した。旗が数本、客席の上を紐に引かれて飛んで行ったのが綺麗だった。同時に、旗をもった武者達が通路を歩いて舞台に上がり、勢揃いした。この辺はライオンキングのオープニングのようだった。

簡略化された舞台装置で、どのシーンもターンテーブルのような回る盆の上で演じられる。

三条夫人役の尾上紫は、獅子虎傳阿吽堂で見た尾上青楓の姉だ。弟と似たタイプで、きれいな顔立ちで小柄。小柄な亀治郎よりはっきりと小さい。大河の三条夫人より公家の姫としてのプライドが高い。それについている中将役の段之が滑稽。

婚礼の席にカブキ者のような衣装で面をつけて晴信(信玄)役の亀治郎が現れる。面をとったときに、海老蔵だったら客席からジワが来るのだろうが亀治郎はちょっとオーラ不足。

大河ドラマの時には、父の信虎を息子達と重臣がそろって城門の外で追い払った追放シーンが印象的だったが、舞台では城門も馬もなく、クーデターは代表取締役解任のシーンのような感じだった。

追放後、晴信が弟の信繁に言う台詞が安っぽい。信繁役の嘉島典俊の演技がしっかりしているので、安っぽいメロドラマにならずに済んでいた。

山本勘助は花道から出てくる。歌舞伎風に台詞を言うのが亀治郎だけのせいか、信玄と勘助は声やしゃべり方を変えても同じ人が台詞を言っているようにしか聞こえない。勘助を主役にして、信玄を誰か別の人がやったほうが亀治郎の資質が生きたと思う。勘助が物陰に消えて後ろ向きで出てきて、少し後に信玄役に変わった亀治郎が姿を現す、という早替わりがあった。私は早替わりがあんまり好きではないし、物陰に消えた人が後ろ向きで出てきたら替え玉、というお約束なので感動しなかった。

能のシーンで使われていたお囃子が、亀井家の三兄弟が録音したと演奏だろう。 舞っているのは亀治郎だろうと思ったらやっぱりそうだった。一幕目の最後に信玄、三条夫人、由布姫が連れ舞をするが、それも嬉しい。由布姫役も三津五郎の長女でみんな日舞がうまい。そこに、嘉島典俊も混じって踊っていたので驚いた。映画のBeautyで村歌舞伎の役者の一人で出ていたが、日舞の基礎があったわけか。

二幕目の最初は、信玄と由布姫の間に男の子が生まれた、と出てくる重臣役の橋本じゅんが客に向かって信玄餅の宣伝をしたり拍手の練習をしたりする。4月13日は信玄の命日と言っていた。

最後に亀治郎が白馬に乗った宙乗りをするのだが、その前が退屈で宙乗りを見る気持ちが盛り上がらなかった。二幕目で一番見応えがあったのは信玄と村上義清との一騎打ち。薙刀で戦う村上義清はかっこいい。信虎と義清は二役なのだ。新国劇の笠原章という役者。

替え玉の勘助と、息子を抱いた信玄が後ろ向きになって、信玄役の亀治郎が勘助の台詞を言う、という袖萩祭文のときのようなことをやっていたが、録音は使わないという約束事の中でやっている歌舞伎と違う 芝居の中でやることにどれだけの価値があるのか疑問。

千葉真一の板垣の討死を聞いた後の信玄(晴信)の嘆きが全然胸に迫って来ない。今回は晴信と板垣の関係が中心だそうだが、それが一番つまらなかった。

4月大歌舞伎 夜の部 2回目2008/04/26 14:51

2008年4月20日 歌舞伎座 午後4時半開演 1階10列12番

夜の部の観劇2回目。筋書きに写真が入ったので、頼まれていた友達の分も買った。

休憩時間、ロビーにスーツ姿の孝太郎がいるのを見た。

「将軍江戸を去る」

今回は1階だったので舞台が暗くても役者の顔がわかった。巳之助は浅草の時より声がましになった。前回は途中で少し眠ってしまったが今回はずっと起きていたので、話が理解できた。 山岡役の橋之助と慶喜役の三津五郎との長い議論も飽きずに聞けた。史実に思いをめぐらしてそれなりに楽しめる演目だが、私が一番好きなのは名残を惜しむ人々が橋の近くで慶喜に別れの挨拶をするところだ。

「勧進帳」

「おーん待ちそうらえ!」 おー、おー、ポンッ のような仁左衛門と傳左衛門の声を楽しんだ。勧進帳を初めて見たとき台詞の半分もわからないのに面白いと思ったのは孝夫のせいだと思ったが、そのときはあまり意識していなかった音の心地よさも理由の一つだろう。勘三郎の富樫は、声が少しかすれ気味になっていたこともあって、今まで見た勘三郎の中で一番下手だった。勘三郎の富樫が弱いので弁慶と丁々発止の盛り上がりに欠ける。 玉三郎が出てくると客席のあちこちから「きれいね」という声が聞こえるのはいつも通りだった。玉三郎は義経の台詞が全然良くない。

「浮かれ心中」

七之助は、八ツ橋の予告編を見せてくれてるみたいで良いが、花道での流し目はまだまだ子供。三津五郎は、ああしてこうしてと身体を動かして夫婦喧嘩の真似などをするところが何回かあって、その所作が綺麗で楽しめた。

祝祭音楽劇 トゥーランドット2008/04/27 18:09

2008年4月25日 赤坂ACTシアター 午後7時開演 2階G列17番

赤坂ミュージカル劇場は階段を上った高台の上にあったけど、あの丘は何処へ行ったのだろう、と思いながら劇場に入った。

2階G列は前が通路だが、座席の前に手すりがあるので出入りには少し気をつかう。舞台の上枠と目の高さが同じくらい。舞台の手前で演技されると見づらい。

初めに幕の前で少し芝居があった後、幕が少し開いて中が見える。そして、舞台全体が開くと階段が、正面と左右に向き合ったのが出てきて、役者はその階段を上ったり降りたりしながら芝居をする。役者は大変だろうが、この階段は役者が見やすいし見た目も良い優れものだ。衣装も良かった。音楽的には弱いと思う。芝居が中心で、踊りと歌の比率は少ないのでミュージカル好きの人には期待はずれだったのではないだろうか。私は最後まで、「誰も寝てはならぬ」を聞けるものとばかり思っていて、その点は期待はずれだった。

私の目当ては獅童だったので、芝居中心なのは幸いだった。初めて聞いたが獅童は歌は下手だ。しかし、トゥーランドット姫がカラフに2回目のチャンスを与えてカラフが正しい回答をしているときに、ワン将軍が茶番だと言って文句をつけ、トゥーランドットに剣を向けるところから、「トゥーランドット、地獄で待ってるぜ」と自刃するまではかっこよく、この芝居全体を通じて一番面白い部分だった。

トゥーランドット姫役のアーメイは結構気に入った。台湾の人で日本語がたどたどしいため、自然に普通の人とは違う感じがした。歌は、台湾の人ということで、ちょっとテレサテンを思い出した。

カラフが最初に「3つの質問」に回答して、本当は全問正解だったにもかかわらず間違いと言われ殺されることになった後、トゥーランドットがカラフの答えは本当は全部正解だったのではないかと考えるあたりの話は好きだ。

ワン将軍がトゥーランドットに剣を向けて「お前は自分の父親が邪魔だから殺してくれるように俺に頼んだ」と言うのは面白い展開だったが、ここでミン役の早乙女太一が将軍と姫の間に立ちふさがって将軍を止め、刺されて死ぬ。これを機にワン将軍が劣勢になり、自刃することになる。その後はトゥーランドットとカラフが互いに愛の告白をするような甘い展開になるのが気にいらない。私の気持ちとしては、「獅童がせっかくあんな面白い話にしてくれてるのに、なんでみんな空気読めないのおーーーー?」

ワン将軍が、カラフへの質問の途中で茶番だと怒り始めたのは純粋に権力闘争のためなのか、姫に対する恋情が混じったものなのかがわからない。そのときの獅童の演技を見ている限りでは純粋に権力闘争のように見えるが、それより前のシーンに、ワン将軍はトゥーランドット姫を愛していたので占領された国を取り戻して王位につけた、という台詞もあったような気がする。この辺のところを確認するために、再演があったらもう一度見たい。

最後は、数年後にトゥーランドットが王位を退いて政治を国民の手にゆだねることにし、カラフが戻って来て姫と会う、というつまらない話で終る。

カラフ役の岸谷五郎は演技だけでなく歌もうまい。 リュー役の安倍なつみはちょこまかと走り回るアニメの少女役のようだったが、芝居も歌も悪くはなかった。 宦官役の早乙女太一は上半身裸で縛られて鞭打たれる場面もあり、カーテンコールでは安倍なつみより大きな歓声で迎えられていた。