2008 芸術祭十月大歌舞伎 昼の部2008/10/16 23:17

2008年10月16日 歌舞伎座 午前11時開演 1階6列37番

「重の井」

「重の井の子別れ」というタイトルだけはよく知っていたが初めて見た。 馬子の三吉役の小吉は花道から出てきて七三で見得をするが、なかなかかっこいい。去年あたり、ずいぶん小さい子が出てきたと思ったが、もうしっかり戦力になっていて感心した。すごくやる気を感じる子役だ。重の井役の福助は華やかで色気がある乳母。この母子は泣きながら別れるよりも「お互いにしっかりやりましょうね」と言って別れたほうがふさわしいのではないかと感じた。

芝のぶが好きなせいか、最初に上手にいた腰元達の中でも芝のぶはすぐにわかったし、声もよく聞こえた。

「奴道成寺」

いつも期待をもって見る松緑の舞踊だが、能装束のときは三津五郎が思い出されて松緑は稽古不足ではないかと思った。狂言師左近の拵えになってからの方が良い。所化との絡みは楽しそうで良かった。面をつけて踊ると、すごくうまく見えるので不思議。顔が歌舞伎に合わない?

尾上右近が、ころっと横転する所化をやったが、転がり方がイマイチだった。

「魚屋宗五郎」

おはま役の玉三郎は地味な拵えで、こういう役の常でちょっとぶっきらぼうな感じ。菊五郎の宗五郎を見るのはこれで三回目か。文句のない江戸っ子ではまり役だが、おはまの玉三郎と絡むと「重の井の子別れ」ができそうなほど身体の大きさが違う。 好きな演目だが、今回、最後に磯部の殿様が宗五郎に金や扶持を与えるのを口封じのようだと感じた。素直に慰謝料と解釈すれば良いのだろうが。殿様役の松緑を見ると青山播磨を思い出した。

「藤娘」

私の基準から言うと顔が大きすぎ、腕が短すぎる。客の方を向いてニッコリと挨拶するときの顔が可愛かった。

平成中村座十月大歌舞伎 Dプロ2008/10/16 23:36

2008年10月16日 平成中村座 午後5時15分開演 1階18列19番

1階後方の椅子席には段差がなくて、前の人の頭で舞台真ん中の下の方が大きく隠れる。前の人の頭が邪魔になるのはよくあることだが、大抵は一人の頭なので自分の頭を動かせば見たいところが見える場合が多い。しかし今日は数列前に大柄の男性が座っていて、その頭ともう一人の頭でさえぎられて、下の方で芝居することが多い六段目は特にイライラした。

「五段目」

暗い舞台に勘太郎の顔の輪郭が浮かんで見え、顔立ちはよくわからなかった。若い役者は弛みがなくて綺麗なものだ。

舞台の下の方が見づらいので弥十郎のように背の高い人が出てくると嬉しい。しかし、定九郎の「五十両」は「ごりゅーろー」みたいに聞こえた。

「六段目」

勘三郎は、このDプロでは源六だけをやっている。この芝居に緩急をつける重要な役だと思うが、流石にうまい。「ごあんしんだ」のような台詞を軽く言って、それでいて客を笑わせている。

孝太郎のお才はお茶屋の女将という雰囲気は出ている。声をもう少し低くしてキンキンした感じがしないようにした方が良い。

七之助のおかるは良かったが勘太郎の勘平はうまくなかった。勘太郎のことはうまいと感じるのが常なので、この役はとても難しいのだろうと思った。行こうとするおかるを呼び戻すところでは、仲良く抱き合ってはいたが昔の孝夫と玉三郎みたいにジャンプして膝に飛び込むようなことはなかった。

仁左衛門は不破数右衛門の役で出る。仁左衛門が演じると、こんな良い役だったかとびっくりする。

「七段目」

去年の2月に歌舞伎座でやった七段目が脳裏に焼きついていて、どうしてもそれと比べながら見てしまう。

今回も、平右衛門は侍達について最後に花道を出てくる。2月の仁左衛門は羽織も着ていたように記憶しているが、間違いか?勘太郎は黒い着物だけ。腰を折って歩いているが、上半身が変に膨らんでいて不恰好。

侍達が大石を斬ろうとするのを止めるのが見せ場の一つだが、当然なのだろうが、勘太郎は仁左衛門ほどかっこよくなかった。

玉三郎以外の七段目のおかるを初めて見た。七之助は2階から姿を見せるときは綺麗だが、簪が下まで落ちないで途中でぶら下がってしまった。平右衛門との絡みでは前半の喜劇は実の兄が相手で楽しいが、後半の悲劇がやや弱い。特に、最後の最後で兄の東下りが許され、兄が喜ぶと、着物を着せ掛けているおかるもちょっとウキウキしているように見えるのだが、それではおかしいだろう。

勘太郎はおかるとの絡みはとても良い。勘九郎が平右衛門をやったときは喜劇のところはうまかったが後半の悲劇がイマイチと思ったのだが、勘太郎は悲劇の方も自分なりの味を出していてよかった。喜劇から悲劇に転換するときの台詞「髪の飾りや化粧して・・・」は仁左衛門のようにうまくも美しくもないが、勘平が腹を切って死んでしまった、というところをぶっきらぼうに言い切るのは勘太郎らしさが出ていて良い。「小身者の悲しさで」のあたりは今の仁左衛門では現実の姿が立派すぎる。勘太郎の方が似合う台詞だ。

最後は、去年の2月の七段目ではおかるが大星によりそっていたが、今回はおかるは階段を上がらず、そのまま下手にいた。

解脱衣楓累(げだつのきぬもみじがさね)2008/10/20 22:33

2008年10月19日 前進座劇場 午前11時半開演 1階12列12番

はじめて前進座の芝居を見た。吉祥寺から井の頭通り沿いに歩いて10分くらい。特に遠いわけではないが、はじめて行くと方向を間違っていないか少し不安になる。吉祥寺南コミュニティセンターの隣なのだ。

パンフレットは800円。

座席は花道から二つ目の席で、芝居中に頭の上を差し金の先の蝶が飛んで行った。

(発端 鎌倉放山の場)

念願かなって「前進座の孝夫」嵐圭史を見られた。僧・空月の役だ。 河原崎國太郎はお吉の役のときはあまりうまくないと思った。 空月が心中しようとして相手を殺したところで自分が死ぬのを思いとどまるところは十六夜清心を思わせる。

古鉄買いの勘七役の嵐広也は若手で良い感じ。幕間にパンフレットを読んだら國太郎の弟だそうだ。

(口上) 藤川矢之輔の口上があった。この演目は前進座が24年前に復活した狂言だそうだ。

(第一幕 江戸池ノ端茶見世の場)

先月、上野で見た不忍池と弁天堂が背景の書割になっていた。

河原崎國太郎は、この幕からは発端で死んだお吉の妹、累(かさね)の役で出てくる。

茶見世で働く小三(生島喜五郎)は、呉服屋の番頭の磯兵衛(津田恵一)に身請けされたが、お吉の弟の金五郎(瀬川菊之丞)と駆け落ちした。

通りかかった僧・空月はお吉に似た累を見てくどく。この辺は桜姫の清玄を思い出す。

(第二幕第一場 下総国羽生村西瓜畑の場)

西瓜を盗んだ磯兵衛が頭に西瓜の皮をのせて、今だったらスイカですいすいと言ったり歌を歌ったりして、それを声を出して笑って面白がっている人もいたのだが私には全く面白くなかった。

びっこになった累が出てきた。累は、自分の足を不自由にした短刀を、勘七の売る鏡と交換する。

(第二幕第二場 下総国飯沼草庵の場)

庵主の空月は、累に短刀を取り戻しに行かせる、その後、赤ん坊を連れた小三と金五郎が来て、赤ん坊は死んだお吉の腹から生まれた子だと言う。

(第三幕 羽生村与右衛門内の場) (大詰 絹川堤の場)

与右衛門(藤川矢之輔)は、舞踊の累では色男だが、この芝居では二枚目ではなく、実直な男に見える。それはそれで面白かったのだが、大詰めでは舞踊の累になだれ込むような感じになり、赤ん坊も殺してしまう。

あまり気を入れてあらすじを書く気になれない。休憩中の客席から「長い間上演しなかった理由がわかるような気がする。台詞で筋を説明しちゃってる」と言っている声が聞こえた。私も、面白い芝居だと思えなかった。舞踊の累に収束した物語のアイディアをその最後にたどり着く前に見せられたような感じ。

2008 芸術祭十月大歌舞伎 夜の部2008/10/26 14:11

2008年10月25日 歌舞伎座 午後4時半開演 1階11列12番

「本朝廿四孝」 十種香・狐火

前回観たときは体調が悪かったのか忙しくて寝不足だったのか途中でウツラウツラしていて、最後の玉三郎の引っ込みは記憶にあるが話はわからなかった。

下手から福助、菊之助、玉三郎、と綺麗どころが三人揃った。濡衣の福助は黒地の着物、八重垣姫の玉三郎は赤地の着物。ずっと後姿を見せていた玉三郎は最後に動き出して、もったいぶったようにゆっくりと客席に顔を向ける。義太夫に乗った動きは人形が動いているように可愛げがあって美しい。立ち上がって、中央の、勝頼がいる座敷に行って言い寄ると色っぽい。立って後ずさりすると、背が高いので頭が鴨居にぶつからないかと不安にもなるが玉三郎はそんなヘマはしないのだ。

松緑は白須賀六郎役には合った顔だ。出ている時間は短いがソツのない動きだった。

狐火の最初は、人形遣いの尾上右近が狐の人形を持っていろいろ動かす。後足が顔を掻いたりする。 右近が姿を消すと、玉三郎が下手の木戸を開けて入ってくる。薄紫の地色の着物で、灯りを持って。私の持っているテレフォンカードの一枚と同じ姿だ。

ブルームーンを背にしたこの幕の玉三郎の所作も綺麗だった。時々狐の手になる。兜を抱え、一度引き抜きで衣装を変えて、花道を引っ込んだ。

今日は玉三郎を堪能できて本当に良かった。

「雪暮夜入谷畦道」

直次郎と魚宗は私の中では菊五郎が一番。きょうも蕎麦屋のシーンは田之助の按摩も良くてレベルが高かったが、菊之助の三千歳が出てくると綺麗なだけで恋人同士の情の通い合いが感じられなくてつまらなかった。菊之助は大女というわけではないが、それでも菊五郎が一回り小さい感じでラブシーンがさまにならない。「三千歳、もうこの世じゃあ、逢わねえよ」という別れの台詞が好きなのだが、この二人では空しく響く。

「英執着獅子」

先月、時蔵のを見たばかりだ。 出てくるとき、左右に後見さんの持つ差し金の蝶が飛んでいる。その片方が芝のぶ。福助の踊りはうまくて色気もあって良かった。女形ではない方の後見さんが差し金を両手に持って蝶を動かし、福助がその間で踊る時があった。女が男の腕の中で動いているようで、なかなか色っぽい構図だと思った。

獅子になる前に花道を引っ込むとき、すっぽんで反り返りながら身体を回したので客席から盛大な拍手が来た。

獅子の赤い鬣が福助に似合う。時蔵は禿を二人連れたお母さんライオンのようだったが、福助は一人で踊って、4人の力者が絡む。若いメスライオン風で福助らしかった。

最後は何度も頭を回していた。