セルリアンタワー能楽堂 正月公演 元旦2009/01/02 01:11

2009年1月1日 セルリアンタワー能楽堂 正午~午後一時

自由席で、中正面の後方で観た。

「祭り囃子」

田中傳次郎、および田中傳左衛門社中。小鼓と大鼓と笛の奏者の名前がプログラムにもチケットにも書いてない。書いてよ。

たしか、「祭り囃子」という独立した曲を聞いたことがあったが、今回のはいろいろな祭り囃子のメドレーのようだった。竜笛と篠笛を使い分けていた。

長唄「曽我物語」 五郎時政

今度は傳左衛門も出てきた。大鼓と笛は田中傳左衛門社中、長唄は松永忠次郎社中。 傳左衛門が調べを絞るキリキリという音を今年はじめて聞いた。

舞踊「老松」

立方 市川春猿

素踊り。色っぽい所作が多い踊りだ。

踊りが終わって一度引っ込んだあと、出直してきて、傳左衛門と傳次郎の前に立って観客に挨拶した。今回は4回目、今年は不景気だけれどここに来たお客様には良いことがあるような気がする、といった話だった。3日から演舞場に出る話もした。最後に一本締めをやった。

初春花形歌舞伎 昼の部2009/01/03 23:49

2009年1月3日 新橋演舞場 午前11時開演 一回13列33番

「二人三番叟」

右近と猿弥の三番叟でとても期待していたが、私の好みに合わなかった。

翁が段治郎で千歳が笑也、附千歳が弘太郎。弘太郎が一番うまいと思うのだが、鈴を渡すときにほんの少し踊るだけで残念だ。

三番叟二人は操り三番叟のときの格好だった。私は猿翁十種のうちの二人三番叟を見たことがなくて知らなかった。二人で踊りを競うのではなく、合わせて踊ったり、ふざけあったり。面白い人には面白いのだろうが、私の期待とは違っていた。

「口上」

浅草の初日を見るか新橋の初日を見るか迷ったのだが、海老蔵に睨んでもらって、新橋に決めて正解だったと思った。

義経千本桜「木の実」

小せんの笑三郎は、花道会で秀太郎が言っていたようにおひきずりだった。最後に花道を引っ込むときに、権太の海老蔵が「はしょれ」と言って裾をつまんで持ち上げていた。たしかに裾を開いておひきずりにしてあった方があれはやりやすいだろう。

小せんの言葉が関西の言葉のように聞こえたので、海老蔵は上方バージョンのをやるのかと思ったが、海老蔵が出てきたら江戸弁だった。

仁左衛門の権太は「木の実」のときはひたすらかっこよくて、悪いことはするが、悪いことをする人のようには見えない。その点、海老蔵は出てきたときからちょっとあやしげ。

義経千本桜「小金吾討死」

獅子虎傳阿吽堂で段治郎の立ち回りを見たな~と思いながら、いつのまにか眠っていた。

義経千本桜「すし屋」

江戸型だが、去年見た吉右衛門のとは違うところがあった。維盛達を呼ぶ時、善太の笛を自分で吹いたし、死ぬ前にザンバラ髪になっている時間が長かった。

「お祭り」

海老蔵がいい男になって出てきて、ファンは嬉しい。獅童も、今回は十一月と違って普通の舞踊を踊れて良かった。

初春花形歌舞伎 夜の部2009/01/04 02:37

2009年1月3日 新橋演舞場 午後4時半開演 1階3列31番

「七つ面」

赤い幕の後ろに置いてある面がいくつか見えた。赤い幕の後ろから現れたのは翁の面をつけた海老蔵。 白く長い指が面をはずすと、きれいな顔。次は猿の面をつけて踊る。後見から後ろ手で面を受取り、後ろを向いて下を向いてパカッと面を落とし、新しい面をつける。そんなに難しい踊りを踊っているわけではないのだが、とても良かった。般若の面をつけた時が特に魅力的だった。

「封印切」

忠兵衛役の獅童が花道を出てきたときは、去年の浅草歌舞伎の見染めの場の与三郎と役を交換したら良いのではないかと思ったが、しゃべり出したら関西弁が意外に似合っていた。獅童の顔は本当に便利。

梅川の笑三郎はちょっとおとなっぽすぎる印象。

門之助のおえんは悪くない。

八右衛門の猿弥は忠兵衛と同年輩の友達の感じがしてコンビネーションが良かった。

「弁天娘女男白浪」

去年の浅草でカッコ良かった獅童の南郷をまた見られて嬉しい。海老蔵の弁天小僧は国立劇場で観たときには、こんなゲテ物を二度と見られないだろうと思って見たのだが、きょう見たら声もずいぶん安定して、名調子になりそうなので、まだ何回か見られそうだ。

新春浅草歌舞伎 第1部2009/01/07 23:41

2009年1月4日 浅草公会堂 午前11時開演 1階そ列20番

去年と一昨年は鏡開きから初日を見たが、今年は初日は新橋演舞場に行ったので浅草は二日目を見た。きょうのお年玉挨拶は勘太郎。「不況の中、ありがとうございます」と言った。「今年は獅童さんの裏切りにあいまして・・・」「愛之助さんは松竹座で・・・」でも二月にはまた松竹座で元のメンバーでやるから、という話の後、質問を一つだけ受け付けた。「初笑いを教えてください」という質問に、「レッドカーペット」と言った。去年のクリスマスイブが収録で悲しかったのだそうだ。「エリザベス!」という私にはわからないギャグを言っていた。

「一條大蔵譚」 曲舞、奥殿

チケットを買ったとき後ろ過ぎて不満だったのだが、挨拶している勘太郎が真正面に見えたし、曲舞では小鼓の傳次郎が真正面に見え、前の人の頭もあまり邪魔にならなくて、思ったより良い席だった。

「一條大蔵譚」は勘三郎襲名のときと三年前の松竹座で観たが、曲舞は見なかった。かすかに遅刻して松竹座に行ったとき、お京と鬼次郎夫婦はもう舞台に出ていたが、あの幕は今回はなかった。 亀治郎の踊りを見せたかったのだろうが、あの幕の芝居も見たかった。大蔵卿が踊るときにお京役の松也も出てきて踊るが台詞はない。幕間に近くの席の人が「あんな役しかもらえないのかと思って心配しちゃった」と言っていた。

奥殿ではお京と鬼次郎夫婦が活躍する。松也は台詞も動きもきりっとしていて、役に合っている。きりっとしているときでも玉三郎は色気を漂わせているな、とふと思い出した。

「土蜘」

勘太郎の踊りを期待していたが、ウトウトしてしまって、気がついたら勘太郎が真正面で踊っていた。勘太郎が糸を投げると後見がくるくると鮮やかに片付ける。最後の方はもっと糸を投げまくって糸だらけになって終わるような気がしていたのだが、そうではなかった。

新春浅草歌舞伎 第2部2009/01/10 00:26

2009年1月4日 浅草公会堂 午後3時半開演 1階け列30番

「一本刀土俵入」

勘太郎は吉右衛門と同じでちょっとぼおっとした役柄に合うので茂兵衛は似合うだろうと予想していた。予想通り。去年の吃又と同じく、若い分リアリティがあった。

亀治郎も、気風のいい役が似合っている。

子守は本当の女の子かと思ったら鶴松だった。

この作品は嫌いではないが特に好きではなく、今月の演目では一番どうでも良かったのだが、わかりやすいせいか眠くもならず楽しんだ。

「娘道成寺」

七之助の踊りは、身体をある点から別の点に動かす速度が速すぎ、その組み合わせで動くからカクカクしたコマ落としのような動きになるような気がするのだが、どうなのだろう。

2009年松竹座 初春大歌舞伎 夜の部2009/01/10 22:37

2009年1月10日 松竹座 午後4時開演 1階2列6番

「霊験亀山鉾」

愛之助の関西での公演が続いてうんざりしたので12月に続き今月も見ないつもりだったのだが、「霊験亀山鉾」を再演するときいて大阪に行くことにした。2002年の10月に国立劇場でやったとき観たのに観たこと自体を忘れていた。チケットの半券が残っていてプログラムもあって、さらに仁左衛門が出たと知って狐につままれたような気分だった。当時、何か他のことで頭が一杯だったとしても、仁左衛門が出たにもかかわらず記憶を喪失してしまう芝居とは一体どんなものだったのか是非知りたいと思った。

実際に芝居を見たら思い出すかと思ったが、かすかに記憶に残っていたのは三ヶ所。生きている水右衛門を入れた棺おけを担いでいる人足が、「中は死人ではない」というところ、雨の中の八郎兵衛とおつまの立ち回り、それとホームレスの住居みたいなのの横に卜庵が座っている場面。

序幕第一場で僧了善役の松之助が、この芝居のキーアイテムである「鵜の丸の一巻」を広げると、木の幹と地面に、差し金に操られた蛇が現れた。

第二場は敵討ちの場で、兵助(進之介)が水右衛門(仁左衛門)に返り討ちにあう。この場で仁左衛門が上手から出てきたのも「意外だったこと」として覚えているような気がする。この場が幕になると瓦版売りが二人出てきて、持っている瓦版を客席に投げた。私も一枚もらえた。

第三場では源之丞(愛之助)の隠し妻おまつ役の孝太郎が出る。柄に合った役でなかなか良い。孝太郎や嶋之丞がこの場で言っている言葉に私にはわからない個所がある。イヤホンガイドでは説明されているのだろうが。「太ももに けなり」などは前後から判断して何か猥褻系のことだとは推測できるのだが。愛之助は兄嫁役の吉弥といっしょに花道から出てくる。二人とも綺麗な顔。

二幕目の丹波屋の場では、女将おりき役の秀太郎がいかがわしくていい。花道会のときに吉原の女将は自信ありません、といっていたが、こういう上方ものはお手の物だろう。芸者おつま役の扇雀は綺麗だが、こういう健気に尽くす役よりも何か一癖ありそうな役の方が向いている。愛之助演じる源之丞は、序幕のときと人格に連続性がないように感じた。こんぴら歌舞伎の「葛の葉」でも感じたが扇雀のキャラの強さに愛之助が負けてしまって、この二人のカップルは似合わない。扇雀は轟金六役の薪車と並んだ方が合う。仁左衛門が相手のときも良い。

薪車は、裏が松嶋屋の紋で表が水右衛門の顔の団扇を腰に差して出てくるが、あの団扇を売店で売ってくれないものかと思った。

この場で八郎兵衛役の仁左衛門が出てくるとき、黒御簾の音楽が「丸に二の字は松嶋屋の~」と歌うのが楽しい。伊勢音頭の「ベンベラベンベラ」とかを思い出す。

水右衛門の人相書きが、官兵衛(翫雀) には当てはまらず、 八郎兵衛(仁左衛門)の方にぴったりだ、という話が面白かった。

私にはカチャッという音だけ聞こえて見えなかったのだが、仲居達が奥に引っ込むあたりでおつま役の扇雀がお銚子か何かをひっくり返したらしい。中に液体が入っていたのかどうかわからないが、隣りにいた八郎兵衛役の仁左衛門が自分の手ぬぐいをさっと投げ、扇雀が謝って拭き終ったら、仁左衛門がその手ぬぐいを奥に引っ込む仲居が持っている卓の上にぞんざいに放り投げた。役になりきった咄嗟の動きが素晴らしい。

この場の最後の方に扇雀が文を書く場面がある。扇雀が書いている文字が見えたので、こんぴら歌舞伎の葛の葉が障子に書いた文字は達筆で、去年の国立の芝雀の字はあまりうまくなかったことを思い出した。

次の場では源之丞が水右衛門に返り討ちにされる。源之丞は水右衛門にさんざん踏んづけられた後斬られて叢に隠れ、また叢から出てくるが、悲鳴は下手の方に流れて行ったので、愛之助の早変りがあるのだと気づいた。愛之助は花道から袖助になって出てきた。他の面々も出てきて最後はだんまり。ここで初めて段四郎が登場。

三幕目の一場で、生きている水右衛門を入れた棺おけを担いでいる人足達(千蔵、千志郎)と秀太郎が花道から出てくる。村人たちが狼が出ると騒いでいるが、その出てきた狼の酷いこと。顔は狼だがあんなガニ股ではかわうそのようだ。狼はもっと美しい生き物だぞ。別の棺桶をかついて来た人足達が、狼に驚いて水右衛門を入れた棺おけをかついで焼き場に行ってしまう。

次の焼き場の場で、舞台の上から本水が降って、その下で八郎兵衛とおつまの立ち回りになる。女殺油地獄の油の上の立ち回りを横から見たような感じで、何回か滑って転ぶ。本水を使うので、最前列には予めビニールが配られていた。

八郎兵衛はおつまにやられるが、棺桶の中にいた水右衛門は火がついた棺桶の中から現れておつまを殺す。そして笑って幕になる。仁左衛門がすごくかっこいいので、悪の勝利に拍手してしまうのであった。

ここで三十分の休憩。

休憩の後、中幕として「春寿松萬歳」という前後の芝居とは全く無関係な舞踊が入る。坂田藤十郎が赤地の衣装に黄緑の扇を持ってせりあがって来た。途中で引き抜きがあって白地の衣装になる。華やかで実に正月にふさわしい。

踏み板を片付けた後、四幕目。近くの人が言ってるので気づいたのだが、花道の踏み板を幕の向こうに運びいれるとき、運ぶ人が幕の近くの踏み板を踏み鳴らして合図し、中の人に幕を持ち上げてもらっていた。

四幕目の最初はお松とその子が源之丞の死を知らずに待っている家。お松の父親役は段四郎。地味な役だがこの人がいると芝居全体がひきしまる。愛之助は袖助役で出るが、このときの顔が一番似合っていると思う。家の戸の外で中をうかがいながら目をつぶってじっと待っている時間が長い。秀太郎は二役目の源之丞の母役。仁左衛門、愛之助と違い、全くタイプの違う二役なので区別しやすい。

次の場では、牡丹燈篭の源次郎が住んでいたようなホームレスの住居があって、その横に卜庵(我當)が座っている。国立劇場のときは卜庵の役は仁左衛門だったので、この場面が記憶にある。ホームレスの住居に住んでいるのは愛之助だが、誰の役なのかわからなかった。前の場で源之丞の息子の剣の相手をしていたような袖助とホームレスとが結びつかなかったからである。が、よく考えてみると、故意にこの住居に住んで水右衛門の父である卜庵を待っていたということか。

大詰では結局水右衛門がお松とその息子、袖助に討たれる。水右衛門役の仁左衛門は花道を出てきてすっぽんのところに座ったので、至近距離から顔を拝めた。 容貌が似ているとよく言われる仁左衛門と愛之助だが、この場では、仁左衛門風の顔で声も似たような低い声の愛之助と、本当の仁左衛門がからむ場面が多くて面白かった。 

水右衛門がお松達との立ち回りの前に上の着物を脱ぐと仁木弾正のような鎖帷子の衣装になるが、死に方も仁木と同じだった。

最後は、仰向けにひっくり返って死んでいた仁木が起き上がって「今日はこれぎり」と挨拶して幕になった。

仁左衛門のかっこよさがすべてみたいな演目で、もう一度見たいとは思わないが見ている間は飽きずに見られた。国立劇場で観たときは、大した作品ではないと評価した後、思い出すこともなかったのですっかり忘れてしまったのだろう。ブログでも書いていれば覚えていたろうが。

2009年松竹座 初春大歌舞伎 昼の部2009/01/12 19:21

2,009年1月11日 松竹座 午前11時開演 一階右列3番

きょうは花道がよく見えた。

「鳥居前」

花形役者だけの一幕。浪花花形で出しても良いような幕だが、とても良かった。特に忠信役の翫雀は華やかさはないがうまかった。最後の狐六方も良かった。弁慶役の薪車は、昨夜の霊験亀山鉾でも思ったが華がある。がんばってほしい。愛之助の義経は綺麗な顔。孝太郎の静は起き抜けで化粧前のような顔だったが動きは綺麗だった。ただ孝太郎の高い声はやっぱり嫌い。

逸見藤太役の松之助と花四天(衣装の裾にスリットが入ってなかったが、これも四天といって良いのだろうか)も活躍した。

「良弁杉由来」

最初に鷲にさらわれるシーンがあるのを見たことがあるが、今月はそれはなくて、月日が経ってからの話。

舞台に立派な二月堂ができている。それを眺めているだけで面白かった。

秀太郎が出てくるまで、男ばかりが舞台にならんでいる。久し振りに吉弥の立役が見られて嬉しかった。薪車も横顔しか見えないが僧姿が似合っていた。千寿郎は似合ってなかった。千次郎は似合う。

千蔵は渚の方の乗る輿を持ち上げる役の一人だった。前の幕に続いてまた力技。

この話自体には感動しなかった。

「廓文章」

最近は還暦過ぎの伊左衛門ばかり見ていて、久し振りの40代の伊左衛門で、悪くなかった。扇雀は若いせいかフットワークが良いし、美男で、おぼっちゃんの雰囲気があるところが良い。言葉については私にはわからないが、台詞にはめりはりがあって笑わせるポイントもちゃんと客を笑わせていた。最初の方では、女形のときの声と同じに聞こえて少しとまどったが気にならなくなった。同じ型の「廓文章」は過去に二回見て、ひどく眠気を誘うものと思っていたが今回はそうでもなかった。

おきさは竹三郎、喜左衛門は段四郎。若い伊左衛門を支える豪華メンバー。段四郎は、自分の手で自分の脱いだ羽織を着せかけていた。十一月の歌舞伎座では、喜左衛門は羽織を脱いで差出し、伊左衛門が着る前に黒衣が別の羽織に差し替えていた。どちらの型もそれなりに喜左衛門の気持ちを理解できるが、裄丈が合えば直接着せかけるのが原則なのだろうか。

夕霧役の藤十郎は美人オーラがあるので夕霧にふさわしい。 懐紙で顔を隠して出てきて顔を見せた後、後ろを向いて玉三郎のように豪華な内掛けを「どうだ見てみろ」とばかりに広げて見せるわけではない。内掛け自体も黒地に大きな花の柄でシンプルなものだった。そのかわり、勘当が解けた後に着替えた内掛けが藤色の地で藤の花の模様で超豪華だった。

「お祭り」

幕が切り落とされると、鳶頭の仁左衛門と、今月襲名した仁三郎がいる。

芸者姿の孝太郎は花道から出てくる。着物の柄が素敵。踊りもうまい。顔以外はとても綺麗。

仁左衛門が客席の左右中央に向かって挨拶するのは流石に愛嬌がある。番付に、お祭りは先代勘三郎がお手本と書いてあったのでなるほどと思った。

昼の部では唯一見たかった演目だったが、期待したほど気持ちがスカッとしなかった。役者が悪いわけではなく自分の我儘なのだが、孝太郎と仁左衛門が仲良く恋人同士を演じているのを見ていると次第にばかばかしくなる。孝太郎が玉三郎だったらこの上なく素晴らしい舞台なのに。

見たくなかった他の三つの演目がそれほど退屈でもなかったので、全体としては悪くなかった。

歌舞伎座さよなら公演 壽 初春大歌舞伎2009/01/13 23:06

2009年1月12日 歌舞伎座 午前11時開演 1階11列26番

「祝初春式三番叟」

三番叟の梅玉の踊りはあまりうまくないが、このオーソドックスな三番叟が一番自分の好みに合う。翁が富十郎、千歳が松緑と菊之助、後見が錦之助と松江という贅沢な配役。

「俊寛」

何度も見ているわりには筋が頭に入らない苦手な演目。丹左衛門の梅玉がものすごく良かった。役名は知っていたが、実際にどういう役か、今回初めて印象に残った。客席も拍手していた。

「十六夜清心」

玉三郎が十六夜だと菊五郎の清心は体格が違いすぎて嫌だが、時蔵の十六夜だとまあまあ釣り合っている。菊五郎はやっぱりうまいと思う。 寺小姓の求女役の梅枝も良かった。十六夜と清心が再会して、不良になった十六夜がゆすりに行くのはやらないで、だんまりのところで終了だが、これだけ見ても良くできた短編だと思う。

「鷺娘」

「青ざめて透明な真のロマンチックバレエ」という言葉が浮かぶような舞台に白鳥のように現れた鷺一羽。玉三郎の佇まいがとても鷺っぽくて白い頭巾をかぶった頭が鷺の頭のようで、傘の先が嘴のようにも見えた。

羽の動きをするときは袖がコの字型に内側に曲がる。引き抜きの後の赤地の衣装で踊っている姿は「この人のためになら死ねる」レベルの綺麗さだった。ためらいなく舞台上に自分の心を委ねられた。この姿で下手に引っ込む時は、拍手といっしょにどよめきが起きていた。

次に紫色の着物で出てきたときは、三枚くらい着ていそうだと思ったが、やはり引き抜きは二回あった。

前回見たのは十年以上前(ひょっとすると二十年くらい前)で、そのときは傘を軽々と操ってるのは流石に若くて力がある(と思うくらい前だった)とか、最後の雪の舞い方が凄い、くらいの印象だったが、今回は具体的にどこが違うとは指摘できないが、玉三郎の美の追求がさらに高みに達していたのは確かだ。

新春浅草歌舞伎 第1部 2回目2009/01/18 01:11

2009年1月17日 浅草公会堂 午前11時開演 3階ふ列3番

去年の納涼歌舞伎をいっしょに見に行った会社の同僚と見に行った。4日に見たときはかなりの部分を眠ってしまったのできょうはリベンジのつもり。

「一條大蔵譚」 曲舞、奥殿

前回も思ったが最初に腰元四人が並んで話すシーンがだれる。一番下手に座っている腰元の台詞が目立ってヘタ。この腰元が何か言って他の皆が笑うのだが何と言っているのかわからない。

亀治郎だったら一条大蔵卿みたいに家来に太郎冠者の役をやれ、何の役をやれ、と言い、客に狂言を見せたがる殿様になりそうな気がして可笑しかった。 広盛(男女蔵)のように「今度我が家で・・・」と社交辞令を言って帰ったら次の日から毎日押しかけて舞いそうだ。

奥殿 では松也のきれいさと声の良さが目立った。いつも台詞が良い七之助だが常盤御前の役は凡庸。

「土蜘」

松也はお京の声は良かったのに頼光の声は良くない。やはり女形が中心だからか。

太刀持ち音若役の子は難しそうな長袴の扱いもちゃんとできていて偉い。

胡蝶役の七之助の退屈な舞がこれでもかというほど続き、その後長唄囃子が続くのは食後の観客には辛い。船弁慶のように合狂言でも入れば眠気覚ましになるが。 勘太郎が踊り出したら素晴らしかったので、必死に起きていた甲斐があったと思った。

土蜘は過去に二回は確実に観ているが、今回のように幕が閉まる前の舞台に蜘蛛の糸が全然見えないのは初めてだと思う。

初春花形歌舞伎 夜の部 二回目2009/01/21 21:20

2009年1月19日 新橋演舞場 午後4時半開演 1階12列14番

今回の席は中央で、花道がよく見える席だった。舞台中央はよく見えるが、中央より少し下手のところが前の席の客の頭で見えなくなる。浜松屋の店先に弁天と南郷がいる時、弁天はよく見えるが南郷がすっぽり見えなくなる。

「七つ面」

初日は横から見た感じだったが今回は正面から。後見との面の受け渡しは見えないが踊りはよく見える。猿が面白かった。海老蔵の細長い手と指のしなやかな動きがこの演目に優美さを添えている。

花道に5人並んでの踊りもよく見えた。弘太郎の踊りがもっと見たい。

「封印切」

獅童は花道を出てきたときがとても可愛い。顔を知っている役者が出てきたので観客も注目して、もじもじしているような様子を見て笑う。「川に会いたい」と言っただけで拍手が来ていた。忠兵衛って、こんなに可愛いかったっけ?

きょうは、戸口の外で「川~、川~」と、梅川の顔を見て喜ぶ様子もよく見えた。でもここは二人ともそんなに大袈裟ではない。このシーンは、孝太郎の「ちゅううさああん」と大袈裟に喜ぶのが安っぽくて好きだ。

きょうは八右衛門が座敷に入ってきてすぐに金包みを懐から出すシーンで、包みが奥に入ってしまったらしく、猿弥が普段より長く懐を探っていた。 仲居が座布団や煙草盆を八右衛門に出すときにいかにもプリブリしているようにぞんざいに投げるのが喜劇的。

忠兵衛の獅童は、封印が切れてしまったのを確かめて「ぶわっ」と言ったので、意図せずに切ってしまったのだということがわかった。

笑三郎の梅川はやっぱり私の梅川のイメージに合わない。分別のある大人の女のように見えてしまうので、治右衛門に八右衛門のところに行ってくれといわれたら「わかりました」と行きそうな気がする。

「弁天娘女男白浪」

浜松屋でのゆすりの帰りに海老蔵と獅童が花道にいるところは目の保養だった。至芸を見せてもらったわけではないが、今月の演舞場の夜の部は好きな役者ばかりで全演目楽しめて最高だった。

五人男の勢ぞろいの時に、2階席がかぶっているところからほんの少し出たあたりでみんな一度止まる。私の隣の通路際の席がずっと空席だったせいもあって、この時に役者が近くでよく見えた。獅童の顔は、本当に歌舞伎に向いた顔だと思った。

去年の浅草のときから五人男はずっと上手の席から見ていて南郷が遠かったが、やっと、よく見える席で見られた。