歌舞伎座さよなら公演六月大歌舞伎 昼の部2009/06/07 21:59

2009年6月6日 歌舞伎座 午前11時開演 1階4列22番

「正札附根元草摺」

正直、こういう演目の正しい鑑賞の仕方がわからない。ただボーッと衣装や所作を眺めていれば良いのか。松緑の手の反りとか、黒地に蝶の衣装とか。

「双蝶々曲輪日記 角力場」

3年前の6月以来この演目は3度目だが、今回が一番良い。3年前は染五郎は前回は与五郎と放駒の二役で、それはそれで良かったし派手な衣装が似合う放駒だったが、今回は与五郎だけの分、この役が濃くなった。贔屓力士の濡髪が出てくると、忠兵衛が来たときの梅川のように喜び、 濡髪を褒めてくれる茶屋の主人には金や持ち物を惜し気もなくやってしまう。こういう人、大好き。

放駒の吉右衛門は最初の登場のときはひねた感じがするし、チョコマカとしか歩けないような小物感が柄に合ってない。染五郎、錦之助の方がフレッシュで良かった。次に出てくるときの派手な衣装も染五郎、錦之助の方が似合っていた。しかし、濡髪と台詞のやり取りをし出すと滅法良い。吉右衛門はうまいのはわかるがずっと苦手だったのだが、この時の長台詞には感動した。濡髪役の幸四郎が実の兄なので、やっぱり安心感があって台詞が冴えたのだろうか。

「蝶の道行」

最初に暗闇の中で光る二羽の大きな揚羽蝶が綺麗だ。明るくなると、背景に大きなユリや牡丹などが描いてあって全体に濃厚な雰囲気。その中で一人淡々と踊る梅玉。福助は踊りがうまいので見てて楽しい。

「女殺油地獄」

思いがけず、また見られた仁左衛門の与兵衛。私の与兵衛はやはり、この与兵衛だけだ。

松竹座の時のような疲れた顔ではなかったが、前半は年齢を感じる。小菊の役が秀太郎なのは対比で仁左衛門が若く見えるので良い。孝太郎のお吉は、ちょっと口うるさくて怖い感じがするお吉だ。年上の人妻の色気みたいなものは感じない。

梅玉の七左衛門は、あまり情がない感じが商人らしい。松竹座の愛之助の「ややを捨ててか?」の台詞に感じる情のようなものは好きだったが。梅玉の七左衛門は立ち去るときに与兵衛を脅すような音を出したりしない。

歌六の徳兵衛はうまいが、仁左衛門と並ぶと父親に見えない。二役の秀太郎とは夫婦に見えるのだが。

仁左衛門は顔はともかく、姿が美しい。与兵衛が乱暴なことをするシーンが多いが、ちょっと動いただけで舞台が明るくなるようなこの人の華が、この芝居をより魅力的に見せてきたのだと思う。

「いっそ不義になって金貸してくだされ」と言って拒絶されたあたりから与兵衛の目が座って来て、殺しの決心をしたのがわかる。

油の上でのスッテンコロリンは昔ほど激しくない。

一番感動したのは、前回歌舞伎座で観たときかもしれない。あの時は、まだ何回も見られるものと思っていた。

歌舞伎座さよなら公演六月大歌舞伎 夜の部2009/06/13 14:59

2009年6月6日 歌舞伎座 午後4時半開演 1階8列17番

「門出祝寿連獅子」

染五郎の長男、斎の松本金太郎襲名である。金太郎は幸四郎に手を引かれ、染五郎に付き添われて花道から登場。初お目見得のときは写真を買っただけで実物は見なかったが、癖のない可愛い顔。染五郎にはあまり似ていない。舞台の真中に座って、幸四郎と染五郎に囲まれた。まず幸四郎が挨拶し、次に梅玉、魁春、福助、芝雀、松緑、それに吉右衛門が挨拶し、最後に染五郎が挨拶した。

一度引き上げてから、3人で連獅子を踊った。染五郎は夜の部は全演目に出演。子供がデビューすると自分がしっかりしないわけには行かないし、その時に親もまだ元気でいるのは恵まれたことだと思う。

「極付 幡随長兵衛」

きょうは昼夜通しで観たので、この芝居のときに疲れが出て、最初の劇中劇のところを完全に眠ってしまった。ここは話の筋に関係ないから良いかと思ったが、後の方で長兵衛と水野が話している場面でも居眠り。昼夜通しで見るのはやはり避けた方が良い。

劇中劇の最中に騒ぎが起こり、長兵衛が出てきて捌くシーンでは、吉右衛門が中央通路の後ろから歩いて来て舞台に上がった。それなので、吉右衛門の大きな顔を近くから見られた。

「髪結新三」

鰹売りの「カッツォカッツォ」という売り声が珍しい。桶に入っている作りもののカツオがよくできていて、内臓もあるし、身が三つに分かれる。このカツオを半分もらって行く大家の弥十郎が前回に続いて面白い。金儲けのチャンスがあるから、真面目な人間でなく新三のような悪い人間に家を貸しておくのだという。こういう人物が出てくるのが歌舞伎の面白いところだ。

NINAGAWA 十二夜2009/06/20 23:26

2009年6月14日 新橋演舞場 午後4時半開演 1階8列40番

前回、歌舞伎座の2階で観たときの方が綺麗な舞台だと思った。演舞場は舞台の幅が狭くてゆったり感が落ちるのと、1階から見ると舞台も鏡も見える範囲が狭い。

芝居中に何回かスヤスヤ眠ってしまったが、この芝居は好きだ。3人の女形(菊之助、亀治郎、時蔵)にそれぞれ魅力があるからだと思う。主役のアンドロギュノス菊之助が若いうちが旬の芝居か、とも思う。

亀治郎の麻阿は相変わらず、これこそ亀治郎の真の姿のように見える。捨助、英竹、と次々に踊るところでは、最後に踊らされる麻阿の亀治郎が本当に嬉しそう。みんなで坊太夫を叩くところでは、棒で叩くだけでなく拳骨で殴っていたが、その手の出し方がカッコ良かった。

時蔵の織笛姫はお姉さんぽいのが魅力ではあるのだが、特に最初に出てきたときの声が年増すぎた。この人が、獅子丸実は琵琶姫を好きになるところが良いので、最後に同じ顔の兄と結ばれると、お前は顔が同じなら中身はどうでも良いのか、とつっこみを入れたくなる。

築城せよ!2009/06/25 22:37

新宿ピカデリーで「築城せよ!」を見た。ここがシネコンになってからは初めて行った。10時10分くらいに行ったときは、最後に舞台挨拶のある最初の回は完売だったので午後1時半からの回にした。

変な癖がなくて、非常に好感のもてる映画だった。築城を果たせないまま死んだ武将の念が役所勤めの男の身体に取り付いて、段ボールでの築城を果たす話だが、武将の出現という超自然的なことと、段ボールでの築城という非常に現実的なことがうまく溶け合っていた。

城も、単なるハリボテの城ではなく、段ボールを何枚かはり合わせて柱も作り、階段もあり、宴会ができる四十畳の広間もある本格的な(?)ものだ。プログラムによると、段ボールで城を作るのは強度的に可能なのだそうだ。

小さな商店街を武将とその家来が馬に乗って進んだり、そのまま役所の中に入って天井にぶつからないように馬上で身を屈めていたり、滑稽なところが淡々と描かれる。

愛之助は、今まで見たどの役よりもはまり役。歌舞伎調の台詞がうまいのはもちろんだが、臣下の謀反に遭い、無念を抱いて死んだ武将という、あまり大物でない感じが巧まずして良く出ている。愛之助の落ち着いたキャラも武将の役に合っている。冴えない役所勤めの男の方も全く自然だった。

町長役の江守徹、大工の棟梁の阿藤快、役所勤めのふせえり、この3人のテンションが高いが、これより若い役者は皆、淡々とした演技。大学の教員役の藤田朋子も軽いノリで好感が持てる。棟梁の娘で建築学部の学生で、城の設計をする海老瀬はなは、無駄な華やかさがなくて良かった。