新橋演舞場 八月花形歌舞伎 第三部2010/08/15 03:04

2010年8月8日 新橋演舞場 午後6時開演 1階15列25番

「東海道四谷怪談」

最初に直助役の獅童が花道から出て来て嬉しかった、直助は、お袖役の七之助に言いよるシーンもあるし、派手な役だ。孝夫で観たときは、もう少し地味な役で不満だったと記憶している。獅童はかっこいいが、言いよるシーンでも、あまりエロスを感じない。
海老蔵の伊右衛門は、「どうするよ!」とか「早く出せ!」のように地声で怒鳴るような感じの台詞は男っぽくて魅力的。しかし、基本の台詞がまだ不安定だ。 出番が一番遅い勘太郎の与茂七が出てくると、一番安定していてほっとする。

一幕目は華やかで、与茂七とお袖の夫婦が客と娼婦として会ってもめるシーンか愉快だったし、最後は伊右衛門と直助が組んで悪いことをやっているように見えて面白かった。だから、是非もう一度観たいと思った。


しかし、二幕目の怪談らしくなったあたりで、舞台が暗いのと、例によって食後の睡魔に襲われたのとで、気がついたらお岩もお梅もいつの間にか死んでいて、筋についていけなくなっていた。暗い客席から急に声が上がって役者が出てくるような驚かせる演出もあったが、気持ちが盛り上がらなかった。

最後の場面は何故か雪が降っていて、勘太郎と海老蔵が忠臣蔵の討ち入りのときのような立ち回りをや。った。勘太郎のきびきびした動きは観ていて気持ちが良いし、海老蔵も嬉しそうにやっていたから、あれが二倍の長さだったら、本当にもう一回観に行ったかもしれない。

第三回 趣向の華 昼の部2010/08/15 04:30

2010年8月14日 日本橋劇場 昼12時開演 1階14列2番

藤間勘十郎、尾上青楓主催の公演である。日本橋劇場は水天宮前からすぐのところで、こじんまりとして見やすい劇場だった。

最初に勘十郎と青楓が囃子方の格好で挨拶した。勘十郎を横から見ると、袴の部分が前掛けなのがよくわかった。「前の公演のとき、唄が音を外したときにクスリとも笑い声が聞こえなかった瞬間、冷や汗が出た」という勘十郎の言葉が可笑しかった。青楓はメガネをかけていて、最初誰だかわからなかった。獅子虎傳で話を聞いたときはもう少し声が高かったような気がする。きょうは低め。気のせいか少し鼻声のような?
全演目についての簡単な説明があった。昼夜最後の「袴歌舞伎」は、そういうのが昔からあったわけではなく、素踊りの歌舞伎版を作ったということらしい。舞踊家さんらしい発想だ。

長唄「越後獅子」

最前列に、左から太鼓の亀寿、大鼓の勘十郎、立鼓の梅若玄祥、小鼓の亀三郎、新悟、梅丸。2列目は長唄。その中で歌舞伎役者は廣松と、龍之助か。孝太郎がいるはずと思ったが、いなかった。廣松は、唄はそんなにうまいわけではない。隣りにいたのが龍之助か?声が良いような気がした。顔もかわいい。中学生くらいのはずだが、身体が大きい。一番後の三味線の列には、青楓と、梅枝、萬太郎、廣太郎、種之助、米吉、男寅がいた。萬太郎だけは前に楽譜を置いていない。

東明「春の鳥」

富十郎の娘の愛子ちゃんの踊り。「姫天王」の掛け声が飛んでいた。一人で踊るのは初めて見た。後見さんも見えないのに、一人で偉い。「振りを忘れたらとりあえず回るんだよ、愛ちゃん」と、勘太郎の言葉を思い出して心の中でつぶやいた。今回は勘十郎が三味線にまじり、青楓が小鼓。それ以外の演奏は全部女性。

長唄、「勧進帳」

きょう個人的に一番感動したのが、これ。勘十郎が三味線、青楓が大鼓、染五郎、新悟が鼓、それ以外は本職で、「勧進帳」の演奏をした。間に、染五郎が弁慶、青楓が富樫のパートで問答をやった。染五郎が弁慶の台詞の一部だけでも演じたのは歌舞伎界にとっては意義のあることなのだろうが、私的には、青楓がそのまま歌舞伎の舞台で富樫をやれるくらいうまかったのと、大鼓がすごくうまかったのが衝撃だった。歌舞伎は小鼓がリードするらしいが、気持ちの良い音で青楓の大鼓がリードしてるように聞こえた。新悟の鼓もうまい。長い指でスナップがよくきいている。

袴歌舞伎「月花怨皿絵(つきにはなうらみのすがたえ)」

全員袴姿で歌舞伎をやる。

最初に、梅丸、新悟、廣松がチラシ配りとして、場内後方から出てきた。梅丸は花道、他の2人は通路を歩き、廣松は途中で「これは、○○○にいさんのお母さんじゃごさいませんか」と言ってチラシを渡していた。

序幕「向島川岸の場」では、3人以外に花見客として廣太郎、種之助、米吉、男寅も出て来た。軽業小梅の梅丸は、ねじり飴みたいな棒を持って踊った。先乗りのちょろ松の廣松は輪鼓(りゅうごという中国の独楽だそうだ)の芸で、独楽をひもの上で動かして、それを上に投げ上げ、またひもで受けて動かす。一際高く投げ上げたときに受け取るのに失敗したが、「もう一度やります」と言ってやり、二度目に成功した。名前がわからなかった人の、傘の上を紙の風船を回す芸もあった。「いつもよりたくさん回しております~」と言っていた。最後は大和屋お新の新悟の下駄タップ。そして、皿屋敷の話に続けるように、皆で皿回しをした。

本編は怪談。お菊(壱太郎)と新之丞(梅枝)は許婚。しかしお菊は観音久次(亀三郎)にかどわかされ、久次の世をしのぶ仮の姿である浅川屋徳評価の妾になる。菊地家の家老の息子である新之丞は、菊地家から盗まれた残月の皿が浅川屋にあるとにらみ、お菊に詮議を頼む。浅川屋の手代松五郎はその様子を見ている。お菊は、残月の皿を持ち出そうとしたところを見つかり、皿は打ち砕かれ、指を切られて殺され、死体は古井戸に放りこまれる。その後、古井戸からお菊の幽霊が出るようになる。新之丞は、行方不明になったお菊を探すうち、雨に振られて、ある家の軒先を貸してくれるように頼む。そこの庵主と話をするうち、新之丞は庵主がお菊の霊だと気づく。

お菊の幽霊の付け指が大げさで可笑しかった。

最後は悪者が討ち取られ、お家安泰となるが、その前にお菊(壱太郎)と新之丞(梅枝)が踊るシーンがある。浄瑠璃「夢結心春雨」。2人ともうまくて素晴らしかった。お菊役の壱太郎は、袴姿でも女形というより女の子にしか見えない。国立劇場の「歌舞伎の見方」のときのようなジーンズにTシャツでも、きっとこの役ができるだろう。普段は女形の梅枝が、今回は立役で恋人同士なので、2人が余計になまめかしく美しく見える。

私は踊りが好きなので、元々演奏より舞踊が観たかったが、流石に舞踊家さん達の主催なので、袴歌舞伎の中に舞踊がたっぷり入っていて大満足だ。

第三回 趣向の華 夜の部2010/08/16 22:42

日本橋劇場 午後4時半開演、1階11列1番

初めに青楓と勘十郎の挨拶。昼の部で疲れたという勘十郎がグダグダになると、すかさずフォローする青楓。最後の袴歌舞伎には大御所も出るので、昼の部とは一味違うという。

「真田小僧」

金坊 梅丸、父 國矢、母 梅之

落語を元にした芝居で青楓の構成・演出。長屋に住んでいる夫婦の息子が金坊。父が金坊に外に遊びに行けというと、手を出して「おわし」をくれという。ダメだと言うと、それならおっかさんに「おとっつぁんの留守に若い男がおっかさんを訪ねて来た話を、おとっつぁんに内緒にするから」と言って貰うと言う。気になって、話せという父からお金をせしめる金坊。話の要所要所で止めて追加を請求する。お客さんが、かなり笑っていた。途中で、なんとなく話の落ちは分かってくるのだが、それでも可笑しかった。國矢は途中で一度台詞があやしくなったが、梅丸は大量の台詞もちゃんと覚えていて立派。梅之は、はじめてじっくりと観たが、背が高い人なのだ。落ち着いた感じの長屋のおかみさんを好演していた。

最後におふざけで花道から出て来た按摩は勘十郎か?

常磐津「新曲竹生島」

浄瑠璃 青楓、三味線 勘十郎


青楓はうまいのだが、昼の部にうまさが十分にわかって要求水準が上がったためか、この曲を聴いているときは、やっぱり本職にはかなわないと思った。当たり前なのだが。

全演目通して観て、2人とも三味線も鼓もうまいが、勘十郎は三味線が特に得意で、青楓は声を出す系統が得意、という印象を受けた。

袴歌舞伎「傳書猿島軍(つたえがきさるしまだいり)」

袴歌舞伎で面白いのは、やっぱり女形。特に、素顔だとおじさんにしか見えない人の高い声の台詞は、カウンターテナーを聴いている時と同じような不思議な感じを受ける。今回、残月尼役の中村鴈乃助が、そんな感じだった。

孝太郎はチラシに名前が出ていたが体調不良で出ていなくて、代わりに高麗蔵が滝夜叉姫の役をやった。高麗蔵は、袴姿で女形の声でも、普段と同じ印象。滝夜叉姫は、いつもの豪華な傾城の格好ではないが、花道の七三での動きは同じだった。

猿之助の「金幣猿島郡」を観たというはっきりした記憶はないのだが、ある家に滞在していた身分の高い男を、その家の娘が好きで、男の妻か恋人に別れろと迫り、娘の父がやむなく娘を殺す、という話は、猿之助の芝居で観たことがある。今回、その男は源頼平役の種太郎。娘お清が、主役の梅枝。頼平の恋人、桔梗の前役が壱太郎。

桔梗の前は将門の孫で、源氏に追われ、旅の途中に恋人の頼平とはぐれて、如月尼(魁春)のところで下働きの小萩として働いている。そこに頼平が宿を乞いに来て再会。実は如月尼は頼平の乳母で、頼平と桔梗の前を添わせたいと考える。如月尼の娘のお清は、清水寺で見染めた男が忘れられず目を泣きつぶして盲目となった。お清は、自分が桔梗の前の身替りになると申し出る。如月尼が、村雨の宝剣を抜くと雷鳴がとどろき、剣の奇徳で、お清の目が見えるようになった。すると、見染めた男が頼平だと気づく。お清は桔梗の前につらく当たり、身替りになるのを拒む。如月尼は仕方なく娘を手に掛け、頼平と桔梗の前を逃がし、自害する。

最後の幕は大切所作事「鐘入相小袖散花(かねにいりあいこそでのちりばな)」(清水寺鐘供養の場)。最後はまたまた舞踊で嬉しい。 お清役の梅枝中心で娘道成寺風の踊り。それに種太郎と壱太郎が絡み、道成寺の曲で、種太郎を2人の女が取り合うという、私的には夢のような踊りだった。所化役で出た2人、種之助と廣松は一心會のときにうまいと思った。踊りがうまい5人で最後を締めたのだろう。

梅枝は、3年くらい前に獅子虎傳や、亀治郎といっしょの巡業で踊りを観た頃はうまいんだろうが輪郭がぼやけてるような感じだったが、今はうまいとしか言いようがない。


袴歌舞伎は昼夜ともに勘十郎が古い話をもとに再構成したもので、知っているモチーフが多いが、その中に勘十郎振付の舞踊がたっぷり入っているので楽しい。今まで、歌舞伎は話の筋がつまらないと思うことがよくあったが、今回観ているうちに、舞踊を見せるのが本当の目的で、話は舞踊と舞踊をつなぐ手段、という演目もありだと思うようになった。

第八回 亀治郎の会2010/08/18 22:53

2010年8月18日  国立劇場大劇場 午後4時半開演 1階10列7番


今回は、肩の力が抜けた娯楽版だった。

亀治郎の会はせいぜい三時間くらいで終わるだろうという認識で、食事のことは考えていなかったが、行って時間表を見たら終演が九時過ぎ。間の休憩が二回でどちらも十五分では外に買いに出るわけにも行かず、おやつ用に持って行ったワッフルと中で買った豆大福で飢えをしのいだ。


「道行初音旅」

亀治郎の狐忠信は巡業で観て、これが二度目。踊りはうまいが、勘太郎ほどわくわくしない。たぶん勘太郎は私の好きなバレエぽくて、亀治郎は普通の日本舞踊なんだろう。芝雀はいつも優しそうで好きだ。忠信と主従の感じがしないのは亀治郎の顔が生意気そうなのが悪い。しかし、鼓を取り上げられそうになってむっとしたりする時の顔は動物ぽくて良かった。静の後から狐の手足でスススッと近づくときの動きが良かった。

逸見の藤太は出なかった。後半をやらないので、猿之助のときに好きだった、蝶を追うのをじっと堪えている忠信のところはなかった。

「川連法眼館」

義経役の染五郎はほんの少ししか出なくてもったいない。狐に鼓を渡すときは立ったまま渡す。これが普通なのだろう。腰を落として渡した仁左衛門は優しそうだった。

佐藤忠信の亀治郎は動きは良いのだが、見た目が子供っぽくて残念だ。狐は、犬っぼくはなかったけれども、人間ぽい感じがした。階段を下りてくるところは狐らしいが、下手でしょんぼりしている時がイマイチ。狐の衣装を着て腕を動かしたり、海老反ったり、跳んだりの所作は、たぶん私が観て来た狐のうちでは一番うまいのだろう。芝雀の静は情があって、この幕が特に良かった。いつになく静御前の存在感を感じた。


最後まで気持ちが盛り上がらなかったのは、自分が、何回も見過ぎて新鮮な驚きがなくなっているからだ。階段返しも「出があるよー」に騙されることなく階段を注視しているし、欄間抜けも驚かないし、替え玉もわかる。それに、亀治郎の会で観ている人達というのは、大方がこの演目をよく知っている人達だろうから、他のお客さん達もあんまり驚いていなさそうなので余計つまらない。予想して見ているせいか、階段返しも欄間抜けも動作が遅く感じる。
吉野山、四の切を観るときは、いつも猿之助を懐かしんでいる。狐の台詞が始まった時、猿之助に声が似ているのでじーんとしたが、台詞が進むとやはり亀治郎のしゃべり方だった。


「上州土産百両首」

幼馴染の正太郎(亀治郎)と牙次郎(福士誠治)の話。福士は最初に出て来たときは子供に近いような年齢設定だったのか、丈の短い着物を着ていた。話の内容を知らず、福士なんだから二枚目の役だろうと漠然と考えていたが、ちょっと頭が足りない役だった。しゃべり方もそんな感じだがわざとらしさがなく、とても良い感じでびっくりした。

珠響(たまゆら) 2010 8/28 サントリーホール2010/08/28 23:16

2010年8月28日 サントリーホール 午後6時開演 1階5列中央

「オープニング」はヒューマンビートボックスのMALと英哲風雲の会のはせみきたの共演だった。

本当は今回は外国からスペシャルゲストが来るという話だったがそれは実現しなかったということで、最初に傳次郎がスーツ姿で現れて謝った。私は傳次郎の方が好きなので外国人のゲストはどうでも良い。

「ピアノ 稲本響」

最初は「魔性の鍵盤」。その後、トーク。大阪の堺出身で、大阪のおばちゃんの先生にピアノを習った話だった。間違えると、鍵盤の蓋を閉める。手をどけたら、「どうしてどけるの!」と怒る。次に閉めようとした時に、鍵盤の上に手を置いたままにしていたら「どうしてどけないの」と怒る。

次は「新曲」。目をつぶって聴いていると瞼の裏に森の自然が浮かんでくる。その後は、またMALが登場し、稲本は、舞台の前方でおもちゃのピアノを弾いた後、それを持って客席の真ん中の通路に行き、そこで弾いていた。

「ギター 村治佳織」

去年は赤いドレスだったが、今年は着物風ドレス。パンフレットの中の写真は白いドレスの上に着物柄の上着を着ているようだが、今回は黒いドレスと組み合わせている。

最初はショパンの夜想曲。次は、エリック・クラプトンが幼い息子を亡くしたときに作った「ティアーズ・イン・ヘヴン」。

その後は尺八の藤原道山と共演のピアソラの曲「Night Club 1960」。

最後はディアンスの「フォーコ」。

ギターの演奏が終ったら、洋服姿の亀治郎が出て来た。「洋のチームが終って、後半は僕たち和のチームです」と言った。

ここで、休憩。

「尺八 藤原道山」

山本邦山の「甲乙」、武満徹の「小さな空」。

「和太鼓 英哲風雲の会」

今回は去年より和太鼓の数が少ないから大丈夫かと思ったが、最後の方はやはり大音響で逃げたくなった。

最後は、三兄弟プラス笛の福原寛のお囃子で、亀治郎の舞踊「獅子」。
普段と違い囃子方が前方に座った。イヨーッ、オー、ワッと三兄弟の咆哮が気持ち良かった。私は、この曲が好きだから満足なのだが、舞踊としては少し短くて中途半端だったかもしれない。

「フィナーレ」

村治佳織と藤原道山の2人はパイプオルガンの前で共演。上手前方で、傳次郎が、鉦(?)と太鼓で、英哲風雲の会の一人とセッション。その後で、稲本響が「剣の舞」を弾き、イケメンの弟の渡がクラリネットで合わせる。その間から傳左衛門が顔を出して鼓で合わせる。これは、なかなかの見ものだった。

今までの珠響は、別の分野のアーティストを単に並べたにすぎないものだったが、今年はアーティスト同士のコラボがあり、それがとても良かった。レベルが1つ上がったと思う。三響会は、歌舞伎と能のコラボを考える前に、打楽器奏者としての自分たちの可能性をもっと追究すべきではないかとも思った。

出演者が揃ったところに、獅子のこしらえのままの亀治郎が出て来て、当然のように真ん中に出て来て挨拶する。その得意気な顔が可愛くて、笑いたくなる。お辞儀をして、サッと最初に引き上げる。客席の求めに応じて、もう一度皆がカーテンコールに出て来た。亀治郎の顔を見ると、また笑いたくなる。獅子の拵えでも、顔が亀治郎のままだ。