勘太郎・七之助 錦秋特別公演 20102010/09/08 19:49

2010年9月8日 文京シビックホール 午後2時開演 1階7列7番

一、橋弁慶

私の席は、下手の端近かったので、花道がわりの壁際のステージから出てくる2人がよく見えた。最初に牛若丸の七之助が、白地にピンクの模様の薄物を頭からすっぽり被って出て来た。薄物の下は普段の髪型の七之助。素踊りなのだ。この2人の素踊りを見るのは初めてかも。

勘太郎は長い薙刀を持って出て来て、舞台の近くでポーズをとった。足をふみならす音も大きくて、かっこいい!手を片方ずつぐるっと動かすと、なんて綺麗な手なんだろうと思う。お岩をやるために痩せたそうだが、頬の下、口の近くが削げていて、痩せたのを実感する。

小山三と小三郎が後見。

橋弁慶の振付もいろいろあるのだろうが、去年、千之助と勘十郎がやったときとは違う。きょうのは弁慶中心。最後は、六法の引っ込みの最初のような所作をしたが、その後、しまったという顔をして、薙刀を肩にかけて普通に歩いて引っ込んだ。

二、芸談

橋弁慶との間に休憩もないのに、早替わりのようにスーツ姿になった2人が、下手ステージから出て来た。司会の人が「大丈夫ですか」と勘太郎に聞くと「ダメです」と汗を拭く。勘太郎は最初の方は流石にしきりに汗をぬぐっていて、七之助の方に話を振ってくれというような仕草をした。

橋弁慶は、七之助は過去二回踊ったことがあるが、勘太郎は初めて。「彼を相手に踊って見たかった」という勘太郎。

お岩役のために10キロやせたそうだ。七之助によると、「生まれて初めて僕がおにいさんより重くなった」。勘太郎は今、58キロ。七之助は61キロだそうだ。「見えないもんですね」と勘太郎。

観客からの質問1。「去年、建て直された歌舞伎座で最初にやりたい役はという質問に対する回答が、勘太郎は曽我の対面だった。その理由は?」 勘太郎「様式美というか・・・。やっぱり五郎は魅力的な役。曾祖父の菊五郎が演じた五郎を、上手の上の方から写した写真がある。憧れる」最初に演じたいものは、と聞かれて、七之助は「さよなら公演でもやった、三人連獅子」。


観客からの質問2。「勘三郎の一番好きなところと嫌いなところは何か」。勘太郎「尊敬するところは、プロデュース力のあるところ。嫌いなところは理不尽に怒るところ」七之助が言うには、勘太郎は初役のお岩の稽古のときに、怒った。それを見ていた勘三郎が「おまえ、そんなに怒るもんじゃないよ」とたしなめた。勘太郎は「あの人にだけは言われたくない」


観客からの質問3。「観客の顔は覚えているものか」。勘太郎は「客席はよく見えます。父や海老蔵さんは、一番後のお客さんの表情までわかるそうです」

三、あやめ浴衣

國久、仲之助、いてう、仲四郎

どこかの劇場の杮落しのときに、歌右衛門や長谷川一夫が出てやった演目、と勘太郎が言っていたが、そういう特別なときに、それこそ「いずれあやめか杜若」みたいな配役でやるべき演目ではないかと思う。

四、浦島

以前、青楓が踊ったのを見たことがある。二枚扇の扱いが見もの。

青楓は素踊りだったが、勘太郎は衣装を着けていた。上手から、釣り竿を持って出て来た。きょうはどっちの踊りも長いものを持っている。扇の扱いは青楓の方が安定していて華麗だった。勘太郎は何度か拍手を受けていたが、まだ発展途上に見えた。勘太郎が凄いのは、玉手箱を開けて老人の姿になってから。腰をぐっと下ろして、老人の格好で歩く。訓練された筋肉の力を感じた。やせているせいか、老人の姿がしっくりする。知らなかったら勘太郎とはわからないかもしれない。

五、藤娘

藤娘の前の闇の中ではいつも玉三郎のことを考える。明かりがついて、美しい舞台に美しい七之助の藤娘。藤娘は技術とか関係なく綺麗な人が踊るべきだ。娘道成寺はカクカクしていてびっくりしたが、きょうの藤娘は理屈抜きで楽しめた。

藤の花の下でにっこりする前あたりが、特に良かった。鷺娘もそうだったが、ドラマ性が盛り上がってくると七之助の踊りも盛り上がるような気がする。それが、この人の資質だと思う。

二十代の七之助。今、私たちはとても貴重なものを見ているのかもしれない。

秀山祭 九月大歌舞伎2010/09/12 00:14

2010年9月11日 新橋演舞場 午後4時45分開演 1階5列38番

きょうは特に何を見たいという目的もなく行ったが、睡眠が足りていたせいで、珍しく最後まで全然眠らなかった。

「猩々」
松緑は顔は笑ってしまうが、梅玉といっしょに踊るとうまいのがよくわかる。花道を横っとびで引っ込むのは初めて観た。

「俊寛」
吉右衛門は俊寛が似合う。杖をついて出てきたとき、リア王みたいだと思った。瀬尾役の段四郎が歌舞伎らしくてとても良く、最高の組み合わせなのに、あんな頭の弱い色キチガイみたいな千鳥で残念だ。どう見ても、頭のおかしい女にしか見えない。あんな女は島に捨ててった方が良い。

仁左衛門は丹左衛門の役で出たが、足がニョキッと出る衣装が似合わないし、つまらなかった。

「鐘が岬」「うかれ坊主」
八十代の2人が、下半身の動きはおぼつかないのに自信たっぷりでオーラを出して踊っているのが流石にプロだと思った。

「引窓」
染五郎、松緑、孝太郎、東蔵、みんな良かった。

染五郎の役の南片与兵衛は七月に松竹座で仁左衛門がやった。私は見られなかったが、きょう染五郎を見て、あれを仁左衛門がやったらさぞかっこいいだろうと容易に想像できた。 染五郎も、「わたしたちは親子ですぞ」と義理の母に言うところの気持ちがよく伝わってきて好演だった。

松緑の濡髪は、顔が小さいので相撲とりらしく身体が大きく見えた。染五郎より下手だが、そのことも出来の悪い子の可愛さみたいなものに通じて、役に合っていると思った。

孝太郎は、ちょっと頭のネジがとんだような感じのする女房で、染五郎よりも松緑の女房役の方が合いそうだった。

東蔵が母性を感じさせるので、「その絵姿売ってくだされ」のところから、客の涙を誘っている。

花の武将 前田慶次2010/09/12 22:34

2010年9月12日 松竹座 午後4時開演 1階6列11番

最初に、すっぽんから田山涼成が現れて物語の説明をする。幕が上がると舞台の上は立ち回り。慶次役の愛之助が出たきたが、ちょうどまん前だったので前の人の頭で、よく見えなかった。

初めの方は、後ろから次々に襲ってくる連中を慶次がすわったまま扇子であしらうような漫画みたいなシーンがあったり、漫画のようなテンポで話が進むので自分にとっては見やすかった。

現代風時代劇。舞台装置もシンプルで背景に風景が映ったり、ライトの使い方とかで場面が転換する。話は、秀吉・家康と前田家、慶次の絡みと言う歴史的な枠組みの中で、慶次の「傾き」の世界が展開する。

賀来千賀子がまつの役で、綺麗で貫禄があって立派だった。サトエリは最初は慶次のところに剣術を習いにきた女剣士で、最後は出雲の阿国になる。顔も身体も、驚くほどやせている。テレビで見て、綺麗だと思った脚も、あれでは細すぎじゃないかと思った。

「蝉しぐれ」で、文四郎の友達の与之助役をやった野田晋市が、小次郎という忍びの役。与之助とは全くイメージの違う役。良い役者だと思う。もうけ役だ。

女郎屋みたいなところで女たちがミニスカートで踊るシーンでは、サトエリも踊ったが、歌舞伎ファンとして眼福だったのは、女形のりき弥と千寿郎。超ミニスカートに縦ロールが何本も下がってるような金髪姿で、脚だけは女形は白い布で覆っていたが、それ以外は周りの女たちと同じ格好で踊っていた。俳優祭くらいでしか観られない姿だ。

サトエリが出雲の阿国になってから、かぶき踊りをいっしょに踊るシーンで、千寿郎がうまいと思った。りき弥は踊りは下手だ。

愛之助が良かったのは、秀吉の前で「カブキものとしての舞をお見せします」と言って、謡って踊るシーン。謡は普段聞けないので、嬉しかった。

松風という黒い馬が可愛くて、もう少し活躍してほしかった。あんまり顔が長くなくて、太い毛糸のようなたてがみで、脚はあくまでも太い。 売っている舞台写真の中に、愛之助が松風に乗っているのがあって、まあ良かったが、黒いのであんまりはっきり写っていない。

慶次が肩にかけている狐の毛皮が、写真だとただの飾りなのだが、舞台で見ると顔がテリヤみたいでかわいいし、垂れ下がっている足も見えて、作り物なのだろうが、すごく可哀想な気がした。

通し狂言 義経千本桜2010/09/14 23:59

2010年9月13日 南座 午前11時開演 2階1列10番

「鳥居前」

海老蔵は予想通り良い。弁慶より強そうだ。「くれめぇーかぁー」というような台詞に、団十郎の名残があるが、美声で、コントロールさえできるようになれば素晴らしいだろうと思う。


静御前の壱太郎は可愛くてとてもお姫様風。白拍子でも、お芝居ではお姫様風なのね。

「渡海屋大物浦」

典侍局の玉三郎を見るのは2回目だ。今回は洗濯のしゃべりがなかった。いよいよ銀平が知盛の姿で出てくる時に、あれ、今回はないのか、と驚いた。

海老蔵の知盛は、前回の歌舞伎座では失望したが、今回はあの時ほど力まかせではなく、良くなっていた。しかし、銀平が相模五郎と入江丹蔵を捕まえて言い聞かせるところは、仁左衛門や獅童ほどはかっこ良さを感じない。

相模五郎の亀三郎と入江丹蔵の亀寿の兄弟は、2人とも口跡が良い。いっしょに出てくると体型が似ているのがわかる。亀三郎は、ご注進で踊るところはやや不安定だったが、魚づくしは口跡の良さが生きていた。亀寿は、最後に敵もろとも自分の腹を射して海に飛び込むところが、上から観たせいか、決まっていなかった。


「吉野山」

歌舞伎座で観たとき、寿命が延びる心地がした。

静が花道ではなくて、舞台奥から出てくるのが気に入っている。舞台上の桜の木の大きな描き割りが二つに分かれて、吉野山の美しい風景が広がった。舞台後方から前に歩み出てくる静の玉三郎も綺麗。真ん中に立ったのを見ると、六十歳でも本当に綺麗だと思う。


すっぽんから現れる忠信の海老蔵も綺麗。海老蔵は、踊りは勘太郎の足元にも及ばないが、やっぱり顔が綺麗。玉三郎といっしょに踊り出すと舞台は実に華やかになる。

今回は、狐の人形を遣うのが薪車だった。薪車は最近観る機会が滅多になく、最後に観たのは去年の永楽館で、次に観るのも永楽館かと思っていた。