錦秋十月大歌舞伎2010/10/11 18:44

2010年10月10日 新橋演舞場 午後4時半開演 2階5列16番

「盛綱陣屋」

孝夫時代の盛綱を一度観たことがある。
あの時は、腹を刺した小四郎を褒めるあたりが華やかになりすぎて悲劇にそぐわないと感じた。当時の美声も美貌も失った今の仁左衛門は、いぶし銀の味で、この話にちょうど良い。

団十郎の和田は歌舞伎らしい華がある。四月の助六では、仁左衛門のくわんぺらの横ですっかりかすんでいたが、今月は特に最初に出て来た時は、盛綱よりも派手で目立っていた。

秀太郎の盛綱母微妙は気品と情があって良かった。仁左衛門と母子の役は顔が似てるのでぴったりだし、台詞のやり取りも慣れたものに感じる。

小四郎の役は秋山君か三橋君かわからないが、出て来て座敷を一回りする足の運び、怪談を降りる足の運びのどちらも素晴らしい。自分にこんな可愛い孫がいたら、家も息子も捨てて、連れて逃げるだろう。

信楽太郎は三津五郎。「ご注進」と出て来て踊る役。やっぱりうまい。伊吹藤太は錦之助。おかしな顔の化粧をしているので、せっかくの二枚目がもったいない。こっちも舞踊の要素が大きいから三津五郎と役を逆にしてはと思うが、信楽太郎の方が大きい役なのか。

仁左衛門は、黒い肩衣に着替えて出て来てからが特に良い。芝居の初めの方では風邪をひいてるのではないかと思ったが、後半になると台詞が冴えわたるので、そんなことは忘れて聞き入ってしまう。弟の首実検のときの台詞は松王丸を思い出す。花道を引き上げた時政の行方を舞台から目で追うような動きも、歌舞伎の様式美なんだと思う。

首を見た小四郎が屋台から飛び降りて腹を切り、「死にたくなかったのは父に会うためだったので、父が死んだ今は生きている理由もない」と言った時、ああそうだったのかと素直に感動したが、実はその言葉は嘘だった。前に観たときは、たぶん、この肝心なところがわかってなかったのだ。わかっていたら忘れるはずがない。

「どんつく」

太神楽の親方役の団十郎、どんつくの三津五郎、太鼓打ちの巳之助が、真ん中で踊っている。

いろんな格好の人が上手と下手に分かれて座っているので、一人ずつ真ん中に出て来て踊るんだと思って喜んだが、微妙に違っていた。

太鼓持(錦之助、秀調)が2人で踊り、途中で子守(小吉)を呼んでいっしょに踊った。小吉は久しぶり。下手の端に腰かけていたが、姿が綺麗だ。女形に向いてそう。

仁左衛門の大工は、前に愛之助が顔見世でやった大工と同じ衣装だ。しかし踊りは、芸者役の福助と2人の色っぽい踊りで、綺麗だった。

団十郎は、何という物か知らないが棒の先にボールを入れる場所が三か所あるものを持って、それを上下に動かして、最初の場所から次の場所へとボールを動かして、拍手喝采されていた。あんなことの稽古もするのか?

団十郎は江戸っ子の役で、三津五郎のどんつくは田舎者。出演者が一列に並んで、皆でどんつくの真似をして「どんつくどんつくどんつくどんつく」と左右に素早く向き直りながら踊るのが、みんな真面目にやっているだけに可笑しかった。

「酒屋」

「今頃は半七っつぁん」という台詞が、この芝居にあるというのは知っていたが、観たのは初めてだ。「はんひっつぁん」と発音するのも初めて知った。そして、「去年の秋のわずらいにいっそ死んでしまったら」という、子供の頃から知っている文句も、この芝居の浄瑠璃に出てくることを初めて知った。

逸青会2010/10/23 21:33

2010年10月17日 セルリアンタワー能楽堂 午後3時開演 中正面3列9番

狂言の茂山逸平と、舞踊の尾上青楓の会。

今回は尾上流の名取の同僚にチケットをとってもらった。能楽堂に入ったら、チケットに書いてある席に別の人が座っていて、会場係も見つからないし、同僚も見つからないので、とりあえず一番後ろの空席に座って見た。舞台からはやや遠いが、橋懸りのすぐ横なので、歌舞伎でいうと花横の気分で、悪くなかった。

舞踊「賤機帯(しずはたおび)」

狂女が青楓、渡し守の舟長が菊紫郎。赤ん坊を抱いた狂女で隅田川を連想したが、やはり隅田川を題材にしたものだそうだ。

次は狂言の「濯ぎ川」

最初の舞踊との間には休憩がなく、席はそのまま。

逸平が入り婿で、たすき掛けをして川で洗濯をする。必殺の原型みたいに、怖い奥さんや「婿殿」と言っていびる姑も出てくる。婿は、きたない物を洗濯させる、と憤慨しているが、男を女に置き換えれば、女は普通にやらされてきたことなので、男だからと言って何をそんなに怒る必要があるのか。 用事を次々に言いつけられるので、すべきことを全て書きだし、それ以外のことはやらなくても良い、という約束になる。ここで、「ベニスの商人」的展開になるのだろう、と見当がつく。書いているときも「一番鶏が鳴いたら起き、誰よりも遅く寝る」ことに憤慨しているが、農家の嫁というのは、そういうのをやらされてたわけじゃないか、と少し鼻白んだ。ジャブジャブ、ゴシゴシ、という擬音語がそんなに大昔からあったのか、と驚いたが、昭和28年初演の新作だそうだ。 新作だから、逆に古さを感じるのだと思う。

この後、休憩。同僚が来て、やっと本来の席に座った。私の席は脇正面だったが、私の席に座っていた人の本来の席は正面だった。


「茶壷」

逸平と青楓の共演で、青楓の茶壷を自分のものだと言い張る逸平。青楓の、あっけにとられたような顔が良い。どちらの言い分が正しいか判断しようとする第三者が、菊紫郎。 菊紫郎は踊りはもちろんうまいが、台詞も歌舞伎役者のようにうまい人だ。 逸平は、自分の正当性を主張するときに、青楓を真似する。言葉もそうだが、青楓の踊りを逸平が真似し、しかも同時に踊る、というのが面白い。青楓はきちんとした日本舞踊で、逸平の方はその特徴をとらえて真似する、という趣向。もちろんアドリブでできるわけないので、振りが決まってるのだろうが、適当に真似した、なんとなく似ている動き、というのはとても面白い。

利根運河薪歌舞伎2010/10/24 23:57

2010年10月24日 [昼の部]流山市文化会館大ホール 午後1時から2時半 [夜の部]運河水辺公園特設ステージ 午後6時から

松戸での乗り換えに失敗して昼の部に遅れた。主催者挨拶、愛一郎の「歌舞伎のみかた」、石渡正華の「牡丹百華」という華道パフォーマンス、その後が「連獅子」という順で、私が行ったときはちょうど華道パフォーマンスが始まるところだった。上手と下手に枯れ木を組んだ台がある。上手では、白菊を中心に飾り、最後にススキを添えて季節感を出した。下手は、南天のような赤い実をつけた枝がはじめから飾ってあって、そこに、まず鶏頭を飾った。その後、紅葉の枝、大きな赤い花、かすみ草、の順に飾った。

そして、休憩ではないが、一度幕が閉まってから「連獅子」になった。

傳次郎はきょうは小鼓。

愛之助に続いて出て来た狂言師左近の千之助は一際小さくて、かわいい。親子としては無理のない大きさだが、こんなに小さい左近を見るのは初めてだ。後見は愛一郎と仁三郎。


2人が、白と赤の獅子頭を振るのは綺麗だった。千之助は特にうまいわけではないが、跳びあがるところは力強く、他もきちんと踊っていた。愛之助は、いつもながら顔の表情がいろいろ変化する。目線が、仔獅子を突き落とそうとする谷底に向く。愛之助が蹴る所作をすると、千之助はころころ転がる。このホールは花道の代わりになるところが全くないので、木陰で休むときは千之助は舞台の後方に座っていた。

間狂言がなくて、三味線の演奏が長々と続くのは三味線が苦手な私には辛かった。しかし、後半になって傳次郎の「イヨーーーッ」という大きな掛け声が始まると、気持ちが盛り上がった。

最初に子獅子の千之助、親獅子の愛之助、の順で上手から出て来て、後ろ向きに戻って行った。花道がないので、この動きが映えない。

次に愛之助を前に、続いて千之助が出て来た。愛之助は獅子の顔が似合うが、千之助もなかなか凛々しくて良かった。最初に子獅子だけが毛を一回回すとき、愛之助は舞台後方に下がり後ろを向いていた。最後は2人揃って振った。千之助はまだ小さいせいか上半身全体を使ってまわしている感じだが、毛先はちゃんと回っていた。

昼の部の後、文化会館のロビーで地元の人に、運河駅には歩いて行けますかと聞いたら、とても遠くて行けないという。ではタクシーで?と聞くと、それも遠すぎると言って、ちょっと考えていた。近くにいた人が、文化会館の近くにバス停があって、それで「流山おおたかの森」という駅まで行って、そこから電車で運河駅に行くのが良い、と教えてくれた。

きょうは運河に沿って歩いてみたいと思っていたが、「流山おおたかの森」へ行ったら大きなショッピングセンターがあり、そこで食事をして5時近くまでいた。
運河駅で降りて、道はわからなかったがなんとなく人の行く方へ歩いて行ったら、間もなく、両岸の一部が明るくなっている運河に出たので、明るいところを目指して歩いた。

桟敷と聞いたので座る覚悟をしていたが、前から2番目で段があったので、腰かけることができた。対岸に4つの篝火が燃え、その上方に舞台が見えた。篝火が運河に映っていた。

開演の少し前から雨がパラつきはじめ、観客に対する指示も、始めは「開演後は傘はささないでください」と言っていたが、そうも言っていられないほど本降りになった。結局、楽器が濡れると困るのでお囃子は舞台に出ないことになり、昼の部にあった挨拶以下を省略して「連獅子」から始まった。私は「歌舞伎のみかた」は見られずじまいになった。華道パフォーマンスは、前シテと後シテの間にやっていたが、その方が飽きなくて良かった。

舞台の照明がつくと、舞台の後ろに人工の竹の林があるのが見えた。その上の土手には本物の木があり、その後ろには民家がある。本舞台の横に、黒い背景の長い通路が作ってあり、そこが花道代わりだった。愛之助と千之助は、そこを通って出て来たし、木陰で休むところでは、千之助は、そこで休んでいた。前半で2人が引っ込むあたりでは、花道もかなり濡れていたはずで、足袋もびしょぬれだろうに、よくやっていると思った。

対岸なので、一番前の席でも、普通の劇場の一番後ろより舞台と距離があるかもしれない。2人の表情はよく見えなかったが、2人の動きの関連とか、獅子が足踏みしている感じとかがよくわかった。子獅子が最初に自分だけで毛を回すところは、夜の部では千之助は花道に行って回していた。千之助が毛振りをすると毛の先から水が飛ぶのがわかった。最後は、2人で毛先から水を飛ばしながらの毛振りになった。

終ったあと、カーテンコールのように、2人で上手、下手に向かって挨拶した。愛之助が手を出して、2人で手をつないで花道を引きあげた。

S席は、A席よりも後に席をたったが、帰りに運河の時計を見たら7時10分だった。予定は7時半までだったが、雨だったので30分くらい早く終わりにしたのだろう。

ボリショイ・バレエ&マリインスキー・バレエ合同ガラ公演 Aプロ2010/10/27 19:48

2010年10月26日 東京文化会館 午後6時半開演 1階R11列12番


R席はダンサーの全身が見えて好きだし、通路際の席がとれて嬉しかったが、上手が少し見切れる。

第1部

「パ・ド・カトル」
みんなうまいんだろうが、個人的には、印象が薄い。

「眠れる森の美女」第3幕のパ・ド・ドゥ

私は女性のソーモワの方が気に入ったが、男性に対する拍手が多かった。サラファーノフだからか。

「海賊」

久しぶりに見る。
ワシーリエフはちょっとデブだと思ったが、重量を生かした回転の迫力があって、なかなか素敵だった。

「愛の伝説」

「海賊」が大受けした後に、観客の目をこれだけ惹きつけるテリョーシキナは凄い。テリョーシキナだけのときはバランシンかと思うような動きだったが、男性が出てきたら衣装の雰囲気からしても明らかに違うとわかりった。この演目は何よりも振付が素晴らしかった。やっぱりグルゴローヴィチ大好き。

ここで休憩。

第2部

「ナルシスへのレクイエム」、

これはきょう一番気に入った。若いダンサーが踊る新作。シクリャローフは若くて素晴らしい。
第3部の「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」はバランシンの振付でも古典的で、こちらも良かった。相手のソーモワも良かった。若くて新鮮なコンビ。


「タランテラ」

サラファーノフは、眠りより、こちらの方がずっと良かった。この人、イギリスとかドイツの男の子みたいな雰囲気なんで、タランテラのような軽やかな曲が似合う。逆に、テリョーシキナはこの演目では老けた女に見えて、似合わないコンビに見えた。

「別れ」

これも新作で良かった。特に男性のセルゲーエフの動きが素晴らしかった。振付も良いが、第3部の「シンデレラ」で再確認したが、セルゲーエフはかっこ良い。足が長くて素敵。

ここで休憩。

第3部

「黄昏のヴェニス」

これは非常に好みだった。普通のスーツみたいので踊るのを見るのが大好き。たぶん、今回出た男性は、スーツで踊ったらみんな最高に素敵だろうと思う。

「シンデレラ」

シクリャローフとソーモワも良かったが、振付も良かった。ラトマンスキーは確か、「イワンと仔馬」の振付の人。 男性が女性をサポートする、古典の振付を基本としているが、新しいところもある。


「カルメン組曲」

感傷的すぎるカルメンで、衣装と合ってないと思った。 カルメンの間奏曲は大好きだが、ドンホセの格好をした人があんな風に踊るようなものかな、と思った。

「ドン・キホーテ」

この最後の演目は「海賊」コンビが決めてくれた。ワシーリエフは、向きになってるんじゃないかと思うほど力の限りジャンプしていた。

このメンバーだと、やっぱり新作が面白い。古典が凄くうまいのは、もうよ~くわかってるから、新作踊ってみてよ、と言いたい面子だ。

6時半から10時20分まであって、普通のバレエ公演の2回分観たような感じだ。