ルテアトル銀座 二月花形歌舞伎 第1部2011/02/05 18:49

2011年2月5日  ルテアトル銀座 午後12時半開演 1階10列11番

ルテアトル銀座のロビーには、まだ繭玉が飾ってあった。先月はじっくり見る余裕がなかったが、よく見ると青鬼の面だの、鯛だの、いろんな飾りがついていて楽しい。エスカレーターに乗っているときに飾りを触ってみた。

舞台からの距離はそんなにないのに、役者がちょうど自分の目の高さにいる。下手に作った花道の出入りもよく見える良い席だ。

「お染の七役」

私は早替りがあまり好きではなくて、この演目を前に観たのは、昭和63年に玉三郎がお染をやったときのことだ。

亀治郎は芝居が始まってすぐ、役のお披露目のように、お染から役を次々に変えて現れるが、芸者の役が一番合ってるように見える。お光は百姓娘に見えない。亀治郎は基本的にシティーガールだ。替るときのスピードでは、久松からお光になるのが速かった。お染役のときに声がかすれていた。しかし低い声の役になるとかすれてなかった。声が低くなると猿之助に似る。

弘太郎は丁稚役がものすごく似合う。物をパクパク食べてるときの顔がいい。花道を引っ込む時の足さばきが綺麗で見ごたえがあった。

油屋太郎七役の秀調が、落ち着いて貫録があって良い。通行人の中にりき弥を見つけた。秀太郎が夜の部に出ているので、りき弥、千志郎、千壽郎が出ている。千壽郎は夜の部だけのようだ。

第一場の最後に駕籠の中からあらわれるのが土手のお六。

一月に浅草を数回観た後だと、この劇場には廻り舞台があることが有難い。二場から三場へは舞台が廻って切り替わる。

この「小梅たばこ屋の場」は、団十郎の下手な台詞や玉三郎の「~じゃあねえか」という台詞を覚えている。樽もあった。ここだけは早替りがなくて芝居をじっくり楽しめるせいか。

染五郎の鬼門の喜兵衛は格好良いだろうと期待していた。演舞場でやった時、私は観なかったのだが、写真売り場にあった写真が格好良くて買った。亀治郎の声を聞いたときに今日はカスレ声のコンビか、と思ったが、染五郎の声はちゃんと出ていた。聞きなれただけかもしれないが。

染五郎は姿も顔もよくて、悪役の凄みもあった。団十郎がやったときは、「そこいらに置いていけ」という台詞で観客が笑ったくらい、凄みを出そうとして何か奇妙なものになっていて、かっこいい悪役とは全く認識できなかった。

染五郎はヒラリと樽の上に飛び乗ったが、団十郎もあんなにかっこよく飛び乗ったのか覚えていない。

弘太郎演じる丁稚の久作は、この場では樽の中に入っている死人。「おめえ、そいつは死人じゃあねえか」というお六の台詞を、亀治郎のお六も言った。

強請りのタネにするために久作を駕籠にのせ、お六と喜兵衛がかつぐ。2人で花道に来て、そこで駕籠を置いてしばらく「テレビに出すぎる役者は嫌いだよ」「まあそういうなよ、俺も前はよく出た」みたいなおしゃべり。

二幕目の第一場は強請の場。強請りに失敗するとわかって、亀治郎のお六が顔を伏せてしまった様子が面白かった。強請りに失敗した後も、喜兵衛は次の場で殺しをする。団十郎の喜兵衛はたばこ屋の場しか覚えていないので、こんなに長く活躍すると思わなかった。二幕目の最後はまた、早替りに次ぐ早替り。

15分休憩の後に、大詰め。お光は、お夏狂乱のような雰囲気の踊り。猿回し役の笑也と船頭役の亀鶴。亀鶴はわりと踊りがうまい。

お光が引っ込んだ後は、久松とお染の早替りの連続で、もうどちらが本物の亀治郎か考えるのが面倒になった。亀治郎は最後にお六になって登場し、船頭達と立ち回り。船頭は「おもだかや」と書いた傘を持っていて、先月玉三郎がやった「女伊達」の亀治郎版といった感じ。昔、猿之助の歌舞伎でよくやった立ち回りを考えると少し物足りない。最後は亀治郎が舞台中央に正座して「トーザイ。第一部はこれぎり~」で終わり。

松竹座 二月大歌舞伎 夜の部 「盟三五大切」2011/02/11 21:14

2011年2月11日 松竹座 午後5時開演 1階7列7番

「盟三五大切」

平成17年に歌舞伎座で初めて観て以来、これで4つの座組で観たことになる。どれにもそれぞれ一長一短あって、もう一度観たいのはどれかといえば、仁左衛門が三五郎役だった最初の座組。THE孝夫とでもいうべき役で個人的には何回でも繰り返し観たいが、客観的には「三五郎がかっこいい」がすべてになってしまって、成功した芝居とはいえないかもしれない。

自分にとって最も説得力があった源五兵衛は演舞場の染五郎。歌舞伎座で仁左衛門が源五兵衛をやった時は、他の配役も良くて全体的なレベルは高かったが、源五兵衛そのものは、五人切の場の迫力は凄かったが、あまり仁左衛門に合った役とも思わなかった。

今回は、仁左衛門は小万殺しの場にエネルギーを集中していて、ここが明らかに一番の見せ場になっている。芝雀の小万が素晴らしいので、この場が、より見ごたえあるものになった。時蔵にも亀治郎にも文句はなかったが、きょう芝雀を観たら、一番の小万だと思った。小万殺しは、油地獄の与兵衛はもうやらない仁左衛門にとって、それに代わるものだろうか。芝居全体を通して言うと、私は染五郎の源五兵衛の方が女にうつつを抜かして、三五郎と小万にコケにされて頭にきて5人を殺す若い男らしく見えたと思う。仁左衛門は源五兵衛の人間像より、歌舞伎らしい殺しの場の迫力を見せたかったのではないかと思う。

今月の三五郎は愛之助。今まで観た三五郎はみんな爽やか系だったが、愛之助は濃厚。この人の持ち味である。源五兵衛を騙そうとしている二軒茶屋の場では、様子を伺って表情が「お主も悪よのお」の悪家老のように嫌味ったらしく動く。これはこれで面白いと思う。小舟の上の濡場では、小万にのせる太い足がセクシーだった。

愛之助の三五郎は持ち役にしてほしいが、今月は良いところと悪いところがまだらにあった。台詞について全体的に気になったことがいくつかある。

小舟の上で小万と話しているのを聞いて、仁左衛門に習ったのだなと思った。愛之助は高い声も低い声も出せて素晴らしいが、台詞の間に声がひっくり返りすぎ。そのために台詞が聞き取りにくくなっているときがある。これは多分、日が経つにつれてよくなってくるだろう。

「おまえは何をそんなに焦っているのだ、少し落ち着け」と言ってやりたいようなしゃべり方が多かった。しかし、二軒茶屋の場で、源五兵衛は100両持っているかもしれない、と言うあたりの台詞は良くて、基本的にはとても台詞のうまい人だと感じた。

何かに反応して発する台詞の出だしが早すぎる。たとえば、幽霊に化けた大家の顔を見て「兄貴」と言うようなとき。「蝉しぐれ」のときも思ったのだが、ある物事や言葉と、それを見たり聞いたりして発する言葉の間には適当な「間」がないと不自然だし、観客に伝わらない。

三五郎が、亭主は「あっしでごんす」と言って源五兵衛の足元に腰をおろすと、色違いの同じ顔が上と下にあって面白い。顔だけをとってみれば、若い愛之助の方が、この芝居で一番の二枚目だった。

小舟の縁にハゼを叩きつけて殺すのは、仁左衛門が三五郎役のときにもやった。仁左衛門のハゼは小さくて、ペチッと叩きつける感じだったのだが、愛之助が持ったハゼは、なぜかもっと大きくて、ビシッと叩きつけている感じがした。不思議。

演舞場では菊之助の三五郎は亀治郎の小万の弟にしか見えなかったが、もっと年齢差のある芝雀愛之助が姉弟に見えなかったのは二人とも立派。しかし、最初に小万と源五兵衛が会うシーンでは、やっぱり芝雀仁左衛門の組み合わせの方が自然なせいか、二人が本当に好きあっているように見える。

芝雀は、かわいくて優しそうな女形だとは思っていたが、こんなうまい人だったかと思った。

5人切のとき、芝雀と愛之助は窓から出て花道に回っていた。演舞場でもそうだったが、歌舞伎座のときは戸口から出ていたと思うのだが。

殺しの場の最後、仁左衛門は花道の真中あたりから「人間五十年~」と敦盛を謡いだした。太鼓の音でよく聞こえなくて残念だった。

薪車の六七八衛門は、最後の方が良かった。初めの方も悪くはないのだが、釜や畳を持っていこうとする人間達と争うときに、もっと真剣味があったらと思う。最後は仁左衛門に頬かむりをしてもらって、抱きしめてもらって、憎らしいぞ、薪車!

富森助右衛門の段四郎は、帰るときに八衛門を「かずえもん」と最初に呼んでしまい、「はちえもん」と言い直していた。が、その後、仁左衛門が、「かずえもんの言う通り」と、間違えて、そのままだった。

猿弥が最初に船頭の役で出てくる。芸者菊野とカップルだが、これが松也で、身長差が10センチ以上ありそう。松也は美人だが、見える素足も大きいし、背を盗んでぐっと落としている腰も大きい。

大家の役は、弥十郎。薪車よりも長身。面白い役がうまい。

小万の首を見ながら源五兵衛が食事をしようとして、小万の口に箸を近づけたら小万が目と口を開くシーンは、歌舞伎座の時は仁左衛門が一瞬ものすごく驚いた顔をしたので、あの一瞬の顔芸がまた見られるかと期待したが、今回はやらなかった。

桶の中にいる三五郎が中から声を出すと、なんとなく笑える。

三五郎は腹を切って死ぬが、最後に仁左衛門が「まずこんにちはこれぎり~」と挨拶するので、愛之助は生き返って脱いでいた着物も着て、仁左衛門、段四郎と並んで座って挨拶する。

松竹座 二月大歌舞伎 昼の部 「彦山権現誓助剱」2011/02/13 14:48

2011年2月12日 松竹座 午前11時開演 1階6列6番

「毛谷村」は何回か観たことがあるが、今回の通しを観て人物の関係がよくわかった。あのお婆さんはお園の母で、子供はお園の妹のお菊が産んだ子。

序幕。
弥三郎(薪車)とお菊(松也)は人目を忍ぶ恋人同士で、すでに弥三松という子供もいる。京極内匠(愛之助)は、お菊を妻にと望むが、お菊の父の一味斎(弥十郎)に、「麒麟の子を鼠が妻にと望むとは」とバカにされて断られる。

京極と一味斎は、弥三郎の父の衣川弥三左衛門(段四郎)の前で立ち合いを行うが、弥三左衛門は途中で2人の実力を見定めて止める。段四郎は、台詞が完全に入ってないのが残念だが、物の分かった人間という感じがして良い。負けた京極の悔しさはつのり、ひそかに鉄砲を用意して一味斎を殺す。

二幕目。 
お園役の孝太郎が花道から登場。酔った様子で、母のお幸(竹三郎)に、妹のお菊が生んだ弥三松に家督を継がせてほしいと語る。子役が、ちらりと上目づかいに孝太郎を見たのが可愛かった。一味斎が殺されたことを知った一家はかたき討ちのために出立する。

ここで休憩。

三幕目では、お菊、弥三松、家人の佐五平(猿弥)が、ある家に暮らしている。お菊は身体を壊している。佐五平が、弥三松を連れて薬をもらいに出た後、恋人の弥三郎が訪ねてくる。
ここで薪車と松也2人の芝居になる。きれいな2人を見るのは目の保養。花道から愛之助が、いざりの乗る車に乗って、引かれて出てくる。後ろから押していたのは千蔵。哀れなことを言っているが、きっと2人を騙そうとしてるんだと見ていたら案の定、弥三郎を殺して、お菊に言いよる。お菊が言うことをきかないとわかると、殺す。お菊に言いよるときの好色な顔がGood。3人とも美形だ。

夜の殺しの場は大きな見せ場だったが、昼のお菊殺は、そのミニ版。刀を振りかざした愛之助と、その下で海老反って客席に顔を見せる松也。

美形2人が殺された後、花道から出てきたのは実力派の2人、孝太郎と猿弥。これに、実力派でもある愛之助が加わり、だんまりになった。ここのだんまりは映画「宮城野」のだんまりをちょっと思い出した。愛之助の黒い衣装が映画の衣装と似ているせいか。最後は愛之助が幕外の引っ込みをやった。愛之助は、こういう役は危な気がない。



ここでまた休憩。

四幕目。誰かが花道を出てきたとき、拍手の大きさから、これは仁左衛門か、と思ったらやっぱりそうだった。六助が登場し、「毛谷村」が始まった。
六助が母の墓参りに来たところ、微塵弾正と名乗る愛之助が老婆を伴ってあらわれた。また騙すのだろうと見ていたら、母の命がいくばくもないので、剣術の試合で六助が自分に負けて、自分が仕官できるようにしてほしいと頼んだ。六助は承知する。

微塵弾正が去った後、佐五平が弥三松を連れてやってくるが、京極内匠に雇われた山賊に殺され、弥三松を六助に託す。ここで子役の泣く演技が、左右の手を順番に目の高さに上げて下ろす動作を繰り返すもので、それが可愛くておかしくて客の笑いを誘っていた。

六助の家の庭先。弾正と六助が剣術の試合をし、途中、弾正が六助に何か指図するような様子があって、六助が負ける。勝った弾正は勝ち誇った様子で、扇子で六助の額を打って、傷をつける。六助は、額から血が出たのがわかっても、怒る様子もなく、ちょっと可笑しそうな顔をする。弾正の威張った歩き方を真似してみて、可笑しそうに笑ったりする。

花道から、お幸役の竹三郎が出てくる。また、仁左衛門との息の合った演技が見られるのだと嬉しくなる。自分を母にしないか、という話をして、次の間に引っ込む。

次にお園役の孝太郎が虚無僧姿で出てくる。お園は、「わたしゃお前の女房じゃ」と急にしおらしくなるあたりから喜劇味が強まり、面白くなった。孝太郎は演技力があると思う。

仁左衛門は、とても人の良さそうな六助で期待通りうまいが、特に長く続く三味線の糸にのっての台詞が素晴らしい。仁左衛門が得意とするところだ。

弥十郎は二役で、老婆の死骸を運んでくる杣人の一人をやる。面白い顔の化粧で滑稽味の強い役だ。

大詰めでは、六助は微塵弾正に再試合を挑み、弾正はあわてる。微塵弾正が京極内匠であることが暴露され、敵討のための白い衣装を着たお園、お幸、それに弥三松が花道から舞台に出て、六助といっしょに京極内匠を見事討ち取る。京極は、最後は衣装も動きも仁木弾正の最後と同じような感じになる。孝太郎の敵討姿と愛之助の仁木弾正のような姿は前に見たことがある。「敵討天下茶屋聚」で愛之助が東間をやったときの最後だ。

愛之助の京極内匠はとどめを刺されて仰向けに倒れて死んでいたが、最後にまた「こんにちはこれぎり~」のあいさつがあり、そのためにむっくりと起き上がって、仁左衛門、竹三郎達と並んであいさつした。