四月大歌舞伎 昼の部2011/04/05 00:47

2011年4月2日 新橋演舞場 午前11時開演 1階15列13番

「お江戸みやげ」

ほのぼの系のお話。二十年前、芝翫のお辻、勘九郎の栄紫で観た。今月のお辻は三津五郎。栄紫は錦之助。お辻の友達で気のいいおゆうは翫雀。

お辻とおゆうの2人は中年の後家。田舎から江戸に反物をかついで売りにきた。仕事は済んだので、芝居茶屋に寄って一杯やり、これから家に帰ろうとしている。おゆうは、芝居よりは酒が好きだが、芝居も観たいと思っている。お辻は、帳簿をつけるのに熱心で、値段を聞いたら酒も芝居もいらない。しかし、おゆうのおごりなら酒を飲む。実は酒好きで、酒を飲むと気が大きくなる。

2人が飲んでいるときに女方の紋吉(萬次郎)が一杯ひっかけに顔を出し、人気女方の栄紫が出る「櫓のお七」を是非観ろと勧める。おゆうはその気になって、芝居茶屋の女に2人分の席を頼む。

芝居を観て、栄紫に惚れたお辻は、芝居茶屋の女にはからってもらって栄紫を座敷に呼ぶ。酒を飲んで気が大きくなり、高額のご祝儀をはずむのも当然のような気分になっている。

錦之助は、女が惚れるのも当然の二枚目ぶり。夫婦約束をした相手のお紺は孝太郎。孝太郎はこの役も娘らしくて良いが、お辻役が是非観たい。お紺のごうつくばりな母親役は扇雀。ニンに合った役だ。

結局、栄紫とお紺をいっしょにさせてやるために、お辻は反物を売って儲けた金を全部、この母親にやってしまう。

故郷に向かって歩きだしたお辻とおゆうを栄紫とお紺が追って来る。おゆうは、うまくお紺を別の場所に連れて行って、お辻が栄紫と2人きりになれるようにしてやる。お辻の真心に打たれた栄紫は、片袖をちぎってお辻に渡す。

この片袖が、生まれて初めて男に惚れたお辻の「お江戸みやげ」になったのだった。

お辻の三津五郎は「牡丹燈籠」のときの馬子を思い出すようなしゃべり方で、田舎者で倹約家のお辻を好演。コミカルになりすぎないところが良い。おゆう役の翫雀も、友達思いの田舎のおばさんにぴったり。「高くついたねぇ」のような台詞で笑わせる。

本当は酒好きで、イケメンに惚れるような享楽的な面を心の奥底に持ちながら、実生活ではあくまで質素倹約に努めている女の有りようが面白い。川口松太郎は偉大。

「一條大蔵譚」

何度か観ているが、すごく面白いと思ったことがない。菊五郎の大蔵卿は、役を自分の方にひきつけて、サラッと演じているのが私好み。
「いなしゃませ」のイントネーションは、十三代目仁左衛門の映画の中で仁左衛門が何度も繰り返して弟子に教えていたイントネーションとは違うような気がした。

「封印切」

扇雀の梅川なんて全然似合わないと思うのだが、離れで忠兵衛(藤十郎)といっしょにいる場面は、時蔵が梅川のときのような2人が独立に演技しているような感じがなく、2人の演技がしっかり絡み合っていた。曽根崎心中のときもそうだったが、息子に相手役をさせるとき、藤十郎が相手のレベルを引き上げる力は驚異的だ。美人だが可憐さとか可愛げとかが無い、クールな大人っぽさが勝っている扇雀だが、父が相手だとちょっと可愛く見え、そうなると華やかな顔立ちが引き立つ。

離れの場面以外では、特に声が、扇雀は梅川に合わないと思う瞬間が何回かあった。

三津五郎の八右衛門はつまらない。眠くなる。愛嬌が足りない。

我當の治右衛門もつまらなかった。孫右衛門はあんなに良かったのになあ。「沼津」の平作も絶品だったし、我當はぼろぼろの爺が一番似合う。

坂東玉三郎特別舞踊公演、チャリティートーク2011/04/10 00:01

2011年4月9日 南座 午後1時開演 二階1列8番


忍夜恋曲者「将門」

京都駅前のタクシー乗り場に行列ができていて、開演に少し遅れた。場内に入ったときは舞台も暗かったが、座席に座ると間もなく、花道と下手から面明りを持った黒衣が走り出てきて、ドロドロとともに滝夜叉姫の玉三郎がすっぽんから上がってきた。おどろおどろしくて、非常に古風な印象。花道での所作の後、舞台に行って「光圀さま」と言うと、屋台の簾が上がって、光圀役の獅童が現れた。そして、舞台が明るくなった。

光圀は長く踊る役なので超不安だったが、素人目には、どうにか格好がついていた。観た眼の良さは踊りの大きな要素なのだ。下半身の不安定感は修行が足りないのでしかたないにしても、せっかく長い手足に恵まれているのだから、肩から腕にかけてもっと伸びやかに動かせないものかと思う。何か、縮こまった感じがする。

獅童は台詞は悪くない。「ソレソレソレ」というところは、玉三郎と合っていて良かった。

滝夜叉姫は、派手な髪型や衣装、将門の娘という品位など、玉三郎に合った役だと思う。

滝夜叉姫が見顕してぶっかえった後、光圀は下手にはけ、力者達が出てきて、滝夜叉と立ち回りをした。ちょっと、正月の「女伊達」を思い出した。玉三郎が身を屈めて、その上をトンボで飛び越すのを今回もやっていた。

滝夜叉姫が消えた後に登場する蝦蟇は、いつもながら可愛い。

屋台崩しの後、光圀と、蝦蟇を従えた滝夜叉が屋根の上にあらわれ、下手に光圀、上手に赤い旗を自分と蝦蟇の首に掛けた滝夜叉がいて幕となった。


この後、30分休憩。

ロビーに行ったら、矢倉寿司の隣りに玉三郎と獅童が出すオークションの品が飾ってあった。玉三郎のはナントカ鉢と、丸盆大小、それに何かの絵。獅童は、サングラス、ネックレス、ピンクのシャツ、ジャンパー、黒いコート(?)があった。シャツとジャンパーには獅童が着ている写真がついていて、その写真だけ売ってくれないかと思った。
写真売り場の左後ろの壁に、バザール用の、玉三郎の直筆サイン入りチラシが飾ってあった。2000円、3000円の値段がついてるものが多かった気がする。

博多座の写真を売っていた。「海神別荘」の、公子が美女を殺そうとしている場面は美しいが、あの公子の衣装は海老蔵が着ていたのとは違う。一体誰の趣味なんだろう。


「日本振袖始」

観るのは3回目。1階から観た前回感じたように、上から観た方が綺麗な演目だと思う。

全体にこげ茶色で、甕がいくつも置いてあるのが目につく舞台は歌舞伎としては異色。別の演劇の舞台のようだ。下手には小鼓の傳左衛門がいた。浄瑠璃は愛太夫、幹太夫、蔵太夫。浄瑠璃が良かった。

村の男たちが、稲田姫(尾上右近)を輿に乗せて花道を出てくる。右近は所作が綺麗だ。

岩長姫実は八岐大蛇役の玉三郎は、またまたスッポンから出てくる。きょうは化けものばかり。

玉三郎は、甕に次々に頭をつっこんで酒を飲む。酒に酔って、踊る。最後は稲田姫に覆いかぶさるようにして、舞台の後ろの幕の向こうに消えた。ここで綺麗な玉三郎とお別れなのがさびしい。

上手で大薩摩の演奏があり、その後、獅童のスサノオが花道から登場。獅童のスサノオはすっきりして男らしく、とても良かった。光圀のような難しい踊りでもないし、獅童のニンに合った役だと思う。

玉三郎プラス七人が同じ衣装で八岐大蛇を表現する。最後尾の1人が倒立して、尾が上がっているのを表現したりしていた。玉三郎を先頭に舞台から花道に歩いてくるところがあったが、あの化粧だと玉三郎なのがピンと来なくて、玉三郎がこちらに向かって歩いてきてもあんまり嬉しくなかった。一列に花道に並び、舞台に近い方にいる獅童のスサノオと戦うシーンが、私の席からは真下に見えて迫力があった。

最後はスサノウが下手、スサノオにやられて赤い舌を見せた八岐大蛇が上手で、幕になった。


幕が閉まった後、もう一度幕が開いて、八岐大蛇姿の玉三郎が客席に向かって頭を下げた。あんな格好の玉三郎のカーテンコールは初めての経験だ。それで幕が下りたが、また上がって、今度は獅童、右近、八岐大蛇の七人も出てきて挨拶した。それで終わりだと思って席を立ったら、客席の手拍子に応じて再度幕が上がった。端の方に立って見ていたら、最初に七人が花道に歩いてきて客席の各方向に挨拶して舞台に戻った。次に、獅童、玉三郎、右近の順で並んで花道に出てきて、また客席に挨拶した。3回もカーテンコール。


終了は午後3時15分。5時からのチャリティトークショーまで、時間つぶしに桜が満開の鴨川や木屋町通りで写真を撮った。

「坂東玉三郎 中村獅童 東日本大震災 チャリティートークショー」

1階10列12番

最初のトークが30分。次の50分が入札で、6時20分から7時まで真山仁を迎えてのトークという予定。最初のトークだけ聞いた。

開演前に、二階ロビーでバザールをやっています、という放送が入ったので行ってみた。玉三郎の直筆サイン入りチラシはほとんど売り切れていた。獅童のハンドタオルが1000円なので買った。

幕が開くと、スーツ姿の二人が舞台にいた。玉三郎は柔らかい素材のスーツ、獅童は身体にフィットしたスーツで、写真で見た「海神別荘」の公子の衣装を思い出した。

玉三郎は地震のときは高輪の自宅にいた。その夜、稽古がある予定で、どうしますかと聞かれたので、予定通りやることにした。稽古の後、麻布から高輪に戻るのに6時間かかったそうだ。夜の9時に出て午前3時に着いたそうだ。麻布から高輪なら、歩けば1時間ちょっとで着きそうなものだが、車の方が楽なのだろうか。

獅童は地震のときはNHKの仕事で京都にいた。その日帰る予定だったが飛行機も飛ばなかったので、泊った。獅童の声としゃべり方は本当にきれいだ。玉三郎は元々あまりカツゼツが良くないので、玉三郎の後にしゃべると特に強く感じる。歌舞伎をやってる時とは全く逆。

チャリティーオークションに出る品物が運ばれて来て、二人が自分の品物の紹介をした。

玉三郎の描いた「鷺娘」の絵。10年前くらいに描いて、顔がなかなか描けなかった。オークションに出すことになって、少しずつ手直ししている。佐渡で焼いた無名異焼の茶碗。硯は、玉三郎が買ったときから少し不具合のあるものだが、床の間に飾るものなので承知で買った。それと、押隈。「日本振袖始」 と、「蜘蛛拍子舞」で、歌舞伎座のときのもの。トークの後ロビーで見たら、押隈のある手ぬぐいに、演目名と、日にちが「六月吉日」のように書いてあった。

獅童は、昼に飾ってあったスカジャン(と本人は言ったが、入札用紙ではブルゾン)を最初に紹介した。ポスターを作ったものだそうで、写真は篠山紀信だそうだ。「写真撮っただけ?」という玉三郎の質問に「着てました」と獅童。サングラスはブルガリだそうだ。サングラス大好きということで、かけてみせてくれた。かっこいい。獅童はシルバーのアクセサリーを集めていたことがあったそうで、ブレスレットはシルバー。ピンポンでドラゴン役をやったときの記念に知り合いが作ってくれた竜の模様のもので、石も少し入っているという。玉三郎が興味深げに見ていた。次はシルバーのネックレス。獅童は客の方に見せようとして箱をいろいろ動かしていたが、見えづらいので取り出そうとしたようで、玉三郎は「私が持ちます」と獅童のマイクを自分で持って、獅童の口元に近付けていた。ネックレスにはダイヤも入っているという。とても愛着のあるものだそうで、玉三郎に「ご自分で落札なさったら」と言われていた。その後、玉三郎は客席に向けて「失礼いたしました」と笑い顔で言った。

この後、係の人が二人出てきて、観客に配られた入札用紙の書き方、入札の仕方の説明をした。座席番号、名前、連絡先、出品番号を書きこんだ入札用紙を、それぞれの商品用の箱に入れる。商品には当日入札商品と、9日、16日両日の集計で決まる商品がある。玉三郎の絵、茶碗、獅童のブレスレットとネックレスは両日集計。用紙に色がついている。白い用紙は当日入札商品用。

玉三郎は最後に、「今回、皆さまにご迷惑おかけするかもしれませんが、今回来ていただいただけで十分でございますから」と言った。

入札の後のトークは真山仁も交えて3人でやるもので、玉三郎は「二人だとどうしても先輩後輩で、獅童さんがあんまり自由にしゃべれないけど、真山さんが入ればもっと面白い話がきけるのでは」というようなことを言っていた。真山仁はハゲタカの原作者だし、あのドラマに出る予定だった獅童が出られなくなった理由とか面白い話が聞けたかもしれないのに、帰りの新幹線の都合で聞けなかった。残念だ。

最初のトークの後で二階のロビーに行った。オークションに出ている品物と、入札箱が並んでいた。玉三郎の絵は十万円が最低入札価格。獅童のサングラスは三万円が最低入札価格だった。