好色一代男2011/08/06 22:37

2011年8月6日 御園座 一階3列

幕開きには、きれいどころが舞台に勢ぞろいしていたので、宝塚レビュー風なのかと不安だったが、全体的には、派手派手しいところのない落ち着いた芝居だった。

私が着席して間もなく、主役の世之介役の愛之助が、花道からチラシの衣装で出て来た。上方の商人の役なので、紙屋治兵衛に近いが、もっと濃い大阪弁でベラベラしゃべっていた。

女医(遼河はるひ)との腎虚についてのやり取りが可笑しく、喜劇色が強い舞台なのだろうと予想できた。

私は読んだことがないが、脚本・演出の岡本さとるがプログラムに書いたものを読むと、西鶴の「好色一代男」は脈絡のある物語があるわけではないので、主人公の設定とキャラクター以外は脚本家の創作だそうだ。岡本さとるは歌舞伎の脚本も書いている人なので、ところどころ歌舞伎の演目のパロディになっているのが歌舞伎ファンには嬉しい。

「帰れソレントへ」の曲が流れて、花道から高尾太夫(紫吹淳)の花魁道中が出てくる。 吉原仲之町のセットの舞台下手からは、「籠釣瓶」の次郎左衛門と冶六のように、世之助と手代瀬平(桂雀々)が出てきて、高尾太夫は、2人の前を通りすぎた後、八つ橋のように振り向いて微笑んで見せる。

この高尾太夫を千両で身受けするが、その時に出すのが千両箱ではなく、ギフトバッグのような袋なのが意味不明。

店の帳簿をごまかして千両捻出したことが父の夢助(吉弥)にばれ、勘当されて出家させられる。 その後の場面は、上手に小屋があって坊主が2人いて「鳴神」風。女形の愛一郎と純弥が青雲坊、赤雲坊。この2人の持ち味が生きて、面白い場面になっている。小屋から出て来た世之介は僧衣で短い髪。愛之助はこの髪型は似合う。

そこに、美しい尼さん信妙(海老瀬はな)が通りかかり、世之介は一目ぼれ。鳴神とは逆に、男が女を誘惑し、女に目覚めさせる。しかし、信妙は、イケメン長身の尾張の伝七(原田龍二) に横取りされてしまう。

原田龍二は、今回の舞台で一番良い男だった。この人中心の殺陣のシーンもある。

その後に一目ぼれした相手は、やくざの囲い者おしの(愛原実花)。愛之助は股旅姿は似合わない。 やくざ達との喧嘩は、本水を使った川の中で、あっ、しぶきが飛んでくる、と思ったら、舞台の前二列に座っている人たちがビニールを持ち上げた。ここで水を使って騒いだ後、おしのと2人で花道を通って逃げ、前半の幕となった。

後半の幕開け、世之介とおしのがいっしょに花道を出てくるのは「新口村」風。でも世之介の顔が白塗りじゃないので、変な感じ。逃避行の途中、おしのを置いて門付けに行く。ここで義太夫を聞かせてくれるのかとワクワクしていたら、「新口村。あ、あれはまだ覚えてないんだった」で終わりで、がっかりした。

墓荒しのお兼(田根楽子)に会うあたりは、婆にコケにされていた紙屋治兵衛みたいで面白い。おしのの死を知った世之介は、川に身を投げる。倒れていた世之介を旅芸人のおすて(守田奈生)が見つけ、いい男なので自分のものにする。

次のシーンでおすてが踊る、エアロビ風日本舞踊が楽しい。二本の棒を持って踊って、時に投げ上げたりするが、きょうは一回取り落としていた。世之介もいっしょに踊れと言われ、必死に真似する。この、踊りをまねるシーンは、十一月の永楽館でやる「茶壷」でも、似たようなのが見られるんじゃないかと思う。愛之助も、守田奈生を見習って思い切ってニコニコ楽しそうに踊っちゃえば、もっと盛り上がりそうなシーンだ。

世之助が昔の女たちの亡霊に会うシーンの最後では、先月やった連理引きとくるくる回りをまたやっていた。

父役の吉弥が威厳と品があって素晴らしい。幻の女の竹下景子は、狂言回しの役回り。やくざの親分の妻役の佳那晃子は、「極道の妻」の迫力で懐かしかった。

第4回 趣向の華 特別公演(日本橋劇場 )2011/08/09 23:03

2011年 8/8 午後7時 プレ公演 、8/9  昼の部 午後1時開演、夜の部 午後6時開演

今年は会社帰りに行ったので、生まれて初めて人形町で降り、日本橋公会堂まで歩いて行った。プレ公演の前は、今半で買ったコロッケを歩きながら食べた。

プレ公演は、青楓、勘十郎、染五郎のトークの後、玉太郎、金太郎に藤間かおるこちゃんまで出てきて、客席とジャンケンをし、勝ち残った人に団扇、浴衣の生地などのプレゼントがあった。休憩をはさんで、最近はやりの公開リハーサルで、翌日の最初の演目「喜撰」の稽古をやった。

舞踊が好きなので、一番興味があったのは昼の部の最後の舞踊メドレー「続花形一寸顔見世(ひきつづきはなのすがたちょっとかおみせ)」。この演目では、勘十郎が三味線、染五郎が小鼓、壱太郎が太鼓だった。

「操り三番叟」は、千歳が男寅、翁が廣太郎、三番叟が種太郎。人形遣いが米吉で、糸を操るのが梅丸。男寅の千歳は、去年一心会で観たかも。素踊りなのに女らしい。翁の踊りは難しそうだった。種太郎は、人形らしさがちょっと不足していると感じた。足の方はうまいが、腕に脱力感がない。どうしても自分で踊りたくなってしまう人には人形振りは難しそう。
米吉は、舞台に座って客席にお辞儀をした時も、糸を触る所作も折り目正しくて好感が持てる。

「船弁慶」は梅枝、萬太郎兄弟。 梅枝が出てきて、真打登場という感じがした。一番客席が沸くのは最後の連獅子だろうが。
梅枝はやっぱりうまかった。迷いなく良い形に決まる。
2階の左側桟敷席だったので花道が見えず、萬太郎が出てくる時は、立ちあがって花道を覗きこみ、長刀をもつ凛々しい姿を見た。舞台に出てからの台詞も良かった。そして、あの胸躍る引っ込み。壱太郎は、ここぞとばかり大きく目を見開いて萬太郎をしっかりと見据えながら太鼓を打ちならしていた。

「宗論」は種之助と廣松。
種之助が先に出てきて、廣松が黒谷の僧。2人ともいつの間にか声変わりもすっかり終わって、立派な若者になった。普段の舞台で見る機会は少ないのだが、2人とも踊りがうまい。種之助はしっかりした感じで、廣松は踊りも芝居もセンスが良く、喜劇もいけそう。

勘十郎はきょうは三味線を弾いていることが多いが、宗論と連獅子の間の三味線は圧巻だった。

「連獅子」は、鷹之資の親獅子、金太郎の仔獅子。2人が花道を出てくるときに覗きこんだら、赤い毛の仔獅子が前、白い毛の親獅子が後ろから出て来た。他の舞踊は素踊りだったが、この演目の2人は衣装をつけていた。 上から見たら、獅子のつむじ(?)が見えた。頭の上に、ボタンのように丸くポチっとしたのがある。初めて見た。後ずさりして引っ込むとき、小さい金太郎がけっこう速いスピードで後ずさったので驚いた。もう一度出て来たときは、親が前。
舞台に出て、2人が跳びあがって決まると、やんやの拍手。6月の仁左衛門と千之助の連獅子のように、2人が前後に立って、赤と白の毛を逆の方向に振る動きもやった。牡丹の枝を手にもって舞台を動いている時、金太郎が、次に何をすべきかちょっと迷っているような瞬間があった。それでも、どうにか後見に牡丹の枝を渡すまでの所作をこなし、左右の毛をぎゅっと握って、毛振りの態勢になった。まず、毛を前に下すために頭を下げるが、金太郎は、すぐには毛が下がりきらなくて、必死に頭を下げ続けるのが可愛い。基礎をおろそかにせず、きちんと最後まで下してから回し始めたことに好感を持った。
2人とも、綺麗によく回していた。金太郎の赤い毛は身体に合わせてボリュームも少ないので、ブンブン回す。鷹之資の白い毛はたっぷりある分、やや遅め。鷹之資が途中でちょっと止まったが、金太郎はかまわず回し続けていた。あんなに回しちゃって、回し終わった後でふらつかないかと心配したが、きちんと最後まで所作をした。

ああ、やっぱりどうしても小さい子の動きに目を奪われてしまう。小さいのに、大人と同じ動きをするのが驚異で、可愛いのだ。


昼はこの前に「喜撰」、「阿古屋三曲責め」、「三世相錦文章」があった。

「喜撰」の時、私の席からは下手にいる梅枝の顔は見えるが、勘十郎と廣松は見えなかった。そのかわり、雛段の後ろが見えた。昨夜、公開リハーサルの前に、三味線の音を調整してくれる人たちの姿を見せてくれたが、その人たちが後ろに隠れていた。1人の御曹司あたり1人がついて、じっと音を聴いている。時折、後ろから手を伸ばして三味線の糸巻をまわす。今年は大鼓が壱太郎、小鼓は亀三郎、亀寿、梅丸。去年は新悟が小鼓をやっていたし、梅若玄祥が立鼓だったので、少し弱体化した。


「阿古屋三曲責め」は勘十郎。琴の稽古をしたのは中学一年の時以来だそうだ。私は視覚的な楽しみが好きで聴覚系は苦手なので、玉三郎の阿古屋も楽器を弾いてる間は眠ったりするのだが、上から琴の上を動く勘十郎の手を見ていると視覚的刺激があって、眠らなかった。

かわりに眠ってしまったのが「三世相錦文章」。青楓がいろいろな役を語り分けるのをうまいなと思いながら聞いていたのだが、勘十郎の三味線と青楓の浄瑠璃がうますぎて気持よくなってしまったか。 きょうの青楓の一番の聴きどころだったのになあ。 プレ公演で、この常磐津は、全部演奏すると8時間かかると聞いた。常磐津の先生は、三味線は女房役で、歌い手に合わせるのよ、と言ったそうで、青楓が「私が旦那です」と言っていた。これを知らないと、昼の部の最初の挨拶のときに「夫婦水入らずで」と言った意味がわからないはず。

今年は昼の部には袴歌舞伎はなく、夜の部全体が袴歌舞伎だった。
初めての義太夫狂言だそうだ。苫舟作、染五郎演出の「染錦絵化生景事(そめてにしきけしょうのけいごと)」 土蜘蛛退治・豆腐小僧忠義の段。

最初に演出の染五郎が舞台の真中に座って挨拶。話が込み入っているので最初に説明すると言った。後ろにある二つの台に2人ずつ載って人物か紹介され、台詞の一部を言ったりするのが目新しかった。種太郎は上手の台の上にいた。種太郎演じる吉田少将行房が、帝の母の慶正院(魁春)に慈仏堂の建立を頼まれたのが発端。

吉田家のっとりをたくらむ常陸大常百連(友右衛門)は、望月弾正・主税兄弟(萬太郎、廣太郎)と結託して祟りが吉田少将にふりかかるようにして殺害する。吉田少将の娘の花園姫が梅枝で、弟の松若丸が千之助。

腰元呉羽役の男寅は、肩から腕にかけての線が女らしい。しかし、松若丸を連れて逃げて、望月主税役の廣太郎と出あうシーンは、2人とも台詞が下手で悲惨。

松若丸を助けるのは、吉田の旧臣で今は豆腐屋をやっている粟津七郎(亀寿)。

二幕目の幕あきでは、千代松実は豆腐小僧役の玉太郎と、丁稚役の廣松が喧嘩している。母はお雪実は雪女で、孝太郎。花形以外の出演者では、この孝太郎と、その母の百骨婆役の翫雀の出るシーンがよく書けていて、2人の演技も良かった。翫雀は女には見えなかったが。 梅丸と東蔵が竹本の太夫をやり、孝太郎と梅丸が顔を見合わせて「ああ」「ああ?」と言い合ったところが愉快だった。

踊りは、今回は梅枝の人形振りだけだった。人形遣いは、昼に自分が人形をやった種太郎。竹本の太夫は東蔵と梅丸の2人態勢。踊りがうまい梅枝のを見て、ますます人形振りは難しいと思った。

亀三郎は土蜘蛛の役で、最後に退治される。去年はもっと活躍していたような憶えがあるが、今年は他の出演者が多かったせいか、あまり目立たなかった。

種之助は奴軍平の役で、松若丸を守る。七歳の年齢差だが、今の2人は大人と子供に見える。もっと歳の離れた廣太郎と亀寿が、一見大人2人に見えるのに。種之助は、若様を守る忠義者という雰囲気があって良かった。

最後の大薩摩の前に、例年通り染五郎が三味線の足置きを置きに来て、終わった後は片付けにも来た。勘十郎の三味線はいよいよ冴えわたっていた。

休憩のときに、仁左衛門夫妻が上手前方にいるのに気付いた。幕が閉まった後、帰ろうとして席を立ったら、勘十郎と青楓が最後の挨拶に出て来たので、下手の扉の前あたりに立って見ていた。仁左衛門も、上手の方の扉から一度出たのを戻ってきて、見ていた。終わった後、ロビーでもすれ違った。

八月花形歌舞伎2011/08/21 22:04

2011年8月13日 新橋演舞場 午前11時開演 1階17列

「花魁草」

安政の大地震直後の話だ。
川辺に寝ている被災者や歩いて行く被災者がいる。向こう向きで寝ていた男が起き上がったら獅童だった。江戸の役者の幸太郎。川の水を飲む。そのときに踏んで起こしてしまった女は、吉原の女郎お蝶(福助)。幸太郎が食べ物を探しに行っている間に、百姓米之助(勘太郎)の漕ぐ舟が通りかかり、お蝶は頼み込んで幸太郎もいっしょに栃木に乗せて行ってもらう。

次の幕は一年後で、幸太郎とお蝶は栃木で達磨作りをしながらいっしょに暮らしている。大家の米之助は事情を知っているが、近所の人にはお蝶は幸太郎のおばということにしているので、幸太郎に気がある、豪農の娘お糸がいたりして、お蝶は気をもむ。お糸の役は、今年は趣向の華には出ていなかった新悟。

お蝶と幸太郎は好き合っているが、プラトニックな関係。本当に不思議。
お蝶は昔、自分を裏切った男を手に掛けた過去がある。後で知ったところでは、自分の母も人を殺した。自分にはそういう血が流れているので、純粋な幸太郎を傷つけてしまうのではないかと心配している。

幸太郎の贔屓が日光に来て、偶然に幸太郎を見かけ、座元といっしょに訪ねてくる。芝居茶屋の女将で幸太郎の贔屓役の扇雀が、今回もニンに合った役で良かった。座元の役は弥十郎。花形の芝居をたくさんかけたいと思っている。

幸太郎はずっとお蝶といっしょに暮らしていたいと思っているが、お蝶もいっしょに江戸に行くと約束したので、幸太郎はお蝶の縫った着物を着て、座元のところに挨拶に出かけて行く。花道で、行って来るよとお蝶に手を振る幸太郎がとっても可愛い。忠兵衛をやった時も花道にいた時が可愛かった。獅童の持ち味だ。

お蝶は元々、江戸について行ってもすぐに自分1人で戻ってくるつもりだった。次の幕は何年か後で、今は若之助という名の人気役者になった幸太郎が、この地に巡業に来て、2人でいっしょに住んでいた家を訪ねてくるが、そこにお蝶はいない。幸太郎は、昔自分が庭に植えた花魁草が咲いているのを見つける。

最後は、船乗り込みを待つ人々でにぎわう橋のシーン。船乗り込みを一度も見たことがないので芝居でもいいから見たかったが、役者が載っている舟は出なかった。人々が去った後、最後に残ったお蝶が、舟を見送る。

地震が発端で今年は観客の共感を得られそうだし、お蝶の過去が怖いが話は破滅的な方向には行かなくて、楽しめる芝居だった。お蝶の「江戸には金があってスケベな女がたくさんいる」という台詞が面白かった。

「櫓のお七」

正月の浅草を思い出す舞台。
趣向の華で昼夜人形振りを観たが、また人形振りか。お七の人形振りは、大昔に玉三郎のを観て以来だ。

七之助は娘道成寺もカクカクして人形風だったから、うまいかも。確かに、種太郎や梅枝よりも人形味があった。やっぱり有名な人形振りの演目だからか、人形らしさの表現が確立している感じがする。

「翼がほしい」というのは梅枝も言っていたし、梅枝も最後は横になって運ばれていった。この演目からモチーフをとった踊りだったのだろうな。

外は暑いのに舞台には大雪が降っていた。雪の白と、お七の衣装の赤と黒のコントラストが美しかった。

尾上流四代家元継承 三代目尾上菊之丞襲名披露舞踊会2011/08/31 20:57

2011年8月30日 国立劇場大劇場 午前十一時開演 二階一列目

私の好きな青楓が菊之丞になってしまった。三日間、五公演の中の一つに行った。半休をとって行ったので、観られたのは「あやめ」「尾上雲賤機帯」「四季の山姥」「四季三番叟」。

「四季の山姥」を踊った西川左近は、女性であることも初めて知ったが、とてもうまかった。

この公演を買ったのは、最後の「四季三番叟」が観たかったから。
菊之丞、勘右衛門、勘十郎。 若い三人の家元がいっしょに踊る。振付は二世勘祖。傳左衛門、傳次郎が小鼓だった。

最初に千歳の勘十郎がしずしずと出て来た。しなやかで、きっぱりした動き。いつか芸者の格好で踊るのを見たい。次は、翁の勘右衛門。松緑が勘右衛門の名で踊るのを見るのも、素踊りも初めてだ。歌舞伎の座組みの中だと特に長身というわけでもないが、この三人の中だと大柄で翁の役にふさわしい。踊りも伸び伸びしていて品があって良い。歌舞伎の踊りよりも、舞踊家の踊りの方が向いてるみたい。

三番叟の菊之丞が花道の方に進んで行くのを見て、一心會で廣松が踊ったのを見た、と思い出した。花道で、舞台の方を見てぐっと構える振付はかっこいい。菊之丞は繊細で綺麗で、萬斎の三番叟を思い出させるものがある。

三人いっしょに踊るときは、三人いっしょに注視できるような目がほしかった。