吉例顔見世大歌舞伎 梅幸、松緑追善2011/11/04 01:50

2011年11月3日 新橋演舞場 昼 午前11時開演 2階4列36番、夜 午後4時半開演、1階6列26番

吃又はパスして、「吉野山」から観た。
2階の後ろの方で不満だったのだが、踊りを見るのはもってこいの席だった。 
菊之助はとても綺麗。3年前の花形のときより、艶がましてうまくなっている。 舞台で静御前が鼓を叩く。花道に目をやるとスッポンが開いていて、ドロドロという音とともに、狐忠信の松緑がセリ上がってくる。松緑は踊りは良かったが、主従という感じがしない。菊之助の方が年下のこともあり仕方がないのかもしれないが、松緑は基本的に殿さまで、人に仕える役の雰囲気が出せないのかもしれないと思った。

2人が男雛女雛の形になるところは、ロビーに飾ってある2人の祖父達の同じ姿の写真を見た後で見ると感慨深い。
逸見藤太は今回は團蔵。

「魚屋宗五郎」

宗五郎役は、私の中では菊五郎以外考えられない。勘三郎もうまいけど。

幕あきに出ている茶屋娘おしげは、遠くの席からなので梅枝かと思ったが、声をきいたら右近だった。

時蔵のおはま、團蔵の父親は前にも同じ役をやっていて、安定している。今回の三吉は松緑。吉野山と共通する感想で、小奴という感じがしない。

丁稚の役が大河。揚げ幕から現れると、私にはまだ見えないのだが一階の客席から拍手が起きる。花道の半分くらいまで歩いてくると、私にも見えるようになる。松緑の三吉と台詞のやりとりがある。「酒が好きだから酒屋に奉公してるんだい」まで、しっかりした台詞だった。花道を帰るときに、おなぎの菊之助とすれ違い、「ありがとうございました」と挨拶もしっかりやった。大河は名子役だ。

夜の最初は「外郎売」。そういえば、ロビーでういらうを売っていた。
去年の南座で見たのにもあったかどうかからないが、最初は浅葱幕の前に四天が出て来た。浅葱幕が落ちると、曽我の対面の面々が居並ぶ。

私の真正面にすごい美人が見えた。右近だった。化粧坂の少将。美人だが台詞はまだまだ。その隣が、顔ですぐわかる梅枝の大磯の虎。梅枝はいつもうまいなあ。萬太郎は、一番上手にいる八幡三郎。声ですぐわかる萬次郎は舞鶴。権十郎の朝比奈、亀寿の近江小藤太と並んで下手にいた。やはり声でかる亀三郎は茶道珍斎で、面白い姿だ。中央後方には工藤の三津五郎。昼の部最後の磯部の殿さまとちょっとかぶる。

南座のときは、上手の柱に「歌舞伎十八番の内 外郎売」と外題が書いてあり、下手の柱には「六代目片岡愛之助 相勤め申し候」と書いてあったが、今回はそういうものはなかった。

松緑の外郎売は花道から出てきて、七三のところですわって挨拶した。後見は團蔵。

舞台の真中に座って挨拶した。座って、手をついて頭を下げる所作が綺麗だった。今回の追善のこと。そして、松助さんの七回忌にもなる、と触れた。最後に「鷹揚のご見物を」と言うのは南座のときと同じだった。

松緑は元々滑舌が良くないので、言い立てをよどみなく言うのを逆に感心してきいた。愛之助のように抑揚がついてすごくうまいと思うような言い立てではない。さっぱりして、江戸歌舞伎らしいと言うべきか。

松緑は、言い立て以外の所作がとても良い。手を開いて立てて、足をちょっと上げると、どこか東南アジアの踊りっぽい姿に見える瞬間もある。

十郎の役は松也で、最後に花道から出て来た。

「京鹿子娘道成寺」

團蔵を先頭に、松也、右近、男寅、小吉、と続く所化。小吉は、福助と親子の役をやったのを見たのが最後だ。あの時は子供だったが、今は中学生だろうか。背が伸びた。

白拍子花子の菊之助の最初の衣装は珍しい柄だった。

たぶん日変わりだと思うが、きょうのマイ尽くしは右近。超安定。

田之助も所化の1人だが、後に出てきて、菊之助に烏帽子を渡した。

菊之助は笠の踊りを踊り、所化の笠の踊りはなし。短い踊りの後、そこには入ってなかった松也と右近が出てきて、右近がコロッと横になった。

菊之助は、綺麗で体力があって、技術的にも自信がついて、どんな動きも思いっきりやれるし、この踊りには一番良い時代だと思う。

最後に花子が鐘の上に乗り、所化達が身体を後ろに傾けて手を合わせるが、松也の傾き方が足りないような気がした。

「髪結新三」

江戸っ子菊五郎の新三が一度是非観たかった。

梅枝のお熊は、あの衣装は似合わないがうまい。

永代橋のところで忠七(時蔵)が新三に打ちのめされたあたりで地震があった。そんなに大きくなくて一瞬だったが、客席がざわめいた。

三津五郎の大家は、言われないと三津五郎とわからない。三津五郎は役の中に自分を埋没させるタイプか。

大家が慌てて帰ったあたりで幕がしまり、ここで終わりかと席を立つ人が多い。私も帰ろうとしたが、もう一幕あるとわかって座りなおした。

最後は源七(左団次)と新三が斬り合っているところで、「まずこんにちはこれぎり~」だった。

永楽館大歌舞伎 20112011/11/06 20:34

2011年11月5日 永楽館 午前11時開演 1階

永楽館大歌舞伎は今年で4回目。私が行くのは3回目。去年に続いて竹野海岸休暇村に泊った。去年もほとんど同じ頃に来たのに、今年は柿の実がいやに目に入り、去年もこんなに柿が成っていたかしらと思ったが、宿の人によると、今年は柿が豊作なのだそうだ。

豊岡の駅前が工事中で、バス停の位置が変わっていた。観光案内所に行って「出石行はどこですか」と聞いたら、永楽館のパンフレットもくれて、親切に教えてくれた。 帰りに気付いたが、豊岡の駅そのものも建て替えられていた。

「引窓」

お早役の壱太郎が素晴らしい。お早がこんな良い役とは今まで気付かなかった。 観る前は、この役については特に期待がなかったし、壱太郎が出て来たときは、若い子は肌が綺麗でアップに耐えるわ、と思った程度だった。それに、若い妻にはぴったりだが、遊女上がりというのは壱太郎に合ってるのだろうか、という疑問もあった。しかし、ノレンの前で両手の指で指さすような仕草をするところで、この人には、ナメクジを踊ったときに見せたような風変わりな色気があることを思い出した。他の役者で観たときは気付かなかったが、踊りの得意な壱太郎で観ると形が際立つ所作が多い。「私は打ち掛けを着て・・・・」とか、前掛けを持って、「お馬に乗ってハイシードォドォ」のあたり、とても綺麗だった。

次の幕の口上のときに、壱太郎はこの役をとてもやりたかったと言っていた。たしかに、気の入った演技だった。機転がきく、遊女上がりの若妻。自分にぴったりの、やりがいがある役だと思ったのだろう。壱太郎の芝居のときは声に難があるのを感じるのが常だったが、今回はそれが全く意識に上らなかった。未来の名優の、若いときの貴重な舞台を見ることができたのだという気がする。いつか、壱太郎の台詞で「俊徳さまの御事は寝た間も忘れず・・・」を聴くのが楽しみだ。

愛之助の与兵衛も良かった。染五郎の与兵衛を観たとき、「私はあなたの子でござりまするぞ!」と母のお幸に言うところで気持がよく伝わってきたので、愛之助はどうだろうと、ここの台詞を聞くのを楽しみにしていた。愛之助は、義太夫狂言らしく、それでも形だけにならず、心がこもっていて、良かった。染五郎はもっと生の感じで、義太夫狂言としては愛之助の方がうまいのだろうが、それでも心に沁みた。2人とも、それぞれ自分に合った演技で、良い与兵衛だった。

愛之助は、衣装のせいもあって、特に前半は、色男の染五郎と比べるとやっぱり地味な人だという印象を受けた。しかし、手水鉢に映る長五郎の姿を認めて悟るあたりの動きも、観客にわかりやすいし、全体に、愛之助はやっぱり義太夫狂言得意なのだと感じる。

錦之助の関西弁は、なんとなく不安。どこがどうおかしいと自分には指摘できない分、余計に不安。でも、相撲取りの大きな雰囲気は出ていたし、親子の情もあって良かった。ただ、二枚目を活かせる役でないのが少し残念だ。番付に一番大きな写真で載ってる、河内山のときの悪い殿さま松江出雲守の役は、錦之助の品と美貌と、年齢からくる崩れた雰囲気まで活かしていて、実に良かった。この役を一番大きな写真にすることに決めた人に感謝。

与兵衛は最初、三原伝造(隼人)と、平岡丹平(當十郎)に続いて花道から出てくる。平岡役の當十郎を、ごく最近観た覚えがある。しゃべり方に特徴があるのでよく覚えている。愛之助の義賢に、髑髏で頭を殴られていた人だ! この前の日曜に観たばかりだ。

隼人は顔が細く鋭角的になった。最近、女形をやることが多いから立役を見られるのは嬉しい。普通の出来。なんとなく、歌昇になった種太郎を思い出す。

お幸役の吉弥は、7月から毎月観ている。愛之助の父になったり母になったり恋人になったりと役の幅が広い。お幸は、実の息子の長五郎の人相書を売ってくれるように義理の息子の与兵衛に頼む。それは、単純な実の息子可愛さだけではなく、5歳までしか育てていない負い目があって、謂わば借りを返すつもりなのではないかと考えた。自分が育て上げた息子なら、罪を犯したならばつかまえられて当然と考えるのではないか。

役者が熱意を持って丁寧に演じてくれたおかげで、この芝居の良さがよくわかった。

「口上」

この日は豊岡市長が観に来ていて、市長に対し、これからもこの公演を続けてくださいというお願いが多かった。

最初は愛之助。永楽館歌舞伎も4年目となること。初めて来たとき、出石に来たら人っこ一人いなくて、お練りの前には、役者の方が見物人より多かったらどうしようかと心配したが、お練りが始まったらたくさん人が出て来たこと。

壱太郎。前回は最後の幕に出なくて出歩く時間があったので、出石に詳しくなった。出石は蕎麦だけではありません、と出石の宣伝。市長が来ているのを知り、豊岡市の宣伝まではできないのでよろしくお願いします、と。その後が本題で、お早をどのくらいやりたかったか、という話。「茶壷」は、普段やらない立役なので、鷹揚のご見物を。

錦之助。
壱太郎の父の翫雀は一つ違いで、小学校から高校まで同じ学校で仲良くしてもらった。初めは一つ上だったが、なぜか 高校のときは二つ上になっていた。息子の隼人は、鹿児島で生まれたので隼人という名をつけた。吉弥と恋人同士の役のとき、ラブシーンの稽古を何回もやった。何回やってもうまくいかないと悩む吉弥さんに、誰かが「あんたがいつもやってるようにやればいい」と言ったら、吉弥さんは「私はそんなことは一度もしたことはありませんっ」と答えたほど、ゲイ道一筋の人です。愛之助の祖父の十三世仁左衛門と錦之助の祖父は、西の片岡、東の小川と言われたほど、どちらも子福者。愛之助さんにはまだ伴侶もお子さんもいない(?)が、良い伴侶を得て、お子さんをたくさん作ってほしい。

吉弥。 錦之助さん、後で楽屋でまたラブシーンの練習をしましょう!
あるおそばやさんで愛之助さんに間違われてタダでおそばを食べられた話は、去年と同じ。中貝市長の話を中川と間違えて、周りに治されていた。

隼人。 私の席は隼人を正面に見る席で、前の人の背が高くて見づらかったので、隼人の口上のときだけ、胡坐を正座にして座高を高くしてみた。 高校三年で、十七歳です。中間テストがあった。その前のテストは悪くて親にも見せられなかったが、今回は赤点は一つもなかった。愛之助さんはお蕎麦を20皿食べたと聞いているが、それ以上食べたい。


「茶壷」

前に、今は菊之丞になってしまった青楓と、逸平のを見た。歌舞伎とは違うわけだが、青楓がやった方を壱太郎、逸平がやった方を愛之助が踊る。

田舎者麻胡六役の壱太郎は、先に「ザアザアザア」とか声を上げてから、茶壷をかついで花道から出て来た。顔は素顔に近いような化粧。お母さん似だと思うが、やっぱりお父さんにも似ている。花道を踊りながら行く足取りがしっかりしている。

麻胡六が舞台の上で居眠りを始めると、熊鷹太郎役の愛之助が花道から出てくる。ドロボウ、という感じのヒゲ面。こういう顔の愛之助は初めて見たかも。ヒゲ面だけど、元々綺麗な顔立ちなので、よく見るとやっぱり綺麗な顔。前に下げている帯が、追い掛け五枚銀杏の模様だった。舞台に行って、居眠りしている麻胡六の茶壷に目をつけ、片方の紐に腕を通す。

麻胡六が、泥棒だと騒ぐと、熊鷹も同じことを言って騒ぐ。 青楓と逸平がやったとき、茶壷を自分のものだと逸平が主張したときに青楓が信じられないという顔でじっと逸平を見るのが印象的だったが、歌舞伎にはその様子はない。

騒いでいると、目代(吉弥)が出てきて、自分が事情を聞いて、どちらの言い分が正しいか決めるという。吉弥は富樫みたいな長袴で、踊る。吉弥の踊りはあまり観たことがないが、うまい下手はともかく、自信を持った顔で踊っているのが流石に役者だ。

基本的に熊鷹は、麻胡六と同じことを言う。麻胡六が、茶の由緒・因縁を説明するために長い台詞を言うが、それを聞こうと目代の後ろで耳を傾ける熊鷹を見ると可笑しさがこみ上げる。そんな長い台詞、覚えられるわけないじゃないか。
しかし、その後、熊鷹は、自分も説明すると言って、麻胡六と同じことを言おうとする。しかし、「栂尾」みたいな固有名詞は「オアオオ」みたいに怪しくなっているのが笑える。

愛之助は普通の踊りの時にも役者の癖なのか顔の表情をいろいろに変えることが多いが、今回の演目では、それが完全にプラスに作用していた。、

その後、麻胡六の舞を熊鷹がまねる。壱太郎のきっちりした踊りと、愛之助の、まねようとして崩れた踊り。青楓と逸平がやった方が手本と真似がはっきりしている。歌舞伎のは、真似の方もある程度踊りとして完成されたものだ。それでも、面白い。壱太郎はもちろんうまいが、愛之助も踊りがけっこううまいと思った。

結局、踊りでも決着がつかず、熊鷹は真似をするので、麻胡六は目代の耳元でささやくことにする。

ききとれなかった熊鷹は、目代の耳元で「上村吉弥は飲みすぎだ」とささやく。これはお遊び。吉弥は、普段着なれない長袴で動きにくそう。

最後、熊鷹はうそを見破られるが、茶壷を持って花道へ逃げ、麻胡六もこれを追って花道へ。追って行く壱太郎の踊りが最後まできちんとしていた。
舞台には目代の吉弥が残って、幕となった。

これで終わりだが、みんな拍手していた。去年まではカーテンコールなかったから私は席を立って入り口に向かったが、お茶子さん達も拍手しているからカーテンコールがあるのだろうと思えて来た。幕が開いたので、後ろに立って観た。下手から吉弥、愛之助、壱太郎。吉弥は長袴を脱いで、足が少し見える着物になっていたので、しきりに足を隠そうとしていた。壱太郎は「暑い」と言った。

平成23年 松竹花形歌舞伎 巡業 日本青年館2011/11/16 21:51

2011年11月16日 日本青年館 午後2時開演 1階E列上手

日本青年館は、前を通ったことはあるが、入ったのは初めてだ。外から見るとあんな大きなホールがあるように見えないのだが。

「瞼の母」

有名な芝居だが、舞台も映画も観たことがない。イメージ的に獅童に合いそうな気がしたが、先月の一心太助の方が面白かった。

幕開き、座っているのは千壽郎。忠太郎の弟分半次郎(宗之助)の妹の役だ。宗之助と並ぶと、千壽郎はけっこう大きい。

無筆の忠太郎が、半次郎の母おむら(松之丞)に肩を抱かれ、右手を上から握られて、字を書くシーンが良かった。そこで忠太郎はたぶん、母というのはこういうことをしてくれるんだろうと感じる。それを知って、おむら達は涙する。こういうシーンでは、獅童の透明感が生きる。

次の幕からは、忠太郎は自分の母くらいの年の女とみると、年齢をきき、子供はいないかと聞いてまわる。

柳橋水熊横町の場では、千志郎が魚やの役で飯台を担ぎ、「けえったら、いっぺえ~」のような江戸弁の台詞を頑張っていた。
金五郎(男女蔵)は、料理屋水熊の身代を狙って、ずっと年上の女将おはま(秀太郎)の婿になろうとしている。夜鷹のおとら(徳松) はおはまとは昔からの知り合いで、金に困って会おうとするが店の者に追い払われる。忠太郎がおとらに金を渡すと、客だと勘違いして髪をなでつけ、気分を出して寄り添ってくるのが笑える。勘違いに気付いてニコッとする獅童の雰囲気が二枚目らしくていい。

この会場には花道はなく、舞台袖を花道がわりにしているが、おとらの引っ込みは、客席の真中の通路に降りて、そこを歩いて行った。

おはまの居間にいるのは、おはまと、娘のお登世(笑也)、小女役のりき弥、女中役の守若。笑也はやっぱり綺麗だ。昔は、玉三郎が絶世の美女だとしたら笑也は可愛いくて男にもてるタイプと思ったが、今は、ちょっとツンとしてるが綺麗な人、という感じ。
りき弥が人を呼ぶような声を出すと、「一心太助」で家光の小姓をやった時の「上様のおなり~」という気の抜けた声を思い出す。女形だからあれでいいのか?

秀太郎は、気持がこもった演技は良いが、台詞がききとりにくい。

忠太郎とおはまの対面は、「おっかさん」というところが面白かったが、クライマックスのわりには感動が薄かった。この男の屈折した性格を描くには獅童は向いてないのか、演技力不足か。

おはまは、お登世の言葉で気持を変え、2人で忠太郎を探しに行くのだが、忠太郎は2人に会うつもりはなく、1人で去る。

「お祭り」

鳶頭役は獅童と男女蔵、芸者役は笑也と宗之助。
鳶頭役の獅童は前にも見たことがあるが、今回は主役で、赤い襦袢も見えるので、余計に綺麗だ。この踊りは、うまい人の技術を見るためのものではないから、見た眼だけを言うなら、今現在ならトップクラスの鳶頭だと思う。途中で、「待ってました」という掛け声が数人から上がり、獅童は「待っていたとはおりがてえ」と応じていた。

獅童と笑也が組んで踊る。2人とも綺麗な割には色気を感じない。獅童は、観客との心理的交流が得意なわりには、相手の女形を綺麗に見せるとか、相手との間に色っぽい雰囲気を出すとかはできないみたいだ。これも技術の問題なのか。

男女蔵と宗之助は美男美女ではないが、こちらの2人の方が可愛いかも。

獅子舞が出てきて、それは頭をとると男女蔵だった。

舞の会 ---京阪の座敷舞---2011/11/27 02:35

2011年11月26日 国立劇場小劇場 午後1時開演

「雪」  楳茂都梅英

「ばいえい!」と声が掛かった。個人的に苦手な演目だが、上手、下手の上方に歌詞が出るのは鑑賞の助けになった。藤色の着物で、しっとりと色っぽい舞だった。最後に「大当たり!」と声が掛かったのできょうは掛け声かける人がいるのだと思ったが、この演目のときしかかからなかった。


「名護屋帯」 山村若有子

私は着物の約束事はまったくわからないが、その私の目から見る限り、すばらしい装いだった。赤が基調のモダンな模様の着物で、裏は白い水の模様が入った青。黒地の帯で、前後に舟の先の模様。髪型、帯締め、帯の前に下がっているストラップも含めて全体のバランスがよく、あれでランウェイを歩いてきたら高得点をつけるだろう。スタイリストがいるのだろうか。全部自分で考えるとしたら凄い。
観客に見せることを考えている人で、舞にもその気迫を感じた。


「屋島」 楳茂都扇性

左手を額の上にかざして下手から登場。矢の模様の金地の扇。ねずみ色の着物に、ごく薄いベージュの袴。

思いぞいずる壇ノ浦の、で足を踏み鳴らすと吉野山の忠信を思い出す。途中で、後見の愛一郎が下手から長刀をもって出てきた。長刀を受け取り、扇を口にくわえて、長刀を、時にはバトントワラーのように動かした。左手で扇を右手の方に投げ上げ、それを長刀で払い落とした。飛び上がったり、長刀をいろいろに動かしたりと全体に勇壮だが、静かさのある舞で、愛之助(扇性)は指の先の動きまで丁寧に踊っていた。最後に正座してお辞儀をするのが座敷舞らしいと思った。


「菊」 井上かづ子

お年を召した方だが、踊り始めた瞬間に舞の名手とわかる。短いがきりっとした踊りだった。

「善知鳥(うとう) 」   吉村輝章

最後を締めるにふさわしい大曲で、技術的にも一番上のような気がした。
プログラムによると、鳥を捕りつづけた罪で地獄に落ちた猟師が僧に救いを求める、というのがあらすじだ。衣装も、猟師が着るような衣をはおっている。途中で後見の吉村古ゆうが出てきて、この衣を半分脱がせて後ろで開いて見せるような動きがあった。

前に「紀尾井舞の会」で踊った「綱」は綱が馬に乗って羅生門に行く話で、馬を駆るような動作があったが、この舞も物語性があってパントマイムのような所作が多い。それがこの流派の特性なのか、大柄なこの人の好みなのかはわからない。

最後は、猟師が僧になり、合掌して幕となった。

獅子虎傳阿吽堂 VOL. 62011/11/28 22:22

2011年11月27日 世田谷パブリックシアター 午後6時半開演 1階O列上手

7月の「伝統芸能の今」は土壇場で仕事が入って行けなくなったので、三兄弟を見るのは久しぶり。きょうは、萬斎と染五郎という「2大スター」がゲストのせいか、1階の後ろ半分の脇に、立ち見客までいた。そんな中で、ものすごく見やすい席で見ることができたのは三響会さまのおかげです。

壱 歌舞伎囃子『「勧進帳」より延年ノ舞・滝流し』

歌舞伎囃子なので、広忠は出ない。大鼓は、田中傳八郎。歌舞伎用の、黄色っぽい皮の大鼓だ。笛は福原寛。そして、 三味線が今藤長龍郎、龍市郎、杵屋勝正雄。

弐 一調『八島 後』

萬斎と広忠。最初に南座で観た三響会のときにも聴いた。きのう愛之助が踊った「屋島」にも、これにも「思いぞいずる壇ノ浦」という言葉が出る。

久しぶりに聴く広忠の大鼓の音が心地よかった。

参 レクチャー

前に張り出した正方形の舞台に椅子が五脚置かれ、二と三に分かれているようだった。先に三兄弟が出てきて自己紹介した後、萬斎と染五郎が出てきた。二人ともきれいな男だが、染五郎は背が高くて等身が違い、色男だ。染五郎が好きな広忠は「やっぱり近くでみるとかっこいいですね」と言っていた。

この後の演目「二人三番叟」に関連して、三番叟についての話題が多かった。操り三番叟の中で、三番叟が後見の引く糸に操られているように見えるシーンは、二人とも音楽に合わせているのだと思っていたが、染五郎の話では、後見が糸を引く動きをする前に、三番叟の後ろで足を一歩踏み入れてトンと音を出すのが合図で、伏せている三番叟が腕を動かすという。染五郎は、三番叟が操られているように歩いてくるところとか、片足を滑らして足を開いて閉じる動きなどを見せてくれた。足の動きがよく見える席だったので、よくわかった。操り三番叟のときは、足が見えるように普段より短か目に袴をはくのだそうだ。「ムーンウォーク風ですね」と言われ、ムーンウォークもして見せた。


四 三響會版『二人三番叟』

レクチャーのときに傳次郎が、この劇場の照明のすばらしさに触れていたが、それを意識して観ると、確かに照明が効果的に使われている。

お囃子、三味線、長唄は舞台後方にいる。
最初、萬斎が下手、染五郎が上手に控えていて、その二人のいる場所だけが明るくなっている。萬斎が先に踊った。萬斎の三番叟を観るのは四回目だが、今回が一番良かった。近すぎず遠すぎずの、一番条件の良い席で観たからそう感じるのかもしれないが。気が入っていて、強さがあった。
萬斎が下手に戻った後、染五郎が踊りだした。レクチャーのときに、初めて二人で踊りを教わりに行ったとき、振り付けの勘十郎が全部踊って見せてくれて拍手した、という話をしていた。やはり勘十郎の振り付けなのだ。「大入」という字を書くように手を動かしているらしい。

鈴の段の前に、二人で舞台で鈴を手にとった。染五郎は上手に戻り、鈴と扇をもって座った。先に萬斎が踊り出し、途中から染五郎も正方形の舞台に出てきて踊りだした。神事である能の三番叟の純粋で素朴なな動きと、娯楽用にアレンジされた歌舞伎の三番叟の華やかな動きが、ひとつの舞台の上に見えた。
終わった一瞬、ライトが落ちて二人の姿がうっすら見える程度の暗さになり、次の瞬間真っ暗になった。

南座のときは下手と上手で踊っている別々の踊りを見たという印象だったが、今回はガチンコ勝負という感じだった。狭い空間と照明をうまく使って、一体感のある完成度の高い舞台になっていた。