八月花形歌舞伎 「桜姫東文章」 初日2012/08/05 13:42

2012年8月4日 新橋演舞場 午前11時開演 1階12列6番

「桜姫東文章」

今まで観たこの演目では清玄と権助を同じ役者がやっていたが、今回は清玄は愛之助、権助は海老蔵が演じる。芝居担当の愛之助、色気担当の海老蔵という棲み分けが成功していた。

発端、清玄(愛之助)と白菊丸(福助)が出てくる前に、2人を探す僧達が出てきた。舞台が稚児が淵となり、2人が花道から出てくる。僧と稚児の間で道ならぬ恋をした2人は、互いの名を記した香箱の身と蓋をもって入水しようとしている。舞台の岩の上から白菊丸が飛び込み、青い人魂がとび、清玄は飛び込みあぐねたまま、上から幕が落ちる。幕の前に松之助が出てきて、「次は17年後の話」と口上。

序幕第一場の「新清水の場」では、清玄は位の高い僧の姿で花道から登場。
生まれつき左手が開かない十七歳の桜姫は、出家する決心をしている。吉田家の当主であった父は盗賊に殺され、お家の重宝都鳥の一巻を盗まれた。都鳥の一巻を探していた弟の梅若も殺された。桜姫は出家して2人の菩提をとむらいたいと思っている。

清玄の弟子の残月(市蔵)が桜姫の出家を惜しんで「見れば見るほどかわいらしい」と言うのを聞くと、見れば見るほどかわいらしいのは清玄の方だろうと思う。

愛之助の清玄は「なーむーあーみー」と繰り返す声明が美声。その声明の間に桜姫の左手が開き、何かが落ちる。それは、白菊丸が持って入水した、清玄の名を記した香箱の蓋だった。桜姫は白菊丸の生まれ変わりだと確信する清玄。

残月は、師匠の清玄を陥れて自分が住職になりたい。桜姫に仕える局、長浦(萬次郎)は、残月の妻になりたいと思っていて、金の無心に応じる。この2人は滑稽で、かつストーリー展開に重要な役回り。

かつて桜姫との縁談を断った入間悪五郎(亀蔵)は、左手が開いたのを知って、長浦に桜姫に文を届けてくれるように頼むが、長浦は、今ならもっと良い相手が望めると言って断る。そこに釣鐘権助(海老蔵)が来て、自分が届けるという。実は釣鐘権助は信夫の惣太という悪党で、吉田家のっとりをたくらむ悪五郎に頼まれ、桜姫の父を殺し都鳥の一巻を奪い、弟の梅若も殺した男だった。物陰でそれをきいていた端女のお咲(歌江)は知らせようとするが、権助に殺される。筋書きによると、歌江は、「桜姫東文章」の戦後最初の公演に出たそうだ。

次の「桜谷草庵の場」では、剃髪を待つ桜姫がいる草庵に、権助が来る。海老蔵はセクシー。生足、股間で目の保養をさせてくれる。「夜出るのはこわい」の話は、そんなにうまいわけではないが、一応客を笑わせていた。権助が腕をまくって釣鐘の彫り物を見せると、考え込む様子の桜姫。実は、権助が吉田家に忍び込んで都鳥の一巻を盗んだ夜、桜姫と関係を持った。桜姫はそれ以来その盗賊が忘れられず、自分の腕にも釣鐘の彫り物をほった。そして、その時にできた子供を密かに産んでいたのだった。

桜姫と権助が2人きりになると、客席は、濡場に対する期待で静まりかえる。しかし、海老蔵個人がセクシーなわりには濡場のエロ度は高くなかった。

残月は草庵を覗き見して桜姫と権助の情事を目撃。清玄を陥れるチャンスだと、桜姫が持っている香箱を証拠に、不義の相手は清玄であると言う。清玄は破戒僧として住職の地位を追われる。残月は自分が住職になれると思ったが、長浦との不義が発覚して、これも寺を追われる。

二幕目は三囲の場。 非人となった桜姫と清玄が三囲神社ですれ違う。桜姫は、花道から出てくる。今回は仮花道はなくて、赤ん坊を抱いた清玄は上手の上の方から出てくる。桜姫が産んだ権助との間の子供は、今は清玄が育てている。


三幕目「岩淵庵室の場」 残月と長浦が住んでいる庵室。ここで、病み衰えた清玄と赤ん坊が厄介になっている。
疱瘡で死んだ子供の回向を頼みに来るお十役の笑也は福助よりも綺麗だ。
残月と長浦は、清玄が持っている香箱の包みを金の包みだと勘違いし、清玄を殺そうとする。騙して青トカゲの毒を飲まそうとするが清玄が拒み、格闘になって、清玄の顔に毒をかけると、顔の一部が黒くなる。清玄が倒れた後、包みの中を見て勘違いに気づく。穴掘りで暮らしをたてている権助(2012.8.27訂正。ふらりさん、ありがとうございます!)に始末を頼む。
権助が、屏風の裏に倒れている清玄をみつけて「ブキミな」とつぶやく。その時の孝夫の口調を今でも覚えている。

そこに、残月に女郎屋へ売られていた桜姫が連れられてくる。残月が桜姫を口説いていると、長浦と権助が出てきて、権助は自分と桜姫の腕の彫り物を証拠に夫婦だと主張。残月と長浦を追い出す。身ぐるみ剥がれて追い出された花道の2人が愉快。

権助は、桜姫を女郎屋に売る相談をするために出かける。その留守に雷が鳴り、雷が落ちた衝撃で、倒れていた清玄が息を吹き返す。そして、桜姫に言い寄る。桜姫と清玄が争うシーンは、初日にしては慣れた感じがした。私は観なかったが5月に油地獄を演じた2人なので息が合ってるのかもしれない。玉三郎が桜姫のときは、このシーンで金色の経文が広がるのが美しかったが今回はそれはない。今回は芸術系じゃなくスポーツ系の格闘シーン? 桜姫の着物の裾に清玄が刀を突き立てて動けないようにしたりしていた。清玄は最後に権助が掘った穴に落ち、刀が喉にささって、上から垂れ下がっている木の枝をつかんで絶命。

四幕目は「権助住居」。
桜姫が生んだ赤ん坊は偶然に権助のところにいる。女郎屋に売られていた桜姫が戻されてくる。花道を籠にのって出てきて、舞台に置いた籠の中の姿が見えたとき、最初に観た玉三郎の桜姫のときはじわが来たが、きょうの福助はそういうことはなかった。

女郎屋で風鈴お姫と呼ばれている桜姫は、幽霊がついているということでどこも長続きがせず、戻されて来たのだった。

布団を敷くとき、海老蔵は寝ている赤ん坊を雑に扱って、「ひどーい」と言っているお客さんがいた。赤ん坊が泣くのを「うるさい」と怒鳴りつけるところもあるので、役として一貫しているとも言える。

この場の桜姫は、姫の口調と伝法な口調がまじるのが面白いのに、その面白さを感じない。客にわかるように台詞の言い方を工夫する必要があると思う。

「ヤマゼンの仕出しが出ますよ」とか言われて権助が町内の集まりに出かけて桜姫が一人になると、清玄の幽霊が出る。もう慣れちゃって、こわくないよ、と言う桜姫。清玄の幽霊は、赤ん坊が桜姫の子であることを教えてくれた。

酔って帰宅した権助の話から、権助が実は信夫の惣太で、桜姫の父と弟を殺し都鳥の一巻を奪った男であることを知った桜姫は、赤ん坊と権助を殺して父と弟の敵をとる。

この話は桜姫と清玄の物語だったんだと初めて思った。前に観たとき、特に孝夫と玉三郎のを観たときは桜姫と権助のカップルがあまりにも魅力的で、この話の中心としか思えなかった。だから、最後に桜姫が権助が敵だったと知って殺すところは、とってつけた印象で、当時の芝居のお家再興ものにするために最後に唐突に形式を整えただけなんだと考えていた。
今回は、桜姫と権助が特に似合いのカップルに見えないために、本来のストーリーが素直に頭に入ってきた。

大詰めは、「浅草雷門の場」。海老蔵と愛之助は別の役になって登場。最後は福助を真ん中に並んで、正座し、福助が「昼の部はこれぎり」と口上を述べて終わり。

第4回 趣向の華 プレ公演2012/08/09 22:49

2012年8月9日 日本橋劇場 午後7時開演  1階10列

開演6時半と勘違いして、会社を早退してしまった。そういえば、去年は定時退社で間に合ったっけな。

勘十郎、染五郎、菊之丞が登場。三人とも大好き!今回は、3人だけのトークは短く、他の出演者を呼んで話をきいた。

毎年出ている亀三郎と亀寿。素のしゃべりを初めて聞いた。亀寿はいつもは良い人の役をやってるのに、今回は悪い人の役をやる。亀三郎はその逆。亀三郎「化け物から人間になった」。筋書の写真が子供の顔だったのがまだつい最近のような気がする亀三郎が、自分達年配の者が知ってることを後輩に教えていかないと、みたいなことを言う。

鷹之資、玉太郎、金太郎。13歳、11歳、7歳だそうだ。今は年齢通りの身長差だが、将来は逆になるのかなあ。鷹之資は「雨の五郎」の囃子をやるし、白虎隊と、夜の部も出る。自信はあるらしい。玉太郎は今回は立三味線をやる。「この一ヶ月ひたすら練習してきて、あとは精一杯やるだけです」と立派なお言葉。金太郎は、染五郎に役を聞かれて「天狗」。金太郎はおとなしい感じがする。どんな役者になるんだろう。

梅枝、歌昇、萬太郎、梅丸。萬太郎が梅丸の手を握って出てきた。
明日、菊之丞脚本・演出の「明烏」に出る明烏チーム。梅枝は女形だから、素の格好を見せるのは恥ずかしいと言う。歌昇は、今回、襲名の舞台より4倍も台詞がある。数えてみたら百いくつもあったそうだ。「明烏」では、梅枝と歌昇の不良コンビが面白いらしい。菊之丞が、「梅枝くんはもう、巻き舌になってるし」。歌昇は色白が可愛い。梅丸の隣りにいると、イケメン度では梅丸の方が上なのに、歌昇は年頃の色香が漂っていて目をひく。
萬太郎と染五郎はあまり馴染みがないらしい。染五郎「オリンピック見てる?」萬太郎「ニュースでしか見てません」染五郎「きのうのレスリング見てなかったの?」萬太郎「ニュースで見ただけです」染五郎「つまんねえな」。
萬太郎と梅丸が手をつないで出てきたのは「明烏」の中で恋人役をやるから。梅丸は遊女の役で、こしらえもして出る。萬太郎といちゃつくシーンもあるそうだ。染五郎に「頭が良さそうだけど学校の成績はどうなの?」と聞かれ、「中の中の中です」。

「白虎隊」チームの壱太郎、米吉、廣松。三人が真ん中の床机に座るとき、なるべく染五郎の近くに行くまいとしているのが可笑しかった。壱太郎は今回の目標は「あまり興奮しすぎないこと」だそうだ。稽古中に既に興奮しているらしく、米吉に「あれで、興奮してないんですか?」とつっこまれる。染五郎が言うとおり、米吉は「口が達者」。ちょっと意外だった。勘十郎によると、岡本綺堂作の「白虎隊」は暗い話なので、最後に面白いことを用意してあるらしい。それが廣松らしい。22、19、19という三人の年を聞いて、染五郎は「2倍でも足りない。許せない」。

夜の部に出る新悟、廣太郎、隼人、男寅。染五郎がいきなり廣太郎の髪型について尋ねる。ムースはじめ何種類かの整髪料で固めてあるそうだ。染五郎によると、廣太郎兄弟は髪が上に向かって生えていて、パーマをかけないと髪が下を向かない。新悟は橘姫の役で、琴をひくそうだ。役として弾くのと、新悟として弾くのの違いを尋ねられて、「間違っちゃいけないと思いながら弾かないようにしないといけないと思う」。隼人は今回が初めての出演。嬉しかったが、宗家に役をきいたら「お化けだよ」と言われた。でも、みんなに「お化けの役はとても良い役なんだよ」と言われて安心した。隼人の役は、出てきてすぐに嬲り殺しにされ、その後、幽霊として現れる役らしい。壱太郎も2、3年前にお化けの役をやってたし、きっと良い役なんだろう。男寅は、出るといろいろ勉強になる、みたいな真面目な答えだった。

休憩の前に、じゃんけん大会で、ロビーで売ってる浴衣地1反と、全員のサインのプレゼント。

10分間の休憩後、明日の演目「敵討廓春雨」の公開舞台稽古、というのがあった。トークには出なかった種之助が主役。最初に、蝶三郎が作った立回りだと言った。種之助、米吉、廣太郎、廣松、隼人が出る。従兄弟、兄弟、仲良し、という気の合った顔ぶれ。梯子も使っていた。音楽なしで動いて、種之助がたぶん蝶三郎に「違う違う違う」と振りを直されたり、梯子をかけて上るときに、ここを持てばいい、と教えられたり。その稽古の後、「敵討廓春雨」が演じられた。稽古の最後に、蝶三郎かもしれないが、「あせらないでやって」と声をかけていた。

種之助は、傘をさして花道から出てくる。舞台での立ち回り。踊りのうまい人らしく、動きに隙がなく、見てて不安を感じなかった。ふらつくような感じの動きが凄くうまくて綺麗だ。素晴らしい。

最後は、5人が正座し、種之助が「趣向の華プレ公演はこれぎり~」と言った。

幕が閉まり、最後にまた勘十郎、染五郎、菊之丞が登場。染五郎は、新しい歌舞伎座も一度、趣向の華チームが乗っ取りたい、と言った。

今回の趣向の華はまだチケットが少し残っているので、宣伝してくださいということだった。

第4回 趣向の華 8/10昼の部2012/08/11 00:16

2012年8月10日 日本橋劇場 午後1時半開演 1階10列

1時半少し前に会場が暗くなり始めて場内放送が流れた。アレ?亀治郎の声じゃない? と思ったら、しばらくして「市川か・・・猿之助です」。注意事項を言って、「私、猿之助からのお願いです」と締める。「~は、私は大嫌いでございます」とも。休憩時間にも猿之助の場内放送。ロビーで浴衣を販売しております、という話で、「買ってよー、買ってよー」と女形風に言っているのも聞こえた気がする。

演奏 (上)長唄「雨の五郎」

「雨の五郎」は去年、巡業で何回も聴いた。立三味線が玉太郎。隣りに勘十郎、梅之。鷹之資は太鼓、染五郎、新悟、菊之丞が小鼓。壱太郎が大鼓。笛は女性。唄は本職。大鼓の金属的な乾いた音が好きだ。特に夏は。大鼓の音を中心に聴いた。去年、三味線を弾いたときの染五郎の姿を思い出して、三味線を抱えた姿は鼓より色っぽいものだと思った。

演奏 (下)長唄「連獅子」

唄は勘十郎、隼人、龍之介。「それ青陵山の~」と勘十郎が歌い、各人がソロで歌う箇所があるので、一人一人が目立つ。
三味線は染五郎、廣太郎、男寅、歌昇、種之助、米吉。いつも暗譜の萬太郎は、「明烏」で主役をやるせいかきょうは出ない。きょうは男寅が暗譜だった。連獅子で客席から拍手が来るところの演奏は廣太郎だった。
お囃子は菊之丞が太鼓、壱太郎が大鼓、梅枝、新悟、梅丸が小鼓。綺麗な若女形が並んでいる。去年は確か新悟がいなくて小鼓は戦力不足だった。獅子が現れるところの演奏に入ると三響会を思い出す。傳次郎みたいな菊之丞。菊之丞の掛け声に、梅枝がしらべを絞るギリギリギリという音が呼応する。梅枝は獅子虎傳に出たときに、鼓の師匠に傳左衛門に、リズムが良いといわれていた。壱太郎が広忠のように咆哮するかと思ったが、それはなかった。

清元「筆幸」

筆幸の一部。勘三郎の筆屋幸兵衛を観たことがある。幸兵衛が狂って船弁慶を踊りだし「桓武天皇九代の後胤」とうたうのを覚えている。その役を勘十郎が浄瑠璃で語る。本職のように上手。娘2人は梅枝と廣松。梅枝はいつもの舞台のようにうまい。廣松は妹役でかわいい声。顔はけっこうごついのに、そのギャップが面白い。もう一人の浄瑠璃は、何でもうまい菊之丞。

「明烏」

落語の「明烏」を菊之丞の脚本、演出で芝居にしたもの。
堅物の息子、時次郎(萬太郎)を心配した父(友右衛門)が、町内の悪2人(梅枝、歌昇)に頼んで息子を吉原に連れて行ってもらう。丁稚の定吉が玉太郎、時次郎を心配する番頭が國矢、遊女屋の女将が新悟、時次郎の相方になる遊女が梅丸。
いつもより遅く帰ってきた時次郎と話す父役の友右衛門が、時々台詞につまって、手にしている台本をめくるのが笑えた。菊之丞がやった方がうまそう。
町内の札付き役の梅枝と歌昇。梅枝は普通にうまい。歌昇は初めから身体を少し折り気味にして、不良の役作り。一度限りでなく、もう少し練れたのが観たかった。堅物の息子役の萬太郎は、あて書きしたようなはまり役。
新悟と梅丸は拵えをしている。花道から出てきた梅丸の遊女と、厠へ行く設定で舞台から花道に行った萬太郎の時次郎が途中で鉢合わせし、時次郎がギャーと悲鳴を上げる。ここがお稲荷さんでなく、廓だと気づいた瞬間。
三人で入ったからには一人で出ることはできないんだと時次郎を騙すのが、この話のキーポイント。そこの台詞を歌昇が言う。時次郎を騙そうとして言ってるんだということをなかなか理解しない梅枝に、「オレの目を見ろ」と言って、梅枝が歌昇に顔をぐっと近づけてにらめっこみたいになったのが面白かった。
結局時次郎は遊女と一夜を共にすることになる。次の朝、一つ布団に寝ている二人の様子を客に見せるために、布団を載せた台をそのまま垂直に立たせたので笑った。
落ちは落語と同じ。悪2人が花道七三に差し掛かったあたりで、時次郎が「帰れるものなら帰ってごらんなさい」と言う。
舞台装置は全体に簡略化されているが、吉原を表すために、楽屋のれんをいくつもぶら下げて、そこを出たり入ったりしていた。

「敵討廓春雨(かたきうちくるわのはるさめ)」

きのうのプレ公演でもやった演目。幕が開くと米吉、廣太郎、廣松が立っていて、そこに花道から隼人が駆けつける。そして、種之助が傘をさして花道から出てくる。

種之助の立ち回りは後半に行くほど良くなる。ずっと動いていたのに、最後に、「トーザイ まずこんにちの趣向の華昼の部はこれぎり~」と口上するのは立派。

八月花形歌舞伎 「伊達の十役」2012/08/11 23:31

2012年8月10日 新橋演舞場 午後4時半開演 1階1列

「伊達の十役」

「趣向の華」の昼の部の後、地下鉄で演舞場に行ったら、1、2分遅刻した。海老蔵が、「慙紅葉汗顔見勢(はじもみじあせのかおみせ)」という言葉の意味を説明して、十役の一人一人を紹介するところだった。

私は早替りが嫌いなので、この演目は最も見たくない部類。最前列で海老蔵の顔だけを楽しめれば良いと思った。

基本的には「伽蘿先代萩」で、それに関連する話が付け加えられている。最初の方はいろいろな役を紹介するように次々に早替りをした。
高尾太夫の話のあたりは眠ってしまって覚えていない。

与右衛門は、海老蔵が亀治郎と「累」でやったときと比べると、良い男でもないし、声がおかまっぽい。
今回は累の役も海老蔵。民部役の愛之助と並んでいるとき、しっかり背を盗んでいて感心した。真面目な役なのだろうが、高い声が間抜けで笑いたくなる。
京潟姫役の笑也がいつも通り綺麗だった。

花水橋以降は、いつも観ている「伽蘿先代萩」と比べて観る楽しみがある。
足利頼兼は、おかまの殿様みたいだった。

政岡は良かった。口を大きく開けると妖怪めくが、いたってマトモ。

八汐は右近。右近の女形が好きなので楽しみにしていたが、八汐が鶴千代にやりこめられる面白いシーンがないのがちょっと残念だった。

千松役の子の声に独特の魅力があり、歌うところから、喉に刀をつきたてられてアーと悲鳴を上げるところまで、この芝居の良いアクセントになっていた。

荒獅子男之助は、ある意味とても海老蔵らしく、力強く派手。最前列だと踏まれているネズミがもがいているところが見えないのが残念だったが、このネズミは早替りの時間を稼ぐため、いつもより活躍する。花道の七三で自分の顔を触ったりして愛嬌を振りまいた後、舞台に戻って立ち回り。最後にすっぽんに飛び込む。

すっぽんから煙が出て、仁木弾正の海老蔵が出てくる。舞台に背を向けた仁木の顔に、3階からライトが当たる。その光の筋に沿って宙を歩いて上っていく仁木。かっこ良いようではあるが、普通の、面明かりで花道を歩いて引っ込むほうが個人的には好み。

細川勝元は華があって良かった。初日に観た知り合いは、この役が一番良かったと言っていたが、確かにそうかもしれない。

仁木と細川が両方とも海老蔵なので、外記と仁木を並べて細川が裁く対決はない。だから仁木が髪の毛を抜いて小細工をするシーンもない。

対決で負けた仁木は外記(市蔵)に、「せめて切腹をお命じください」と執拗に頼む。そして、隙をみて外記を刺す。駆けつける民部(愛之助)たち。仁木は巨大なネズミに変身。大屋根の上のネズミは口から煙を吐く。与右衛門が現れて、古鎌を自分の腹に突き立て、自らの生き血をそそぐと妖術が破られ仁木が現れる。仁木は民部と外記に殺されて大の字に倒れる。そのまま持ち上げて運ばれて行くのはいつも通り。

その後に、また早替りで細川勝元の海老蔵が出てくる。細川勝元のほかにもう一役やるが、そのときは、装置になってる衣装の上から首だけ出してるようで、不自然さがあった。、

第4回 趣向の華 8/11 昼の部2012/08/12 16:06

2012年8月11日 日本橋劇場 午後1時半開演 1階10列

自宅から行くので油断したら少し遅刻してしまった。
「雨の五郎」の間は一番後ろに立っていて、幕がしまっている間に着席。後ろに立っていると全体がよく見えて、きのうはあまり気づかなかったが、鷹之資の太鼓が良いと思った。


演奏 (下)長唄「連獅子」

きのうは勘十郎が染五郎の隣りにいたと思うが、きょうは一番下手にいる。隼人が染五郎の隣りになった。隼人は顔に似合う美声だ。龍之介が「蹴落とす子獅子は~」と歌う。
三味線は歌昇、種之助、米吉がいなくなって、替りに萬太郎と廣松。萬太郎はきょうは前に楽譜を置いている。だから暗譜は昨日に続き男寅だけ。男寅の前では、眉目秀麗の見本のような梅丸が小鼓を打っている。
染五郎のソロの前に「高麗屋!」と声が掛かって客席に笑いが起き、本人も苦笑。染五郎は鼓は得意だが三味線は小学校二年のときから進歩がなく、去年の趣向の華以来手にとってないと言っていたが、ズブの素人の私の耳には十分うまく聞こえる。染五郎の三味線の後、勘十郎の唄「それ青陵山の~」、廣太郎の三味線のソロ、と続いた。その次は、唄の伴奏で男寅の三味線。男寅は、私と同年代だったらエレキをかき鳴らしてたような、楽器好きの男の子なのかも。


常磐津「夕涼み三人生酔(ゆうすずみさんにんなまえい)」

三味線は勘十郎、浄瑠璃は菊之丞。
菊之丞が笑い上戸、泣き上戸、怒り上戸を語り分ける。良い声だ。

この幕の前の休憩時間、ロビーの浴衣反物売り場には歌昇がいたが、この幕の後の休憩時間には染五郎がいて、休憩時間の後半には客席に反物を持ってきて「買いませんか」と言っていた。何人か買い、そのたびに客席では拍手。2階を見て、「2階に行こう」と売りに行った。


袴歌舞伎「白虎隊」 二幕四場

新政府軍が明日にも会津に攻め入るという日、千太郎(壱太郎)は胸の病で臥せっている。相撲取りの朝日嶽(萬太郎)を相手に胸のうちを吐露する。訪ねてきた叔父(亀三郎)が白虎隊の話をすると、弟の万次郎(米吉)は、14歳を15歳と偽って白虎隊に入ろうとする。訪ねてきた七之丞(歌昇)がお手並み拝見と相手をし、これなら白虎隊に入っても良いと言う。それを見ていた千太郎は、病をおして自分も白虎隊に参加する、と言い出す。では、今度は自分が相手をする、と森田八弥(隼人)。立ち上がるのも危ないような千太郎が、立会いを始めると強く、八弥に河村雄三郎(種之助)が加勢。千太郎は病を忘れたようになり、白虎隊に加わることになる。母のお道(高麗蔵)は家をたたむ覚悟でそれを許す。女中お松(梅之)にも、暇を出すという。

拵えをしていない袴歌舞伎なので、梅之の声はカウンターテナーのようだった。

飯盛山に集まる白虎隊。「戦が始まったら起こしてくれ」と寝てしまう佐藤源之助(梅枝)。やがて西軍が攻めてきて、次々に立ち回りが展開する。万次郎(米吉)と、西軍のやゑ亮の立ち回り、槍を持って戦った千太郎(壱太郎)、といろいろ。七之丞(歌昇)は二刀流で、すごくかっこよかった。早瀬虎吉(鷹之資)と黒川元彦(玉太郎)も出てきて、2人で戦った。最初は相手も2人だったが、やがて西軍がワラワラ出てきて、子供2人を相手に大人があんなにたくさんでーー、と思ったら、相撲取りの朝日嶽(萬太郎)が長い棒を持って出て来て2人を助けた。朝日嶽最後は撃たれて壮絶な最後。

再び集まった白虎隊。都筑八十次(梅丸)、安積武丸(男寅)も、支えあいながら下手から出てくる。集団自決することに決める。会津磐梯山の歌が流れ、客席から鼻をすする音が聞こえる。最初に切腹したのは大寺鉄之丞(新悟)。都筑八十次(梅丸と、安積武丸(男寅)は顔を見合わせ、うなづいて、八十次が武丸を刺す。他の者達も次々に自刃。万次郎は千太郎の顔を見て自刃。弟を抱きかかえて自刃する千太郎。この兄弟の死ぬところは本当に涙が出た。最後に七之丞(歌昇)が自刃。

場が変わり、新政府軍の大川(亀寿)が飯盛山に来て、少年達が倒れていることを聞く。お松が通りかかり、全員自決したと言う。大川は少年達を讃える言葉を述べる。

「白虎隊」と「グランドフィナーレ」の間、舞台の準備をする時間稼ぎに染五郎が外に出てきてしゃべった。次のグランドフィナーレで鼓を打つが、今朝初めて聴いた曲だという。 「白虎隊」はいつか、普通の公演でもやりたい、と言う。できれば、10年も20年も経って今のメンバーがトウが立ってしまわないうちに。
私も、この「白虎隊」をまた見たい。暗い話だが、きょうのように立ち回りがあれば、十分楽しめる。

「グランドフィナーレ」

最初は、会津磐梯山の曲で踊り。梅丸、男寅、種之助、米吉、隼人、廣太郎。 
この後の菊之丞の太鼓が素晴らしかった。染五郎も鼓を打った。勘十郎は得意の三味線。
次の踊りはお兄さん達かと思ったら、出てきたのは壱太郎と廣松。そうだ、プレ公演のときに廣松が何かやると言ってた、と思い出した。洋楽のリズムでステップを踏む、とても楽しい踊り。壱太郎はもちろんうまいが、廣松の手つき、顔つきに、エンタテイナーとしての非凡な才を感じた。

幕が閉まってから出てきた勘十郎によると、最後の踊りは「深川マンボ」と言って、壱太郎のおじいさんが好きな踊りなのだそうだ。後でネットで調べたら、昭和三十年頃にはやっていて、当時は藤十郎もよく踊ったそうだ。今の壱太郎くらいの年齢のときか。

第4回 趣向の華 8/11 夜の部2012/08/13 00:38

2012年8月11日 日本橋劇場 午後5時開演 一階9列

袴歌舞伎 「大和神話武勇功(やまとしんわぶゆうのいさおし)」
日本武尊大蛇退治・鶴彦怪異の場      三幕九場

やまとたけるの話を基本に、歌舞伎のいろいろな演目がちりばめてあった。不確かだが、場の名前に沿って覚えていることを書く。

序幕 
大和国景行天皇館の場

景行天皇(友右衛門)の前に家族が集まっている。大碓命(梅枝)は、詠姫(廣松)という妻があるにもかかわらず、弟の小碓命の許婚者の橘姫(新悟)を妻にしたいというが「ええいやらしい」と拒否される。橘姫は武彦(歌昇)とともに小碓命を探す旅に出る。大碓命の母は稲日(高麗蔵)。
八十の猛(やそのたける、萬太郎)もこの辺ででてきたと思うが、位置づけを覚えていない。

同裏門敷妙討死の場
武彦の妻である敷妙(米吉)が敵につかまり、後ろの敵もろともに自分も刺して討死。米吉は、身分の高い女の品の良さと透明感があって、先が楽しみだ。


吉野山道行の場
武彦(歌昇)と橘姫(新悟)の吉野山。花道から四天が出てくる。一番後ろに染五郎がいる。四天とのからみは、次々に役者が出てきて、そのたびに黒衣が「○○屋」と縦に書いた紙を上下に広げてみせる。金太郎も出てきた。引っ込むときは染五郎が抱えて行った。玉太郎は梅丸といっしょ。その間、ずっと真ん中にいる歌昇。
武彦と橘姫は花道に来て、武彦が投げた傘は舞台で見事キャッチ。最後は武彦一人の引っ込みだった。

休憩時間に、また染五郎が客席に浴衣の反物を売りに来た。

二幕目
尾張国油ケ淵の場

鶴彦(隼人)は古那屋のすみれ(梅枝)の婿となるため、持参金の銀を包んだ袱紗包みを持って夜道を一人で行くところ、知多の四郎蔵(廣太郎)と外ヶ浜の忍熊(種之助)に、棍棒で打たれたりして嬲り殺しにされ油ケ淵に沈められる。
奪った包みを持って花道を引っ込む種之助に、「親父そっくり!」と声が掛かった。

幽霊になった鶴彦(隼人)がすっぽんから現れ、人魂を持つ黒衣といっしょに引っ込む。黒衣が人魂を動かし、隼人の顔面を攻撃したりするので、それをよけながら引っ込んでいった。

同宿屋古那屋の場

外ヶ浜の忍熊(種之助)は、すみれ(梅枝)の婿におさまりたくて、鶴彦のような青二才なんかやめて自分といっしょにならないかと言い寄る。きっぱり断るすみれ。女中つばき(男寅)が出てきて、「あんな小娘はやめて自分といっしょにならないか」と、ついさっき忍熊がすみれに言った言葉を忍熊に言う。忍熊はつばきには全く関心がない。

張子の橋蔵(菊之丞)は、「小栗判官」の爆笑キャラ、矢橋の橋蔵のパロディで、芝居の流れも同じ。ただ、こっちの橋蔵は扇子ではなく普通の紙にスラスラと文を書いて、矢橋の橋蔵のようなおかしな読み上げはしなかった。引き揚げるとき、役人としてついてきた2人が、急に女形っぽいしゃべりになったのが可笑しかった。忍熊(種之助)と四郎蔵(廣太郎)が、忍熊が足を鳴らしたら四郎蔵が証拠品を掲げて「その証拠はここにあり」と出てくる、と事前に打ち合わせたのに、実際に足を鳴らしたときは四郎蔵は出てこられず、帰宅した源太夫(亀三郎)が偶々足を鳴らしたときに「その証拠は~」と出てくる、というパターンが「小栗判官」と同じ。

真っ暗な客席に鶴彦(隼人)の幽霊が出る。花道の内側の通路を黒衣の人魂について歩いて来て舞台と平行な通路まで来る。通路際に座っている人に「浴衣買った?」と聞く。「まだ二反残ってるって」。続けて「さっき、携帯鳴らしたの、あなた?」。中央まで行き、一つ後ろの席の人に、「あなた、さっき、遅れて入ってきたでしょ」。 そして、舞台の方に歩いていき、舞台へ上がる階段のところで「携帯の電源はオフに」。舞台に上がって、人魂の黒衣が顔を照らしたら、染五郎だった。

隼人の、あのしれっとしたしゃべり方は、獅童に似ている。

武彦(歌昇)と橘姫(新悟)が宿屋に来る。出てきた女中のつばき(男寅)が、「夫婦者か、もしかして駆け落ちか~」とつぶやくのが、まだあまりうまくないこともあって笑いたくなる。

源太夫(亀三郎)が言うには、昔、幼い男の子を拾って育てた。それがすみれ(梅枝)で、本当は男だが娘として育てた、と言う。(えーーーっ、すみれ、アンタ、男なのに鶴彦を婿にするつもりだったのーーっ? ) 自分が男だったことを初めて知ったようなすみれが不思議。すみれは実は小碓命で、ここでようやく橘姫は許婚者を探し当てたのであった。

知多浜海上の場

梅丸と東蔵が浄瑠璃。
船の上に小碓命(梅枝)、橘姫、武彦の一行が立っている。海が荒れ、占い師に見させると、海神が橘姫をいけにえとしてほしがっているという。橘姫はいけにえになる決心をして、琴を弾いた後、海にとびこむ。
プレ公演で話に出た新吾の琴、お見事でした。

天空の場

海に飛び込んだ橘姫は鳥になった。真ん中に新悟が座って、浴衣の生地で作った長い羽が広がっている。(売れ残った二反を使ったわけではあるまいな?)

大詰
ここで、お約束の大薩摩。お約束の染五郎の足置き運び。

飛鳥山花見の場

クマソのところに、ヤマトタケルとタケヒコが踊り子と偽ってやってくる。

竜門ケ岳大蛇退治の場

最後は、八岐大蛇(亀寿)との戦い。八岐大蛇は、ウロコ模様の羽織を着た亀寿プラス、黒い衣装の七人の若者たち。
鷹之資、玉太郎、金太郎は烏天狗。

今年の趣向の華は立ち回りが多かった。

最後に、魁春の天照大神が現れる。

朗読芝居『春琴抄』2012/08/31 21:25

2012年8月31日 紀尾井小ホール 午後6時半開演

開演直後、会場が暗くなって、女の人の声が聞こえた。目が見えなくなると他の感覚が研ぎ澄まされるでしょう?といったような内容。

舞台下手の女の人が、『春琴抄』の始まりの部分を朗読し始めた。 この人がたぶん、関西では有名だという鈴木美智子さんだろう。朗読にかぶさるビオラの音が邪魔だった。

最初の方では愛之助の録音した声が聞こえていたが、やがて、鈴木と愛之助の2人が舞台真ん中の「二畳結界」に並んで座って朗読を始めた。(この「二畳結界」は、イタリアの有名な賞を受賞した、シャープのアクオスのデザインもした人が制作したものだそうだ。第二部のトークのきに紹介されて、客席にいたその人が立ち上がった。鈴木「シャープつぶれそうなん?」 葛西「みんな思ってても黙ってるんだから」と、笑えるやりとりがあった。) 

去年、佐助を米團治が朗読した時の映像がYoutubeにある。たぶん、あれと同じだろう。2人の後ろに飾ってある綺麗な布は、琴袋だそうだ。


鈴木さんが下手側、愛之助が上手。「ラブ・レターズ」のときとは男女の位置が逆だ。 鈴木さんの着物は、左側の華やかな方が春琴用で、右側の黒地に白い格子は別の役用だそうだ。愛之助の着物は白地に薄い格子柄。米團治は縞だったようだが、ぱっと見は似ているが愛之助は格子柄だったと思う。

愛之助は主に佐助だが、番頭、春琴の父の部分も朗読する。声の高低、しゃべり方の違いで演じ分ける。 身振り、表情もつける。春琴に叱られて泣くのが可愛かった。佐助が自分の目に針を刺して目をつぶすところは圧巻。ここは鈴木さんの朗読で、愛之助が動く。 白目の部分は堅くて入らないが黒目は柔らかくて針が刺さる、という、ぞっとするような内容だ。このときは、舞台全体の照明が薄暗くなり、上手、下手の順に下から赤いライトで照らすような演出だった。

上手には鳥籠が置いてあって、春琴飼っているうぐいすがホーホケキョと啼く。



2人とも台詞の部分は素晴らしい。それだけに地の部分との落差が残念だ。愛之助は元々地の部分の読み方がうまくないし、この話の中には文語調のところもあって、かなり苦戦していた。鈴木さんは流石に基本的にとてもうまいし、標準語も99.5%は正確。しかし100%でないところが標準語圏の人間の耳には辛い。2人の朗読は会話だけにして、語りの部分は普通の標準語のアナウンサーに任せた方が疵のない作品に仕上がったろうと、第三者は思うのだが、鈴木さんとしては、男の声以外は自分で読むことに意味があるのだろう。

「奉公に上がった。それは~」のような文のとき、句点(。)のところで一息置かないで、次を読む。「奉公にあがったそれは」というように。特徴のある語りだと思ったが、後で鈴木さんも言っていたし、葛西アナウンサーも触れていたが、元の小説の文章自体に、句読点がほとんどないのだそうだ。

「春琴抄」は読んだことがないが、テレビで、松原智恵子と松橋登の春琴抄を見た記憶がある。 あれは春琴の「佐助、目は痛うはなかったか」という言葉で終わっていたような気がするが、きょうの朗読の終わりが本当の終わりだとしたら、春琴と佐助はパーフェクトカップルで、ハッピーエンディングだと思う。

耽美主義といっても、谷崎は、グロテスクな人間の本質をリアルに描き出してる、という感じで、オスカー・ワイルドのようなおとぎ話系とは異なる。


少し間があって、第二部はトーク・ライブ。

最初は明石家さんまからのビデオレター。さんまが最初にラジオに出たときの相手が鈴木さんだったそうだ。このビデオレターはお客さんに対するサービスなんだろうけど、さんまファンでもない私にとっては微妙。

次に葛西アナウンサーが出てきて、とっても嬉しかった。葛西さんみたいな人が春琴抄の語りを読んでくれたら、私としては完璧だった。

葛西さんは大阪に勤務していたことがあり、鈴木さんとは知り合いらしい。昼の部のゲストはコシノジュンコと桂由美だったそうだ。鈴木さんが着ていたコシノジュンコの服が素敵だった。 コシノジュンコの、紙を切っただけという髪飾りも素敵。
鈴木さんは、愛之助は声がとても良く、台詞の言い方が丁寧で、意味がよくわかると言った。 愛之助「語りの部分が難しい」鈴木「練習してないからね」愛之助「練習しましたよ。芝居の間に毎日」鈴木「台本みたらマッサラだった」。きょうの公演前に2人で合わせたのが一回だけ。この夜の公演で、3回目。

愛之助の舞台写真の義賢、清玄、与兵衛、綱豊、五郎が順番に舞台後方の壁に映り、葛西アナウンサーと掛け合いで話をした。その内容から、愛之助のファンとは違う、歌舞伎にあまりなじみのない客層もきょうは来てるんだなと感じた。

義賢について。去年の演舞場で三演目。葛西アウンサーが、義賢は今年の大河にもキャラクターは違うけれども出てましたよね、と言う。
愛之助は、「後半の立ち回りが話題になる芝居だが、今は、前半の役作りが面白い。源氏と平氏の間で揺れ動く人ですから」。

赤ん坊を抱えている清玄の写真の顔が綺麗だった。 葛西「昔、権助を団十郎、清玄を孝夫、桜姫を玉三郎がやった。今月はそれを海老蔵、愛之助、福助でやった」。
愛之助によると、清玄が残月の家で酷い顔で寝ている様子を見て、萬次郎が「上野の浮浪者みたいね」と言ったそうだ。
鈴木さんは、「海老蔵さんは悪い男の役が似合いますね。」桜姫との濡場について、「あれは、体位を見せてるんでしょ? 勉強になりました」
愛之助「今、イスからずり落ちそうになりました」

頬被りをして、豊嶋屋に行こうとしている与兵衛の写真。
愛之助の話。殺しの場の油は実際には油ではなく、いろいろ混ぜて作る。決まった人を呼んで、その人が何時間もかけて混ぜて作る。とても滑りやすい。秀太郎が、翫雀の与兵衛を相手に文楽(劇場?)でお吉をやったときに滑って頭を打った。足が高く上がって、ビデオをとっていた愛之助がウォッと叫んだ声も録音されていた。その月と次の月も頭が痛かったが仕事があり、三ヶ月目に仕事の休みの月があったので医者に行ったら頭に血が溜まっていて、手術した。三ヶ月目にも仕事が入っていたら死ぬところだった。

葛西アナウンサーが、この役は孝夫が若いときに嵐徳三郎のお吉相手に与兵衛をやって評判になった作品で、仁左衛門の代表的な役を次々に演じられる愛之助さんは幸せだね、正月には吉田屋もやったしね、と言った。

次は綱豊の緑色の衣装の写真。
愛之助は、この役は難しくて、最初にやったときは二度とやりたくないと思ったが、2回演じて面白さがわかったので、またやってみたい、という。

最後の写真は、対面の五郎。葛西アナウンサーが、隈取が似合いますね、と鈴木さんにも同意を求める。
愛之助は、これは我當に教わった。「おじさんのビデオ見たか? ああいう風にやっちゃダメだぞ」と言われたそうだ。我當は今でも声量があるよく通る声だが、五郎の役をやったのはもっと若い頃で、声を張り上げていた。しかし舞台は一ヶ月続くので、大声を張り上げていては喉を傷める。

あとは、今後の予定の話。10月の舞台の話では、愛之助は、チューチュートレインのように身体を動かして「伊達政宗がこんなだったらどうしましょう」と言った。政宗ならあの動きも似合うと思うが。