秀山祭 9月大歌舞伎 昼の部2012/09/02 20:24

2012年9月2日 新橋演舞場 午前11時開演 2階2列40番

「寺子屋」

歌昇のときと同じく、幕が開くと涎くり(種之助)が必死に墨をすっている。すかさず「播磨屋!」と声が掛かる。涎くりが「へのへのもへじ」と書いたり、菅秀才が「一日一字おぼえれば~」と言ったりするのはいつもどおりだが、きょうは、出てきた戸浪(芝雀)が悪さをした涎くりを罰として机の上に立たせる。あれ、こんな場面あったかな、と考えていたら、花道から千代(福助)が小太郎を連れて出てきた。そうだ、今月は「寺入り」からやるから段取りが違うのだ、と気づいた。

千代が手土産の菓子箱と、開いた扇の上に置いたお礼の袱紗包みを戸浪に渡す。戸浪は、扇を閉じて返し、袱紗も、包んであったものだけ受け取って、返す。
「アチー、アチー」と騒ぐ涎くり。千代がとりなして、許してもらう。涎くりは、「おばはん、おおきに」と礼を言って、菓子箱の中から菓子を勝手に取り出して食べる。食べている途中で、他の子供に見せびらかしたりする。

小太郎を置いて帰ろうとする千代に、自分もいっしょに行きたいという小太郎の後姿が淋しげで良い。 母と子の別れだ。 千代は一度外に出た後、扇を手にしているのに、戸浪に「扇を中に忘れたかもしれない」と言って探してもらう。その間に小太郎を抱きしめる。扇を広げて顔を隠して花道を引き揚げる。

その後、涎くりは下男が居眠りをしているのを見つけ、顔に墨を塗る。下男が帰ろうとすると、戸口のところで、涎くりが小太郎の真似をして下男をひきとめる。下男は、千代の真似をして、2人で先刻の親子の別れのシーンを再現する。 下男は、扇ではなく「私の天秤棒が中にないか」と言い、涎くりは今度は戸浪の真似をする。種之助が、女形のように手をついてお辞儀をしたりして、芸のあるところを見せる。

寺入りは前に見たことがあるが、こんなシーンがあったのは覚えていない。今月は、涎くりがまだ十代の種之助で、その若者が芸達者なところを見せてくれるのが印象的だ。秀山祭は、今二十歳前後の役者達が次第に成長していく過程を見る公演になるのかもしれない。

外に出た涎くりが「おっしょはんが帰ってきたー」と叫ぶあたりから、いつもと同じになる。

吉右衛門の松王丸は、様式美と現実感のバランスが良い。「笑いましたか」のあたりでは涙をぬぐっている人が多かった。福助は、きょうは寺入りから最後までとても良かった。梅玉の源蔵は端正な中に若君を守る気概が感じられる。小太郎を「よい子じゃ、よい子じゃ」となでるところもうまいと思った。 芝雀の戸浪はしっかりした奥さん。 又五郎の春藤玄蕃ははまり役。

今月は本当は染五郎が松王丸、吉右衛門が源蔵で、さてどんな感じになるのだろうという期待があったが、染五郎がケガで休演のため、王道の配役になった。 その結果、大人は大人で立派に演じ、若者も芸を見せ、レベルの高い寺子屋になった。

「河内山」

今まで何度観ても途中で寝てしまったし、食事の後なので、寝るだろうと思ったが、やはり寝てしまった。

仁左衛門、幸四郎の河内山を観たが、吉右衛門の最後の「ヴァッカメー」が、一番自然に気持ちよく決まったと思う。

米吉の浪路はやっぱり、隼人の浪路より安定感があった。

伝統芸能の今 20122012/09/09 02:32

2012年9月8日 浅草公会堂、9日 狛江エコルマホール 午後3時半開演

去年は当日どうしても仕事が終わらなくて、チケットをムダにした「伝統芸能の今」。 今年は浅草公会堂と、狛江エコルマホールの、どちらも夜の部を観た。 広忠と傳左衛門は出てなくて、パンフレットにメッセージが書いてあるだけだ。

浅草には開場に間にあうように行った。ロビーで愛之助からパンフレットを渡してもらった。隣りではゴールドリボンの募金をしていて、猿之助の横に、きょうは出ない広忠が立って募金していたので、そこに寄付を入れて、横にいた人からストラップをもらった。

狛江ではパンフレットを渡してくれるのが猿之助で、隣りで募金しているのが愛之助だった。「1000円」と書いた紙を表紙につけたパンフレットを持って愛之助の横に立っている傳次郎の脇で、一噌幸弘が笛を吹いていた。袴に、牛の角のような角笛はじめ数本の笛をはさみ、昨日観客を驚かせた2本吹きもやっていた。スカボロー・フェア、オーバーザレインボーその他、思いつくまま吹いている感じ。開演時間が近づいて楽屋に引き揚げるときには「笑点」のテーマまで吹いていた。

「六道の辻」

逸平が書いた「新作狂言劇」だそうだ。とてもわかりやすくて面白かった。

はじめは暗闇で、太鼓の音だけ聞こえる。幕が上がり、舞台が見えるようになると上手で傳次郎が、縦置きした太鼓を打っている。 やがて笛が加わる。一噌幸弘が最初に吹くのはロビーで見た大きな角笛。その後、オカリナみたいなのとリコーダーをいっしよに咥え、左右の手で演奏した。

下手と上手の下の方に赤いライトがつき、ドライアイスの霧が出てきて、この世とあの世の境界である「六道の辻」の雰囲気を出している。

最初に出てきたのは、笏を持った閻魔大王(猿之助)。最近、娑婆の人間どもが利口になって、みんな極楽に行くので、地獄の将来が思いやられる、誰か通りかかったらつかまえて地獄に連れて行こうという。そして、「六道の辻」(「りくどう」も「ろくどう」でも良いらしいが、この狂言の中では「ろくどう」と言っていた。)で、昼寝をしながら誰か通りかかるのを待つ。伸ばした左手の指が綺麗だ。

次に出てきたのは本職の逸平。「平家の公達のなれのはて」というと、後ろの傳次郎がチンと鉦を鳴らす。一の谷の戦に敗れて逃げている途中、陣に金銀を忘れたのを思い出して戻ったら、源氏の侍たちに見つかって殺された。でも「地獄の沙汰も金次第」というから、持ち帰った金銀で閻魔を買収して極楽に行かしてもらおうと思っている。

次に出てきたのは悪源太、源義平役の愛之助。白い着物に紫の袴。薙刀を持って勇ましい。修羅道にいたが、清盛の首をとりたくて来た。逸平を見ると「どこかで見た顔だ」と言う。逸平は扇で顔を隠し、高い声を出してしらばっくれるが、平忠度とばれる。義平は忠度に清盛がいる場所を教えろというが、忠度は来たばかりでわからないと言う。

閻魔が、修羅道にいた義平が何故ここに来られたかと聞くと、「修羅道の警護の鬼をやっつけて来た」という。「近頃の若い鬼は軟弱だ」と嘆く閻魔。

閻魔によると、清盛は晩年信心深くなって坊主になったので、地獄の悪いならわしによって地獄に連れて行くことはできず、極楽にいる。清盛が極楽にいるなら自分も極楽に行きたいという忠度。しかし、閻魔は忠度は坊主ではないので地獄に連れて行けるという。

義平は清盛を討つために極楽に行こうとする。行かさぬぞ、という閻魔を振り切って、下手に走り去る。

忠度は、金銀の入った袋を閻魔に渡して極楽に行かしてくれというが、閻魔は、ここでは、金銀なぞ何の役にも立たない、と叱って、地獄に連れて行く。舞台に残ったのは、金銀の入った袋。 募金と書いた紙を貼った箱を持って後見の段之が出てきて、その袋を箱の中に入れて静々と去る。

オチが効いていた。狂言にはオチはつかないそうだが。三人ともうまく、口やかましい年寄りのような閻魔、俗物の忠度、直情的な義平、とキャラがはっきりしていた。逸平の声は、響きがあって大人っぽくて良い。ちょっと亀三郎を思い出す。愛之助はいつものように身体の動きだけでなく眉と目もよく動いていた。

「座談会」

下手に傳次郎と逸平、上手は猿之助と愛之助。

逸平は浅草公会堂は初めてだそうだ。共演の2人が歌舞伎役者なので、大体を自分が考えたにもかかわらず、アウェー感があるという。
狛江では、歴史的に能と狂言は大名のお抱えで歌舞伎は庶民のものだから、かつては交流がなかったという話題のとき、武智歌舞伎で逸平の祖父とおじが番卒の役で出たら能楽協会から除名されそうになったという話が興味深かった。

歌舞伎ではシンをとると言って真ん中が大事。「どんな役をやってもだんだん真ん中に来ちゃう人がいる」という猿之助。狂言の場合は、四隅をとる。はじの方にいることが多い。傳次郎によると、能狂言の場合は照明が全体に均等に当たっているが、歌舞伎の場合は真ん中が明るくてはじの方には当たってないそうだ。

浅草ではゲストが多く、寄付先の団体の方2人が話をされ、広忠が「ボランティアのお兄さん」と言われて出てきて4人のサイン入りの大鼓の皮を三万円で幕間に売るという話をし、サプライズゲストの上妻宏光も出た。

上妻は、大柄で華やかな人だった。風林火山のテーマを最初に織り込んだ津軽じょんがら節と、オリジナル曲の「紙の舞」を弾いた。津軽三味線で三番叟もいい、前進座には最後に雪が降る三番叟がある、と猿之助が言った。これで立ち回りやったらいいですよ、とも。

狛江では、浅草に出たゲストはいなくて、団体の人が言ったことを猿之助が自分の言葉で伝えていた。

一噌幸弘は、浅草でも狛江でも途中から出てきて少し話して引っ込んだ。
猿之助が、「あの角笛みたいのは何」と聞くと「ゲムスホルン」。「国は?」とたたみかけて聞く猿之助。特定の国ではなく、ヨーロッパ一帯で使われていた楽器らしい。ルネッサンスリコーダーという名前も言っていた。ソプラノとテナーのを使っていて、「アルトもあるといい」と、一噌幸弘が駄洒落を言う。
最高5本まで同時に吹けるそうだ。そのCDもあるという。5本は、真ん中プラス左右に2本ずつで演奏する。真ん中は譜面台でささえる。「譜面台がないとフメンだい」と。
今回は、最初の2回は尺八の藤原道山だった、と傳次郎が言ったら、「しゃくはちじゅうど違う」と、一噌幸弘。

狛江の座談会での話では、一噌幸弘は500本くらい笛を持っているそうだ。きょうは持ってきたのは30本くらい。痩せているので袴に笛をはさんでいると着物が安定するらしい。
自己紹介で、「みんな、身内だから。みうちしゃん」と言って、傳次郎に「袖でそんなこと考えてたんですか」と言われていた。
傳次郎が、小学校の途中までは能楽師になる予定だったが、歌舞伎に行くように親に言われて歌舞伎の囃子方になったというのを聞いて、「親に言われておやっと思った?」。
5本吹きをしている「咲くシャク」というタイトルのCDを紹介。CD屋でもAmazonでも買える。傳次郎が、「お買い上げいただいた金額は、みんな募金にまわしてもらいます。印税収入がなくなる一噌幸弘さんでした」と言ったら、「いんぜぇ」。
私は駄洒落は嫌いなのだが、無理なこじつけでもなく、見事に決まるので感心した。これも天才の一部なのだろうな。

この後、二十分休憩。

「龍神」

後ろに一噌幸弘と傳次郎がいるのは「六道の辻」と同じ。一噌幸弘は、最初は一本の笛を吹いていたが、縦笛2本にリコーダーを1本追加して3本いっしょに吹いたりもしていた。

最初に、拵えをした村人役の逸平が出てきて、龍神が出てくる事情を説明する。話があまり頭に入らなかった。

龍神の猿之助は青い毛で、頭の上に龍のフィギュアを載せている。

傳次郎は、太鼓を打ちながら猿之助の動きをじっと見ていた。うちわ太鼓とか、いろいろな楽器が置いてあって、チャッパというのか、シンバルのようなのをすり合わせるような感じで音を出している時もあった。黒御簾の中では、あんな風にたくさんの楽器で音を出しているのだろう。

振り付けは猿之助だそうだが、連獅子や船弁慶を思い出した。ジャンプするのが好きなのだろうと思った。話がよくわからないので、何をしているところなのか、いまひとつ理解できなかった。最後、船弁慶のようにクルクルまわりながら引っ込む。 あれは花道でやらないと見栄えがしないのではないかと思ったのだが、狛江は舞台が低くて所作台の形が見えたので、下手の後方が、橋掛かりにあたるのだろうと思い至った。能舞台用の演出なのだろう。

一度幕が下り、カーテンコールが一回あった。猿之助が、三方にお辞儀をした。

狛江は舞台が低く、前の方の席からでも演者の足の先まで見えて嬉しかった。2列目の席で前の人がいなかったので、殿様気分だった。

六代目中村勘九郎襲名披露 九月大歌舞伎 夜の部2012/09/17 21:42

2012年9月15日 松竹座 午後4時半開演 一階5列上手

「女暫」

玉三郎の巴御前は繊細に美しく、かわいらしくて玉三郎ならではだ。花道から遠い席だが、この列からは七三にいる玉三郎がよく見える。
座布団のような四角い袖が前で重ね合わされ、その上に玉三郎の小さな顔があり、頭の左右には力紙が突き出していて可愛い。
勘九郎襲名に関連したつらねを述べる。 茶後見は吉太朗。

若菜(七之助)が花道の方に来て、もっと揚幕の方に寄ってほしいというのを断るところが面白い。

玉三郎が舞台の真ん中に行き、人が集まって玉三郎の衣装を直しているときは、揚巻を思い出した。大太刀を抜いて仕丁たちの首を斬るシーンは大きくて貫禄があった。

巴御前が花道に引き揚げて、幕が閉まる。すると、上手の方の幕の後ろから舞台番(勘九郎)が現れる。舞台番は、巴御前に六方を踏んで引き揚げるように言って、自分の真似をしろ、とやってみせる。巴御前は「恥ずかしいわいなー」と言いながらも真似をする。しかし、恥ずかしそうに去っていく。この場は本当に可愛かった。

「口上}

仕切りの玉三郎が最初に挨拶する。還暦すぎの国宝なんだから女形が仕切っても不思議はないが、玉三郎だと、まだうら若い女形が事情があって必死にやってるような錯覚に陥る。

七之助が、「大阪が大好きな父が病気のために来られなくて申し訳ない」と詫びる。胡蝶を踊ったときを思い出すと、あのチビが、こんな挨拶ができるようになったかと目頭が熱くなる。6月、7月の演舞場もそうだったが、この口上でも、一世代分、時が流れたことを感じた。

我當は今月の勘九郎の忠太郎は自分が観た中で一番と絶賛し、中村屋兄弟をよろしくと頭を下げる。親戚のおじさんが土地の人に頼んでくれているようで、心のこもった挨拶だ。

勘三郎がいた二月の口上よりも、若い2人を盛り立てる気持ちを強く感じた。

「雨乞狐」

きょう、新大阪に着いたときは大雨で、舞台上方に出てくるような太い雨が降っていた。

勘九郎が次々に狐、雨乞巫女、座頭、小野道風、提灯、狐の嫁を踊る。狐は、四の切に出てくる狐の衣装。最後の方ではポップアップでポーンと飛び出てくるし、ジャンプも多い。
雨乞巫女の振り付けが目新しくて、踊りも一番凄いと思った。

「雁のたより」

数年前の顔見世で、藤十郎の髪結で観た。テレビ放映もあった。今月は翫雀。

若殿の役は薪車。妾の司は壱太郎。若殿は顔見世のときは愛之助で、たぶん薪車よりうまいのだろうが、薪車の方が受ける印象が強い。愛之助と扇雀のコンビよりも、今月の方が年回りが殿と妾らしく、体格差も実際の男女のようにはっきりしていて、私はこちらの方が好きだ。

殿を嫌ってツンツンしている司の役が壱太郎にぴったりだった。

上方の雰囲気を楽しむだけの演目ときいていたので筋は特に気にしなかったが、これはちゃんと筋がある。今回初めてわかった。

偽の文に騙された髪結。騙されたとわかった後、司から本当に文を受け取る。 ここのところで「もうだまされへんで」で終わったほうがしゃれた終わりだったかも。

しかし、実は髪結と司は許婚者だった、という予定調和的な終わり方。
ここでしとやかで優しげな女に変わる壱太郎はうまい。

六代目中村勘九郎襲名披露 九月大歌舞伎 昼の部2012/09/20 20:57

2012年9月16日 松竹座 午前11時開演 1階2列上手


「妹背山婦女庭訓」 三笠山御殿

これは、正月のルテアトル銀座でイヤホンガイドを借りて観たから、よく知っている。

今月は、入鹿の屋敷に橘姫(壱太郎)が戻ってきたところから。壱太郎が花道から舞台に来て被り物をとった。そして、苧環を手にして赤い糸を追ってきた求女(新悟)。この平成生まれの二人の成長は目覚しく、今やすっかり戦力化した。

求女実は藤原淡海は、橘姫が入鹿のスパイとして自分に近づいたのではないと確信し、入鹿が盗んだ宝剣を橘姫が取り戻してくれれば夫婦になる、と言う。 橘姫はそれを承知して別れる。

舞台には誰もいなくなり、花道から、求女の後を追って、白い苧環を手にしたお三輪(七之助)が出てくる。途中で転んで苧環の糸が切れ、苧環を叩く。 前段がないので求女を必死に追いかけてきたのがわからないせいか、苧環を叩いても可愛いと思えない。

豆腐買いのおむらは翫雀。

お三輪が御殿に上がって行き、中から官女が出てきて、お三輪とすれ違う。

七之助は、一人だけの場面では玉三郎のような可愛さや哀れさを感じない。しかし、官女たちといっしょの場面では、正月のときと逆で官女が全員年上なので、いじめられている雰囲気はムリなく感じられる。

酌の仕方を教える萩の局は、正月のときと同じく功一。 馬子唄を歌ってみせる柏の局は橘太郎。 お三輪は馬子唄がうまく歌えずに泣き伏し、官女たちは奥に引き上げてしまう。

奥から聞こえる「おめでとうございます」の声に、花道七三にいるお三輪は「あれを聞いては・・・」と嫉妬に狂って髪を振り乱し、「「凝着の相」になる。 奥へ押し入ろうとするところに鱶七(橋之助)が出てきて、お三輪を刺す。

今月は鱶七がここでいきなり出てきてぶっ返り、後ろの襖が開いて奥の座敷が現れる。 鱶七は、爪黒の鹿の血と凝着の相の女の血を混ぜて笛に注いで吹けば入鹿を成敗できる、お三輪が死ぬことが求女実は藤原淡海の役に立つのだと言い聞かせ、お三輪は納得して死ぬ。

「俄獅子」

芸者(扇雀)と鳶頭(橋之助)を中心に、華やかな踊り。橋之助は踊りが下手ではないが、扇雀は下手。 技量的には次の演目の前座的な、華やかな雰囲気だけの踊り。

「団子売り」

勘九郎と七之助が団子売りの夫婦で、商売道具をかついで花道から出てくる。勘九郎の方が妻。2人で餅をついて、団子を丸める。勘九郎がおかめの面をかぶって踊るところが良かった。
途中で、2人の襲名口上が入る。七之助は夜と同じように、父不在の侘びを述べた。


「瞼の母」

去年巡業で観たときも上手の席だったので、また、ほとんど同じ角度から観た。忠太郎から顔を背けているときの玉三郎おはまの苦悩の表情が目に焼きつくことになった。

忠太郎役の勘九郎は、折り目正しい中にも修羅場をくぐって来た強面の雰囲気があって、獅童より向いている。獅童はいい男で見ているのは楽しかったが、どこか甘さがあって忠太郎には向かないと思った。

母のことを尋ねようとして夜鷹に金をやったら夜鷹が誤解して急に色気のある態度をとったシーンは、獅童はこっちを向いていて、相手の誤解に気づいて一瞬ニコッとしたのが見えたが、勘九郎は逆を向いていて表情は見えなかった。しかし、たぶんニッコリすることはなく「違うんだ」と言ったと思う。

玉三郎は、こんなところの女将ならもう少しハキハキしたしゃべり方が良いと思うが、忠太郎がいなくなってから娘(七之助)に感情をぶちまけるところでは、玉三郎らしく盛り上げていた。

藤間会 9/262012/09/27 00:55

2012年9月26日 国立劇場大劇場 午後4時開演 3階11列14番

チケットがとれてよかった。 3階だが花道の真上だし、十分満足した。

「寿式三番叟」

翁は菊五郎、吉右衛門、梅玉。千歳は時蔵。面箱は七之助。
下手からしずしずと出てくると、私の後ろの大向こうさん達が忙しく屋号を掛ける。

全員がこちらを向いて座って頭を下げるが、箱を持っている七之助だけは箱を捧げ持って上体を起こしたまま。

上手に控えた翁たちの後ろにそれぞれの後見が座る。尾上右近、種之助、梅丸。

最初に千歳の時蔵が一人で踊った。次は、金地に松の扇を持った翁三人の踊り。

千歳と翁たちが一定の距離を保ちながら下手に引っ込むのを見て、昨日まで歌舞伎の舞台をやっていた役者もいるのに、きょうこんなにちゃんと舞踊の舞台をつとめていることに感心した。 下手で後ろを向いて座っていた勘十郎が立ち上がって三番叟の踊りが始まる。後見は歌昇。勘十郎の三番叟を観るのは「囃子の会」以来だ。 不純なものがなく力強い踊りで、私は大好きだ。最初に花道に出て、七三のあたりから舞台を睨む形。烏跳び3回。

上手に控えてずっと三番叟の踊りを見守っていた七之助は、鈴渡しもする。そして、短く謡が入った後、2人が向かい合って踊る。飛び跳ねるような感じの、若い2人にぴったりの踊り。七之助の動きを見ていたら勘三郎のこんな踊りを観たことがあるような気がしたが、記憶がない。気のせいだろう。

2人がいっしょに下手に引き揚げるとき、後見の歌昇は手をついてお辞儀をしていた。そのまま幕が閉まった。

「出雲梅」
藤間綾さんの綺麗な踊り。

「藤娘」
中務智咲子ちゃんの可愛い踊り。しどけなく横になるところもあって、客席から暖かい笑いが起きた。

「鏡獅子」
藤間涼花さんの踊り。
周りの人が歌舞伎役者で男。身長差があるので、弥生が可愛く見える。獅子もかわいい。しかし最後の毛振りはがんばっていた。振ってるまま幕が降りるわけじゃなく、毛振りの後は正面を向いてしっかり立たないといけないのに凄い。

「京人形」
左甚五郎役は権十郎。京人形は藤間香さん。
笑也の京人形を思い出していたが、この役は、女よりも女形が踊った方が有利だろう。ただの人形のときのロボットみたいな動きと、女らしい動きの違いがはっきり出せる。

「豊後道成寺」
藤間利弥さん。大柄な人なのか衣装映えがして、踊りも綺麗だった。

「女伊達」
女伊達が藤間勘寿々さんで、男伊達が亀三郎と亀寿。 女伊達が本物の女性だと、男伊達の背が高く見える。

「此の君」
幕が上がると、銀色の屏風を背景に若竹色の着物を着て座っている玉三郎。 一幅の名画だ。その名画が動く。 身体の微妙な動きが客を魅了する。扇の扱いも美しかった。

上手には、上段に三味線と歌の女性達、下段は小鼓の傳左衛門と笛の福原寛。笛と鼓が入った後、少し速い動きの踊りになった。

生の玉三郎を見ているのが、我が人生至福の時だ。

「雨乞其角」

最初に其角役の勘十郎が出てきて踊った。

次に、芸者2人(扇雀、孝太郎)に支えられて、酔った風情のお大尽(勘祖)、船頭(橋之助、七之助)。元々は勘三郎が踊るはずだったお大尽。

孝太郎は、素踊りでクネクネすると気持ち悪いが踊りはうまい。 勘十郎と孝太郎が真ん中で踊っているとき、下手で2人で踊っている船頭役の叔父甥は一際美しく見える。

最後は、後ろの大ぜりから勘十郎と若手が現われ、皆で踊った。
下手と上手の端に梅丸と男寅。他に廣松、廣太郎、米吉、種之助、萬太郎、新悟、右近、隼人。歌舞伎の未来を見ているようで楽しかった。

藤間会 9/27 夜の部2012/09/30 14:11

2012年9月27日 国立劇場 午後4時開演 2階2列30番

きょうは半休できなかったので、途中から観た。

「石橋」

幕が上がったら、お囃子の人たちの前に大きなセリ穴が開いていた。
セリで上がってきたのは白獅子の虎之助、鷹之資、赤獅子の千之助、玉太郎、金太郎。

獅子の化粧で顔が判別しにくいので、身体の大きさで誰が誰か判断する。千之助と玉太郎が紛らわしいが、最初に三人並んで見得をしたときに真ん中にいたのは千之助で、最後に真ん中だったのは玉太郎だろう。

鷹之資と千之助は本舞台で子獅子を踊ったことがあるし、金太郎も趣向の華で踊ったし、けっこうみんな自信はありそう。

最後は白獅子2人が後ろの台の上で、赤獅子3人が前に並んで毛振り。金太郎は、他の2人が後ろで別の所作をしているときから毛振りを始めて、それに2人が加わって毛振りを始めた。永遠にまわし続けるんじゃないかと思った一昨年の趣向の華を思い出した。

みんな頑張ってかなり長く回し続け、最後は立派に決まって幕となった。

「隅田川」
藤十郎の斑女の前と、翫雀の舟長。去年の南座顔見世で、ぐっすり眠ってしまった演目だが、奇跡的にリベンジできた。客席が暗くなって、子守唄のような音楽が始まったときはもうダメだと思ったのだが。

踊りというより劇だが、藤十郎は斑女の前のような狂女ははまり役だ。

「関の扉」

普通の関の扉の前に、序幕がついている。
最初に花道から墨染(勘十郎)が、いざり車を引いて出てくる。車に乗っているのは安貞(菊之助)。舞台では萬太郎、右近、廣太郎、種之助がからんで、袴歌舞伎風。勘十郎は最後に鷹になって出てくる。この鷹が咥えているのが、後で関兵衛が割った琴の中から出てくる血染めの文字が書き付けられた片袖である。

次の場では勘十郎は、安貞の兄の宗貞。そして、関兵衛実は大伴黒主役は松緑(藤間勘右衛門)。松緑は、歌舞伎の衣装はあまり似合わない。普通の袴姿の方が踊りのうまいかっこいいお兄さんに見える。
関兵衛の役は今まで観た誰でもそれなりに格好はついていたが、踊り自体がこんなに見ごたえのあるものだと今回初めてわかった。

菊之助はここでは女形の小町姫の役。こういう髪型だと、最近テレビで見るお母さんによく似ている。

最後は小町桜の精の勘十郎が、松緑と2人で踊る。大伴黒主のぶっかえりは、緑の着物を外して黒にしていた。勘十郎の方も、着物を一枚外して別の色になった。

全体として、松緑の踊りが素晴らしかった。