2013年 松竹座 二月花形歌舞伎 初日 昼の部2013/02/03 01:38

2013年2月2日 松竹座 午前11時開演 1階10列19番

客席に入っていくときに時蔵を見かけた。休憩時間には藤間勘十郎も見た。

「新八犬伝」

前に平成若衆歌舞伎でやったものと聞いたので、トンデモ系のものかと思ったら、わりとちゃんとした歌舞伎だった。今月のプログラムに今井豊茂が、「私に託された任務は新作歌舞伎として創出した新八犬伝を古典歌舞伎として再創造すること」と書いているが、立派に任務を果たしている。

「発端 讃岐国白峰山の場」

愛之助は崇徳院。隈取のある怖い顔で、去年の大河ドラマの崇徳院とは全く違う。
左右に天狗が三人座っているが、上手にいた人の台詞がうまかった。

「序幕 滝田城城内奥庭の場」

伏姫(梅枝)は、扇谷定正(愛之助)と結婚するのを渋っている。弟(千壽)は、それなら代わりに自分が嫁に行くというが、定正は「無礼者め」と一蹴。 崇徳院の霊が乗り移った定正は、自分の嫁に来ないのなら、弟によって身を汚させる、と言って、霊力によって弟に伏姫を襲わせる。このシーンは梅枝の海老ぞりとか舞踊的な所作。
レイプされた伏姫が横の川を見ると、白い犬が顔を出す。中型犬で、今回も八房はイメージが違うと思った。しかしそれは八房ではなくて、伏姫が川に映った姿だった。つまり、近親相姦で畜生道に落ちた、ということなのだ。
倒れていた弟が目覚めて水を覗くと、犬がもう一匹現れる。それは、弟が水に映った姿だ。嘆いてジタバタする弟の仕草を真似する犬の姿がかわいくて、笑えた。

結局、この劇には八房は出ない。

伏姫が死のうとすると、文字を書いた水晶玉が出てくる。そこに仙女(吉弥)が現れ、この玉を持った勇士たちを集めて崇徳院の野望を打ち砕くのがお前の運命だと言って、去る。

「二幕目 第一場 武蔵国大塚村の場」

亀篠(秀太郎)が娘の濱路(梅丸)と、座敷で話している。浅草のときは、ひき六と亀篠の夫婦(亀治郎と竹三郎)が爆笑コンビだったが、今月の「新八犬伝」では、ひき六は既に死んでいる。
亀篠は、甥の犬塚信乃(松也)と濱路を結婚させることにした。
しかし、松也と梅丸のらぶらぶシーンはないのだった。

訪ねてきた犬山道節(薪車)が、亀篠に村雨丸のことを尋ねるが、亀篠は知らないと言う。下男の額蔵(巳之助)に案内されて左母次郎(愛之助)が来て、村雨丸のことを尋ねる。
愛之助の左母次郎は色っぽいというよりエロっぱい。肉感的。黒の着流し姿は敵討天下茶屋聚の東間のようだ。

左母次郎は、定正の世を忍ぶ仮の姿である。村雨丸を手に入れたら褒美をやると左母次郎に言われて、亀篠は承知する。 秀太郎と愛之助は悪巧みをしている姿が似合う。

「二幕目 第二場 滝野川明神境内の場」

滝を浴びるという信乃の荷物を預かった亀篠は、村雨丸を左母次郎に渡す。左母次郎は、自分の刀と村雨丸の中身を入れ替える。

亀篠に色仕掛けの左母次郎。胸に手を入れ、プチ鳴神状態。何年振りかとうっとりしている亀篠を切り殺した左母次郎は、亀篠の死体の上に、自分の刀と中身を入れ替えた村雨丸を置く。

信乃、額蔵、濱路が駆け付けるが、左母次郎は信乃に切りつけて、逃げる。切られた信乃は、懐から「孝」の文字がついた玉を取り出し、これを傷のところにつけるとすぐ直る、という。それを聞いて、額蔵は「義」の文字の玉を取り出して見せる。


「三幕目 第一場 上野国古河城大広間の場、第二場 芳流閣の場」

信乃は足利成氏(萬太郎)に村雨丸を献上し仕官しようとするが、村雨丸が偽物だったので敵の間者ではないかと疑われ、城の屋根の上に逃げる。それを犬飼現八(愛之助)が追う。

この場で信乃が着ている明るい色の衣装は松也に似合う。先月に続いて目立つ良い役をもらっていると思う。屋根の上の立ち回りもあり、大柄なので舞台映えがする。

「三幕目 第三場 利根川河畔の場」

追われた信乃は利根川にいた額蔵実は犬川荘介(巳之助)の舟の上に落ちて、助かる。
信乃と荘介は義兄弟の契りを結ぶ。2人が腕に傷をつけて血を出すとき、皿に血を受ける濱路(梅丸)は、女らしく顔をそむける。梅丸は終始可愛くて、大阪の舞台は初めてのようだが、「可愛い子だね」と言っている人が何人もいた。

この場の最後は犬村角太郎(種之助)も加わってだんまりとなり、最後に愛之助が崇徳院の姿で宙乗り。

「四幕目 相模国大磯廓の場」

廓の座敷の真中に左母次郎(愛之助)が座り、その横に妻の濱路がうつむいて座っている。

左母次郎は旦開野太夫(壱太郎)が目当て。旦開野太夫は男嫌いで有名だが、きょうは自分の方から文を送って来た。

旦開野太夫の前で、左母次郎は濱路に離縁を言い渡す。村雨丸を取り戻そうとする濱路を、左母次郎が切り苛む。

すると、旦開野太夫は男の声になり、実は犬坂毛野という男だと言う。毛野の父は小田原城主だったが左母次郎実は定正に滅ぼされた。定正は毛野と争っているうちに濱路に斬りつけたが、濱路の返り血を浴びて、力が抜けてしまう。ここへ道節(薪車)が駆け付け、定正は逃げる。実は道節と毛野は乳兄弟で、定正を仇と追っていた。

道節が拾った守り袋から、道節と濱路が実は生き別れた双子だったと判明する。年齢と体格が違いすぎる双子。

いまわの言葉を残して濱路は絶命。ここで伏姫の霊が現れ、矢を渡して、それを濱路の血に浸すように告げる。濱路は伏姫と同様、戌の年、戌の月、戌の日、戌の刻に生まれたので、その血は定正、崇徳院の野望を打ち破る力がある。伏姫は弓を与え、玉を持つ勇者のもとに向かうように命じる。

「大詰 扇谷館奥庭の場」

大詰は、定正の軍勢と八犬士の戦い。

浅草の時に隼人がやった、最年少の犬江親兵衛を今月演じるのは吉太郎。身体は小さいが踊りがうまいので、動きがさまになっていて、他の犬士に見劣りしない。

この場で愛之助は定正、崇徳院、犬飼現八の三役を演じる。といっても早替わりをするわけでなく、八犬士が勢ぞろいしているときは愛之助は犬飼現八として並んで立っていて、真ん中の高い位置にいる崇徳院は別の役者がつとめている。特に顔を隠すわけでもなく。ある意味紛らわしいが、私は早替わりは落ち着かなくて嫌いなので、この方が好きだ。