第一回 ABKAI2013/08/04 21:35

2013年8月4日 シアターコクーン 午後1時半開演 1階D列9番

すごく観易い席だった。

「蛇柳」

住職の役の愛之助、阿仏坊(新蔵)が下手の揚幕から出てきて愛之助が状況説明の台詞を言う。勧進帳の富樫のようだ。松羽目物? でも後ろの絵は柳。

丹波の助太郎(海老蔵)の踊りの振付が、この演目中一番見応えがあった。勘九郎か猿之助が踊ってくれたらどんなに良いだろう。海老蔵は下手というのでもないが、踊りとして見応えがあるほどの上手さでもない。

助太郎が正体を現して蛇柳の精になったときは、海老蔵の化け物めいた顔立ちが生きていた。蛇柳の精、鱗模様の衣装の四天、住職たちの立ち回りは凡庸。

しかし、海老蔵がいつの間にか誰かと入れ替わっていて、客席の後ろから、刀を三本刺した押し戻しの姿で歩いて舞台に上がって行ったのはびっくりした。

「疾風如白狗怒涛之花咲翁物語。(はなさかじいさん)」

福太郎が、開いていく幕に手をかけて下手から上手に移動し、最後は浄瑠璃の人に手を振ってはけた。

上手から、籠をしょったおじいさん登場。衣装のせいで貧弱な体格の老人に見えたが声を聴くと意外や愛之助。森の中で、怒った狐、兎、タヌキ、蛇、イノシシなどの小動物たちに襲われる。そこに白犬が出てきておじいさんを助ける。おじいさんは、籠の中身を全部捨て、白犬を連れて家に帰る。この時の白犬は可愛かった。

家で待っているおばあさんのセツは吉弥。おじいさんが肩からおろした籠から出てくる白犬が海老蔵。海老蔵は狐忠信の時の方が犬っぽかった。浴衣みたいな着物と、普通の武士のような形の白髪の鬘では犬に見えない。全然可愛げがなかった。おじいさんとおばあさんがうちで飼おう、と話しているとき、嫌がっているような表情なのが面白い。シロと名付けられた。

悪いおじいさんの得松(海老蔵)は小さい頃犬にかまれたので犬が嫌い。得松の見た目は海老蔵にはまってた。若い頃からセツに気があって、家に来たセツに迫るが拒否される。

シロが掘れといった場所をおじいさんとシロがいっしょに掘って、桃太郎が鬼ヶ島から持ち帰った鬼石を見つける。それを家に持ち帰ると、天井から小判が降って来る。小栗判官や牡丹灯籠ほどかっこよくはないけれども、舞台で観るなら地面から小判が出てくるより天井から降って来た方が見栄えがする。

得松は鬼石を盗むが、そこから現れたのは虫の亡霊(福太郎)で、得松は虫にさされて死ぬ。

桃太郎の家来の白犬が悪いことをしているという噂が立ち、村人たちが白犬をつかまえようと探しているので、おじいさんとおばあさんはシロを赤く塗り、名前も「アカ」に変えた。

追い詰められたシロは自分はアカではなく桃太郎の家来の白犬だと名乗って村人に殺され、おじいさんとおばあさんが嘆く中、ピンクの灰になる。その灰を集めて、おじいさんが背後の大きな桜の木に必死に登って撒くと、順々に花が咲く。喜んでいるおじいさんおばあさんの後ろからシロの幽霊が上がってきて、宙乗り。台詞を言って下手に消える。

実はシロは悪事を働いてはいなかったことが明らかになる。毛を白く染めて桃太郎の家来の白犬のふりをしていた黒犬が捕まって連れて来られる。

下手から馬(人が入ったのではなく、木馬のようなの)に乗った殿様(海老蔵)が登場。舞台を降りて愛嬌をふりまきながら通路を歩き、別の通路からまた舞台に戻った。

みんなで「枯れ木に花を咲かせましょう」で目出度く幕。幕開きのときと同じように、福太郎が幕に手を添えて上手から下手に歩いた。

カーテンコールがあり、初めは殿様の姿だった海老蔵が最後はシロの姿で登場した。

音楽が義太夫で、それに乗ってシロが踊っておじいさんに身の上を語ったり、ここほれわんわんのところもちゃんと踊りになっているし、自分は白犬だと名乗るときのぶっかえりとか、歌舞伎の手法を残している点に好感を持った。

一寸法師の使い方が中途半端かと思う。桃太郎のシーンは幻想的で美しかった。浪布が客の頭の上を通過して行ったのは初めての経験で楽しかった。

八月納涼歌舞伎 第三部2013/08/07 02:55

2013年8月6日 歌舞伎座 午後6時20分開演 1階13列34番

「狐狸狐狸ばなし」

タイトル通り騙し騙されの、面白くて後味の良い話だった。
ドライな悪女がうまい七之助のおきわが良い。最後のこんぴらふねふねもビシッと決まった。
浮気相手の重善役の橋之助とは、気の合った綺麗なコンビ。
伊之助役の扇雀は、関西弁だと藤十郎のしゃべり方に似るが、時には玉緒にも似ていた。シェーッと驚いたりするような誇張した演技がうまい。現代的な喜劇に合う人だと思う。
亀蔵の牛娘の関西弁は私が聞いても気持ち悪い。

「棒しばり」

20年以上前に、一度だけ、勘九郎と八十助の「棒しばり」を観た。それ以来大好きな踊りになった。
今回の次郎冠者は三津五郎。後ずさりするときの足の動きをはじめ下半身の動きは見事だが、勘三郎のような上半身の愛嬌はないので、ちょっと寂しい。次郎冠者の方が大きい役だから三津五郎がやるのだろうが、実質的には若い勘九郎が踊った方が正解ではないかと思った。連れ舞の前に太郎冠者は腰をおろしてたっぷり休憩しているので、勘九郎は待ってましたとばかり元気に踊るが、続けて踊る三津五郎は疲れが出るのではないか。

いろいろ思うことはあったが、うまい人たちの踊りを見るのは楽しい。扇をくるっと回して持ち替えるところも成功して喝采を受け、三津五郎が嬉しそうだった。

勘九郎も長身なのだが、主人役の彌十郎はもう一段背が高く、身分が視覚的に分かりやすくて、太郎冠者次郎冠者がかわいく見えるので良い。すっかり酔っぱらった2人が酔っ払いの口調で酔ってないと主張する様子が笑える。最後は、逃げるどころか主人を蹴飛ばそうとまでしていて、とても好きな幕切れだ。

NHK文化センター 花形トーク 七代目・市川染五郎の情熱2013/08/08 17:56

2013年8月8日 阪急うめだホール 午後1時半~3時

うめだホールに行くのは2回目だが少し迷って、1時35分に着いた。
「でも冬生まれだから」「いや僕、寒いのダメなんです」という話をしていた。染五郎はスーツ姿だった。

「趣向の華」の話をしてくれたのが嬉しかった。「ここだけの話だけど勘十郎さんの三味線はとてもうまい」という染五郎。これだと皮肉みたいに聞こえるので、「本当にすごくうまいんですよ」とフォローする葛西聖司さん。

葛西さん「歌舞伎座が閉まっている間に若い役者が育った。そして、染五郎さんが40になった。」染五郎「僕達が若い頃は40というと、けむたい存在だった」葛西「染五郎さんも若い子からみればそうなんですよ」

「最近のデパートは恐竜まで売ってます」と、同じ階で展示販売していた縫いぐるみの恐竜の話をする葛西さん。

葛西さんが、染五郎は子供の頃、馬がほしいと言って買ってもらったと言ったので驚いたが、それは本物の馬ではなくて歌舞伎の馬。染五郎は「大森彦七」を観て馬がほしくなった。幸四郎が買ってくれて、歌舞伎舞台のトラックが家に乗り付けて置いていった。人が入ってない上だけの馬にまたがると、おまるのような感じ、と言って笑わせた。小学校一、二年生の頃だそうだ。

染五郎は元々は「お父さま、お母さま」と呼んでいたが、思春期以降はそう呼ぶのをためらうようになり、今では「あのー」「すみません」と話しかけている。幸四郎は染五郎のことを「あーちゃん」と呼ぶ。たかこさんはたーたんで、きほさんはきほちゃん。

染五郎は昔からメモ魔で、矢立を持って歩いていたと猿之助が言っていた、と葛西さんが言うと、染五郎は「新大阪に着いたら猿之助くんから、「今大阪にいるでしょ」というメールが来た。なんでも鑑定団に出したものをくれと返事した」と言った。

後ろのスクリーンに、「超訳的歌舞伎」の表紙の写真が映る。葛西さんは、染五郎が子供のときの顔からは、この表紙のような隈取した役が想像できなかったと言った。私は「超訳的歌舞伎」は持っているし、「碁盤忠信」も観たが、表紙の役が碁盤忠信だったのは気づかなかった。 もう一枚の、狐忠信のような力紙のついた鬘をつけた写真を見て、葛西さんは「こっちは吉右衛門さんに似ている」と言った。

染模様の、愛之助と2人の白黒写真。ボーイズ゙ラブの人気が高まっていたから、という話。元の話は「蔦模様~」というタイトルだったが、調べてみたら「蔦」は話の内容には関係なく、最初に演じた役者の模様に過ぎないとわかったので、「染模様」に変え、愛之助の「愛」という文字も話の中の愛とかけて、タイトルの一部にした。
葛西さんに、「愛之助さんについて一言」と言われて、染五郎は「いつ結婚するんでしょうね」。現在噂のお相手に会ったことはないそうだ。

与兵衛の写真。上方の役を演じることについて聞かれて染五郎は「アクセントが正しければ良いというものでもないし・・・・」

葛西さんに、どんな上方役者を覚えているかと聞かれて、「延若さん」 。私が覚えているのは栄御前と沼津の平作だが、葛西さんによれば「鯉つかみ」その他、いろいろな役をやった人だそうだ。染五郎が「操り三番叟をさせていただいた」と言うと、「ああ、あれも河内屋のだしものですね。河内屋が今はいなくて淋しいですね」

河内山の写真。私は観なかったが、写真を見ると染五郎の河内山は仁左衛門と同じで綺麗ではあっても、目元に小悪党の邪悪さがあって面白そう。

伏見の富くじのときの、人形の小春といっしょの写真。小春は、八王子車人形の手法を使った。ライオンキングが使っているときいて、いつか使ってやろうと思っていたそうだ。葛西さんが「八王子車人形は東京の郷土芸能で・・・」と説明。
同じ役で、くず籠をかついで階段の前にいる写真。すごくバランスが良い格好で、染五郎は姿が良いとあらためて思った。この時の衣装はジーンズ生地を使ったそうだ。内野聖陽と共演したとき、内野の衣装の古びた具合が良かったので、それを参考にした。

砥辰の話も出た。野田版ではなく、オリジナルの砥辰を、あえて変えずにやった。
昨年2月の松竹座公演は、初日以降に売れたチケットの枚数が松竹座での新記録だったそうだ。公演が始まってから評判が高まって売れた、ということだろう。

お坊吉三の写真。染五郎はお嬢とお坊はやったが、和尚はやっていないそうだ。衣装の柄は「吉」という字がちりばめてあるもの。ちなみに、四谷怪談の直助権兵衛が最初に出てくるときの着物の柄は「薬」という字だそうだ。これは葛西さんも驚いていた。

富樫の写真。葛西さんが「Bで始まる役もやってもらわないとね」と言うと、染五郎は「ボーイズラブですか?」ととぼけた。葛西さんは、誰を相手にやりたいかとも聞いたが、染五郎としてはいろいろ考えていることがあるらしい。やるとしたら、本公演以外考えられないそうだ。本公演で、自分が考えているとおりにやりたいらしい。

先月の加賀見山と四谷怪談のチラシの写真。葛西さんが「伊右衛門がお岩を殺したと思ってる方が多いようですが・・・・」と言うと、染五郎は「一枚、二枚~と数える話だと思ってる方までいますから」。葛西さんは「今は、忠臣蔵と新撰組がごっちゃになってる若い人もいますからね」。
染五郎によると、伊右衛門は小物のくせにドーンとした存在感があって難しいらしい。幸四郎からは、無頼であること、と言われた。非常に気持ちが滅入る役だそうで、この役が好きだなんていう役者がいるとしたら信じられないと言う。夢の場の最後が火事になる演出もあるのだそうで、従来の仕掛けとは違うものを使って新しい四谷怪談をやってみたいという思いもある。

陰陽師の晴明の写真。野村萬斎と同じ衣装の写真だそうだ。晴明は顔に紫のコントロールカラーを塗った上に白塗りするそうだ。7月の伊右衛門で試したという。
葛西さんは「昭和26年にできた前の歌舞伎座の最初の新作が源氏物語だった。新しい歌舞伎座で最初の新作が陰陽師。その主役が染五郎さん、とプレッシャーをかけてみる」と言う。染五郎は「僕が主役をやります」とかっこつけて言った。

染五郎は新しい歌舞伎座で、最初に登場する役者だった。染五郎が言うには、歌舞伎座のさよなら公演は最後だということで様々な人が観に来て、いつものお客さんとは違っていた。だから、さよなら公演が始まったときに前の歌舞伎座は終わったと思っていたので、実際の最後のときは悲しいとは思わなかった。しかし、更地になったところを見て愕然とした。新しい歌舞伎座は果たして建つのだろうか、と。だから開場のときは嬉しかったから、ちょうどそこにいた米吉に抱きついて「嬉しいんだ、嬉しいんだ」と言った。

10月の国立公演。陣門・組討の馬が重過ぎるとかで、新しい装置にすることを幸四郎が検討しているそうだ。「鏡獅子の像がある国立劇場で鏡獅子を踊る」と葛西さんがまたプレッシャーをかける。染五郎が最初に鏡獅子を踊ったのは15歳のとき。たった一日の公演のために、二年間稽古した。衣装が重いので慣れるために砂袋を足に巻いたりして。女形をやるのが嫌い。

金太郎くんは、なんとかレンジャーのフィギュアを使って机の上で芝居をさせたりしている。「親の子だねえ」と葛西さん。妹がいるときは2人で刀をもってお芝居ごっこをしている。たいてい、金太郎の方が切られる役。

今のところは、大阪での公演の予定はない。

染五郎はプロデューサー的視点のある人なんだと感じた。 私は最近の染五郎の公演を観てきたし9月10月も観る予定だから、最近の舞台や今後の演目についてのきょうの話は大変興味深かったが、東京の舞台の話ばかりで、大阪のお客さんはどうなのだろう。観に来てる人はみんな染五郎のファンだから、劇場の場所は関係ないのだろうか。

至高の華 道成寺二題2013/08/09 23:01

2013年8月9日 大阪フェスティバルホール 午後6時開演 1階2列21番

「お話 道成寺縁起 絵とき」

道成寺住職の小野俊成さんによると、道成寺の舞台を観るのは仏様に手を合わせるのと同じで、道成寺を舞うのはお経を上げるのと同じだそうだ。きょう、梅若玄祥は大阪での舞い納めで、藤間勘十郎は初めて踊るという。
小野さんが、絵巻物「道成寺縁起」を台に置いて広げ、ときおり紙を巻いて新しい箇所を見せながらお話をしてくれる。雰囲気的には紙芝居のおじさん。小野さんは上手寄りにいて、真ん中のスクリーンに拡大した画が映るが、スクリーンは白黒。絵巻物はカラー。
初めてちゃんとお話を聞けて良かった。日高川が出てきて、ああ、ここから「日高川」という演目ができたのだ、と思った。

「長唄 京鹿子娘道成寺」

下手から種之助が「きいたかきいたか」と言いながら出てくる。「きいたぞきいたぞ」と続くのは米吉、廣松、梅丸。みんな袴姿だ。4人の役は「強力」。勘三郎が踊ったときに勘十郎と2人で作った演出だとプログラムに書いてある。

4人が正面を向いて並んで順に台詞を言う。私の正面あたりに梅丸が立っていた。廣松が綺麗になった。年頃だもんな。

白拍子役の勘十郎は下手から出てくる。着物が藤色で袴は紫と言って良いのか、よくわからないが、両方ともくすんだ地味目の色。

きょうは前過ぎて足先が見えないのが残念だが、繊細な指の動きがよく見えた。やわらかい上半身の動きと女らしい指の動き。決して細く長い指ではないのだが、美しい動きだ。時々聞こえる足拍子が良い。

途中で勘十郎がいなくなって、4人が踊る。4人とも踊りがうまい。

再登場の勘十郎は手ぬぐいを持っていて、恋の手習いを踊る。しなやかな動き。

鈴太鼓の踊りの後、白拍子は上手にある鐘の中に入って姿が見えなくなる。

しばらくして鐘の中から現われたときは白い着物に薄いグレーの袴。打杖を手にしている。

手を合わせた姿の4人の強力と打杖を持った白拍子の立ち回りがある。白拍子を真ん中に、4人が四角形を作るような形で囲むときもある。

最後は、白拍子は鐘の上に上り、打杖を持ち上げ、鱗模様の布を見せて決まる。強力たちはそれぞれ数珠を手にした形で決まる。

素踊りだから華やかさはないが、きびきびして若々しい道成寺だった。

「能 道成寺」

シテ 前シテ 白拍子、後シテ 蛇体 梅若玄祥
ワキ 道成寺の住僧 福王茂十郎、福王知登、喜多雅人
アイ 能力 茂山七五三、茂山逸平

能と歌舞伎の同演目を比較すると、今更ながら歌舞伎は娯楽性が高いものだと感じる。道成寺は三番叟よりも違いが大きい。能の道成寺は、きょう初めに聞いた「道成寺縁起」の娘の執念が終始前面に出ている。

「花のほかには松ばかり」という歌が能にもあるが、シテが自分で歌う。
白拍子が鐘に近づいて最後に烏帽子を外すのは歌舞伎と同じ。ただ歌舞伎のように上にかけるのではなく、下に落としていた。

鐘は、前の演目と同じものが同じ位置に置いてあり、白拍子はその中に姿を消す。梅若玄祥が鐘の下に立ったら後見の人が玄祥の身体を動かして位置を調節していた。面をつけていると正確な位置がわからないのだろう。

アイの逸平は初めから出ていたが、白拍子が隠れたら七五三が出てきた。顔も似ているが、体型が似ているのが印象的な親子だ。

白拍子は蛇体になって鐘の中から現われる。鱗模様の着物に変り、面も変る。打杖を手にしている。

住僧たちは悪霊退散というように、蛇体に向かって両手をすり合わせて数珠を鳴らす。結局、蛇体は力尽きて、橋掛かりに見立てた下手の方に静かに消えていく。蛇体の勝利宣言のように見える歌舞伎の最後とは全然違う。

この能を見て、前の演目の演出は能からとったものとわかった。強力は4人で数は違うが、住僧と同じく、打杖を持った蛇体と戦う。

傘寿記念 坂東竹三郎の会2013/08/10 17:31

2013年8月10日 国立文楽劇場 午前11時開演 6列34番

文楽劇場の一階でプログラムを千円で売っていたが、公演チケットを持っている人は2階の劇場に入ったときにタダでもらえる。

「夏姿女團七」

夏祭りのパロディで、團七縞のお梶〔猿之助〕という芸者が主役。義平次のかわりに継母のおとら〔竹三郎〕。

舞台も両国橋とか浜町など、江戸の設定。「すてきに駆けたから」のような江戸の言葉が出てきたりする。

磯之丞〔隼人〕と琴浦〔千壽〕は料理屋に匿われている。隼人は出てきたときの見た目は福岡貢のような良い男だけど磯之丞は大丈夫かと思っていたが、ちょっとナヨッとして優しげな雰囲気が磯之丞そのもの。演じようと努力してる感じもしない、ごく自然体の磯之丞だった。「甲斐なきわが身が」で一斉に「よろづやっ」と声がかかった。
千壽は前に琴浦やったことあるし、余裕。女中お松は段之。
店先に来た老女が、琴浦が実は妾腹の姫君で自分は乳人だと言い、出立をせき立てる。
話をきいていたお梶〔猿之助〕が奥から登場。團七が着ているオレンジ色の格子柄の着物を着ている。猿之助は久しぶりに見る。気のせいか貫禄がついたみたいだ。やっぱり女形の猿之助は良いなあ。
乳人というのが実は継母のおとら〔竹三郎〕だったので追い払うのだが、おとらが「やかましいわい」と開き直るのが見もの。

琴浦に横恋慕している大島佐賀右衛門の役は松之助。松之助だったらやったことありそうな役だが、夏祭りとは台詞が違うようで、最初の方の台詞が入っていなかった。

琴浦を釣船三婦のもとに逃がした後、お梶が帰ろうとすると、一寸お辰〔壱太郎〕に呼び止められる。
お辰は一寸徳兵衛が着ている團七と色違いの水色の格子柄の着物を着ている。二人で制札を持って達引をするのは團七と徳兵衛と同じ。ここに駆けつけて二人の間に割ってはいるのが釣船三婦〔男女蔵〕。「木からは落ちない猿之助と二番とは下がらない壱太郎が・・・・この三婦がオメず臆せずかけつけたからには・・・・」のように役者の名前を盛り込んだ台詞を言う。左團次の三婦を観たことがあるが、男女蔵も三婦を持ち役にするのだろうか。けっこう合ってると思った。
三婦は二人に白刃で決着をつけろと言い、佐賀右衛門に脇差を借りる。その脇差をお梶が見て、盗まれたものであることを確認する。実は二人の達引はこのために仕組まれたものだった。


最後の浜町河岸は夏祭りの長町裏と同じ設定。下手に井戸がある。お梶はおとらに磯之丞を隠した場所を聞くが教えないので,石ころを手ぬぐいに包んで懐に入れ、ここに30両あるからと騙す。二人とも肌は見せないしドロドロにもならない。團七が「おとこの、生きづらをー」というところはお梶が「私のこの顔をー」と言う。
殺しの後、團七には所作がたくさんあるが、お梶は一回くらい。それも、着物を着たままではあまり見栄えがしないと思った。
井戸で水を汲んで血を洗い、震える手で必死に刀を鞘におさめ、ワッショイワッショイとやってきた神輿について行く人の腰から手ぬぐいを取る。

神輿について踊りながら引っ込むのではなく、花道七三で立ち止まって「悪い人でも義理ある親。かかさん、許してくださんせえなあ」と拝み、かぶった手ぬぐいの端を咥えて、「おもだかやっ」「よだいめっ」と声がかかる中、足早に引っ込む。

「四谷怪談」

仁左衛門の伊右衛門を観るために、この公演を観に来た。仁左衛門が伊右衛門を演じたのは私が歌舞伎を観始める前の年で、以来三十年演じていない。写真集の中の伊右衛門は孝夫の役の中でも最高の美しさで、生で観たいとずっと願っていたのに直助権兵衛しか観られず、私は仁左衛門の伊右衛門を観ないままで死ぬのかと半ば絶望していた。

念願かなって観られた仁左衛門の伊右衛門。これこそ本物の伊右衛門だ。

最初の「浪宅の場」で傘張りをしている伊右衛門の顔を見たときは、もっと若いときに見たかったと思った。しかし、質ぐさを物色して赤ん坊の着物をとり、蚊帳をはずして抱え、止めるお岩をいたぶって肩を踏んづけて出かけていくあたりは、やっぱり孝夫ならでは。
こんな切れ味の鋭さを、私はどうしても他の伊右衛門役者に感じられなかった。
お岩が死んだ後で戻ってきた伊右衛門は、小仏小平、お梅、伊藤喜兵衛、と次々に人を斬る。このあたりになると、与兵衛、源五兵衛、大学之助と続く仁左衛門の人殺しシリーズを思い出す。おととい、染五郎のトークを聞いたときは、仁左衛門が三十年も伊右衛門を再演しなかったのは、気が滅入る役だからなのかと思ったが、きょう観た限りでは、そうでもないように感じた。

竹三郎は仁左衛門といつも息が合っている共演者なので、お岩が竹三郎で良かったと思う。先月の菊之助のお岩もうまかったのだが、竹三郎だと、もっと上級で、「大人だな」という感じがする。

孝太郎の役は隠亡堀の最後のだんまりに出るおたかだけだった。
最後のだんまりでは、竹三郎は佐藤与茂七の役で出た。


四谷怪談が終わり、終了のアナウンスもあったので外に出たら、中から拍手が聞こえたので慌てて戻った。竹三郎が幕の外で挨拶した。「仁左衛門さん、孝太郎さん、猿之助さんに出ていただいて、かくも賑々しく会を開くことができてありがとうございました。命の続く限りがんばります。皆さん、歌舞伎を愛してください」というような内容を、ときおり拍手に遮られながら言った。

挑む2013/08/22 22:27

2013年8月22日 日本橋劇場 午後5時半開演 1階2列2番

尾上松也の自主公演「​挑​む​」​は​、初回から観​た​い​​と​思​っ​ていたのだがなかなか都合がつかず、今回やっと観ることができた​。​もう5回目だそうだ。
​最​初​に​、​國​矢​​、​左​字​郎​​、​音​一​朗​​が​通​路​か​ら出てきて​舞​台​に​上​が​り​、​幕の前でス​ー​ツ​姿​で​話​し​た。三人のうち​國​矢はよく知っている。左​字​郎は顔立ちがどことなく亀治郎に似ている人。​音​一​朗は今風の可愛い顔でもてそうな男。

長唄​「​助​六​」

上野不忍華舞台で愛之助が常磐津の助六を踊ったのを観たことがある。やはり素踊りで、助六の傘と尺八と印篭だけ持っていた。きょうの松也は傘だけ。はじめに歌だけが流れていて、そこに傘で顔をかくした助六が出てくるのは同じ。
顔がよく見える席だったからかもしれないが、終始難しい顔をして踊っているのが気になった。松也はいい男なのに、かっこ良さを感じなかった。踊りのうまい下手は関係なく、舞台に出たからには愛之助みたいに自信たっぷりに踊った方が良い思う。

​​幕​間​の​後​、​次​の​幕​が​始​ま​る​前​に​松​也​が​花​道​七​三​に​立​っ​て​​挨​拶。つま先が少し開いたスリッパみたいなのを履いていた。次の演目の説明をした後、プレゼントの抽​選​があった。私の座席と舞台の間のスペースにプレゼントがおいてあった。コーヒーのセット、シャンプー、鰹節、海苔など。松也が、半券の入った箱に手を入れて選んだのを取り出し、席番を読み上げる。当たった人は後でロビーで引き換えるシステムだ。花道近くの人が当たったせいか、サイン入りポスターだけは、松也が持って行って直接渡していた。

​「​三​人​吉​三​」大川端庚申塚の場

夜鷹のおとせは​徳​松​。たしか、「瞼の母」でも夜鷹やってたな。11月も同じ役やるだろうか。お​嬢吉三は​左​字​郎​。きれいなお嬢さん風の声が急に男になるときの落差が凄い。「月もおぼろに白魚の~」の台詞もうまかった。​音​一​朗​​の​お​坊​、​國​矢​​の​和​尚​がニンに合っていた。

​「​身​替​座​禅​」​

​松​也​​の​右京が凄く良かった。可​愛​い​顔​が​演​目​の​明​る​さ​に​マ​ッ​チ​し​て​い​て​、​終​始​楽​し​か​っ​た​​。台詞がうまいだけでなく、表情豊か。やりたかった役なんだろうと思う。
亀​三​郎の玉の井は、亀治郎の右京相手だと大人しすぎる印象だったが、松也が相手だと、可愛い年下亭主に惚れ込んでいる嫉妬深い年上妻という感じになって、この演目にぴったり。
二人とも口跡が良くて気持ち良い。亀三郎は、主人に怒られるから奥方と変わったりできない、と言う太郎冠者の言葉を聞いて「ふーん」と言う、その響きが可笑しくて客がずいぶん笑った。あそこであんなに可笑しい玉の井は初めて観たかも。

右京が喜びいさんで出かけて行くところは松也の若い色気が生きた。花道より外の席だったので、戻って来た時の表情はよくわからなかった。花道七三のすぐ横の席だったので、右京の所作のときに長袴の先が隣りの席を叩いた。空席だったが、あそこに座ると袴の先で叩かれるんだろう。

花子との逢瀬を語る場面は、勘三郎や勘九郎のように踊りで勝負はできないが、愛嬌は十分。元々女形なので、花子の部分を女らしく踊れるのが松也の強みかと思う。

着物を被っていたのが玉の井とわかってびっくりする顔、逃げようとする様子も面白かった。
今まで松也の右京なんて考えたこともなかったが、こうして見せられると、なるほど説得力がある。また観たい。

​國​矢は右京の後見で活躍。しかし​國​矢の踊りが観たかった。
「挑む」は舞踊中心の公演と勝手に思い込んでいたのだが、違った。
本公演ではできない役をやってみるような、こういう自主公演を観るのは楽しい。