国立劇場10月歌舞伎公演観劇とアフタートーク2013/10/14 03:52

2013年10月12日 国立劇場 午後12時開演 1階13列3番

「一谷嫩軍記」

陣門・組討の小次郎と敦盛は染五郎、熊谷が幸四郎。
最初に出て来たのが小次郎で次に馬に乗って来たのが敦盛らしいが、意識してなくて違いがわからなかった。
お姫様のような綺麗な白馬に乗って、後ろに赤地に白い花模様の幌をなびかせて出て行ったのが敦盛だろう。熊谷陣屋の筋を知っていると、敦盛が首を切られたときにハテナと思うのだが、そこははっきり説明していないもののようだ。

熊谷陣屋は何度も観たが、きょうのように花道の外側から観たのは初めてだ。
途中うとうとした時もあったが最後の方はしっかり目が覚めていた。幕が閉まって、熊谷の引っ込み。後ろの方から太鼓と鉦(?)の音が聞こえる。幸四郎はいつもながら良い声で、「夢だ、夢だ」の最後の「だ」は高い音になる。

アフタートークで司会の河村さんが、この引っ込みに感動したと言った。戦いの音が聞こえると出家した熊谷が一瞬武士の心に戻るが、そこの表現がソフトだったそうだ。幸四郎は、何度もやって、心の方は深くなって形は大げさではなくなってのでは、というようなことを言っていた。

「春興鏡獅子」

染五郎の弥生は、御殿勤めの女小姓というより芸者が踊っているような感じがして、それが私には面白かった。染五郎は、綺麗に化粧した女優の男版のような人だと思っているが、そのイメージ通りの踊りだった。弥生の踊りはうまい下手に関係なく退屈で長く感じることもあるのだが、今回は全くそんなことはなく、夢中で見ていたのであっという間だった。
花道を引っ込むときはずっと上手側に顔を向けたままなので、内心「こっち向いてーーーー」と叫びながら見送った。

弥生が引っ込むと、お目当ての、胡蝶。金太郎と團子だ。金太郎の踊りは何度か観たことがあるが、團子ははじめてだ。

2人が台に乗って出てくる。下手で、こちらを向いているのが團子。頬がふっくらして可愛らしい。金太郎は顎が細くて顔が小さい。

團子の踊りは、まあ普通。でも首を傾げる時の表情が可愛くて、役者として良い資質の子だと感じた。

獅子の姿の染五郎は背が高くてかっこ良い獅子だった。後ろから見ると盛り上がった白い鬣が長く伸びて綺麗だった。すっぽんのあたりで一回強く足を踏み鳴らしたのが印象的だった。

胡蝶も頑張るし、大きな拍手の中で幕になった。

前回歌舞伎座で踊ったのも観たが、今回の方が良かった。前回胡蝶だった梅丸が今月は熊谷陣屋で四天王の一人に出ている。子供の成長は早い。

「アフタートーク」

去年の11月は染五郎が怪我で出なくて幸四郎一人だったが、今年は2人そろった。司会は去年と同じ河村さん。真ん中に幸四郎、上手が染五郎。

幸四郎が昔先輩にいろいろ教わった話では、去年もきいた、歌右衛門に毎日ダメ出しされたという話が何度聞いても面白い。「照暁ちゃん、照暁ちゃん」と、こういう手つきで呼ばれて・・・・と。
十代の頃に木の芽会という勉強会をやっていた頃まわりにいた人たちは昔の名優たちを見て来た人ばかりで、その人達に仕込まれた。團十郎の弟子だったのが破門されて利根川金十郎という名前にした人は、挨拶に行くと、幸四郎の母方の祖父の実家が萬屋という芝居茶屋をやっていたので「なんだ、萬屋の孫かい」と言われる、そんな感じだった。
父は自分では何も教えてくれなかった。人のを見て覚えろという感じで、手取り足取り教えてもらったことはない。で、父の前でやってみせると「ダメ」という。理不尽。
母は何でもよく知っていて、いろいろ教わった。

染五郎。 陣門・組討の小次郎と敦盛の話。筋書に敦盛実は小次郎と書いてあるわけではない。演じるときは敦盛の気持ちで出ていく。
鏡獅子の弥生は大変。毛振りは巴に振るのが難しい。

幸四郎。 染五郎が鏡獅子を十代の時にやったときは楽屋で一日だけ先代の松緑に見てもらった。そのときに「高麗屋にも弥生を踊る子が出たね」と言われた。杖をついていて、それがほとんど最後の言葉だった。
今の猿翁が團子の時代、弟の萬之助(吉右衛門)と三人で「車引き」をやった。

染五郎。 金太郎は勉強の方はあんまり。芝居の方が好き。
テレビの特集を見た河村さんが「妹さんの方はいつもあんな感じですか」と質問。テレビに映ったところは特に個性が出ているところらしいが、でも大体あんな感じらしい。家族の中で彼女だけ血液型がB型だそうだ。他の三人はAB型。ちなみに、今月の鏡獅子の三人はAB型。

河村さんが、去年から今年にかけて歌舞伎界でいろいろな人が亡くなったという話題をふる。幸四郎は、最初に喜太夫さん、清太夫さん、筝曲の川瀬白秋さんの名をあげた。その後、歌舞伎役者で、「なつおくん」、勘三郎さん。

振り返ってみると去年の10月は歌舞伎座で幸四郎と團十郎が昼夜役替わりで勧進帳を演じたのを観た。翌月は国立で幸四郎のアフタートークを見て、その翌月の国立の研修発表会のときは勘三郎が亡くなった少し後で、吉右衛門は先代の勘三郎の話をしていた。年が明けて二月に團十郎が亡くなった。

染五郎は、自分たちがいるから歌舞伎の将来は心配ないと言った。

最後に、゛2人がそれぞれ出した本について。染五郎は「超訳的歌舞伎」について、歌舞伎はいろいろと不思議なことがあって、役者として自分が不思議と感じていることを書いた、というようなことを言っていた。五月に与三郎をやったときも、全身真っ白に塗って傷を描いて舞台に出て、それが仕事という・・・・。

2人ともお互いの話に割り込まなかったが、このときには幸四郎が「今の話をきいて、お客さんがみんな引いたよ」と突っ込んだ。

全部で40分以上は話していたと思う。二人いたせいか、去年より楽しかった。

歌舞伎座こけら落とし芸術祭十月大歌舞伎 夜2013/10/31 14:17

2013年10月24日 歌舞伎座 午後4時15分開演 1階14列35番

後ろの方の通路際、舞台から遠いが邪魔になるものはない。

「木の実・小金吾討死」

この演目と次の「すし屋」は巡業で観たときがほとんどパーフェクトな配役だったので、今回は梅枝の小金吾はどうだろうか、右腕の調子が悪くて、この後の舞台はしばらく休む仁左衛門はどんなもんかという点に注目。

梅枝の小金吾は予想通りうまい。台詞も動きも完成度が高い。特に立ち回りは、踊りのうまい人はやっぱり綺麗だと思う。
長身で強そうなので、愛之助の小金吾より用心棒としては頼りになりそうだが、愛之助のように可愛くはない。愛之助の小金吾は前髪の少年らしい愛らしい姿で、あんな年で大勢の討手を一人で相手にして死ぬのは哀れだと思わせたが、梅枝はそんな同情は拒否するような凛とした小金吾だ。
愛之助は「男の子」だったが梅枝は女形という感じか。

仁左衛門の権太はいつも通り良く、右腕が持ち上がらないと聞いていたが右手はけっこう使っていて、それでも懐に入れていることが多かった。左手でどんぐりを投げ、小せんの茶店の長椅子を片づけるときは左腕で抱え込むようにして、器用に片づけていた。善太をおぶう時にも左手だけで支えていた。大きな人なので片腕でもどうにかなるようだ。

「すし屋」

時蔵が悪いわけではないが、維盛は松竹座で観た染五郎の貴公子ぶりが忘れられない。この役は女形がやることが多いが、自分にとっては染五郎を超える維盛は今後ないだろう。

孝太郎のお里は何十年も娘をやっているように見える。うまいが、もう少しみずみずしさがないと、弥助実は維盛の話をきいて傷ついても可哀想だと思えない。

竹三郎の母は、「ゴンタロウが来た」と中から喜びいさんで出てきて、しかし本人に向きあうほんの少し前に厳しい顔に変わるのが、母の本音と建前をのぞかせて表現力がある。

仁左衛門はいつもながら、おかしみのあるところで笑わせ、悲しいところで泣かせて、絶妙。しばらく舞台は観られないのかと、幕が閉まる前に顔を目に焼き付けておいた。

「川連法眼館」

菊五郎の忠信は前に一度観たことがある。菊五郎はうまい人なので、この役も無難にこなす。欄干を跳び越えて下に着地するような筋肉力のいるものは流石にやらず、欄干から飛び降りていた。
猿之助の型とは違って、私の好きな欄間抜けなどはないが、ケレンに感動しなくなった自分が嫌で四の切はしばらく観たくない私にとっては、あんまり刺激のないこちらの型がかえって良かった。