片岡愛之助 スペシャルトーク&ディナー2014/07/01 12:12

2014年6月30日 グランドホテル浜松 2階 鳳の間

司会は新潟のときと同じ中井美穂。着てるものも同じだ。愛之助の方も、この前と違うスーツかもしれないが、五大陸の三つ揃い。

やはりまだ半沢の話。愛之助の出演する場面は、あまり多くはないと言う。DVDをもらったので見るには見たが、自分の演技はあまり見たくないタイプ。
股間をつかむのは男だから痛さがわかるので思いっきりぎゅっとつかむのはためらうが、演出の人は思いっきりやってくださいと言った。

黒崎をやってから悪役の話がよく来る。仮面ライダーに悪役で出る。歌舞伎鑑賞教室のときに客席が小学校のときがあって、その子達が身を乗り出して熱心に見てくれたので、仮面ライダーに出れば小学生が親しみを持ってくれると思った。今の仮面ライダーは、悪役も仮面ライダー。
中井「ライダーの衣装をつけた後は、声だけですよね」
愛之助「それはいえません」

中井「出演については、松竹に相談するんですか」
愛之助「しません。仮面ライダーは東映ですし」


楳図 かずお監督の映画「マザー」。会場の後ろの壁にポスターが貼ってある。楳図マンガのテイストを持ったホラーなのだそうだ。撮影中はわからなかったが、できあがったらちゃんとホラーになっていた。愛之助はこの2日間ずっとマスメディア相手にマザーの宣伝をしてきたが、彼らのうち誰も気づいていなかったことがあるという。実は主人公の心理状態によって、ボーダー柄の幅の広さが違う。
楳図 かずおは音楽の造詣が深く、映画で使う音楽も、自分でどんどん決める。ピアノのコンサートもやっているらしい。

「愛之助」という名前について。子供のときは十三代目仁左衛門の本名千代之助から「千代」をもらい、子供なので丸をつけて千代丸だったが、19になってもう大人なので大人の名前にしたほうが良いといわれ、片岡家に良い名前があるといわれて「愛之助」になったが、19の自分には「愛」というのは女の子みたいで恥ずかしかった。もちろん口にはできなかったが。


博多座の歌舞伎の話。「双蝶々曲輪日記」の長吉と与五郎。上方の二枚目は力と金がないが、なぜか女にもてる、という話。「鯉つかみ」の鯉。鯉の着ぐるみが上っていく途中で鯉の皮だけ下に落ちるのだが、あれは中の愛之助が手で持っていて、手を離して落としていたのだそうだ。

この後の舞台の予定は「炎立つ」。清衡役だそうだ。いわゆる時代劇の髪型、衣装ではない、斬新な演出らしい。明日、1日から稽古の予定だったが本ができてなくて3日からになった。「酒と女とジキルとハイド」のときは優香が初舞台だったので、いつもは遅い三谷こうきが、初めて初日から原稿をあげてきた。

10月は松竹座。「GOEMON」の話。スペシャルゲストはまだ秘密。

最後は質疑応答。
問 乗っている車の種類は?
答 カイエン。色はマットブラック。東京と大阪を車で移動するので速い車がいい。
(きょうは自動車会社の団体さんが主なお客様らしい)

問 子役をしていて淋しくはなかったか。
答 お父さんが他の子供たちと触れ合わせるために松竹芸能の子役募集に応募させたことから、歌舞伎にスカウトされた話をして、「淋しくなかった」が答えだった。

ゲームについての話もあった。

今回のトークショーは愛之助の後援会でチケットを買ったが、両隣りが関東在住の後援会の人だった。そのお一人が、今年は歌舞伎に出る機会が少なかったが、来年の予定はどうか、と聞いてくれた。
来年は1月が「鴈治郎襲名」で、2月はシスティナ・・・・・・・・と何月は何月は、とあげて、結局、9ヶ月、歌舞伎だそうだ。普通に考えて「鴈治郎襲名」に一座することが多いだろう。

チケット番号の抽選があり、色紙と、マザーのポスターが当たった人たちがいた。

愛之助が去った後、中井美穂は、「愛之助さんは手をふる厨房の方たちにも「お世話になります」とご挨拶してらっしゃいました」と、活動を応援する言葉を発していた。


ここは昔風の格式あるホテルの雰囲気があるところだが、ホテルの入り口にホテルで働いている人たち全員が並んで見送ってくれた。こんなことは初めてで、ダウントンアビーの貴族にでもなったような気分だった。

七月大歌舞伎 昼の部 初日2014/07/08 02:38

2014年7月5日 歌舞伎座 午前11時開演 1階15列15番

歌舞伎座を入るときから、報道の人や警備の人が目についたので誰かセレブが観に来るのだろうと思った。席についてしばらくしたら周りが拍手し始めたのでいっしょに拍手していたら、安倍首相一行が入って来た。私の横あたりで少し立ち止まって客席の人に手を振っていた。安倍さんの後ろにはケネディ駐日大使が続いていた。昔、少女フレンドで「キャロリン日記」というのを読んでいた世代なので、本物のキャロラインちゃんを見られて嬉しかった。

「正札附根元草摺」

五郎の右近と舞鶴の笑三郎。右近は川口のときは休演だったが復活して良かった。動きの切れはまだ完全に復活していないように思う。

「夏祭浪花鑑」

夏祭の幕開きはいつも住吉大社の鳥居前だったが、きょうは、お座敷。「お鯛茶屋の場」という。磯之丞(門之助)がいつもの着物の上にばか殿のガウンみたいなのを羽織って出て来て、それはすぐに脱ぐ。
お梶(吉弥)が出て来て、磯之丞を連れ戻すために一芝居打たせた徳兵衛(猿弥)に金と着物を与える。これが、次の場でお梶が団七と徳兵衛の喧嘩を止めたときに、徳兵衛に気づいて「お前は~」と言う台詞の前提になるわけだ。

住吉鳥居前の場では、三婦(左團次)、お梶と市松が出てくる。可愛い市松。お梶と市松がお参りに行っている間に上手から出てくる釈放された団七(海老蔵)。

三婦は団七を髪結床にやり、髪結に着替えを渡そうとするが、着替えの褌を忘れたことに気づく。ここで、自分の締めているおろしたての赤褌を髪結(國矢)に引っ張らせてとらせるのが見せ場だが、きょうは、三婦と髪結が長いのれんの向こうにすっぽりと隠れて、台詞しか聞こえなかったので狐につままれたような気分。出て来て花道を引き揚げるときはいつもの動きだった。

髪結でさっぱりした団七が現れ、徳兵衛に呼び止められる。自分が今までに見た徳兵衛は仁左衛門とか錦之助とか獅童のような二枚目系が多かったので、猿弥の徳兵衛は違和感があった。しかし、次の幕で二人が色違いの浴衣を着て花道から出てくるとき、揚幕の後ろから声が聞こえるが、猿弥の方がうまく、比べると海老蔵の台詞はどことなく間が抜けている。

三婦の家にお辰(玉三郎)がやってくる。前に玉三郎のお辰を観たときも三婦は左團次だった。もう四半世紀前になるのだ。玉三郎は出だしはもたもたした感じだったが、しり上がりに良くなって、花道で胸を叩くところはかっこよかった。

そして、いよいよ、きょう一番注目している中車の義平次の登場となる。腰をかがめて少し左右に揺れながら花道を歩いて行く後ろ姿が目に焼き付く。声は、特にはじめのうち、年寄りにしては可愛すぎる印象だった。笠をとって顔が見えると場内が沸く。海老蔵の団七と今にもキスしそうなくらい顔をくっつけて睨み合ったり、相手の大げさな芸風を互いにしっかりと受け止めていて、演技がかみ合って面白い。「暑いなあ~」と何度もいうところや、「若いくせに物忘れ」のあたりで笑いが起きていた。斬られた後、舞台の前の方の穴に落ち、泥水でびっしょりになって戻って来て、ふらふらの義平次が団七の髪を後ろから引っ張る姿が面白い。海老蔵は所作がうまいわけではないが、美しい姿がどろどろの中車と対称的で引き立った。長町裏の場は期待通りの盛り上がり。

団七が神輿について踊りながら花道を引っ込むところで終わりではなく、団七内の場と、屋根上の立ち回りの場がつく。

片岡愛之助トークショー2014/07/09 21:15

2014年7月7日 横浜ロイヤルパークホテル 席番7-3

元々は大きなテーブルがいくつも並んだレイアウトだったが連絡があってレイアウトが変わった。私は一人のテーブルでゆったり見られた。トーク開始は7時半の予定だったが、「皆さん、お集まりも良さそうなので・・・」と7時20分開始になった。

愛之助はきょうは羽織袴だった。風邪なのか、少し鼻声。司会は小林さんという若い女性。「愛之助さんとおよびしていいですか」「片岡さんなんて、病院でしか呼ばれませんから」

きょうは七夕ということで、短冊に願いを書くとしたら何か、と聞かれて「
寝たい」。かけた目覚ましより早く目が覚めるタイプで、最近はだんだん目覚める時刻が早くなっているという。

他の歌舞伎役者たちとよく飲みにいったりすると思われるかもしれないが、歌舞伎は自分の出番が終わるとどんどん帰るので、あまりみんなで飲みに行ったりしない。

仮面ライダーの映画に悪役で出る。子供のときはウルトラマン派と仮面ライダー派がいたが、自分は仮面ライダー派なので嬉しい。国立劇場の鑑賞教室で「毛抜」をやったとき、小学生が一番熱心に見てくれた。仮面ライダーに出ていた人が歌舞伎をやったら子どもが歌舞伎に親しみを持ってくれるのではないかと思う。

「ここでしか聞けない歌舞伎の話はないですか」
最近はいたって平和。昔は舞台の上でイタズラをしたこともあるようだ。障子を開けたら箱が積んであって中に入れないとか。

東京には国立の研修生制度があるが、関西にはないので、上方歌舞伎塾で募集を始めた。 稽古を見ているのが勉強になる。平成若衆
千次郎は子役から出ていたので上達が速い。正座がつらくてやめたいという人もいた。

半沢に出たのは「ジャパニーズアメリカン」と「私は貝になりたい」の福澤監督に声をかけられたから。 撮る時間はないと思ったのだが、たまたま、六月は歌舞伎座の三部制のうちの一部にしか出ていなくて、七月は昼夜のうちの片方しか出ていなかったので、時間ができた。
女形やってたからオネエも普通ということはない。役作りでは弟子の愛一郎を参考にした。愛一郎はオネエではないのですが(と三回言って)、女形をやっていてそのやわらかい動きが参考になる。

愛一郎が登壇。41歳。 将来は老けをやりたい。 おかやとか。

愛之助は映画「マザー」に出る。楳図 かずおとは体格が全然違うので無理と思ったが、楳図 かずおという役を演じてくれればいいから、ということで引き受けた。二日連続の取材で自分は机に座ったまま入れ替わり立ち代り来る記者に同じことをしゃべり続けた。しかし、一人も気づいてなかったことがある。マザーの主人公が来ているボーダー柄はやる気になっているときは幅が広くなる。いくつも衣装が用意されていた。場面と場面のつながりを非常に大事にする映像の世界で、着ているものが変わるのは不思議だった。

「炎立つ」は時代劇の鬘や衣装はつけず、洋服でも和服でもないような衣装なので、シェイクスピア劇のような雰囲気になるかも。

ここまでのトークは一般向きという印象だったが、客席からの質疑応答に入ったら、質問がすべて歌舞伎関連だった。

質問1 仁左衛門がやった役、たとえば「すし屋」の権太のような役をやってほしい。

答え
権太はやったことがある。東京の役者がやると粋になるが、元々の上方の権太は「ごんたくれ」という言葉の元になったような役。浅草がやったとき、弥助の役で出ていた七之助が「やくざみたいですね」と言った。

質問2 巡業について

答え
巡業は3コースあって、日本の各地を回る。花道の長さが違うので演奏する人や役者がそれに合わせるのは大変。 すごく響く劇場でふつうの声でセリフを言うと何言ってるかわからなくなるようなところもある。一番困るのはお風呂場がないこと。足までおしろいを塗るので。出前がないところもある。移動日があるわけではなく、終わったらすぐ荷物を片付けて移動する。

質問3 上方役者としての10年後の自分はどうなってるか

答え
歌舞伎座で毎月歌舞伎をやっている。新しい歌舞伎座のニュースもあって、歌舞伎というと東京の歌舞伎座が思い浮かぶだろうが、歌舞伎は400年前に京都で始まった。松竹座、南座など、関西のどこかで毎月歌舞伎の公演ができるようになることを望んでいる。

席の番号で当たるプレゼントは、愛之助がCMをやっている資生堂の化粧下地だった。きょうは、初めから資生堂のヘアケア製品が全員のお土産として配ってあった。

市川猿之助特別舞踊公演2014/07/09 21:19

2014年7月9日 浅草公会堂 午後4時半開始 2階つ列20番

見晴らしが良い席だ。

「吉原雀」
素踊りだ。笑也の素踊りを観るのは初めてだと思う。「古典芸能の今」の初回あたりの猿之助は素踊りのときの顔が野良犬みたいだったが、今は端正になった。いつもながら指先の動きが素敵。
黒御簾の方から傳左衛門の「よおぉ」という声が聞こえた。

「座談」

舞台中央に置かれた二つの床几。「本日はお足下のお悪い中~」と猿之助が挨拶した後、上手に猿之助、下手に笑也が座って座談が始まった。きょうは午前の部もあったので、同じことを話してもあれだし~、と猿之助。午前中は一般家庭出身の笑也がどうやって歌舞伎役者になったか、その手続きについての話だったとか。

国立の研修所について。年齢制限は原則として23までだが、例外もある。25歳で入った人もいる。

猿之助 立役と女形、両方の修行をしないと相手役がつとまらない。猿翁は難しい相手か 

笑也 合わせてくれるが、一度、中日劇場のヤマトタケルで当時の児太郎の代役をやったとき、芝居の後で「笑也さん、ダメ出しがあります」というので師匠のところへ聞きに行ったら、明石の浜で二人がキスするシーンがあるが、「顔があの角度じゃ吸えないだろう」と言われた。「吸えない」のところで二人でプッと噴き出した。

猿之助が芝翫に聞いた話。女形は普通、立役よりも後ろで台詞を言う。しかし揚巻が意休に言葉をかけるとき、芝翫は意休よりも少し前で台詞を言った。揚巻が後ろにいると意休はそちらを向かなければならず、客席に横顔を見せることになる。少し前にいた方が意休は正面を向いたままでかっこよく見えるから。
仮名手本忠臣蔵六段目、勘平がお軽を呼び戻すところも、普通に抱き合ってはいけない。女形をどう綺麗に見せるか、立役をどうかっこよく見せるか、そういう格好をする。

猿之助 猿翁はスーパー歌舞伎のとき、役について、「あの芝居のあの役のようにやってくれ」というように指示する。その役を知らないと「バカだねぇ」で終わってしまう。自分はなんでも知ってるから。

笑也 師匠は「わからなかったら聞けばいいんだよ。知らないのに聞かないのがいけない」というので、ある時、聞きにいったら、「そんなのは常識だ!」と怒られた。

猿之助 女形をやるとき現実の女の人を参考にしますか、と聞かれることがあるが、はっきり言ってなんの参考にもなりません。女形と女性、立役と男性は、全く別の生き物だと思ってください。
どうすれば女らしく見えますか、とか聞かれる。そんなものは「ない」と答えたいところだがそういうと話が終わってしまうので。
写真に写るときは斜め45度で。

笑也 スーパーで、鏡の後ろを通ってむこうに行く場面があって、そのとき、金田龍之介に言われた。背中が男だと。油断するとそうなる。
普通は、女形を演じるときは、肩甲骨を、貝殻骨をくっつけて、肩を落として、こうするんです、と説明するが、実はそうすると、肩が動かせない。実際は胸郭を前につき出すようにすると肩が動く。

猿之助 紙を一枚膝に挟んで歩く修行なんて、本当にするんですか、都市伝説じゃないんですか

笑也 研修所では一応やった

猿之助 あんなに膝くっつけて歩いたらかえっておかしな歩きになる

笑也 ただ、歩幅を大きくしない、ということを心掛ければいい

自分を指さす仕方が、年齢によって違う。娘のときは、手の甲を自分の方に向けて、手を反らして自分を指さす。年増になると手の平を自分の方に向けて自分を指さし、老女になると手を顔の目の前に持ってきて指さす。笑也が先にやったが、後でやった猿之助の指先が綺麗だった。

猿之助が死んだ宗十郎に教わったこと。男を知らない生娘と、それ以外の演じ分けについて。「今はそんな恥じらいはないでしょうけど、昔は、生娘は恥ずかしくて男の顔をまともに見られない。胸あたりを見ている」

猿之助 笑也さんは今でもお姫様の役をやる

笑也 お姫様、つまらないんですよー、しどころがなくて。動かなくてすんでいいですね、と言われますが、動かなくていいんじゃなくて、動いちゃいけないんです

化粧について。鬢付油を下に塗ってから化粧をする。冬は水溶きの白粉が冷たい。お湯では溶けない。笑也は自分で首の後ろにも塗る。
猿之助  腕が上がらなくなると困りますね
笑也  それが、あったんですよ、上がらないことが。そういう年齢の方はおわかりだと思いますが
猿之助 ナントカ肩ですね

笑也 化粧を名題さんに教わった。京屋のきょうか(京葭?)さん。鼻は、鼻筋だけ立てちゃいけないと言われた。馬みたいでしょ、と。脇の方から立てる。
猿之助 あんまり鼻筋を立てすぎると、「天皇陛下の馬じゃないんだから」と言われたりする

猿之助が「きょう初めて歌舞伎観る方」と客席に問いかけると、後ろの方に一人いたようだ。
猿之助 いいですね。いろいろ説明する必要なくて。初めての方は、隣りの方に訊いてください。

二人の座談の後、段一郎が「吉野山」について説明。「義経千本桜」は三大義太夫狂言の一つ、という基本的な話から、「鳥居前」で佐藤忠信が静たちを助け。それで義経が忠信に初音の鼓を託し、静の護衛を頼んだ、しかし実は忠信は狐で、初音の鼓が両親の皮でできていたから、という流れがよくわかった。「初音の鼓」は狐忠信の母の皮かと思っていたが両親の皮だったのか。段一郎はもっとクールな感じの人かと思っていた。

「吉野山」
今度は2人とも拵えをして踊る。
静の笑也は綺麗だ。二人が雛の形になると拍手が湧き、「ご両人」という声がかかった。「思いぞいずる壇ノ浦~」に始まる踊りが一番の見せ場で、「待ってました」と声が掛かった。最後は二人が舞台中央にいて、終わり。藤太は出ないし、忠信が蝶につられて狐の本性を表したり、笠を投げたりするところはないし、花道の引っ込みもない。
高くジャンプしたり、鼓にツツツーと近づいたり、猿之助の踊りはうまいと思うが、どうもこの踊りは、私が好きな系統の猿之助の踊りではないようで、何度見ても感動しない。

松竹大歌舞伎 平成26年度 巡業 東コース2014/07/16 01:12

2014年7月15日 北とぴあ さくらホール 午後5時開演 2階I列29番

北とぴあは初めて行ったが王子駅から外に出ないで行ける。チケット代金は1000円。近頃珍しく安いチケットだ。

「角力場」

米吉は芸者の役。可愛くて安定しているが、出番は短い。
私の大好きな与五郎役は種之助。「夏祭」の磯之丞のように、またつっころばしをがんばっている。難しいだろうに。踊りがうまいせいか、クネクネした感じの動きもおかしくない。茶店の主人役の吉之助のお世辞に乗って「これもあげましょな~」といろいろ上げてしまうのが面白い。吉右衛門の濡髪が隣りにすわると大きさが凄く違うので、濡髪は相撲取りらしく、与五郎は若旦那らしく見える。とても可愛い与五郎だった。

長吉の歌昇は、本当のお相撲さんのようなかすれ気味の声だった。最初の場よりも贔屓からもらった派手な着物を着て再登場してからの方が良い。華やかな色の着物がよく似合う。濡髪の話を聞きながらしつけ糸を抜いたり、もらった扇子で濡髪のように貫禄のある感じであおいでみたりして、贔屓からもらった品物を楽しんでいる様子がよくわかる。いかにも若者らしく初々しい。濡髪に言い返すあたりの熱血漢の感じ、濡髪の真似をして手で割ろうとした茶碗が割れなくてこっそり刀に打ち付けて壊したりするような負けず嫌いで子供っぽい感じ、どちらも歌昇に合っている。わかりやすい演技だと思う。吉右衛門と相対するような役ができるようになって喜ばしい。個人的には今まで見た長吉の中で一番好きだ。

「口上」

この巡業は又五郎、歌昇の襲名の最後なのだ。いつもながら「親戚」という言葉が頻出する口上。種之助もずっと口上をやっているせいか口上がうまくなった。

「傾城反魂香」

主人公に共感できなくて嫌いな演目なのだが、又五郎が芝居も所作もうまいのでうんざりしないで観られた。

隼人の修理之助は錦之助に声が似て来て台詞が安定した。姿かたち、動きが綺麗で、おとくが修理之助の話をしている後ろでうなずいている感じが良かった。雅楽之助は錦之助で、隼人が水を差し出したり背中をなでたりして、親子共演。

芝雀のおとくと又五郎の又平は可愛い夫婦。芝雀のおとくはいつも優しそうで情がある感じだが、相手が又五郎だと姉さん女房的世話女房の雰囲気が加味される。同い年だそうだが。

又五郎はもらった着物を着ながらどうだという風に見せたりするのが可愛くて、最後の幕外の引っ込みで夫婦が手をとりあって行くのもほほえましかった。