吉例顔見世大歌舞伎 初世松本白鸚三十三回忌追善2014/11/01 23:32

2014年11月1日 歌舞伎座 午後4時半開演 1階14列26番

「鈴ヶ森」

白井権八役の菊之助は瑞々しく美しい。とても似合う役だ。

幡随院長兵衛の松緑。高麗屋型で、「おわけえの、またっせえやし」と言う。「鼻の高いのが五代目」「恰幅が良い八代目が俺のおじき」と、長兵衛の台詞に入れごとがある。台詞がなかなか良かった。

だんまりの立ち回りが長い。全体的にはのんびりした立ち回りだが、籠かきのトンボが面白かった。籠を横にしてトンボでその中に入り、もう一人がその上を跳び越える。

「勧進帳」

染五郎初役の弁慶。花道に出て来たときの期待の拍手がすごかった。良くも悪くも染五郎らしい弁慶。見た目は大きく立派で、美しい弁慶。勧進帳の読み上げの最後の「敬って申す」あたりは、染五郎としては限界まで頑張って声を出していた。言葉が聞き取りやすい。

教えたのは幸四郎だろうから、富樫と弁慶の台詞まわしが同じで、二人いるのに一人芝居みたいだと思うところもあった。しかしそう思って見ているうちに、吉右衛門そっくりに聞こえてきたりして不思議。

四天王を止めているあたりの早口の台詞になると、元々の声質のせいで弁慶としては軽い感じがする。

吉右衛門の義経は弁慶より偉い人なのがはっきりわかって、静かに控えているときの存在感が凄く、とても良かった。ちょっと苦手な役者だが、「頼朝の死」の頼家とか、義経みたいに高い声を出す役のときは好きだ。

四天王から後見にいたるまで、周りの役者たちが染五郎をしっかり支えていた。

15年くらい前に浅草で新之助初役の弁慶を観たときは最初から最後まで心の中で頑張れ頑張れと言い続けていたが、それより20も年長の染五郎の場合は、できて当たり前と落ち着いて観られた。

今まで忘れていたが、私が初めて歌舞伎を観たのが30年前の11月だった。国立劇場で、「ひらかな盛衰記」を観た。染五郎と丑之助は、そのとき逆櫓の遠見の船頭だった。今月は菊之助が白井権八で出て、あのとき松右衛門とお筆をやった幸四郎と菊五郎も一座していて感慨深い。

「すしや」

江戸っ子の権太。菊五郎の権太はテレビで観たことはあるが、舞台を観るのは初めてだ。愛之助がトークショーで江戸と上方の「すしや」の違いを説明するときに、「江戸の権太は粋で」とよく言っているが、菊五郎だと、本当にその通り。

吉右衛門で観たときに、上方型よりサラッとした印象を受けたが、今回も同じだ。鍵を持っている父は出かけていると聞いて、コチコチで開けましょうという前に言う「しゃーないガキやな」という台詞はない。お里の「寝るぞえ寝るぞえ」もない。

父が権太を刺すときに後ろから刺すとか、維盛たちを呼ぶ善太の笛を母に吹いてもらうとかは知っていたが、今回気づいたこと以外にもいろいろ細かい違いはあるのだろう。

幕あきにいるお里役の梅枝が、とてもきれいだった。維盛役の時蔵と、親子で「これ、お里、今帰った」と練習するのも面白い。若葉の内侍と六代が来て事情を知り、嘆くところの所作がさすがに梅枝で見応えがあった。

元々品がある時蔵なので、維盛はぴったり。

権太の父弥左衛門は左團次。この人のこの台詞を何度聞いたかな~と思うくらい弥左衛門といえば左團次。
母おくらの右之助もよかった。弥左衛門が、首が入っていると思った樽を差し出したときに、権太にやった金が入った樽と思って「それにはわたしの大事なものが入っている」と言うのが可笑しかった。

梶原景時は幸四郎。見た目が立派で知的な雰囲気があり、権太が「梶原ほどの侍が」と言うのが納得できる。

梶原の臣の役は亀寿、萬太郎、巳之助、隼人。亀寿、萬太郎と台詞が続くと、二人とも美声だなあ、と感心する。隼人は、権太のところに羽織を持っていく役だった。

明治座十一月花形歌舞伎 昼の部2014/11/26 17:08

2014年11月22日 午前11時開演 2階3列29番

「高時」

初めて観た。タイトルから想像して小難しい歴史ものかと思っていたら、幕開き、輿の上に犬が座っている。置物かと思っていたら、上手から仔犬が二匹出てきて、そしたら動いた。着ぐるみだった。

後半も、烏天狗がたくさん出てきて跳んだり踊ったりして楽しかった。

「夏姿女團七」

去年、竹三郎の会でやったときよりは全体に派手で贅沢。
初めに芸者が数人花道に並ぶのも去年はなかったろう。秀太郎が夜の部に出ているので千壽とりき弥が芸者で出ている。

この芝居は浜町が舞台で、明治座は浜町にあるから、「やかましいわい!」で始まるおとら(竹三郎)のみあらわしの台詞に馬喰町、横山町、浜町、薬研堀などの地名が出ると受ける。

一寸お辰は徳兵衛にあたる役で、春猿はブルー系の浴衣がよく似合って綺麗だった。

お梶(猿之助)がおとらを殺す場面は七月の海老蔵と中車の團七・義平次を頭の中によみがえらせながら見た。二人で顔を見合わせるところも七月に負けずに思い切り近寄っている。40の年齢差のある女形二人ががっぶり四つに組んで大熱演。ショー的な面白さではなくて演技で魅せる猿之助を見ると、亀治郎が戻って来たようで嬉しくなった。

最後はザーザー降りの雨の下での立ち回りがあり、その後、一人になった猿之助は井戸の水を桶で何杯か被ってずぶ濡れになる。ワッショイワッショイの神輿がやって来て、その一人の手拭いをとって被り、踊りながら引っ込む。

明治座花形舞踊公演 11/27 昼の部2014/11/28 02:12

2014年11月27日 午後1時開演 2階1列10番

「種蒔三番叟」

後見の國矢と蔦之助が上手、下手でお辞儀をしているところに、千歳の勘十郎、三番叟の猿之助の順で下手揚幕から出てくる。素踊り。
勘十郎の三番叟の踊りが好きなので、役を逆にしたバージョンも観たいと思ったが、勘十郎のやわらかい動きは見ていてとても心地よい。触ったらふわふわしていそう。
猿之助の踊りは全体的に良かったが、特に、身支度の一連の所作が凄いと思った。袴をはいて、次に刀を一本ずつ差して、のような踊りは前に見たことがなかった。

「汐汲」

海女の役の市川ぼたんは拵えをして桶をかついですっぽんから上がって来る。
私が観る舞踊はほとんど歌舞伎なので男性が踊る。肩から二の腕にかけて非力な感じがしたのはぼたんが女だからかもしれない。

「阿古屋三曲筝責め」

「趣向の華」でも勘十郎がこれをやったことがあるが、今回は着物の上に紫の薄物を羽織って出てきて、より阿古屋らしい雰囲気を出し、曲と曲の間に後見の國矢に紫の薄物を広げて持たせて踊ったりした。
玉三郎の阿古屋のときでも胡弓の演奏が一番好きだが、勘十郎のときも同じだ。

「鯉つかみ」

去年の五月に明治座で観た愛之助の「鯉つかみ」。今回は一階前方席にビニールが配られている様子はなく、水を使う気配はない。どうするのかと思っていたら、鯉つかみの場では、後ろに置いた屏風や横に伸ばした水色の布、何人もの踊り手が布晒しをすることで水を表現していた。

傅次郎の打つ、船弁慶の知盛の引っ込みのときのようなテンポの速い太鼓にのって、鯉の精(菊之丞)がさっと現れる。銀色のうろこ模様の着物と、両手に持った銀色の扇。踊っているうちに、他の人たちの影に隠れて茶色い着物の滝窓志賀之助に早変わりする。

最後は、鯉をやっつけた志賀之助が花道から六方で引っ込んだ。

休憩時間にロビーにいたら、「趣向の華」のときにお母さんに抱かれていた勘十郎の息子さんが、きょうは立っていた。つかまり立ちの時期なのかもしれない。

明治座花形舞踊公演 11/27 夜の部2014/11/28 15:16

2014年11月27日 午後5時半開演 1階2列4番

昼の部は少し押したようだがそれでも夜の部開始までに一時間以上あったので、近いことはわかっているが実際の位置関係がわからなかった水天宮駅のあたりまで歩いてみた。片道10分程度だった。

「音草紙童絵日記」

上 大和楽 おちょぼ
下 長唄 丁稚

勘十郎の新作舞踊だそうだ。
おちょぼ役の花柳喜衛文華、丁稚役の花柳大日翠、どちらもうまかった。
番頭役の菊之丞と丁稚役の花柳大日翠との、下駄のタップダンスが面白かった。

「菊慈童」

花柳芳次郎の踊り。扇の使い方が綺麗だと思った。

「玉兎」

鷹之資の踊り。こういう体型の子が踊ると可愛い。歌舞伎を観始めた頃、当時の勘九郎の玉兎を観たことを思い出した。あのときは何も考えずに見ていたが、勘九郎にぴったりの踊りで、うまかったろうなと今更思う。

「吉野山」

これも素踊り。勘十郎の静が花道を出てくる。背中に荷物をしばって、杖と傘を持っている。昼に続いてやわらかいマシュマロのような踊り。
静は舞台で鼓を打つ。鼓はうまいのに自分で打ってはいなかった。
すっぽんから上がって来る猿之助の忠信。何度も観ているが素踊りだと新鮮。

雛の形になるところなど、二人とも可愛かった。初共演だそうだが、とても合っている。

最後は二人で舞台で決まって終わり。忠信の引っ込みはない。

「女鳴神」

鳴神尼は團十郎の娘のぼたん、雲絶間之助は菊之丞。菊之丞は左肩に着物をかけて出てくる。白雲尼は大日翠、黒雲尼は喜衛文華。

上手の台の上に鳴神尼がいて、下手には岩山、中央後ろには注連縄がかかっていて、舞台の構成も鳴神通り。

絶間之助が白雲尼、黒雲尼のリクエストに応じて亡き妻とのなれそめの話をし、気絶した鳴神尼に口移しで水を飲ませるところがあり、鳴神尼の命令で使いに出される白雲尼、黒雲尼の二人が花道で、二人きりで置いていったらどうなることかみたいな話をするのも鳴神と似ている。
しかし、その後、鳴神尼が「あなたは○○さまではありませんか」みたいなことを言って、鳴神尼は絶間之助を知っている様子。結局、鳴神が雲絶間の胸に手を入れるようなクライマックスシーンはない。だから、つまらなかった。

酔った鳴神尼と絶間之助が二人で岩屋に行く。上手から屏風が動いて来て二人を隠す。
その後、絶間之助が一人で出てくる。

目が覚めた鳴神尼の形相が変わっていて怒りの場面になる。鳴神尼が花道に出て行くと佐久間玄蕃役の勘十郎が太い竹を手にして押し戻しのような形で出てくる。

最後は舞台の上で三段の上の鳴神尼と、太刀を頭上にかかげた佐久間玄蕃が並び、上に紅葉が飾ってあるし、たしか鳴神尼が枝を手にしていたので、紅葉狩り風(?)のエンディングだった。