十月大歌舞伎 夜の部2015/10/06 23:39

2015年10月6日 歌舞伎座 午後4時半開演 2階3列14番

「阿古屋」

きょうは睡眠十分だし、劇場の温度もちょうど良くて体調が良いせいか、退屈なイメージがあったこの芝居だが、けっこう楽しめた。きょうの席は障害物なく玉三郎の姿が見えてとても良かった。

重忠が登場した瞬間、菊之助もけっこう男っぽくなったと思った。玉三郎の舞台には、こういう透明感のある重忠も似合うかもしれない。

玉三郎は、いつもながら衣装も含めて、その動きがすべて美しい。階段の上に倒れているときも、衣装の先、帯の先がちょうど段と重なり、階段より上にある身体と階段上にある部分のバランスがとれ、左右もちょうど同じくらい空いていて、完璧な絵になっている。

岩永(亀三郎)に向かって「あはははは」と笑ってからの悪態は「雪と炭」というフレーズもあって、揚巻を思い出す。

琴を弾きながらの玉三郎の歌や、胡弓のときに岩永が真似をするのも、もう何度も観ているのだが面白かった。胡弓は最後がスイッという感じの音で終わるのが面白い。

最後、下手から榛沢(功一)、阿古屋、重忠、岩永の四人の形が絵になる。

「髪結新三」

松緑の新三は台詞がダメで、親分役の團蔵とのやり取りは聞き取りにくくて内容が頭に入らず、もう寝ようかと思った。しかし、親分に強く出るあたりから盛り返し、大家(左團次)とのやり取りは文句なしに面白く、台詞も全く気にならなかった。狐につままれたような顔で並べた小判を眺めている顔が可愛い。コミカルな役に向いてるのか?
だから、今月はこの幕の楽しい雰囲気のままで終わりにした方がいい。帰ろうとする客を引き留めて最後の幕が始まると、また松緑の台詞がダメでゲンナリする。

お熊役の梅枝は出てくるときの首の振り方が大きい。顔が大きく、衣装の色のせいもあるのか、一人浮きたって目立つ。役不足とも思うが、梅枝がこんな小娘の役をやるのはほんの一時のことだろうから、ありがたく鑑賞した。
お熊と恋仲の忠七の役は時蔵。

左近がまた丁稚の役で出た。大した台詞はないが、「早くおいでよう」と新三を引っ張るのがほほえましい。
仲人の加賀谷藤兵衛の役で仁左衛門、カツオ売りの役で菊五郎が出る。仁左衛門は年齢的にぴったり、出て来ただけで嬉しい。カツオ売りは菊五郎がするような役ではないが、どうせならもっと若いときに見たかった。

スーパー歌舞伎II ワンピース2015/10/08 23:29

2015年10月8日 新橋演舞場 午前11時開演 1階6列27番

第一幕

私は少女漫画脳で、漫画の「ワンピース」は1巻しか読まなかった。

開幕前、舞台の上にルフィの人形が置いてあって、写真をとっている人が多かった。

開演後は、後ろの幕にそのシルエットが映り、それが動き出す。漫画のフォントの縦書きの台詞が映って、漫画ファンとしては心躍る幕開きだ。ほんの短い間だが七之助の語りが入る。最初の場面は奴隷市場。

花道から麦わらの一味が出て来たが、ナミ役の春猿は声ですぐにわかった。ショッキングピンクの着物に黒地の帯を傾城のように前に垂らした個性的な格好で、声も個性的なのでキャラが立っている。もう一人の女、ニコ・ロビンは、こういう感じの女の人いるけど、はて、誰がやってるのかしら?という感じで、ずっとわからなかった。笑也だった。 隼人(サンジ)、巳之助(ゾロ)はわかった。役者の名前はわからないが、髪に歌舞伎のような力紙をつけて、暫の権五郎がつけてる四角い座布団みたいのを両肘につけているキャラがいた。フランキー?

エジプトの輿のようなのに載って出て来た、透明なヘルメットをかぶった人は、声で欣也とわかった。世界貴族チャルロスの役だ。うまい人がこういう役をやると芝居が引き締まる。

ルフィ(猿之助)が登場し、NHKのニュースで見た、左右の人の手をつなげて長く見せる踊りをやる。

麦わらの一味は高いところに勢揃いして一人一人名乗りを上げる。そこへ行く階段が定式幕の色だ。チョッパーはチョッパーの人形を持った人が声を出していて、人形を落とすと、大きくなったチョッパーが階段から階段返しで現れる。

ルフィは吹き飛ばされてアマゾン・リリーという女だけの島に着く。そこの女帝ハンコック役も猿之助。あまりの美しさに侍女たちが失神するのは、ゴマをすっているのかと思ったが、設定としてはそうではないらしい。ハンコックとルフィの早変わりがある。

ニョン婆の笑三郎、マリーゴールドの笑也、サンダーソニアの春猿がそろう。ここの笑也はわかった。

ハンコックは人を石にする力がある怖い女帝だが、ルフィに恋煩いして、ルフィが「ありがとう」と言ったのを「アイシテル」と勝手に脳内変換する面白いキャラで、ルフィよりも猿之助らしい役。

ルフィはエース(福士誠治)を助けに行くことにする。

一幕最後のハンコックは、大きな衣装と冠の間から顔だけ出しているような、紅白の小林幸子のような雰囲気だった。

正面奥の西洋的な絵と、その脇の葛飾北斎の波の絵がよく調和していた。


第二幕

ルフィはエースを助けるために監獄に来た。ここで看守と戦うが、看守の制服が裃なのがいい。
ここで現れる旧友のおかま、ボン・クレー(巳之助)。ピンクのラメの横じまが入った服を着ている。この芝居の中で最高に目立っているキャラで、巳之助が熱演。

囚人で、角のあるアバロ・ピサロが寿猿。監獄署長マゼラン(男女蔵)の毒にやられてルフィは瀕死状態になり、そこに革命戦士イナズマ(隼人)と、オカマのイワンコフ(浅野和之)が現れて、ルフィとボン・クレーを、壁の向こうのニューカマーランドに連れて行く。
ニューカマーランドのシーンはロングドレスの女たち、腰元の着物の丈をミニにしたようなのを着ているメイド風の女たちが踊って華やかだ。ロングドレスの踊りは「くるみ割り人形」のアラビアのような雰囲気。澤瀉のお馴染みの女形さんが踊っているが、みんなうまいもんだ。

ルフィはイワンコフの「ホルホルの実」の治療で復活。エースのいる監獄を目指す。

幕の外で、隼人が看守たちと立ち回りをする。幕が開くと天井の方まである階段を本水が流れ落ちていて、隼人、巳之助が流水の階段を上ったり、水の中に飛び込んで暴れる。前方の席の人たちはビニールを広げていた。

巳之助が花道を引っ込むとき、看守のバック転が見ごたえあった。

ルフィはエースのいる監獄にたどり着いたが、エースは既に海軍本部に移送された後だったので、ルフィは波を乗り越えて海軍本部に向かう。ということで、宙乗りになる。

波乗り板の上にのっている格好で宙乗り。歌と手拍子が入り、猿之助の口も動いていた。花道から三階上手に向かっての斜めの宙乗りで、私の席からだと、波乗りしている人を海中から見ているような角度になる。板を少し傾けて身体を前傾させた姿勢での宙乗り、高所恐怖症の人には無理、と思いながら見守った。

無条件で舞台に引きこまれた幕だった。

第三幕

最後の幕はつまらなかった。途中、ハンコックが出て来たので盛り返すかと期待したが、ダメだった。

白ひげ(右近)は、手負いの知盛のような格好で登場する。しかしスーパー歌舞伎の台詞では迫力に欠ける。
大参謀つるの門之助は、英国貴公子風の洋服の上に灰色と黒の着物を羽織り、髪型は白髪の老女、という不思議な格好だ。

赤犬(嘉島典俊)とエースとの赤い大きな旗を使った立ち回りや、役の名は忘れたが、誰かがコードにつかまって舞台から客席上をぐるりと飛び、客席に紙吹雪が降る、という見せ場はあった。
舞台で福士誠治が二枚目役をやるのを初めて観た。今までは個性的な役だった。二枚目は素のままだが、立ち回りはチャレンジだったと思う。

楽しみにしていた竹三郎のベラドンナはかなり最後の方でやっと出て来た。バタ臭い顔立ちで洋装が似合う。

この幕全体を通じての愛情、友情話に鼻白む思いがした。

最後は、ルフィを中心に麦わらの一味が乗った船が出てきて、それはまあ、楽しかった。

第16回 研修発表会2015/10/27 23:25

2015年10月24日 国立劇場大劇場 午後6時開演

「お楽しみ座談会」

下手に司会の葛西聖司、その隣から梅玉、鴈治郎、壱太郎、松江、東蔵、魁春の順に座っていた。
壱太郎は「伊勢音頭」に出るのは今回のお紺が初めて、一座したこともないので観た回数も少ないと言うのを聞いて、私が浪花花形で「伊勢音頭」を観たのはもう10年近く前で、当時壱太郎は中学か高校か、と考えた。
東蔵はお鹿役をやったことがあるのに、女形のお鹿を習った方が良いからということで松江は田之助に習いに行った、というのが興味深かった。

「伊勢音頭」

お紺の梅丸をよく見るために、上手前方の席に座りなおした。

万次郎、お岸のやりとりのあたりはちょっと辛い。千野(蝶紫)が出てきて、おお、プロが出てきた、と感じた。
貢役は亀鶴。亀鶴を知ったのは浪花花形で見た林平だった。貢としてどこが下手とかはわからないが、あまり魅力を感じなかった。去年の研修会で見た「引窓」の与兵衛みたいに、やる役者によってそれぞれ違う魅力が出て面白い役とは違って、役者自身に客を惹きつける魅力がないと魅力を感じない役なのか。前に愛之助が、貢は難しい役と言っていたが、技術的な問題だけではないのかもしれない。

万野(鴈乃助)は、色っぽくてなかなか良かった。

お鹿は、典型的な面白い顔。あらためて見ると、芝居のキーになる役で出番も多いし、とってもいい役だ。

さて、お紺。顔が可愛いのはもちろんだが、台詞や所作が終始しっかりしていた。声がだんだん安定してきたようだ。

東京国際映画祭 歌舞伎座スペシャルナイト2015/10/28 01:13

2015年10月26日 歌舞伎座 午後5時半開演 1階8列8番

玄関前の赤い敷物を踏んで歌舞伎座に入り、名刺大のチケットを見せ、お弁当を受け取ってから席に着いた。桟敷にはインタナショナルが美女が着物姿で並んでいる。客席には外人も多く、いつもとは客層が9割くらい違う。

男女の進行係が定式幕の前で演目の説明をした後、「雨の五郎」の幕が開いた。小鼓は傳左衛門。愛之助の五郎はカラミの若い者二人と組んだ形で舞台後方からせりあがってきた。愛之助の「雨の五郎」は巡業で何回か観たが後ろの方の席ばかりだったので、きょうは近くでよく見られて嬉しい。席が花道に近かったので、花道での見得で寄せた目もはっきり見えた。若い者二人は花道の上でもトンボを返り、一人がもう一人の上を飛び越えたりして、迫力があった。

その後30分休憩で、お弁当を食べた。真ん中に大きな紅い葉っぱがのった、秋らしいお弁当だった。客席の外人たちも、皆お箸でお弁当を食べていた。

次は、サムライ賞の受賞式。山田洋次、続いてジョン・ウーが花道を歩いて出てきた。ジョン・ウーを祝って大友啓史監督、山田洋次を祝って吉永小百合が舞台に登場。有名人を見られて嬉しい。

最後は、黒澤明監督の「虎の尾を踏む男達」。1945年9月に作られたが、GHQの検閲にひっかかって上映できなかったが、数年後、そのGHQ内の日本文化に造詣が深い人たちの尽力によって上映できるようになった作品だそうだ。
榎本健一が強力の役で出る。主役と言っていいと思う。弁慶は大河内伝次郎。エノケンは有名な人だが、じっくり見たのは初めてだ。個性的な顔立ちで、小柄。すごくうまい人だと思う。強力のセリフが面白いのに、英語の字幕ではただ意味を伝えるだけになってしまって、言葉の持つニュアンスや雰囲気がすっかり失われている。
義経一行が安宅の関にさしかかる前から話が始まっていて、強力が山伏に化けた一行の前で、「義経一行は山伏に化けているそうだ、そして人数は・・・・」と言うあたりのカット割りが漫画のコマ割りのようでわかりやすくて面白かった。
大河内伝次郎は子供の頃、この人の声帯模写をよく聞いた。それと同じしゃべり方なので、すぐわかる。安宅の関に着いた後は、勧進帳の読み上げとか、葛桶のフタで酒を飲むシーンとかがあるので、歌舞伎の勧進帳を知っていた方が見ていて楽しいと思う。この映画の弁慶は延年の舞は舞わず、強力に踊らせる。エノケンがめちゃくちゃな踊りを踊る。
富樫は藤田進で、朴訥なしゃべり方とにこやかな表情から、田舎のまじめな官吏という感じがする。
強力が酔って寝ている間に一行は去って行って、起きた強力が山道を六方風にとびあるいて、エンドとなる。