市川海老蔵 GRAND JAPAN THEATER2016/02/08 23:40

2016年2月1日 オーチャードホール 午後4時開演 1階2列26番

オーチャードホールはバレエを観に来ることがほとんどだが、きょうは古典芸能。

一 狂言 「三番三」

三番叟は逸平が一番好きだ。土の香りがする。観るのはきょうで三度目だが、松羽目で拵えもしているのはきょうが初めて。
大鼓は亀井広忠。

二 能 「土蜘蛛」

シテは観世喜正、頼光は梅若紀彰、胡蝶は川口晃平。
この演目は歌舞伎でもよく寝るし、能は演目を問わずシテが出てくると寝てしまいがちの自分としては不思議にずっと起きていた。
面をつけた女が現れたとき、能の、「観念としての女」なんだろうと思い、ちょっと能に慣れてきたような気がした。
歌舞伎でもそうだが、この演目は演者が投げた蜘蛛の糸がパーッと広がるのが視覚的に美しい。歌舞伎のときは投げた糸を黒衣がくるくる巻いて片づけて行くが、能の場合は演者が自分で回収する。
広がった蜘蛛の糸が綺麗なだけでなく、土蜘蛛の肩のあたりに大きな蜘蛛の巣がかかっているのが面白い。

三 歌舞伎 「春興鏡獅子」

海老蔵の鏡獅子を観るのは襲名以来だ。海老蔵の弥生は、生真面目タイプだと思う。
胡蝶は福太郎と福之助の兄弟。福之助が兄に負けずしっかり踊っていたので感心した。

一度幕が閉まった後、また上がって、海老蔵と胡蝶二人のカーテンコールがあった。

藤間勘十郎 春秋座 花形舞踊公演2016/02/28 00:55

2016年2月27日 午前の部 11時~1時40分 午後の部 3時半~5時45分 いずれも2階、1、2列で鑑賞

午前の部

「種蒔三番叟」

一昨年、明治座でも観たのに、途中まで気が付かなかった。三番叟の猿之助が初めの方に花道の方へ行って踊るところの記憶がなかった。明治座のときは、「身支度の一連の所作が凄いと思った」と書いているのに、今回は、身支度の一連の所作であることにも気づかなかった。
その割には、猿之助の踊りを見るのは快楽だと感じ、これを観ただけでも京都に来た甲斐がある、と思っていた。
猿之助の鍛えぬいた筋肉対勘十郎のマシュマロのような柔らかさはいつも通り。この二人の組み合わせは大好きだ。

「浮世草紙湯殿賑」

三助が勘十郎、遊女が花柳凛、丁稚は岩本大輔という男の子で、あとは藤間流のお弟子さんたちだろう。
踊っている間に誰かの下駄が脱げたがそのまま踊り続け、最後は勘十郎が下駄を拾ってはけた。どうせなら両方脱いだ方が踊りやすいのではないかと思ったが、そういうわけにもいかないのか。ああいう場合はどうするのが正しいのだろう。

「流星」

牽牛が若柳吉蔵、織女が若柳佑輝子。若柳吉蔵は「黄金の夢」のときの弁慶の踊りがすごく良かったのでもっとたっぷり踊ってほしかったが、牽牛織女の踊りは短い。二人とも衣装は綺麗で、苧環を手にしている。
流星の勘十郎は中国風の模様の着物。四人家族を、それぞれの清元の声に合わせてお面を変えながら四人を踊り分けるのが普通だが、今回はお面なしで踊り分ける。女の役の方が良い。

流星の前までは10分の幕間だったが、ここで25分の幕間になったので春秋座を出て、京都造形芸術大学の卒業展を覗いた。

「蜘蛛の拍子舞」

3年ぶりで観る吉太朗が楽しみだったが、成長ぶりが期待以上だった。源頼光の役も思ったより大きくて、吉太朗、勘十郎、壱太郎の三人でずっと踊っていたので、私は吉太朗ばかり見ていた。
踊りは言うまでもないが、台詞も大人の声で堂に入っている。10代、20代、30代の三人で踊っていて、10代の吉太朗が全く見劣りしない。プログラムを見ると、きのう15歳になったばかり。それでこの完成度なんて、見たことがない。自分の内部に確固とした基準があって、それを目指して精進している人だと思う。
猿之助を見ていると、初めて見た9歳か10歳の頃から、30年努力し続けてきた結果があれなんだな、と思うが、吉太朗もあと二十年後、三十年後に、観客にそう思われてほしい。

午後の部

「二人椀久」

午後の部は「三社祭」が大本命で、あと二つはどうでも良かったのだが、意外に見応えがあって、見て良かったと思った。
富十郎の椀久は観たことがなかったし、私が今まで観たのは二枚目の椀久ばかりで、うまい椀久を初めて見た。勘十郎が踊ると、ドラマだけではなく、踊りそのものも魅力のある役なのだとわかる。
松山太夫の壱太郎は、大きな橋といっしょにせり上がってきた。私が見て来た「二人椀久」は大道具としては大木だったが、きょうは、この橋だ。
素踊りなので、壱太郎は袴の上に白い薄衣を打掛のように羽織っている。ショートヘアと、この衣装との組み合わせが、ボーイッシュな女のような壱太郎の魅力を引き立てていた。

「三社祭」

猿之助の方が年上なのに善玉で、悪玉を勘十郎に譲ったのは、きょうが勘十郎中心の公演だからか、と考えていたが、特に悪玉の方がたくさん踊るというわけでもなく、対等な主演に見えた。
初めの方は櫂を持った勘十郎の動きの方がよく、猿之助は網の扱いがうまくない感じで、やっぱり勘十郎の方が稽古十分なのかとも思ったが、後半に行くにつれて猿之助の動きの正確さと勘十郎の思い切りの良さの対比が面白くて見入ってしまった。ブルブルブルッと身体をふるわせるところは、肉が多い勘十郎の方がインパクトがあった。

「連獅子」

7時までに京都駅に着きたいから終了時間によってはこの踊りは観なくても良いと思っていたが、タイムテーブルを見たら5時45分終了で、どうにか間に合いそうだったので観ることにした。結果的に、観て良かった。

前シテ、袴姿で白獅子、赤獅子の頭をつけた布を肩にかけている。狂言師の拵えのときよりも獅子頭が目立って、綺麗だ。仔獅子役の鷹之資は、丁寧に踊っていた。
びっくりしたのは、間の宗論まで勘十郎と鷹之資が演じたこと。前シテで花道の引っ込みがあって間もなく、鷹之資が下手から数珠を持って舞台に出てきて、やがて勘十郎も。この二人は似通った体型のサイズ違いなので、勘十郎が後ろから鷹之資を脅かすところなど、ユーモラスだった。鷹之資も特に萎縮することなく伸び伸びとやっていて、超レアな組み合わせで楽しい宗論だった。
後シテで二人が出てくる前に、舞台後方にあった屏風の折り方が自動的に変わって、深山幽谷の絵から牡丹の絵になった。勘十郎と鷹之資は袴の上に唐織の能装束のようなものを着ていた。獅子の毛はなくて、毛振りはない代わりに、二人とも両手に扇を持ち、その振りと足拍子ですごく盛り上がって終わった。

午前も午後も大満足の公演だった。素踊りだが美術、衣装も素敵だった。