歌舞伎座百三十年 三月大歌舞伎 初日 昼の部2018/03/08 23:03

2018年3月3日 歌舞伎座 午前11時開演 1階4列14番

「国姓爺合戦」
舞台は唐の獅子ヶ城。これが近松門左衛門原作と聞くとびっくりするが、エキゾチックな話で観客の興味を惹こうとしたのだろう。城壁の後ろに立っている兵隊たちも、錦祥女(扇雀)の衣装も外国のもので、和藤内(愛之助)は押し戻しのような衣装。母親の秀太郎だけが和の着物。その着物をおかしいと言う次女たちの話が面白い。
話全体としては和藤内が主役なのだろうが、この幕は母親と、義理の娘の錦祥女をめぐる話だった。和藤内は荒事を見せる。花道で、愛之助の足の親指が上に反り返っているのが見えた。

「男女道成寺」
先代雀右衛門の追善。友右衛門が明石坊という役で口上を述べる。
所化は歌昇が先頭で、竹松、壱太郎、廣太郎、米吉、橋之助、男寅、と続く。

花子は雀右衛門、桜子実は狂言師左近は松緑。ありがたいことに、松緑の踊りがよく見える席だ。美人ではないが可愛い桜子。もう少し長く観ていたかった。

雀右衛門は踊りはうまくないが、一人で踊るパートは情感豊かで良かった。

松緑の撒いた手拭いの1つが足元に落ちたので拾った。

「芝浜革財布」
大きなくしゃみが聞こえて客が笑った。客の誰かのくしゃみかと思ったら政五郎役の芝翫だった。金杉橋の近くに勤めていたことがある。江戸時代はあんな場所だったか。

女房のおたつは、こういう役にはぴったりの孝太郎。松之助の納豆売りから納豆を買う。納豆売りは、藁苞を開いて中の納豆を取り出し、おたつが出した小鉢に入れ、そこにカラシもつける。

誘われて家に来て飲む友人たちは弥十郎、松江、橋之助、福之助。弥十郎と松江は自分の女房の惚気を言っていて、ずいぶん上品な飲み会。橋之助と福之助は成長した。

愛之助の部屋子になった愛三郎が丁稚の役で出る。政五郎が「愛坊のところに入った丁稚か」のように声をかけてくれる。

勘九郎・七之助 春暁特別公演 20182018/03/19 22:48

2018年3月18日 なかのZERO 午後3時半開演 2階7列31番

なかのZEROは、元同僚のバレエの発表会を見に毎年行くところだが、歌舞伎を観たのは初めてだ。花道も回り舞台もないが、歌舞伎の巡業でもやってくれると、近いので嬉しい。

「芸談」
 
フジテレビのアナウンサーが司会。きのう桜が開花したので、花見について。午前中は、大道具さん主催の花見の話を聞いたが、ご家族での花見の思い出はあるか、という質問。家族の花見の思い出はないそうだ。幕内の花見だと、予定した日に雨が降ったりしても大道具が桜を持って来るので困らないらしい。
この次は、咲いた桜から逃げるように北海道での公演。塩ジンギスカンがおいしい店があって、勘九郎は大河ドラマの役の都合で食事制限をしているが、塩ジンギスカンは絶対に食べに行く。
大河ドラマの役はマラソンランナーで、中学生のときから始まる。歌舞伎なら羽二重で引っ張るし化粧でどうにでもなるが、映像、それも4k。しかし、中学生に見せるコツを会得した。口角を上げて、目を大きく開ける。
年取ってからは、特殊メイクになる。
歌舞伎の化粧を落とすには、今、水クレンジングを使っている。そういう化粧品に詳しいのは新幸四郎。水クレンジングも幸四郎が教えてくれたが、実は七之助は知っていた。「エターナル近松」のときに短時間で拵えを変える必要があって使ったから。それを言ったら、幸四郎は「普段使ってないでしょ。僕の方が先」と言った。負けず嫌い。
きょうの演目の1つ「浦島」は、浦島太郎の話で、勘三郎の前で踊ってみせた時に、「それいいから、お前踊れ」と言われた。どういう教訓なのか、不思議がる勘九郎に、フジテレビのアナウンサーは、ある番組のために調査したところ、浦島太郎は実はハッピーエンドだった、と言う。乙姫が亀で、浦島は鶴で結ばれる話だったが、明治時代に教科書に載せるためかなんかの理由で太政官が後半を変えたのだそうだ。「すごいことしますね」と驚く兄弟。私もびっくりした。ということで、きょうの浦島は、最後は鶴になってもらえますか、とむちゃぶりをされていた。

客先からの質問。好きな酒について。勘九郎はハイボール。氷結ストロングが好き。七之助は特に好みはなく、シャンペン以外なら飲む。
全国を回っていると、ホテルで怪談のような経験はないか。そういう経験は、あるそうだ。
最後の質問に対し、勘九郎は欅坂46のファンで、欅坂46について熱心にしゃべった。

「鶴亀」
従者役の仲侍がうまかった。

「浦島」
2010年9月の錦秋特別公演で、当時の勘太郎が踊るのを観た。あの時と同じく、玉手箱を開けて老人の姿になってからの踊りが、腰をぐっと下ろした姿勢で、見ものだと思う。芸談のときのリクエストに応え、最後は鶴の羽ばたきのように腕を大きく動かしてくれた。

「枕獅子」
鏡獅子の原曲になっている作品だが、鏡獅子の方をよく知っていると、鏡獅子の女形バージョンという感じ。
七之助は黒地で左側が水色の打掛。衣装にはピンク、赤、黄色、黄緑、と色がたくさん使ってあるのにおかしくなくて、目を楽しませるものになっている。引き抜きがある。
差し金の蝶が二羽飛ぶ中で踊っている姿を見て、福助か時蔵でも観たことがあるのを思い出した。
獅子の姿になる前には、胡蝶ではなく禿二人が踊る。鶴松と國久。
七之助が獅子の姿になって出てきて3人でいっしょに踊る。最後の方は気振りがあって、七之助が最後に男になったような感じがした。

歌舞伎座百三十年 三月大歌舞伎 夜の部2018/03/25 20:03

2018年3月24日 歌舞伎座 午後4時半開演 1階14列12番

「お染の七役」

小梅莨屋の場
部屋の後ろに莨の葉が干してある。「岡崎」を観たときにもこうやって干して合って、あの時は莨の葉を刻む様子を見るまでは魚だと思っていた。
幕が開いてしばらく、土手のお六(玉三郎)と中間の三平(功一)が座ってしゃべる。綺麗な二人。
鬼門の喜兵衛(仁左衛門)は花道から出て来る。仁左衛門にぴったりの役なのに演じるのが41年ぶりとは。私が歌舞伎を観始めるずっと前ではないか。以前、玉三郎のお六で観たときは喜兵衛は團十郎だった。
莨を買いに来た嫁菜売り(橘太郎)が、髪結(亀蔵)に髪を直してもらいながら、傷をつけられた謝罪として油屋に袷と金をもらった話をする。そして、木綿物なら繕い物を請け負うというお六に袷と、着ていた羽織を預けていく。その着物を使って、桶の中の死人に着せ、油屋に連れて行って強請り、必要な百両を作ろうとする夫婦。桶の中の死人は丁稚の久太(吉太朗)で、死んだまま喜兵衛に帯を解かれる。帯を長く引っ張って決まる喜兵衛の姿を見た覚えがある。

油屋の場
夫婦の強請の場は十六夜清心を思い出すが、十六夜の方が若いせいかビッチ度が高い。お六は油屋(彦三郎)にしゃべるときは怖いが、旦那としゃべるときは女らしい。
錦之助演じる山家屋清兵衛が、死体はまだ死んでない、と言い、灸をすえさせる。昨日の嫁菜売が昨日の礼を言いに来る。自分の着物を着て倒れている死体を見て驚くが、死体は息を吹き返す。
吉太郎は息を吹き返して台詞を言い、花道でも黄色い布を使って一しきり所作をした。若い子が一生懸命やっている感じではなく役になり切っているのがすごい。歌舞伎座で、仁左衛門と玉三郎が出る人気の舞台で目立つ役をもらえてラッキーだ。
強請に失敗した夫婦は駕籠を担いで引き上げる。

「神田祭」
これはずいぶん前に一度観た。二人がいちゃいちゃする以外に何の内容もない演目だなと思ったが、今回の感想も同じ。綺麗な二人が寄り添ったり頬を寄せたり互いの着物を直したりするのをただうっとりと眺めていた。

「滝の白糸」
30年以上前に玉三郎と吉右衛門で観た。話は知っていると思っていたが細かいところは忘れている。
石動の茶屋の場では蚊帳の中で寝ているのが白糸(壱太郎)。太夫元が秀調、一座の先乗り新助は千次郎、春平は歌六、松三郎は亀蔵、桔梗は米吉。弟子のみどりが吉太朗。出刃打の南京寅吉が彦三郎。
水芸の舞台は楽しい。玉三郎の「はい」「はい」という声を覚えている。
村越欣也役の松也は、次の卯辰橋で登場する。
欣也に仕送りする金に困って強盗を働くことになる原因はこういうことだったのか、と再認識した。
法廷の場面は、玉三郎が背を向けて立っていたのと上の壇から吉右衛門が玉三郎に語りかけていたのが記憶にあるので、欣也は判事になったのだと思っていたが、検事なのだ。戦前の裁判制度で、検事も裁判官と並んで座っている。
白糸は被告だと思っていたが、これも違った。被告は南京寅吉で、強盗で起訴されている。そして、白糸から金を奪い、凶器とされる出刃はそのときに投げつけた、と主張している。白糸は証人で、金は盗られていない、と言う。南京寅吉役の彦三郎が、いつもと違う感じで面白かった。
ずっと黙って聞いていた欣也が、最後に白糸に向かって「待て」という声がいい。その後の台詞もなかなか聞かせた。言い聞かされて、金をとられたことを即座に認める白糸もいい。
欣也は席を立ち外に出て行って、間もなく銃声が聞こえ、法廷では白糸が舌を噛み切った。廷吏が欣也が自殺したと告げる。最後が短時間で片付くのが気持ちがいい。