歌舞伎座百三十年 三月大歌舞伎 夜の部2018/03/25 20:03

2018年3月24日 歌舞伎座 午後4時半開演 1階14列12番

「お染の七役」

小梅莨屋の場
部屋の後ろに莨の葉が干してある。「岡崎」を観たときにもこうやって干して合って、あの時は莨の葉を刻む様子を見るまでは魚だと思っていた。
幕が開いてしばらく、土手のお六(玉三郎)と中間の三平(功一)が座ってしゃべる。綺麗な二人。
鬼門の喜兵衛(仁左衛門)は花道から出て来る。仁左衛門にぴったりの役なのに演じるのが41年ぶりとは。私が歌舞伎を観始めるずっと前ではないか。以前、玉三郎のお六で観たときは喜兵衛は團十郎だった。
莨を買いに来た嫁菜売り(橘太郎)が、髪結(亀蔵)に髪を直してもらいながら、傷をつけられた謝罪として油屋に袷と金をもらった話をする。そして、木綿物なら繕い物を請け負うというお六に袷と、着ていた羽織を預けていく。その着物を使って、桶の中の死人に着せ、油屋に連れて行って強請り、必要な百両を作ろうとする夫婦。桶の中の死人は丁稚の久太(吉太朗)で、死んだまま喜兵衛に帯を解かれる。帯を長く引っ張って決まる喜兵衛の姿を見た覚えがある。

油屋の場
夫婦の強請の場は十六夜清心を思い出すが、十六夜の方が若いせいかビッチ度が高い。お六は油屋(彦三郎)にしゃべるときは怖いが、旦那としゃべるときは女らしい。
錦之助演じる山家屋清兵衛が、死体はまだ死んでない、と言い、灸をすえさせる。昨日の嫁菜売が昨日の礼を言いに来る。自分の着物を着て倒れている死体を見て驚くが、死体は息を吹き返す。
吉太郎は息を吹き返して台詞を言い、花道でも黄色い布を使って一しきり所作をした。若い子が一生懸命やっている感じではなく役になり切っているのがすごい。歌舞伎座で、仁左衛門と玉三郎が出る人気の舞台で目立つ役をもらえてラッキーだ。
強請に失敗した夫婦は駕籠を担いで引き上げる。

「神田祭」
これはずいぶん前に一度観た。二人がいちゃいちゃする以外に何の内容もない演目だなと思ったが、今回の感想も同じ。綺麗な二人が寄り添ったり頬を寄せたり互いの着物を直したりするのをただうっとりと眺めていた。

「滝の白糸」
30年以上前に玉三郎と吉右衛門で観た。話は知っていると思っていたが細かいところは忘れている。
石動の茶屋の場では蚊帳の中で寝ているのが白糸(壱太郎)。太夫元が秀調、一座の先乗り新助は千次郎、春平は歌六、松三郎は亀蔵、桔梗は米吉。弟子のみどりが吉太朗。出刃打の南京寅吉が彦三郎。
水芸の舞台は楽しい。玉三郎の「はい」「はい」という声を覚えている。
村越欣也役の松也は、次の卯辰橋で登場する。
欣也に仕送りする金に困って強盗を働くことになる原因はこういうことだったのか、と再認識した。
法廷の場面は、玉三郎が背を向けて立っていたのと上の壇から吉右衛門が玉三郎に語りかけていたのが記憶にあるので、欣也は判事になったのだと思っていたが、検事なのだ。戦前の裁判制度で、検事も裁判官と並んで座っている。
白糸は被告だと思っていたが、これも違った。被告は南京寅吉で、強盗で起訴されている。そして、白糸から金を奪い、凶器とされる出刃はそのときに投げつけた、と主張している。白糸は証人で、金は盗られていない、と言う。南京寅吉役の彦三郎が、いつもと違う感じで面白かった。
ずっと黙って聞いていた欣也が、最後に白糸に向かって「待て」という声がいい。その後の台詞もなかなか聞かせた。言い聞かされて、金をとられたことを即座に認める白糸もいい。
欣也は席を立ち外に出て行って、間もなく銃声が聞こえ、法廷では白糸が舌を噛み切った。廷吏が欣也が自殺したと告げる。最後が短時間で片付くのが気持ちがいい。