松竹大歌舞伎 平成三十年度 西コース 初日2018/09/02 22:11

2018年8月31日 川口リリア 午後1時開演 1階12列36番

「吉野山」

邪魔になるものがなく舞台と花道のように使う舞台袖を見渡せて、気持ちの良い席だった。
壱太郎と愛之助の「吉野山」は永楽館以来。最初に静が出てきて、静だけのときがけっこう長い。玉三郎と海老蔵のときは二人いっしょに出て来たような記憶があるのだが、あれはまた違う型のものだったのかも。
忠信役の愛之助は、一度暗転した後に明るくなったら舞台袖に立っていた、という出方だった。愛之助は忠信の拵えが似合う。
忠信がたまに狐になるときが可愛いかった。
忠信が静に振りを教えて静がそれに習って踊るシーンは綺麗だった。最後に忠信が両手を開いて静の後ろに立って男雛女雛の形になるところで拍手をもらっていた。
合戦を回想するシーンでは浄瑠璃の「思いぞいずる壇之浦の」に続けて忠信が「うみにひょうせんへいけのあかはた、くがにしらはたげんじのつわもの~」と語るのが良い声だった。踊りはそんなにうまくないが、まぎれもなく歌舞伎役者、という雰囲気。
逸見藤太は猿弥。歌舞伎座でも観たことがある。
立ち廻りが終わると、みんな舞台にいて幕となった。忠信の花道の引っ込みはない。

「四の切」

幕が開くと欄間に目をやって、四角の切込みが見えなかったので、きょうは欄間抜けはないのだと察した。
川連法眼は寿治郎、妻の飛鳥は吉弥。声が聞こえにくかった。何年か前にここで観たときも一部聞こえにくいところがあった。
義経は門之助、亀井六郎は猿弥、駿河次郎は松江。
静が鼓を打つと忠信が出て来る階段返しはあって、出て来る直前に誰かが叫ぶのもあった。
忠信が静に自分の素性を語るとき、狐っぽさはあまり強くなかった。ただ、今更ながらこの語りは上方アクセントなんだと気づいて、上方役者でこの役を観るのは初めてだと思った。
「さては其方は狐じゃな」と言われて床下に消え、狐の姿になって館の中の上手方面から出てきて、階段を下りてくる。この型は、国立で翫雀がやったときにも観た。
狐の姿で階段を上るのは、猿之助ほどうまくはない。欄干を掴んで館に上り、欄干の上をちょこちょこ歩くのは無事にできた。そして、下手奥の竹垣の上部が倒れて、そこに飛び込んで消える。
狐が再び現れるときは澤瀉屋では欄間抜けだが、この型では床下から出て来る。
最後は上手の桜の木に登った。

澤瀉屋型の方が面白いとは思うが、狐がいつどこから出て来るか全部わかって、そんな自分に嫌気がさして、この演目自体にも少し嫌気がさしている自分にとっては今回の巡業は新鮮だった。「見せる」よりも「聴かせる」四の切があってもいいと思う。愛之助の狐をまた観たい。

文楽 「夏祭浪花鑑」2018/09/09 14:50

2018年9月8日 国立劇場小劇場 午後4時開演 1階15列12番

歌舞伎では何度も観た「夏祭浪花鑑」。文楽は初めて観る。人間ではよく知っている役を全部人形で見るのは面白い。歌舞伎にあって文楽にはない部分もあって、終始飽きずに観た。
左右に字幕が出てくれるのがありがたい。歌舞伎では聞き取れないか意味がわからないままになっているものも、文字を見れば理解できる。

「住吉鳥居前の段」は歌舞伎と同じ。しかし団七の着替えを持ってきた三婦が「白旗を忘れた」と言って自分のを代わりに渡そうとするエピソードはない。

「内本町道具屋の段」と「道行妹背の走書」は歌舞伎では観たことがない。磯之丞は清七という名の手代として道具屋で働いていて、そこのお嬢さまのお中と深い中。前の段に琴浦が出ていたので、あれ、琴浦は?と思う。清七は仲買の弥一と義平次、番頭の伝八に騙される。ここに至る商人どうしのやり取りがなかなか面白かった。清七は弥一を殺して、お中と逃げる。「道行妹背の走書」は、はじめ心中風に二人で歩いているが、心中は三婦に止められる。お中は、追ってきた伝八に首の吊り方を教えてくれと騙し、木に手拭いを吊って首をかけた伝八の足を
清七がはらって実際に首つりをさせてしまう。そして、先刻自分が書いた「自分が弥一を殺した」という書置きを下に置いて、弥一を殺したのは伝八と思わせるようにした。

この後、「釣船三婦内の段」。ここで、琴浦がお中に嫉妬して磯之丞と喧嘩している。磯之丞は「若い娘がいる家で働かせる三婦が悪い」と言う。三婦は、「伝八が残した書置きが伝八の手ではないという噂があるので、安全のために磯之丞を遠くへやりたい」と言う。
歌舞伎では観たことがない前の2段を観た後では、琴浦と磯之丞の諍い、磯之丞を遠くへやることの必然性がわかる。そして、「若い娘がいる家で働かせる三婦が悪い」という言葉は、次に出て来るお辰に三婦が「顔に色気がある」と言って磯之丞を預けることを拒む伏線になっている。
お辰は、文楽でもやはりすごくかっこいい。文楽では、お辰が花道を引っ込むときの「ここじゃない、ここでござんす」のやり取りはない。

クライマックスの「長町裏の段」は、歌舞伎とほとんど同じではないだろうか。あの立ち回りを、全部人形がやるのが凄い。文楽の方が歌舞伎より先なんだとすれば、よくあんなこと考えたと思う。台詞がない立ち回りに見とれた。
神輿と人波が入って来るシーンが面白かった。団七はそれに紛れて行く。歌舞伎では大抵はこれで終わりだが、文楽は「田島町団七内の段」というのがある。歌舞伎でも、この段をやったのを観たことがあるが、団七が踊りながら祭りの人波についていくので終わる方が芸術性が高いと思う。

秀山祭九月大歌舞伎2018/09/13 23:56

2018年9月12日 歌舞伎座 午後4時半開演 1階14列10番

「操り三番叟」
幸四郎の踊りはいつも役者的なもので、舞踊としてはあまり期待していない。もう少しメリハリをつけて楽しませてほしかった。

「俊寛」
吉右衛門の親戚だけでこんなレベルの高い俊寛ができてしまうのが凄い。菊之助が加わったのが大きい。成経の役は南座で観た歌昇が可愛くて千鳥と恋仲であることがくっきりと浮き上がって見えたが、菊之助はそうでもない。ただ、若くてきれいで、貴公子の雰囲気があるところがいい。成経といっしょに花道を出て来る康頼は錦之助で、きれいどころがそろう。
妹尾役の又五郎が特にうまいと思った。

「幽玄」
「羽衣」
舞台に太鼓が並んでいて、舞台下手から入ってきた裃をつけた鼓童のメンバーが太鼓を打つ。
伯竜たち(歌昇、萬太郎、種之助、弘太郎、鶴松、吉太朗その他)が花道から出て来る。
歌昇が羽衣を持って、台詞を言う。
玉三郎は天女の格好で歌いながら花道に出てきた。きょうの席は花道に近くて後ろの方なので、出るときも帰るときもよく見えた。
舞台では能風に動く玉三郎と鼓童の活躍が目立って、伯竜たちが控えているだけに見えるのが残念だった。

意外なことに「羽衣」の後、20分の幕間。

「石橋」

歌昇、萬太郎、種之助、弘太郎、鶴松が獅子の姿になって、太鼓の演奏との競演。見応えがあった。

「道成寺」
夜の道成寺という設定の照明。暗い花道を、赤っぽい着物を着た玉三郎が出て行く。衣装は綺麗だが、太鼓の演奏に囲まれた玉三郎の動きが少ない。
最後は蛇体となるが、綺麗な玉三郎のままで終わってほしかった。