三谷かぶき 「風雲児たち」 初日2019/06/03 23:26

2019年6月1日 歌舞伎座 午後4時半開演 1階4列21番

「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)」

花道後方から「ほら、始まるよ」という声がして、誰か出てきた。スーツ姿の松也。船の歴史を説明する、と言って櫓やオールから帆の説明に至る。そして、1本しか帆がない船ができたのはなぜかと言い、家康の名前を出す。歌ったり踊ったり手拍子をとったりで観客を一体にさせた。「質問のある人?」と訊くと誰かが「誰ですか?」と訊き、「自分も自分が誰なのか知りたい」みたいな答えをしていた。松也は良かったが、獅童に似合う役だなとちょっと思った。

本編が始まると、乗組員たちが難破した船の上にいる。

嵐の中、船頭の光大夫(幸四郎)が1本しかないマストを切ることを決断したので、船が難破した。

きたない恰好の猿之助が滔々としゃべりだす。猿之助は皮肉っぽい性格。
愛之助はふてぶてしい雰囲気の男。みんなで着物を出し合って新しい帆を作ろうとしているのに自分だけは寒がりだからと半纏を着たままでいる。野菜が少なくなり、沢庵を大事に使わないと、と炊事係の種之助が言っているときにポリポリと沢庵をかじり、半纏をまくると沢庵が4本下がっている。
染五郎は、船親父の三五郎(白鸚)の息子役で、細くて若者らしくてチャーミング。三五郎に、役立たずと叱られる。鶴松は同じ年齢だがすごくできる役。
宗之介は、死にそうな松之助を看病している。「母が医者の娘だっただけです」、と宗之介が幸四郎に言うのが可笑しい。
男女蔵は頭がいかれている。松之助は顔が大きい。
千次郎は、踊ってみんなを楽しませるという、いい役をもらっている。弘太郎はせっかく踊りもうまいのにキャラが立ってなくてもったいない。
弥十郎は最長老。

第二場、船はアムチトカ島へ流れつく。
愛之助は原住民をまねて海鳥の卵を水につけ、浮くものとそうでないものを区別して、中が鳥の形になっているものと卵のままなのをより分けている。中の一つを光大夫に渡す。
猿之助にも一つ渡すが、猿之助のは中から鳥の形が出てきた。それを所作だけで示す猿之助。それでは、と光大夫が自分の分を渡すが、その中からも鳥が出てきて猿之助は渋い顔。猿之助は、みんなを元気にするために笑える話の、所作まじりの台詞が見事で、一番の見せ場だった。それ以外でも、雪の上を歩いて行く姿がうまいとか、終始、すごくうまい印象を受けた。

役立たずだった染五郎はロシア語を覚えて通訳をするようになる。他のみんなにロシア語を教えるとき、幸四郎相手にテキストを地面に叩きつけて「やる気ないならやめちまえ!」と叫ぶのが歌舞伎の稽古で自分がやられていることの仕返しのようで面白い。

第二幕の一場では、船はカムチャッカに流れ着く。
光大夫は役人から食料として牛の頭をもらう。炊事係の種之助が料理して、こわごわ順番に食べる。弘太郎はあくまでも食べるのを拒み、氷の割れ目に落ちて死ぬ。種之助は自分はろくに食べずに皆の食べ物を用意していたので、弱って死ぬ。

その後、オホーツク、ヤクーツクに行く。馬車の馬は西洋風だが、人が中に入っている歌舞伎の馬。しかし、ああいう風に馬二頭が走っているのを真正面から見ることは歌舞伎ではないかもしれない。
ヤクーツクでは高麗蔵演じるロシア娘と染五郎との年齢差ラブシーンが見もの。高麗蔵が楽しんでいる。その妹役の宗之助、父役の千次郎と3人でロシア語でしゃべる。

イルクーツクには犬橇で行く。11頭のハスキー犬役が舞台後方から出てくると客席が沸いた。犬たちはじゃれあったりして無秩序に動いていたが、男女蔵がリーダー犬に命令して座らせる。リーダー犬は頭をなでてもらって喜ぶ。個人的にはこの橇犬たちのシーンがハイライトだった。犬たちは橇を引いて花道を引っ込む。イルクーツクに着くまでには何頭もの犬がばてて倒れた。
新悟は、愛之助のガールフレンドのロシア娘の役で、面白かった。長身が役に合う。台詞は日本の諺の連続。
八嶋智人が植物学者ラックスマンの役で出る。光大夫はラックスマンに連れられてペテルブルグへ行く。

ペテルブルグの宮殿の場は貴族の男女がたくさん出てベルばらのようだった。竹三郎と寿猿が見もの。
光大夫がここで会ったのがエカテリーナ(猿之助)とポチョムキン(白鸚)。エカテリーナはその造形と、ポチョムキンに手と目配せで合図する表情が見ものだった。

日本に帰国できることになったが、猿之助と愛之助は事情で日本に帰れず、二人で手を握り合って「帰りてえよう」と嘆く。

終わった後、カーテンコールがあった。