市川猿之助奮闘連続公演 十月花形歌舞伎 昼の部 ― 2014/10/04 01:18
2014年10月3日 新橋演舞場 午前11時開演 1階12列13番
「俊寛」
俊寛の右近、千鳥の笑也、少将成経の笑三郎、康頼の弘太郎、瀬尾の猿弥 、とおなじみの顔ぶれ。丹左衛門尉基康の男女蔵だけがゲスト、という感じ。
私はミーハーで「俊寛」はほとんど寝ていた時代もあったのだが、何度も観た結果、繰り返しの上演に耐える出来の良い劇であることがわかるようになった。
初日から完成度が高い俊寛で、最初から最後まで集中が途切れずに見られた。互いに「未来で~」と手を振り合うところが感動的だったし、俊寛が岩の上に上って(右近は岩を登るときに滑るが、亀治郎のようにコロコロ転がったりはしない)松の枝を折って座り込むところの絵柄が綺麗だった。
右近は所作がきれいな俊寛だった。笑也はお転婆な千鳥で、この二人はとても役に合っている。個人的には、少将の笑三郎の若い男感が足りなくて、南座の歌昇のように千鳥と別れさせるのは可哀想、という気持ちが湧かなかった。弘太郎と役を取り換えた方が良かったかもしれない。
「金幣猿島郡(きんのざいさるしまだいり)」
如月尼は懐かしい歌六。私が猿之助の歌舞伎を観始めた頃は、亀治郎は子役で、歌六は若手で良い役をやっていた。奥から声がして、米吉にしてはかすれた声と思ったら猿之助。如月尼の娘、清姫だ。目が見えない。黒地の着物にうろこ模様の帯で、裏が蛇腹模様。後で、この帯と同じ模様の蛇が宙を泳ぐシーンがある。
安珍(門之助)と七綾姫(米吉)は恋人で、村雨の宝剣を探している。七綾姫は追われていて、如月尼は我が子清姫を殺して七綾姫の身替りにしようとする。清姫も納得して殺されようとするが、剣で殺そうとすると雷が鳴って、清姫の目が開く。そして、安珍の姿を見て一目惚れする。剣は村雨の宝剣だった。二人を追おうとする清姫を如月尼は刺し殺し、
清姫は蛇体となる。
この最初の幕では、清姫が鐘につながれながら安珍と七綾姫の障子にうつるラブシーンを見て嫉妬する姿など、猿之助の女形がたっぷり楽しめる。
次の幕では猿之助は藤原忠文で、恋文を読みながら花道から出てくる。忠文は七綾姫が好きで、安珍との仲を裂きたい。橋姫社に願掛けしていると、落雷があって、中から女の声がする。それが七綾姫で、忠文が思いをとげようとするところに安珍が来る。二人がもみ合っているところに寂寞(猿弥)が来て、宝剣を取り返した安珍を助ける方が得策だと安珍を助ける。このとき、台詞に「経済効果」「アベノミクス」という言葉が入っていた。
立ち回りのときの役者の顔を照らすスポットライトが、普通の歌舞伎よりも強く光を当てている時があった。
忠文は安珍と七綾姫の仲睦まじい姿を見て生きながらにして鬼になり、川に飛び込む。そこに清姫の帯が流れて来て、忠文は清姫の霊と合体する。
そして、これが宙乗り。上の方からキラキラした紙が舞い落ちて、宙乗りの猿之助の姿がその中に見え、とても美しかった。
休憩の後の最後の幕は、双面道成寺。
花道から「聞いたか聞いたか」と出てくる能力白雲は隼人。「聞いたぞ聞いたぞ」の黒雲は弘太郎。二人が鐘を持ち上げると、中にいたのは七綾姫(米吉)。
烏帽子をつけた猿之助は、くるりと回りながらすっぽんから上がって来て、出てくる。この前、七之助の下に見える着物の色の話が出たが、きょうの猿之助の下に見える着物は黒地で、ただ、その下に白い着物も着ているようで、引き抜きがありそうだった。
その姿で踊る。猿之助の扇の動かし方、手のしなやかさにはいつも魅了される。猿之助が引っ込んで、米吉が、言わず語らずわが心~、を踊る。綺麗だった。
猿之助は唐衣を脱いで黒い着物になり、面をつけて再登場する。隼人が花道から出てくるときにかついでいたササを手にして踊り出す。面を男にしたり女にしたり、そのたびに踊りも男になったり女になったり。きょうはゴールデンコンビの段之ではなく段一郎が後見で、目まぐるしく変わる面を手渡していた。猿之助が赤姫の衣装を持って踊る少し前に段之が上手から来て、二人後見態勢になった。
白雲、黒雲の「あれは今はやりの女装男子でござるか」「女装男子とはなんぞや」「ゲイボーイのことでござる」「ゲイボーイとはなんぞや」「おとこおうなのことでござるよ」というやりとりが楽しい。
この二人が「おきゃがりこぼーし」と言いながら踊るところがあって、自分はこの演目を昔観たことがあることがはっきりした。右近が踊るのを見ながら右近はうまいな、と思った記憶があるからだ。筋書の記録を見るともう一人は猿弥だったが、猿弥の方は覚えてない。
「金幣猿島郡」は、女形をたっぷり見せるし踊りがあるしで、先代より当代の猿之助にぴったりの演目だと思う。
「俊寛」
俊寛の右近、千鳥の笑也、少将成経の笑三郎、康頼の弘太郎、瀬尾の猿弥 、とおなじみの顔ぶれ。丹左衛門尉基康の男女蔵だけがゲスト、という感じ。
私はミーハーで「俊寛」はほとんど寝ていた時代もあったのだが、何度も観た結果、繰り返しの上演に耐える出来の良い劇であることがわかるようになった。
初日から完成度が高い俊寛で、最初から最後まで集中が途切れずに見られた。互いに「未来で~」と手を振り合うところが感動的だったし、俊寛が岩の上に上って(右近は岩を登るときに滑るが、亀治郎のようにコロコロ転がったりはしない)松の枝を折って座り込むところの絵柄が綺麗だった。
右近は所作がきれいな俊寛だった。笑也はお転婆な千鳥で、この二人はとても役に合っている。個人的には、少将の笑三郎の若い男感が足りなくて、南座の歌昇のように千鳥と別れさせるのは可哀想、という気持ちが湧かなかった。弘太郎と役を取り換えた方が良かったかもしれない。
「金幣猿島郡(きんのざいさるしまだいり)」
如月尼は懐かしい歌六。私が猿之助の歌舞伎を観始めた頃は、亀治郎は子役で、歌六は若手で良い役をやっていた。奥から声がして、米吉にしてはかすれた声と思ったら猿之助。如月尼の娘、清姫だ。目が見えない。黒地の着物にうろこ模様の帯で、裏が蛇腹模様。後で、この帯と同じ模様の蛇が宙を泳ぐシーンがある。
安珍(門之助)と七綾姫(米吉)は恋人で、村雨の宝剣を探している。七綾姫は追われていて、如月尼は我が子清姫を殺して七綾姫の身替りにしようとする。清姫も納得して殺されようとするが、剣で殺そうとすると雷が鳴って、清姫の目が開く。そして、安珍の姿を見て一目惚れする。剣は村雨の宝剣だった。二人を追おうとする清姫を如月尼は刺し殺し、
清姫は蛇体となる。
この最初の幕では、清姫が鐘につながれながら安珍と七綾姫の障子にうつるラブシーンを見て嫉妬する姿など、猿之助の女形がたっぷり楽しめる。
次の幕では猿之助は藤原忠文で、恋文を読みながら花道から出てくる。忠文は七綾姫が好きで、安珍との仲を裂きたい。橋姫社に願掛けしていると、落雷があって、中から女の声がする。それが七綾姫で、忠文が思いをとげようとするところに安珍が来る。二人がもみ合っているところに寂寞(猿弥)が来て、宝剣を取り返した安珍を助ける方が得策だと安珍を助ける。このとき、台詞に「経済効果」「アベノミクス」という言葉が入っていた。
立ち回りのときの役者の顔を照らすスポットライトが、普通の歌舞伎よりも強く光を当てている時があった。
忠文は安珍と七綾姫の仲睦まじい姿を見て生きながらにして鬼になり、川に飛び込む。そこに清姫の帯が流れて来て、忠文は清姫の霊と合体する。
そして、これが宙乗り。上の方からキラキラした紙が舞い落ちて、宙乗りの猿之助の姿がその中に見え、とても美しかった。
休憩の後の最後の幕は、双面道成寺。
花道から「聞いたか聞いたか」と出てくる能力白雲は隼人。「聞いたぞ聞いたぞ」の黒雲は弘太郎。二人が鐘を持ち上げると、中にいたのは七綾姫(米吉)。
烏帽子をつけた猿之助は、くるりと回りながらすっぽんから上がって来て、出てくる。この前、七之助の下に見える着物の色の話が出たが、きょうの猿之助の下に見える着物は黒地で、ただ、その下に白い着物も着ているようで、引き抜きがありそうだった。
その姿で踊る。猿之助の扇の動かし方、手のしなやかさにはいつも魅了される。猿之助が引っ込んで、米吉が、言わず語らずわが心~、を踊る。綺麗だった。
猿之助は唐衣を脱いで黒い着物になり、面をつけて再登場する。隼人が花道から出てくるときにかついでいたササを手にして踊り出す。面を男にしたり女にしたり、そのたびに踊りも男になったり女になったり。きょうはゴールデンコンビの段之ではなく段一郎が後見で、目まぐるしく変わる面を手渡していた。猿之助が赤姫の衣装を持って踊る少し前に段之が上手から来て、二人後見態勢になった。
白雲、黒雲の「あれは今はやりの女装男子でござるか」「女装男子とはなんぞや」「ゲイボーイのことでござる」「ゲイボーイとはなんぞや」「おとこおうなのことでござるよ」というやりとりが楽しい。
この二人が「おきゃがりこぼーし」と言いながら踊るところがあって、自分はこの演目を昔観たことがあることがはっきりした。右近が踊るのを見ながら右近はうまいな、と思った記憶があるからだ。筋書の記録を見るともう一人は猿弥だったが、猿弥の方は覚えてない。
「金幣猿島郡」は、女形をたっぷり見せるし踊りがあるしで、先代より当代の猿之助にぴったりの演目だと思う。
坂東竹三郎トークショー ― 2014/10/13 00:02
2014年10月12日 ポレポレ東中野 12時半開演
自宅の最寄り駅から2駅のところにあるポレポレ東中野、名前は知っていたが今回初めて行った。1階の入り口に着いたら、「竹三郎さんのトークショーですか」と聞かれて、喫茶店を通ってその奥の部屋の「ポルポレ坐」に案内された。受付で、竹三郎の色紙が入った袋を「お土産です」と渡された。去年の自主公演のプログラムを売っていた。
会場は椅子が並べてあって、50席くらいだろうか。
開演時間になると、竹三郎が、客と同じ入り口から入って来て前の演壇に上がった。司会の人との対談形式。きょうは猿之助が皆さまによろしくということで、持ってきた猿之助の扇子をさっと広げた。
来月の明治座で「夏姿女團七」をやる。これは去年竹三郎の自主公演でやったもので、 猿之助が主人公のお梶役をやった。この話は「夏祭浪花鑑」のパロデイで、義平次のかわりに継母のおとらの役があり、それを竹三郎がやる。
自主公演では「恐怖時代」など、普段あまり上演されないものをやるようにしてきた。「夏姿女團七」は大阪では四世富十郎の自主公演の矢車座でやったことがあるということで、竹朗が資料を見つけて来た。
「夏祭浪花鑑」は大阪が舞台だが、「夏姿女團七」は舞台が浜町で、明治座の近く。言葉は江戸弁。義平次婆のみあらわしのシーンでは弁天小僧のように「損料ものの」のような江戸弁の台詞がある。それでもやってしまう「くそ度胸」はどこから来るか、と聞かれて、「大阪だから大丈夫かと思ってやった。明治座は東京のお客さんが多いのでなまるとばれる」 一般に、女形はなまったとしても立役ほどは目立たないのだそうだ。
猿之助は天才で、台詞はすぐに頭に入る人なのに、去年の「夏姿女團七」のときは先に出る竹三郎が舞台に出たときから台本を持って立っていた。そういう姿を見ると、自分も負けられないと思う。猿之助の女形が観たいお客さんたちが喜んでくれて嬉しかった。
喜寿記念の自主公演のカーテンコールのときに亀治郎が録音した声で「傘寿記念もやらなきゃダメ」と言ったので亀治郎に出てもらう予定ではいたが、猿之助襲名直後ということになったので、出演については猿翁の許しをもらいに行った。
明治座の公演は去年の公演よりも立ち回りを派手にする予定だそうだ。夏祭では長町裏にあたるところは、「夏姿女團七」では浜町河岸。(普請場のようなところから)竹婆を突き落とす、と猿之助が脅すので、「命があぶないのでお許しください」と言っている。
11月は夜の部にも「さぼてん婆」という役で出る。これは後から決まったこと。11月に命をかけるので、12月の顔見世は出ないことにした。
後ろのスライドに、時折写真が出る。去年のプログラムに載っている写真だ。
竹三郎の師匠は菊次郎。東京から大阪にうつった人で、大阪に来たときに弟子が減り、竹三郎が弟子になることになった。最初の師匠は嵐雛助。上方では今の玉三郎のように人気があった女形の役者だった。難しい人で、いたたまれずに弟子をやめた。
幼い頃から母が竹三郎を膝に座らせ「役者にならしてあげる」と言って頭をなでなでした。父は反対だったが、役者になるのなら歌舞伎役者と言われた。「それで、女形として弟子入りしたんですか」と聞かれ、上方は女形、立役どっちもやる、と言った。
関西は、昭和三十年代、歌舞伎公演がどんどん減っていった。松竹新喜劇の人気が高く、藤山寛美の公演が中座で一年続いたことがあった。
竹三郎が自主公演を始めた。第二次つくし会第一回は、切符代250円。場所はみどう会館(若伎会をやったところだ)。1900人入れる。記者会見なんかやってもらえないので、大手新聞社をこちらから尋ねて記事を載せてもらった。600人来てくれた。
当時は、一年に5万円貯金して、次の自主公演の資金にしていた。
最近は時期的には8月でないと自主公演に出てもらう役者がそろわないが、当時はみんなヒマだったので時期はいつでも良かった。
第一次つくし会は昭和26、7年頃、 市川雷蔵がまだ歌舞伎界にいたころ。
「雪之丞変化」をやったことがある。 長谷川一夫に話を聞きに行ったら、「二役やってはいけない」と言われた。映像なら良いが、舞台だと雪之丞と闇太郎の化粧を変えるわけにいかないので、闇太郎の顔が白くなってしまうから。それで、闇太郎は長谷川明男にやってもらった。
「男の花道」もやったことがある。これは藤山寛美と因縁のある話のようだ。話を正確に把握できたかどうか自信がないが、寛美が「竹三郎に何かやらせたらどうか」と言ったので公演できることになったのだが、それよりも前に、竹三郎が予定していた公演が寛美のクレームによってできなくなったことがあるらしい。松竹新喜劇が中座で一年連続公演をし、そのおかげで歌舞伎公演がなくなったので竹三郎にも含むところがあったのかもしれないが、自主公演で曾我廼家五郎の「へちまの花」をやろうと思い、それと歌舞伎の「高瀬舟」で公演をやろうとしたら、寛美が、これは喜劇ではないかと言ってきて、「高瀬舟」があるから歌舞伎です、と言ってもダメで、鶴蝶や小島秀哉を貸すと言ってたのがダメになって、結局公演できなかった、ということだ。
この公演の前にも、長谷川一夫に話を聞きに行ったらしい。
竹三郎が老け役になったのは先代猿之助が、宙乗りから戻って来たときに「いつまで若い役やってるんだ」というような言葉をかけたのがきっかけらしい。大阪の新歌舞伎座でやった公演で老け役をやらされた。女形をやるとどうしても色気が出るので、(地方の方には申し訳ないが)本公演の前に巡業で1か月やって、その間にだんだん色気を抜いてからではどうかと言ったが、聞き入れられなかった。初めは黒髪に少し白髪を入れてごま塩にしたが、全部白髪じゃないとダメと言われた。
今月昼の部の小屋頭おなみはかまぼこ小屋にいる猿之助を世話する役。「いつもここに通ってきている人だという雰囲気がするんですが、それは出ていく前に作るんですか」と聞かれ、「そりゃ、そうですよ」とさもあたりまえそうに。
司会の人が、ある役を竹三郎の「手に入った役」と言ったが、これについてはきっぱりと否定。「役が手に入ったときは死ぬときと聞いている」ということだ。
師匠の菊次郎は歌舞伎に向く顔だったが、竹三郎は顔が小さくてハーフじゃないかと言われるような顔だった。昔、玉三郎のお姫さまに竹三郎の腰元の芝居があって、稽古のときに二人で出て行ったら、松緑が「日本人形とフランス人形が来た」と言った。
最後は、質疑応答。
問 お肌の手入れは?
答 化粧がのるように何か塗るが、自分は乳液を使っている。寝る前も乳液。
問 先代猿之助の復活狂言の演出に助言したと聞いているが?
答 助言はしていない。ただ、自分は自主公演で復活狂言をしたのでその話はした。敷島は、「伊達の十役」のもとになっている。「有馬猫」が今月の化け猫。
問 大阪の小芝居はいつまであったか
答 戦争中まで
問 政岡をやってください
答 あれは体力的には60までですね。でも機会があったらやります。
問 竹三郎さんに猿之助さんのことをきいて申し訳ないですが、猿之助さんはどんな女形の役が似合うと思いますか?
答 いえ、きょうは名代で来てますから。袖萩とかご覧になりましたか。亀治郎の会でやった摂州合邦辻の玉手御前は伯父さんよりうまかった。伯父さんは女形不得意だから。春秋座で観て、思わず「澤瀉屋!」と掛け声をかけた。そしたら、先代の猿之助夫妻が客席にいて、紫は難しい顔をしていたが猿翁は笑っていた。鉄火な役が似合うと思う。
トークが終わり、帰るときに客の一人一人と握手をして行った。
自宅の最寄り駅から2駅のところにあるポレポレ東中野、名前は知っていたが今回初めて行った。1階の入り口に着いたら、「竹三郎さんのトークショーですか」と聞かれて、喫茶店を通ってその奥の部屋の「ポルポレ坐」に案内された。受付で、竹三郎の色紙が入った袋を「お土産です」と渡された。去年の自主公演のプログラムを売っていた。
会場は椅子が並べてあって、50席くらいだろうか。
開演時間になると、竹三郎が、客と同じ入り口から入って来て前の演壇に上がった。司会の人との対談形式。きょうは猿之助が皆さまによろしくということで、持ってきた猿之助の扇子をさっと広げた。
来月の明治座で「夏姿女團七」をやる。これは去年竹三郎の自主公演でやったもので、 猿之助が主人公のお梶役をやった。この話は「夏祭浪花鑑」のパロデイで、義平次のかわりに継母のおとらの役があり、それを竹三郎がやる。
自主公演では「恐怖時代」など、普段あまり上演されないものをやるようにしてきた。「夏姿女團七」は大阪では四世富十郎の自主公演の矢車座でやったことがあるということで、竹朗が資料を見つけて来た。
「夏祭浪花鑑」は大阪が舞台だが、「夏姿女團七」は舞台が浜町で、明治座の近く。言葉は江戸弁。義平次婆のみあらわしのシーンでは弁天小僧のように「損料ものの」のような江戸弁の台詞がある。それでもやってしまう「くそ度胸」はどこから来るか、と聞かれて、「大阪だから大丈夫かと思ってやった。明治座は東京のお客さんが多いのでなまるとばれる」 一般に、女形はなまったとしても立役ほどは目立たないのだそうだ。
猿之助は天才で、台詞はすぐに頭に入る人なのに、去年の「夏姿女團七」のときは先に出る竹三郎が舞台に出たときから台本を持って立っていた。そういう姿を見ると、自分も負けられないと思う。猿之助の女形が観たいお客さんたちが喜んでくれて嬉しかった。
喜寿記念の自主公演のカーテンコールのときに亀治郎が録音した声で「傘寿記念もやらなきゃダメ」と言ったので亀治郎に出てもらう予定ではいたが、猿之助襲名直後ということになったので、出演については猿翁の許しをもらいに行った。
明治座の公演は去年の公演よりも立ち回りを派手にする予定だそうだ。夏祭では長町裏にあたるところは、「夏姿女團七」では浜町河岸。(普請場のようなところから)竹婆を突き落とす、と猿之助が脅すので、「命があぶないのでお許しください」と言っている。
11月は夜の部にも「さぼてん婆」という役で出る。これは後から決まったこと。11月に命をかけるので、12月の顔見世は出ないことにした。
後ろのスライドに、時折写真が出る。去年のプログラムに載っている写真だ。
竹三郎の師匠は菊次郎。東京から大阪にうつった人で、大阪に来たときに弟子が減り、竹三郎が弟子になることになった。最初の師匠は嵐雛助。上方では今の玉三郎のように人気があった女形の役者だった。難しい人で、いたたまれずに弟子をやめた。
幼い頃から母が竹三郎を膝に座らせ「役者にならしてあげる」と言って頭をなでなでした。父は反対だったが、役者になるのなら歌舞伎役者と言われた。「それで、女形として弟子入りしたんですか」と聞かれ、上方は女形、立役どっちもやる、と言った。
関西は、昭和三十年代、歌舞伎公演がどんどん減っていった。松竹新喜劇の人気が高く、藤山寛美の公演が中座で一年続いたことがあった。
竹三郎が自主公演を始めた。第二次つくし会第一回は、切符代250円。場所はみどう会館(若伎会をやったところだ)。1900人入れる。記者会見なんかやってもらえないので、大手新聞社をこちらから尋ねて記事を載せてもらった。600人来てくれた。
当時は、一年に5万円貯金して、次の自主公演の資金にしていた。
最近は時期的には8月でないと自主公演に出てもらう役者がそろわないが、当時はみんなヒマだったので時期はいつでも良かった。
第一次つくし会は昭和26、7年頃、 市川雷蔵がまだ歌舞伎界にいたころ。
「雪之丞変化」をやったことがある。 長谷川一夫に話を聞きに行ったら、「二役やってはいけない」と言われた。映像なら良いが、舞台だと雪之丞と闇太郎の化粧を変えるわけにいかないので、闇太郎の顔が白くなってしまうから。それで、闇太郎は長谷川明男にやってもらった。
「男の花道」もやったことがある。これは藤山寛美と因縁のある話のようだ。話を正確に把握できたかどうか自信がないが、寛美が「竹三郎に何かやらせたらどうか」と言ったので公演できることになったのだが、それよりも前に、竹三郎が予定していた公演が寛美のクレームによってできなくなったことがあるらしい。松竹新喜劇が中座で一年連続公演をし、そのおかげで歌舞伎公演がなくなったので竹三郎にも含むところがあったのかもしれないが、自主公演で曾我廼家五郎の「へちまの花」をやろうと思い、それと歌舞伎の「高瀬舟」で公演をやろうとしたら、寛美が、これは喜劇ではないかと言ってきて、「高瀬舟」があるから歌舞伎です、と言ってもダメで、鶴蝶や小島秀哉を貸すと言ってたのがダメになって、結局公演できなかった、ということだ。
この公演の前にも、長谷川一夫に話を聞きに行ったらしい。
竹三郎が老け役になったのは先代猿之助が、宙乗りから戻って来たときに「いつまで若い役やってるんだ」というような言葉をかけたのがきっかけらしい。大阪の新歌舞伎座でやった公演で老け役をやらされた。女形をやるとどうしても色気が出るので、(地方の方には申し訳ないが)本公演の前に巡業で1か月やって、その間にだんだん色気を抜いてからではどうかと言ったが、聞き入れられなかった。初めは黒髪に少し白髪を入れてごま塩にしたが、全部白髪じゃないとダメと言われた。
今月昼の部の小屋頭おなみはかまぼこ小屋にいる猿之助を世話する役。「いつもここに通ってきている人だという雰囲気がするんですが、それは出ていく前に作るんですか」と聞かれ、「そりゃ、そうですよ」とさもあたりまえそうに。
司会の人が、ある役を竹三郎の「手に入った役」と言ったが、これについてはきっぱりと否定。「役が手に入ったときは死ぬときと聞いている」ということだ。
師匠の菊次郎は歌舞伎に向く顔だったが、竹三郎は顔が小さくてハーフじゃないかと言われるような顔だった。昔、玉三郎のお姫さまに竹三郎の腰元の芝居があって、稽古のときに二人で出て行ったら、松緑が「日本人形とフランス人形が来た」と言った。
最後は、質疑応答。
問 お肌の手入れは?
答 化粧がのるように何か塗るが、自分は乳液を使っている。寝る前も乳液。
問 先代猿之助の復活狂言の演出に助言したと聞いているが?
答 助言はしていない。ただ、自分は自主公演で復活狂言をしたのでその話はした。敷島は、「伊達の十役」のもとになっている。「有馬猫」が今月の化け猫。
問 大阪の小芝居はいつまであったか
答 戦争中まで
問 政岡をやってください
答 あれは体力的には60までですね。でも機会があったらやります。
問 竹三郎さんに猿之助さんのことをきいて申し訳ないですが、猿之助さんはどんな女形の役が似合うと思いますか?
答 いえ、きょうは名代で来てますから。袖萩とかご覧になりましたか。亀治郎の会でやった摂州合邦辻の玉手御前は伯父さんよりうまかった。伯父さんは女形不得意だから。春秋座で観て、思わず「澤瀉屋!」と掛け声をかけた。そしたら、先代の猿之助夫妻が客席にいて、紫は難しい顔をしていたが猿翁は笑っていた。鉄火な役が似合うと思う。
トークが終わり、帰るときに客の一人一人と握手をして行った。
十月大歌舞伎 十七世・十八世中村勘三郎追善 夜の部 ― 2014/10/25 21:50
2014年10月24日 歌舞伎座 午後4時半開演 1階13列17番
「寺子屋」
何回も観ているわりには理解しきれていなくて、特に松王丸がよくわからなかったが、話の筋を知った上で仁左衛門を見ていると、泣き出しそうなところで咳込んでいるのかとか、息子の首が落とされた瞬間によろめいているな、とか今までよりはわかる気がした。
源蔵の勘九郎は無難な出来。松王丸とぶつかるあたりの足の運びがとても綺麗で私が勘九郎を見る楽しみは満たされるが、源蔵としては、特に心ひかれるところはなかった。
「吉野山」
藤十郎と梅玉の場合、踊りというよりパントマイムのようなものとして観るべきかもしれない。そういう意味ではとても良かった。二人とも見た目が綺麗だし、狐忠信の梅玉はお供らしく丁寧。忠信が静に踊りの振りを教えるところが、本当にそれらしくて良かった。
「鰯賣戀曳網」
最初に、博労役の獅童が馬をひいて現れる。猿源氏の父役の弥十郎と話しているときに、馬が足を持ち上げて見せるのが可愛い。
猿源氏(勘九郎)が鰯をかついで花道から登場。
猿源氏が思いを寄せている傾城の蛍火(七之助)に会うために、猿源氏が大名、博労が家老のふりをして揚屋に赴く。
猿源氏はだんだん地が出て姿勢がくずれるが、博労がビシッとした姿勢をして見せて、注意を促す。そのたびに猿源氏が姿勢を正し、ちょっと気取るように顔を動かす様子が笑える。
揚屋にいる傾城役は、巳之助、新悟、児太郎、鶴松、虎之助。巳之助が一番目立つ役だ。巳之助は女形だと美人だと思うのだが、髪型のせいか、そういう役なのか、あまり美人に見えなかった。
奥から現れる蛍火役の七之助が文句なく綺麗で、素晴らしい。
楽しい喜劇だった。勘九郎と七之助の仲良さそうなところがとても良くて、最後の花道では盛大な拍手を受けていた。
とても気持ちの良い終わり方で、帰りのお客さん達が満足そうだった。
「寺子屋」
何回も観ているわりには理解しきれていなくて、特に松王丸がよくわからなかったが、話の筋を知った上で仁左衛門を見ていると、泣き出しそうなところで咳込んでいるのかとか、息子の首が落とされた瞬間によろめいているな、とか今までよりはわかる気がした。
源蔵の勘九郎は無難な出来。松王丸とぶつかるあたりの足の運びがとても綺麗で私が勘九郎を見る楽しみは満たされるが、源蔵としては、特に心ひかれるところはなかった。
「吉野山」
藤十郎と梅玉の場合、踊りというよりパントマイムのようなものとして観るべきかもしれない。そういう意味ではとても良かった。二人とも見た目が綺麗だし、狐忠信の梅玉はお供らしく丁寧。忠信が静に踊りの振りを教えるところが、本当にそれらしくて良かった。
「鰯賣戀曳網」
最初に、博労役の獅童が馬をひいて現れる。猿源氏の父役の弥十郎と話しているときに、馬が足を持ち上げて見せるのが可愛い。
猿源氏(勘九郎)が鰯をかついで花道から登場。
猿源氏が思いを寄せている傾城の蛍火(七之助)に会うために、猿源氏が大名、博労が家老のふりをして揚屋に赴く。
猿源氏はだんだん地が出て姿勢がくずれるが、博労がビシッとした姿勢をして見せて、注意を促す。そのたびに猿源氏が姿勢を正し、ちょっと気取るように顔を動かす様子が笑える。
揚屋にいる傾城役は、巳之助、新悟、児太郎、鶴松、虎之助。巳之助が一番目立つ役だ。巳之助は女形だと美人だと思うのだが、髪型のせいか、そういう役なのか、あまり美人に見えなかった。
奥から現れる蛍火役の七之助が文句なく綺麗で、素晴らしい。
楽しい喜劇だった。勘九郎と七之助の仲良さそうなところがとても良くて、最後の花道では盛大な拍手を受けていた。
とても気持ちの良い終わり方で、帰りのお客さん達が満足そうだった。
第14回 伝統歌舞伎保存会研修発表会 ― 2014/10/26 04:55
2014年10月25日 国立劇場大劇場 午後6時開演 一階上手後方で観劇
きょうは幕が開いたら羽織袴の染五郎が立っていて、その後、魁春、友右衛門、芝雀、東蔵が出て来た。染五郎が今月の舞台の写真を見せて「双蝶々曲輪日記」全体の話と役を説明しながら、その合間に各役者の話を聞いた。「角力場」の吾妻の姉が「引窓」のお早なのか、と思いながら聞く。それが終わって幕が下がると、一人幕外にいた染五郎の紹介で幸四郎が現れ、「引窓」の話をした。そういえば、「挑む」のときは舞台装置も使って松也がポイントを説明してくれたな、と思い出した。あの時も放生会の話が出た。きょうは、濡髪がつながれていた引窓の綱を与兵衛が切るあたりの台詞から最後までをかなり詳しく教えてくれて、この後の芝居でそれを確認する感じで観たので、よくわかった。こういう風に、役者が芝居の解説をしてくれるのは有難味がある。あの時幸四郎が「引窓」の最後のところについて教えてくれて、それでよくわかった、ということは一生忘れないだろう。
「引窓」
最初に出てくるお早(廣松)。お馬に乗ってハイシードードーのところを始め全体の所作が、踊りのうまい廣松ならきっと綺麗だろうと期待していたが、期待通り。最近は女形は安心して観られる域に達している。終始弾んでいるような若妻だった壱太郎のお早と比べると、しっとり落ち着いた感じがする。
母お幸は幸雀。この中に入ると大ベテランで台詞や動きは安定しているが、少し情が薄い。一回限りの公演だと情を出すのが難しいのかもしれない。
花道から出てくる濡髪(廣太郎)。ほっそりした廣太郎にお相撲さんの役なんかできるのかと思ったが、予想よりずっと良かった。顔が綺麗。横から見ると詰め物をしているのがよくわかるが不自然なところはなく、台詞もずいぶん歌舞伎らしくなった。後半、落ちやんしょう、など言う強い調子の台詞の声が若い男らしくて良い。たぶん全部の役の中で廣太郎が一番本人の性別、年齢に近い役をやっていることの強みか。見た目のせいか濡髪にはいつも感情移入できないのだが、今回は廣太郎だったので可愛いと思った。
与兵衛、後に十次兵衛役の松江が良かった。綱を腕にクルクル巻いてしまいこむところの動きなどを見ると不器用なのかなと思う。全身の雰囲気が甘ったれの息子みたいなので、この人は、生さぬ仲の母にもきっと可愛がってもらってるんだろうな、と思える。だから、「私はあなたの子でございますぞ」というところは「ママは僕のこと本当の息子と思って可愛がってくれてると思ってたのに~」と落胆してるのだろうと説得力を持つ。人相書を手にして、濡髪と母の関係に気づくところの動きは分かりやすくて良かった。
お早が与兵衛より濡髪と仲良さそうに見えてしまうのは、まあ、仕方がないか。
三原伝造役の錦成。「趣向の華」の時にロビーにいたのを見た覚えがあるが、あれは中学生くらいだった。今は高校だろうが、しっかりした大人の声なのでびっくりした。
きょうは幕が開いたら羽織袴の染五郎が立っていて、その後、魁春、友右衛門、芝雀、東蔵が出て来た。染五郎が今月の舞台の写真を見せて「双蝶々曲輪日記」全体の話と役を説明しながら、その合間に各役者の話を聞いた。「角力場」の吾妻の姉が「引窓」のお早なのか、と思いながら聞く。それが終わって幕が下がると、一人幕外にいた染五郎の紹介で幸四郎が現れ、「引窓」の話をした。そういえば、「挑む」のときは舞台装置も使って松也がポイントを説明してくれたな、と思い出した。あの時も放生会の話が出た。きょうは、濡髪がつながれていた引窓の綱を与兵衛が切るあたりの台詞から最後までをかなり詳しく教えてくれて、この後の芝居でそれを確認する感じで観たので、よくわかった。こういう風に、役者が芝居の解説をしてくれるのは有難味がある。あの時幸四郎が「引窓」の最後のところについて教えてくれて、それでよくわかった、ということは一生忘れないだろう。
「引窓」
最初に出てくるお早(廣松)。お馬に乗ってハイシードードーのところを始め全体の所作が、踊りのうまい廣松ならきっと綺麗だろうと期待していたが、期待通り。最近は女形は安心して観られる域に達している。終始弾んでいるような若妻だった壱太郎のお早と比べると、しっとり落ち着いた感じがする。
母お幸は幸雀。この中に入ると大ベテランで台詞や動きは安定しているが、少し情が薄い。一回限りの公演だと情を出すのが難しいのかもしれない。
花道から出てくる濡髪(廣太郎)。ほっそりした廣太郎にお相撲さんの役なんかできるのかと思ったが、予想よりずっと良かった。顔が綺麗。横から見ると詰め物をしているのがよくわかるが不自然なところはなく、台詞もずいぶん歌舞伎らしくなった。後半、落ちやんしょう、など言う強い調子の台詞の声が若い男らしくて良い。たぶん全部の役の中で廣太郎が一番本人の性別、年齢に近い役をやっていることの強みか。見た目のせいか濡髪にはいつも感情移入できないのだが、今回は廣太郎だったので可愛いと思った。
与兵衛、後に十次兵衛役の松江が良かった。綱を腕にクルクル巻いてしまいこむところの動きなどを見ると不器用なのかなと思う。全身の雰囲気が甘ったれの息子みたいなので、この人は、生さぬ仲の母にもきっと可愛がってもらってるんだろうな、と思える。だから、「私はあなたの子でございますぞ」というところは「ママは僕のこと本当の息子と思って可愛がってくれてると思ってたのに~」と落胆してるのだろうと説得力を持つ。人相書を手にして、濡髪と母の関係に気づくところの動きは分かりやすくて良かった。
お早が与兵衛より濡髪と仲良さそうに見えてしまうのは、まあ、仕方がないか。
三原伝造役の錦成。「趣向の華」の時にロビーにいたのを見た覚えがあるが、あれは中学生くらいだった。今は高校だろうが、しっかりした大人の声なのでびっくりした。
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