玉三郎美の世界展、阿古屋、傾城2012/06/03 15:29

美の世界展パフェ
2012年6月2日 京都四條南座 午後3時開演 左桟敷

舞踊公演のチケットで「玉三郎"美"の世界展」も見られるので、2時15分くらいに南座へ行った。番付売り場で、番付と玉三郎の写真(一枚200円で7種類)、それにこの展覧会の図録(3500円)を買った。図録は後で見たら舞台写真がたくさん掲載されていてお値打ちものだった。

いつもは後援会受付が並んでいる部屋に、舞台衣装や小道具が展示してあった。衣装は見覚えのあるものが多かった。自前だという鏡獅子の手獅子が個人的に興味をそそられた。外の廊下に孝夫と玉三郎の「桜姫東文章」のポスターが貼ってあったので写真をとった。

下手側のロビーには写真が展示してあった。いつもコーヒーを買うカウンターで、二種類のパフェのうち「美の世界展パフェ」を頼んだら、「美」という文字を印刷した引換券をくれた。しばらくして、係りの人がお盆に載せてパフェを持ってきた。受け取って、座席に持っていって食べた。底の方にピンクがかった寒天が入っていて、口が甘くなりすぎるのを救っていた。

「阿古屋」

襖が開いて最初に出てくる重忠(愛之助)。前に見た獅童も良かったが、愛之助はもっと安定していて全く心配なく観られるし、義太夫狂言で台詞もうまい。全く危なげなく、まだ初日だから、これから微調整はあるのだろうが。 

薪車の岩永は、人形ぶりがうまいかとか、糸に乗ってるかとか、そういう技術的なことは別にして、華やかで愛嬌があって目立ち、笑いをとるべきところで客が笑っていたので、成功だと思う。重忠をはさんで玉三郎と薪車がいると、2人とも華やかでバランスが良い。

玉三郎は演奏中、琴のときと三味線のときは歌っているのだなあ、といまさらながら気づいた。去年のコンサートで玉三郎の歌に感動したので、それ以来ずっと歌を聴きたいと思っているからだ。

胡弓のとき、岩永が弾く真似をするのが面白い。

四月の忠臣蔵の大序を観て以来、松緑の人形ぶりを見たいと思っている。いつか、岩永をやらせてもらえないだろうか。

幕切れに舞台にいるのは榛沢六郎の功一、玉三郎、愛之助、薪車、と綺麗な役者ばかりだった。

「傾城」

日生で観たのと同じ演出なのだろうか。鼓の傳左衛門がいるのも同じだが、今回の方が見る角度が良かったのか、あのときよりずっと感動した。

最初は、暗い舞台が明るくなると、功一の肩に手を置いた花魁姿の玉三郎がいて、外八文字に足を動かしながら舞台の真ん中をぐるりとめぐって、また明かりが落ちる。薄闇の中、後見が下手から衣装を運んで来たのが見える。美しいものを短時間見せられた後に暗くなったので、なにか夢を見ているようだった。

運んで来た衣装は紫の地に金糸の刺繍の打ち掛けで、次に明るくなったときにはそれに着替えていた。差し金の蝶が舞う真ん中で踊る。その姿が、理屈抜きで美しい。

打ち掛けを脱いで、団扇で扇ぐ姿は、七段目のおかるが2階から姿を現したときのようだ。

動く美術品のような玉三郎が、完全に美しいものを描き出していく動きに見ほれた。自然に顔がほころぶ。これを観るためなら京都への交通費も惜しくない。本当に来た甲斐があった。これこそ、私が待ち望む玉三郎だ。

四代目市川猿之助襲名 六月大歌舞伎 夜の部「ヤマトタケル」2012/06/05 22:43

2012年6月5日 新橋演舞場 午後4時開演 2階3列19番

演舞場の2階正面は視界が開け、舞台全体が見渡せる良席だ。こんなに正面からじっくり宙乗りを見たのは初めてかもしれない。

「襲名口上」

夜にも口上があると聞いて劇中口上だろうと思ったのだが、幕が開くと新猿之助と新中車が並んで頭を下げていた。役の衣装。新猿之助が主にしゃべって、中車はずっと短い時間しかしゃべらず、横でずっと頭を下げていたような感じ。新猿之助は、いつもと同じだが、はじめて聞く中車の口上は、語尾がはぁはぁしてるように聞こえた。

新猿之助は、口上というより、中車を横に置いて浅草の新年挨拶をしているみたいだった。亀ちゃん、やっぱりあれが好きだったんだなあ。襲名する本人がこんなにペラペラしゃべるのも珍しい。セルフ襲名口上?

亀治郎は、三代目の猿之助が作り上げて大事にしていたスーパー歌舞伎を襲名演目の1つにしたいと松竹に言ったが、「不可能」というありがたいお言葉をいただいたそうだ。しかし「不可能を可能にするのがおもだか屋」。昼の部は普通の歌舞伎をやり、夜はスーパーをやるのは初めてのこと。昼は檜舞台だが。夜はスーパー仕様になる。だから、大道具さんが大変、と感謝の言葉を述べた。横にいる香川照之が市川中車を襲名する。46で歌舞伎役者になった前例はない。しかし、「前例がなければ作ればいい」。

中車は、ヤマトタケル初演のときに父が46で、今自分が46と言っていた。先週、何年か前の猿之助のインタビュー番組を見たときに私も思った。

新猿之助によると、福山雅治に贈られた祝い幕は、はじめ、三人(猿之助三代? 誰だったか記憶が不確か)の隈取を三つ並べた柄だったが、福山の案で三つ重ねた。そしたら、三つの隈取のズレで面白いものができた。それが伝統ではないか、と思う。 (口上の後、幕が閉まって、この幕を見ることになるのだが、ちょっと京劇の隈取のような感じになって、芸術的!)

僕達も命を尽くして芝居をするので、お客様も命を尽くして応援してください、ということで、最後は「隅から隅まで~」。

「ヤマトタケル」

初演を観たとき、頭痛で、目を開けているのも辛いような酷い体調だったので、観ていてもあまり楽しくなかった。そのとき、唯一、心を惹かれたのは、白いイノシシ。あれが花道を走ってきたときは嬉しかった。

白いイノシシは三幕目に出てくる。山神(弥十郎)の化身で、顔に、山神と同じ青隈がある。2人でやっていて、立ち上がることもある。身体は白い毛がたっぷりフサフサしているので、椿説弓張月のイノシシのように変に足長に見えない。ヤマトタケルと戦うシーンは、上から見ていると、ヤマトタケルの赤い衣装との対比と、舞台の対角線を描くようにぶつかりあう形が綺麗だった。

この芝居は、面白いと思うところと、つまらないところがマダラにある。全体の印象を言えば、生煮え。面白かったのは、イノシシ以外では、「大和には戻れない」という予言、クマソで屋台が壊れるところ、京劇の役者達の宙返りなど。つまらないのは、全体に説明台詞や、ただ突っ立って台詞をいうだけのところが多いところ。漫画でいうと、吹き出しの中の台詞が多すぎたり、絵でなく台詞で説明してしまうところが多いような感じ。ヤマトタケルが、父帝にエゾへ行けといわれ、やまとひめのところでその不満を並べるようなところがつまらない。同じ場面のやまとひめの方は面白いのに。

新猿之助は、前の猿之助とはニンが違うが、「火の鳥」のヤマトタケルを思い浮かべると、華奢で子供っぽい新猿之助の方がヤマトタケルに近い。若さもあって、女装してクマソに侵入するところは、たぶん前の猿之助よりもむいてる。 私は早替わりが好きじゃないのであまり好きな場面ではないが、双子の兄のところで何度も入れ替わる場面では、声で2人の違いをはっきり出していてうまかった。

ヤマトタケルの従者のタケヒコとヘタルベが右近と弘太郎なので、三人で踊れよ、と思った。右近が旗振りだけではもったいない。

帝の役の中車は、台詞は良かったと思う。重そうな衣装で裾さばきが大変だろうに、よくやっていた。花道をただ歩くようなところが、歌舞伎役者と違ってさまになってないとは思う。

ヤマトタケルが死んだ後、タケヒコ、ヘタルベ、兄橘姫(笑也)のシーンは冗漫。しかし、ワカタケル役の團子がここで登場するので客席は盛り上がる。團子は、よく通った声で、素直な台詞だった。拍手に包まれて笑也といっしょに花道を歩いて引き揚げたが、亀治郎の次の代の子役が出てきたのが感慨深かった。無事に成長することを願うばかりだ。

ヤマトタケルが白鳥になって宙乗りする最後のシーンの衣装は、美空ひばりと小林幸子を合わせたような印象だが、新猿之助がいろいろな方向に顔を向けながら、一度戻ったりしながら、ゆったりと宙乗りする姿をじっくり眺めた。猿之助歌舞伎で宙乗りを見るときの客席の興奮。あれがまた戻ってくるのか。

おもだか屋がこんな形で代替わりするなんて、一年前は予想できなかった。本当に良かった。

カーテンコールでは、最後に登場したヤマトタケルが、父帝の手をとって頭を下げるシーンが印象的だった。一度幕が下りてまた上がったとき、真ん中に猿之助と梅原猛が立っていた。立っているだけで凄いと思う2人。半強制スタオベ大嫌いの私だが、自然に立ち上がっていた。拍手して、手を振った。新猿之助も手を振っていた。

四代目市川猿之助襲名 六月大歌舞伎 昼の部2012/06/07 17:43

2012年6月7日 新橋演舞場 午前11時開演 3階2列上手

「小栗栖の長兵衛」

明智光秀を殺した小栗栖の長兵衛は、蝮とあだ名される鼻つまみ者だった。

小栗栖村の茶屋の前で、村人が明智光秀の三日天下の話をしている。そこに、長兵衛の父の長九郎(寿猿)、妹のおいね (笑三郎)、おいねの夫の七之助(門之助)がやってくる。三人は長兵衛の母の墓参の帰り。長兵衛は昨日から行方が知れない。馬士の弥太八(右近)は、長兵衛が弥太八の馬を盗んだという。

庄屋と僧法善(猿弥)がやって来て、秀吉の、鉄砲、竹槍禁止のお触れを皆に伝える。舞台下手後方からそっと現れた猟人伝蔵(弘太郎) 。皆の様子をうかがうように、茶屋の後ろを通って庄屋と僧法善の近くに来てこっそり話をきく。鉄砲を手にしてがっくりした様子を見せる。このときの弘太郎はとてもうまい。台詞があるときよりうまさを感じる。伝蔵は、落ち武者を鉄砲で撃ったが当たらなかった。その話をきいて、庄屋と僧法善は、いのししと間違えたことにしろという。

花道から長兵衛(中車)登場。拍手が聞こえたが、私の席からは、七三に立つまで姿が見えなかった。巫女の小鈴(春猿)をつかまえてひっぱってきている。茶屋に酒を注文し、巫女に酌をせよと迫る。

弥太八(右近)は、買い戻した馬を連れてやってきて、払った金を弁償しろと長兵衛に言う。馬を立たせてその場所を離れるとき、動かないように馬の前足2本を手綱でクルクルと縛るのが面白かった。

長兵衛は、自分は馬を盗んでないと言い張る。馬に向かって、もし自分が盗んだのてはないならヒヒンと啼け、自分が盗んだのならモオと啼け、と無理なことを言う。妹夫婦がとりなすが、長兵衛は、2人が自分が馬をとったと決め込んでいるのが気に入らないと怒る。父が来て長兵衛を勘当するというと、怒って暴れる。村人たちは、長兵衛を縛る。手首と足首のところを縛って、縛ったところを紐でつなぐ形で倒れている長兵衛の姿が面白かった。

中車の長兵衛は龍馬伝の弥太郎のイメージに近かった。父と喧嘩して「釜の下の灰までも俺のものだ」という台詞を聞いて、おお、権太もいけるかも、と思った。

村人たちが簀巻きにした長兵衛を川に運ぼうとしているところに、秀吉の家臣の堀尾(月乃助)が来て、光秀を刺した槍の穂先の持ち主を探しているという。長兵衛を隠すように並んで座った村人たちが、そんな者は村にはいない、と口をそろえるが、簀巻きにされた長兵衛が声を上げ、自分の竹槍だと言う。長兵衛の持っていた竹槍と穂先が一致したので、秀吉から褒美をもらえることになる。月乃助は、段治郎が名前を変えたもの。ヤマトタケルでも帝の使者で出た。堀尾もそうだが、短い時間でもかっこよさとうまさが印象に残る。

長兵衛が褒美をもらえることになったので、村人たちはころっと態度を変えてちやほやする。妹夫婦は祝いの言葉を述べ、巫女は酌をしに来る。 巫女の役は春猿に合っていた。 最後に、秀吉の陣に向かう長兵衛は弥太八が差し出した馬に乗って、花道から引っ込む。舞台では村人たちが喜んで見送る。

何ともお目出度い話。ゆるい話なのに、役者たちが豪華すぎる。主役の中車は豪華脇役陣に支えられて、幸せな船出をした。

中車の動きは良かった。曽祖父の真似を徹底したせいか、ヤマトタケルの帝のときのような隙がなかった。台詞は、他の役者達が歌舞伎として決まった言い方の上に乗ってるのに、中車は違うのはわかる。でも、悪くなかった。

映像の世界の香川を見ているときは感じたことがなかったが、中車の舞台での声は魅力がある。ヤマトタケルの帝のような低く作った声ではなく、長兵衛の声の中でもダミ声ではない、出しやすそうな高さの声がナット・キング・コールのような、曇りガラスのような声。ふんわりと包み込むような、それでいて透明感のある声で、耳に快い。あの声が出せるなら、二十年後でも良いから文七元結の長兵衛が見たい。

中車は、歌舞伎ファンに、次々にあの役が見たい、この役が見たいと思わせる、魅力のある役者だと思う。一生精進するそうだが、本当に、自分の才能を発掘育成することに力を注いでほしい。自分が思ってるより凄い才能が眠ってるのかもしれないから。

「口上」

口上の前に、福山雅治の祝い幕が引かれた。三人の隈取を重ねた顔が、幕の動きにつれて揺れてさまざまな表情を見せる。

幕が開き、最初に藤十郎が、初代猿翁、三代目段四郎の思い出を語り、今回の襲名について話した。当時の扇雀の雲絶間姫はさぞ綺麗だったろう。

3階から見ていると、ついている両手の幅の違いがよく見えた。女形は、いつも両手の先を重ねている。

藤十郎に「段四郎さんお願いします」と言われて、次に段四郎が口上を述べた。久しぶりに声をきいたが、元気そうで良かった。みんなでがんばります、という内容。

上手側には門閥系の役者が並んでいる。

弥十郎 「猿之助さんが初お目見えで安徳天皇をやったとき、抱えている武士の役で腕が痺れた」
昔、猿之助の歌舞伎を観に行ったとき、弥十郎は毎回出ていた。

門之助 「猿翁兄さんにお世話になった。猿之助さんとは、おもだか屋の芝居だけでなく、浅草の花形歌舞伎、亀治郎の会でもいっしょだった」
猿之助の歌舞伎で、門之助襲名を見た。門之助も立派になったなあ。

寿猿「50年前の、猿之助・段四郎襲名にも列席した」
凄い。感無量だろう。

竹三郎 「猿翁さんとずっといっしょに舞台に出ていた。猿之助さんともよくいっしょ」
浅草では亀治郎と夫婦の役だった竹三郎。

秀太郎「中車さんは頑張って古典もやってください。七代目の中車さんは素晴らしい役者で亡父もよく言ってました」

下手側は門弟達で、紋切り型の口上が並んだが、中で笑也の「抜擢をうけ、数々の大役をやらせていただいた。今月はヤマトタケル初演のときと同じみやず姫の役で二代にわたり共演させていただく」というのが記憶に残った。

最後に襲名する役者たちの番になって、最初が新猿之助。
祝い幕は、「曽祖父と祖父と僕の」押隈を重ねたものと言っていたから、今演舞場に写真が飾ってある猿翁と段四郎、それに新猿之助の押隈だ。三つ重ねたのを見て、襲名というのはそういうものか、と思ったそうだ。

中車 「(秀太郎の話を受けて)七代目は~八代目は~。一生精進します」
中車は、テレビのナレーションのときと同じで、語尾の最後に息が抜ける感じがする。

團子 「おじいさまより立派な役者になることが僕の夢です」

この後、藤十郎が、「では猿翁さんを呼びます」と言って「猿翁さん」と呼ぶと、後ろの襖が開いて、四角い台の上に座った猿翁が現れ、その台が押されて、口上の列の真ん中に入った。

猿翁を迎えるとき、猿之助と段四郎親子は扇子を袴に挟んだが、中車は何もなし。

猿翁は、言葉が不自由ではあるが、「~こい願いあ~げたてまつります」と言った。

「四の切」

しばらく観たくなかったが、また観てしまった。演目が嫌いなのではなく、いろいろな仕掛けに慣れて感動しなくなっている自分が嫌なのだ。

最初に出る川連法眼夫婦が段四郎と竹三郎。

駿河次郎が門之助。亀井六郎が右近。

藤十郎の義経、秀太郎の静というのは、古風で本格的。それと新猿之助はよく合う。秀太郎の赤姫は、少なくとも私には珍しい。でも、本人は本当はこういう若い役をやりたいようなことを言っていたから、喜んでやっているだろう。

新猿之助は、階段を一段ずつ下りてくるときが、狐の足らしくて良かった。

3階から見る宙乗りも良かった。最後、桜吹雪が何回か噴射されて、花道の上にゆっくり落ちていくのが見えた。