四代目市川猿之助襲名 六月大歌舞伎 昼の部 ― 2012/06/07 17:43
2012年6月7日 新橋演舞場 午前11時開演 3階2列上手
「小栗栖の長兵衛」
明智光秀を殺した小栗栖の長兵衛は、蝮とあだ名される鼻つまみ者だった。
小栗栖村の茶屋の前で、村人が明智光秀の三日天下の話をしている。そこに、長兵衛の父の長九郎(寿猿)、妹のおいね (笑三郎)、おいねの夫の七之助(門之助)がやってくる。三人は長兵衛の母の墓参の帰り。長兵衛は昨日から行方が知れない。馬士の弥太八(右近)は、長兵衛が弥太八の馬を盗んだという。
庄屋と僧法善(猿弥)がやって来て、秀吉の、鉄砲、竹槍禁止のお触れを皆に伝える。舞台下手後方からそっと現れた猟人伝蔵(弘太郎) 。皆の様子をうかがうように、茶屋の後ろを通って庄屋と僧法善の近くに来てこっそり話をきく。鉄砲を手にしてがっくりした様子を見せる。このときの弘太郎はとてもうまい。台詞があるときよりうまさを感じる。伝蔵は、落ち武者を鉄砲で撃ったが当たらなかった。その話をきいて、庄屋と僧法善は、いのししと間違えたことにしろという。
花道から長兵衛(中車)登場。拍手が聞こえたが、私の席からは、七三に立つまで姿が見えなかった。巫女の小鈴(春猿)をつかまえてひっぱってきている。茶屋に酒を注文し、巫女に酌をせよと迫る。
弥太八(右近)は、買い戻した馬を連れてやってきて、払った金を弁償しろと長兵衛に言う。馬を立たせてその場所を離れるとき、動かないように馬の前足2本を手綱でクルクルと縛るのが面白かった。
長兵衛は、自分は馬を盗んでないと言い張る。馬に向かって、もし自分が盗んだのてはないならヒヒンと啼け、自分が盗んだのならモオと啼け、と無理なことを言う。妹夫婦がとりなすが、長兵衛は、2人が自分が馬をとったと決め込んでいるのが気に入らないと怒る。父が来て長兵衛を勘当するというと、怒って暴れる。村人たちは、長兵衛を縛る。手首と足首のところを縛って、縛ったところを紐でつなぐ形で倒れている長兵衛の姿が面白かった。
中車の長兵衛は龍馬伝の弥太郎のイメージに近かった。父と喧嘩して「釜の下の灰までも俺のものだ」という台詞を聞いて、おお、権太もいけるかも、と思った。
村人たちが簀巻きにした長兵衛を川に運ぼうとしているところに、秀吉の家臣の堀尾(月乃助)が来て、光秀を刺した槍の穂先の持ち主を探しているという。長兵衛を隠すように並んで座った村人たちが、そんな者は村にはいない、と口をそろえるが、簀巻きにされた長兵衛が声を上げ、自分の竹槍だと言う。長兵衛の持っていた竹槍と穂先が一致したので、秀吉から褒美をもらえることになる。月乃助は、段治郎が名前を変えたもの。ヤマトタケルでも帝の使者で出た。堀尾もそうだが、短い時間でもかっこよさとうまさが印象に残る。
長兵衛が褒美をもらえることになったので、村人たちはころっと態度を変えてちやほやする。妹夫婦は祝いの言葉を述べ、巫女は酌をしに来る。 巫女の役は春猿に合っていた。 最後に、秀吉の陣に向かう長兵衛は弥太八が差し出した馬に乗って、花道から引っ込む。舞台では村人たちが喜んで見送る。
何ともお目出度い話。ゆるい話なのに、役者たちが豪華すぎる。主役の中車は豪華脇役陣に支えられて、幸せな船出をした。
中車の動きは良かった。曽祖父の真似を徹底したせいか、ヤマトタケルの帝のときのような隙がなかった。台詞は、他の役者達が歌舞伎として決まった言い方の上に乗ってるのに、中車は違うのはわかる。でも、悪くなかった。
映像の世界の香川を見ているときは感じたことがなかったが、中車の舞台での声は魅力がある。ヤマトタケルの帝のような低く作った声ではなく、長兵衛の声の中でもダミ声ではない、出しやすそうな高さの声がナット・キング・コールのような、曇りガラスのような声。ふんわりと包み込むような、それでいて透明感のある声で、耳に快い。あの声が出せるなら、二十年後でも良いから文七元結の長兵衛が見たい。
中車は、歌舞伎ファンに、次々にあの役が見たい、この役が見たいと思わせる、魅力のある役者だと思う。一生精進するそうだが、本当に、自分の才能を発掘育成することに力を注いでほしい。自分が思ってるより凄い才能が眠ってるのかもしれないから。
「口上」
口上の前に、福山雅治の祝い幕が引かれた。三人の隈取を重ねた顔が、幕の動きにつれて揺れてさまざまな表情を見せる。
幕が開き、最初に藤十郎が、初代猿翁、三代目段四郎の思い出を語り、今回の襲名について話した。当時の扇雀の雲絶間姫はさぞ綺麗だったろう。
3階から見ていると、ついている両手の幅の違いがよく見えた。女形は、いつも両手の先を重ねている。
藤十郎に「段四郎さんお願いします」と言われて、次に段四郎が口上を述べた。久しぶりに声をきいたが、元気そうで良かった。みんなでがんばります、という内容。
上手側には門閥系の役者が並んでいる。
弥十郎 「猿之助さんが初お目見えで安徳天皇をやったとき、抱えている武士の役で腕が痺れた」
昔、猿之助の歌舞伎を観に行ったとき、弥十郎は毎回出ていた。
門之助 「猿翁兄さんにお世話になった。猿之助さんとは、おもだか屋の芝居だけでなく、浅草の花形歌舞伎、亀治郎の会でもいっしょだった」
猿之助の歌舞伎で、門之助襲名を見た。門之助も立派になったなあ。
寿猿「50年前の、猿之助・段四郎襲名にも列席した」
凄い。感無量だろう。
竹三郎 「猿翁さんとずっといっしょに舞台に出ていた。猿之助さんともよくいっしょ」
浅草では亀治郎と夫婦の役だった竹三郎。
秀太郎「中車さんは頑張って古典もやってください。七代目の中車さんは素晴らしい役者で亡父もよく言ってました」
下手側は門弟達で、紋切り型の口上が並んだが、中で笑也の「抜擢をうけ、数々の大役をやらせていただいた。今月はヤマトタケル初演のときと同じみやず姫の役で二代にわたり共演させていただく」というのが記憶に残った。
最後に襲名する役者たちの番になって、最初が新猿之助。
祝い幕は、「曽祖父と祖父と僕の」押隈を重ねたものと言っていたから、今演舞場に写真が飾ってある猿翁と段四郎、それに新猿之助の押隈だ。三つ重ねたのを見て、襲名というのはそういうものか、と思ったそうだ。
中車 「(秀太郎の話を受けて)七代目は~八代目は~。一生精進します」
中車は、テレビのナレーションのときと同じで、語尾の最後に息が抜ける感じがする。
團子 「おじいさまより立派な役者になることが僕の夢です」
この後、藤十郎が、「では猿翁さんを呼びます」と言って「猿翁さん」と呼ぶと、後ろの襖が開いて、四角い台の上に座った猿翁が現れ、その台が押されて、口上の列の真ん中に入った。
猿翁を迎えるとき、猿之助と段四郎親子は扇子を袴に挟んだが、中車は何もなし。
猿翁は、言葉が不自由ではあるが、「~こい願いあ~げたてまつります」と言った。
「四の切」
しばらく観たくなかったが、また観てしまった。演目が嫌いなのではなく、いろいろな仕掛けに慣れて感動しなくなっている自分が嫌なのだ。
最初に出る川連法眼夫婦が段四郎と竹三郎。
駿河次郎が門之助。亀井六郎が右近。
藤十郎の義経、秀太郎の静というのは、古風で本格的。それと新猿之助はよく合う。秀太郎の赤姫は、少なくとも私には珍しい。でも、本人は本当はこういう若い役をやりたいようなことを言っていたから、喜んでやっているだろう。
新猿之助は、階段を一段ずつ下りてくるときが、狐の足らしくて良かった。
3階から見る宙乗りも良かった。最後、桜吹雪が何回か噴射されて、花道の上にゆっくり落ちていくのが見えた。
「小栗栖の長兵衛」
明智光秀を殺した小栗栖の長兵衛は、蝮とあだ名される鼻つまみ者だった。
小栗栖村の茶屋の前で、村人が明智光秀の三日天下の話をしている。そこに、長兵衛の父の長九郎(寿猿)、妹のおいね (笑三郎)、おいねの夫の七之助(門之助)がやってくる。三人は長兵衛の母の墓参の帰り。長兵衛は昨日から行方が知れない。馬士の弥太八(右近)は、長兵衛が弥太八の馬を盗んだという。
庄屋と僧法善(猿弥)がやって来て、秀吉の、鉄砲、竹槍禁止のお触れを皆に伝える。舞台下手後方からそっと現れた猟人伝蔵(弘太郎) 。皆の様子をうかがうように、茶屋の後ろを通って庄屋と僧法善の近くに来てこっそり話をきく。鉄砲を手にしてがっくりした様子を見せる。このときの弘太郎はとてもうまい。台詞があるときよりうまさを感じる。伝蔵は、落ち武者を鉄砲で撃ったが当たらなかった。その話をきいて、庄屋と僧法善は、いのししと間違えたことにしろという。
花道から長兵衛(中車)登場。拍手が聞こえたが、私の席からは、七三に立つまで姿が見えなかった。巫女の小鈴(春猿)をつかまえてひっぱってきている。茶屋に酒を注文し、巫女に酌をせよと迫る。
弥太八(右近)は、買い戻した馬を連れてやってきて、払った金を弁償しろと長兵衛に言う。馬を立たせてその場所を離れるとき、動かないように馬の前足2本を手綱でクルクルと縛るのが面白かった。
長兵衛は、自分は馬を盗んでないと言い張る。馬に向かって、もし自分が盗んだのてはないならヒヒンと啼け、自分が盗んだのならモオと啼け、と無理なことを言う。妹夫婦がとりなすが、長兵衛は、2人が自分が馬をとったと決め込んでいるのが気に入らないと怒る。父が来て長兵衛を勘当するというと、怒って暴れる。村人たちは、長兵衛を縛る。手首と足首のところを縛って、縛ったところを紐でつなぐ形で倒れている長兵衛の姿が面白かった。
中車の長兵衛は龍馬伝の弥太郎のイメージに近かった。父と喧嘩して「釜の下の灰までも俺のものだ」という台詞を聞いて、おお、権太もいけるかも、と思った。
村人たちが簀巻きにした長兵衛を川に運ぼうとしているところに、秀吉の家臣の堀尾(月乃助)が来て、光秀を刺した槍の穂先の持ち主を探しているという。長兵衛を隠すように並んで座った村人たちが、そんな者は村にはいない、と口をそろえるが、簀巻きにされた長兵衛が声を上げ、自分の竹槍だと言う。長兵衛の持っていた竹槍と穂先が一致したので、秀吉から褒美をもらえることになる。月乃助は、段治郎が名前を変えたもの。ヤマトタケルでも帝の使者で出た。堀尾もそうだが、短い時間でもかっこよさとうまさが印象に残る。
長兵衛が褒美をもらえることになったので、村人たちはころっと態度を変えてちやほやする。妹夫婦は祝いの言葉を述べ、巫女は酌をしに来る。 巫女の役は春猿に合っていた。 最後に、秀吉の陣に向かう長兵衛は弥太八が差し出した馬に乗って、花道から引っ込む。舞台では村人たちが喜んで見送る。
何ともお目出度い話。ゆるい話なのに、役者たちが豪華すぎる。主役の中車は豪華脇役陣に支えられて、幸せな船出をした。
中車の動きは良かった。曽祖父の真似を徹底したせいか、ヤマトタケルの帝のときのような隙がなかった。台詞は、他の役者達が歌舞伎として決まった言い方の上に乗ってるのに、中車は違うのはわかる。でも、悪くなかった。
映像の世界の香川を見ているときは感じたことがなかったが、中車の舞台での声は魅力がある。ヤマトタケルの帝のような低く作った声ではなく、長兵衛の声の中でもダミ声ではない、出しやすそうな高さの声がナット・キング・コールのような、曇りガラスのような声。ふんわりと包み込むような、それでいて透明感のある声で、耳に快い。あの声が出せるなら、二十年後でも良いから文七元結の長兵衛が見たい。
中車は、歌舞伎ファンに、次々にあの役が見たい、この役が見たいと思わせる、魅力のある役者だと思う。一生精進するそうだが、本当に、自分の才能を発掘育成することに力を注いでほしい。自分が思ってるより凄い才能が眠ってるのかもしれないから。
「口上」
口上の前に、福山雅治の祝い幕が引かれた。三人の隈取を重ねた顔が、幕の動きにつれて揺れてさまざまな表情を見せる。
幕が開き、最初に藤十郎が、初代猿翁、三代目段四郎の思い出を語り、今回の襲名について話した。当時の扇雀の雲絶間姫はさぞ綺麗だったろう。
3階から見ていると、ついている両手の幅の違いがよく見えた。女形は、いつも両手の先を重ねている。
藤十郎に「段四郎さんお願いします」と言われて、次に段四郎が口上を述べた。久しぶりに声をきいたが、元気そうで良かった。みんなでがんばります、という内容。
上手側には門閥系の役者が並んでいる。
弥十郎 「猿之助さんが初お目見えで安徳天皇をやったとき、抱えている武士の役で腕が痺れた」
昔、猿之助の歌舞伎を観に行ったとき、弥十郎は毎回出ていた。
門之助 「猿翁兄さんにお世話になった。猿之助さんとは、おもだか屋の芝居だけでなく、浅草の花形歌舞伎、亀治郎の会でもいっしょだった」
猿之助の歌舞伎で、門之助襲名を見た。門之助も立派になったなあ。
寿猿「50年前の、猿之助・段四郎襲名にも列席した」
凄い。感無量だろう。
竹三郎 「猿翁さんとずっといっしょに舞台に出ていた。猿之助さんともよくいっしょ」
浅草では亀治郎と夫婦の役だった竹三郎。
秀太郎「中車さんは頑張って古典もやってください。七代目の中車さんは素晴らしい役者で亡父もよく言ってました」
下手側は門弟達で、紋切り型の口上が並んだが、中で笑也の「抜擢をうけ、数々の大役をやらせていただいた。今月はヤマトタケル初演のときと同じみやず姫の役で二代にわたり共演させていただく」というのが記憶に残った。
最後に襲名する役者たちの番になって、最初が新猿之助。
祝い幕は、「曽祖父と祖父と僕の」押隈を重ねたものと言っていたから、今演舞場に写真が飾ってある猿翁と段四郎、それに新猿之助の押隈だ。三つ重ねたのを見て、襲名というのはそういうものか、と思ったそうだ。
中車 「(秀太郎の話を受けて)七代目は~八代目は~。一生精進します」
中車は、テレビのナレーションのときと同じで、語尾の最後に息が抜ける感じがする。
團子 「おじいさまより立派な役者になることが僕の夢です」
この後、藤十郎が、「では猿翁さんを呼びます」と言って「猿翁さん」と呼ぶと、後ろの襖が開いて、四角い台の上に座った猿翁が現れ、その台が押されて、口上の列の真ん中に入った。
猿翁を迎えるとき、猿之助と段四郎親子は扇子を袴に挟んだが、中車は何もなし。
猿翁は、言葉が不自由ではあるが、「~こい願いあ~げたてまつります」と言った。
「四の切」
しばらく観たくなかったが、また観てしまった。演目が嫌いなのではなく、いろいろな仕掛けに慣れて感動しなくなっている自分が嫌なのだ。
最初に出る川連法眼夫婦が段四郎と竹三郎。
駿河次郎が門之助。亀井六郎が右近。
藤十郎の義経、秀太郎の静というのは、古風で本格的。それと新猿之助はよく合う。秀太郎の赤姫は、少なくとも私には珍しい。でも、本人は本当はこういう若い役をやりたいようなことを言っていたから、喜んでやっているだろう。
新猿之助は、階段を一段ずつ下りてくるときが、狐の足らしくて良かった。
3階から見る宙乗りも良かった。最後、桜吹雪が何回か噴射されて、花道の上にゆっくり落ちていくのが見えた。
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