十二月大歌舞伎 昼の部 初日2014/12/02 19:00

2014年12月2日 歌舞伎座 午前11時開演 1階1列23番

「義賢最期」

初役だった松竹座で観て以来、こんぴら、新橋、浅草、と観てこれで5回目。きょうは今まで観た中で一番良かった。

折平役は亀三郎。愛之助ともども口跡が良いので二人がからむ場面は聞きごたえがある。

義賢役の愛之助は低音を出すのに慣れて来たようで、ずっと前に感じたような聞き取りにくさのようなものがない。年取ってからの仁左衛門の声のようなちょっと割れたような低音だ。安定してうまいが、銀鼠色の着物で、義朝の髑髏を持ってきた二人と相対しているあたりが特に良い。ふたごころなき義賢が髑髏を蹴って晴らさん、とか言いながら結局兄の髑髏を蹴ることはできないその心の動きがよくわかる。

進野次郎は市川道行(元坂東薪車)。久しぶりに見るが、やっぱり華のある人だと思う。覚えていないが上演記録によると松竹座のときと演舞場のときの進野次郎は薪車だったのだ。

進野次郎が上手にはけると、逸見藤太のような雰囲気の矢走兵内(猿弥)が出てくる。義賢が最後の拵えで出てくるまでの時間稼ぎだ。葵御前は笑也、矢走が猿弥、と今月は配役が豪華。

チラシの写真のように顔から血を流して髪を乱した義賢が戦いながら襖の向こうから出てくる。やがて戸板が運び込まれ、二枚の戸板を立てて、義賢が乗った戸板をその上に乗せる。上で立ち上がって拍手を受けた後、下手の戸板を支えていた人がいなくなり、掛け声とともに上手の人が戸板の上の方を押すと、ゆっくり下手に傾いて行く。完全に倒れて、無事に着地。戸板倒し成功。

さらに戦い続ける義賢にいろんな方向から矢が飛んで来る。そして義賢は花道へ行って立ち回り。花道にいる間に舞台上の矢を片づける。

舞台に戻った義賢は進野次郎に刺されて致命傷を負う。最後の力を振り絞って進野を討ち、小万に白旗を託して、いよいよ階段の上に立ってフィニッシュの態勢に入る。片方ずつ腕を伸ばしてしゃっきり立った後、腕も上半身も下げてグタッとし、最後にスプレッドイーグルが背伸びをしたような格好になり、そのまま階段に倒れ込む。ガタッと音がし、身体が少し下に滑った。前の二回くらい、倒れ込んだときがフワッとした感じで少し不満だったが、今回は満足。仏倒れ成功で無事に幕。

小万役の梅枝は、白旗を渡されるときの泣きそうな顔も良かったし、手水鉢から水をくんで飲ませるところ、雄々しく戦うところ、下手に小走りではけるところまで、みんなうまい。

「幻武蔵」

新作なので、どんなもんだろうと思ったが、舞台は姫路城の天守なので「天守物語」と同じ。そこに花道すっぽんから上って来る感じで武蔵(獅童)と、息子の造酒之助(萬太郎)が出てくる。その後、周り舞台の上にいろいろな人の霊が次々に現れて場面を作る。

淀君の玉三郎と千姫の児太郎のときは孤城の落月みたいな雰囲気だった。暴力的な淀君の玉三郎が面白い。児太郎はブス。

千姫に恨みごとを言う坂崎出羽守が道行。昔、大河ドラマで高橋英樹がやった坂崎出羽守がとても良かったので、イケメンが出羽守をやるのは正しいと思うのだが、もっと男の哀愁がほしい。道行の演技にはそういう深味がない。この役は愛之助がやった方がいい。

やはり千姫に恨みごとを言う秀頼(弘太郎)。弘太郎は秀頼のイメージにとっても合う。

千姫が二人になって武蔵に言い寄ったりするが、武蔵は偽物と見破り、二人は姿を消す。

そこに小刑部明神(松也)が現れ、武蔵の過去をいろいろ責めたてる。松也の役はチラシの写真の女形とは違って、女物の衣装で典侍の局のような長い房のついた扇を持っているけれどもボリュームのある長い髪で、しゃべり方は中性的。巫女的と言うべきか。

明神と話しているうちに武蔵と同じ格好をした男たちが何人も現れる。鏡を使ったり映像処理をしたりするかわりに本物の人間を使った、というところか。

結局、武蔵は自分が見て来た幻は自分の心の中の煩悩なのだと気づいて、それをすべて斬り捨てることにした、ということなのだろう。

武蔵が斬り捨てると、小刑部明神もやられていなくなる。代わりに、衣装は同じだが女の髪型と化粧の松也が武蔵のところに来て、自分は富姫だと言う。

最後は武蔵はすっぽんから下がって行き、富姫は舞台にいて、幕。

「二人椀久」

海老蔵は、椀久の衣装もこの踊りも似合わない。私が今まで観た椀久は仁左衛門と愛之助だけなので気づかなかったのだが、この踊りがこんなに和事風の踊りだったことに初めて気づいた。

玉三郎はきれいだが、二人で踊った時の美しさが感じられない。この二人の「吉野山」は寿命が延びるような美しさだったが。「二人椀久」だったら、前に歌舞伎座で観た仁左衛門と孝太郎の方がずっと美しいと思えた。

十二月大歌舞伎 夜の部2014/12/26 21:42

2014年12月24日 歌舞伎座 午後4時半開演 1階3列21番

「雷神不動北山櫻」

始まる前に仮名手本忠臣蔵のときのような人形が配役を紹介する。幕開きに役者が全員目をつぶっているのも忠臣蔵と同じ。

「毛抜」、「鳴神」を中心に、小さなシーンのいくつかで包んだような物語。愛之助は文屋豊秀の役で、「毛抜」、「鳴神」以外のシーンに出る。「毛抜」の後に、客席に下りて通路を歩いたりする。関白基経役の門之助は公家の役がものすごく似合う。

海老蔵は、久米寺弾正、鳴神上人とも、常人ではない雰囲気が良かった。若く見えるが実は100歳過ぎという、安倍清行も良かった。海老蔵はこういうナヨッとしたタイプは下手なのだが、この役はなかなか味がある。小磯(玉朗)が来ると「おなごの匂いがする」と出てきて、早口言葉で口説くのが面白かった。全体に、前に新橋演舞場で観たときよりも面白くて、海老蔵が大人になったと思った。

「毛抜」の久米寺弾正の衣装は、裃の裏が赤で着物の裏と見えている襟がオレンジで、グレーで模様のある着物に緑も入っていて、とんでもない色使いなのにおかしくないのはどうしてだろう。

若衆役の尾上右近が年齢、大きさともに海老蔵とバランスがいい。エロがテーマの通し狂言の中でも一番のセクハラシーンかもしれないが、可愛くて楽しかった。

万兵衛役の獅童は文楽人形のような顔。後半、弾正にやりこめられて泣き顔になるあたりがとても獅童らしかった。

「鳴神」は何十年ぶりかの玉三郎の雲絶間。白雲坊、黒雲坊(亀三郎、亀寿)の真中に座って恋人との逢瀬を語っているところが圧巻。観客全員が話に聞き入っていた。川を渡る話になって、雲絶間が立ち上がって岩屋の方を向き、「裾を、こう持ち上げて」とやるとき、團十郎の鳴神は反対側に目を背ける動作をしたと記憶していたが、海老蔵を見ると、前にあった台を反対側に片づけ、前より更に熱心に話に聞き入る。

鳴神が雲絶間の胸に手を入れるところの一番盛り上がるところで、玉三郎は全身の力が抜けて左腕をだらりと下げた後、その手で赤い袖をゆっくりと持ち上げ、「お師匠さま」と言う。

七日に観たときは気づかなかったが、海老蔵の鳴神はもう一度手を入れて「ここが○○、ここが~」と言うとき、どもるような感じにしていたようだが、あれは必要ない。ただ素直に真摯に演じていた團十郎の鳴神が好きだった。

注連縄を切ると、大きな竜が一匹と少し小さいのが二匹、天に昇って行く。

鳴神の後は休憩はなくて大詰になる。雨が降って喜ぶ百姓や巫女たち。百姓の中には國矢や蔦之助がいて、閉まった幕の前と花道を使って踊る。文屋豊秀は大詰にも出る。朝一の演目から愛之助はお疲れ様。関白基経の横にいる女官の一人が見た顔だと思ったら愛一郎。

次の場は朱雀門。早雲王子になった海老蔵が出る。太鼓の音がして、七日の席はもっと上手だったので気づかなかったが、舞台上手に、水平に置いた大きな太鼓を打っている人がいた。この場では花道の梯子乗りと、テンポの速い立ち回りが見ものだ。

最後は、不動明王(海老蔵)の空中浮揚。下手に小さな制多迦童子(市蔵)、上手にコンガラ童子(道行)。