傘寿記念 坂東竹三郎の会2013/08/10 17:31

2013年8月10日 国立文楽劇場 午前11時開演 6列34番

文楽劇場の一階でプログラムを千円で売っていたが、公演チケットを持っている人は2階の劇場に入ったときにタダでもらえる。

「夏姿女團七」

夏祭りのパロディで、團七縞のお梶〔猿之助〕という芸者が主役。義平次のかわりに継母のおとら〔竹三郎〕。

舞台も両国橋とか浜町など、江戸の設定。「すてきに駆けたから」のような江戸の言葉が出てきたりする。

磯之丞〔隼人〕と琴浦〔千壽〕は料理屋に匿われている。隼人は出てきたときの見た目は福岡貢のような良い男だけど磯之丞は大丈夫かと思っていたが、ちょっとナヨッとして優しげな雰囲気が磯之丞そのもの。演じようと努力してる感じもしない、ごく自然体の磯之丞だった。「甲斐なきわが身が」で一斉に「よろづやっ」と声がかかった。
千壽は前に琴浦やったことあるし、余裕。女中お松は段之。
店先に来た老女が、琴浦が実は妾腹の姫君で自分は乳人だと言い、出立をせき立てる。
話をきいていたお梶〔猿之助〕が奥から登場。團七が着ているオレンジ色の格子柄の着物を着ている。猿之助は久しぶりに見る。気のせいか貫禄がついたみたいだ。やっぱり女形の猿之助は良いなあ。
乳人というのが実は継母のおとら〔竹三郎〕だったので追い払うのだが、おとらが「やかましいわい」と開き直るのが見もの。

琴浦に横恋慕している大島佐賀右衛門の役は松之助。松之助だったらやったことありそうな役だが、夏祭りとは台詞が違うようで、最初の方の台詞が入っていなかった。

琴浦を釣船三婦のもとに逃がした後、お梶が帰ろうとすると、一寸お辰〔壱太郎〕に呼び止められる。
お辰は一寸徳兵衛が着ている團七と色違いの水色の格子柄の着物を着ている。二人で制札を持って達引をするのは團七と徳兵衛と同じ。ここに駆けつけて二人の間に割ってはいるのが釣船三婦〔男女蔵〕。「木からは落ちない猿之助と二番とは下がらない壱太郎が・・・・この三婦がオメず臆せずかけつけたからには・・・・」のように役者の名前を盛り込んだ台詞を言う。左團次の三婦を観たことがあるが、男女蔵も三婦を持ち役にするのだろうか。けっこう合ってると思った。
三婦は二人に白刃で決着をつけろと言い、佐賀右衛門に脇差を借りる。その脇差をお梶が見て、盗まれたものであることを確認する。実は二人の達引はこのために仕組まれたものだった。


最後の浜町河岸は夏祭りの長町裏と同じ設定。下手に井戸がある。お梶はおとらに磯之丞を隠した場所を聞くが教えないので,石ころを手ぬぐいに包んで懐に入れ、ここに30両あるからと騙す。二人とも肌は見せないしドロドロにもならない。團七が「おとこの、生きづらをー」というところはお梶が「私のこの顔をー」と言う。
殺しの後、團七には所作がたくさんあるが、お梶は一回くらい。それも、着物を着たままではあまり見栄えがしないと思った。
井戸で水を汲んで血を洗い、震える手で必死に刀を鞘におさめ、ワッショイワッショイとやってきた神輿について行く人の腰から手ぬぐいを取る。

神輿について踊りながら引っ込むのではなく、花道七三で立ち止まって「悪い人でも義理ある親。かかさん、許してくださんせえなあ」と拝み、かぶった手ぬぐいの端を咥えて、「おもだかやっ」「よだいめっ」と声がかかる中、足早に引っ込む。

「四谷怪談」

仁左衛門の伊右衛門を観るために、この公演を観に来た。仁左衛門が伊右衛門を演じたのは私が歌舞伎を観始める前の年で、以来三十年演じていない。写真集の中の伊右衛門は孝夫の役の中でも最高の美しさで、生で観たいとずっと願っていたのに直助権兵衛しか観られず、私は仁左衛門の伊右衛門を観ないままで死ぬのかと半ば絶望していた。

念願かなって観られた仁左衛門の伊右衛門。これこそ本物の伊右衛門だ。

最初の「浪宅の場」で傘張りをしている伊右衛門の顔を見たときは、もっと若いときに見たかったと思った。しかし、質ぐさを物色して赤ん坊の着物をとり、蚊帳をはずして抱え、止めるお岩をいたぶって肩を踏んづけて出かけていくあたりは、やっぱり孝夫ならでは。
こんな切れ味の鋭さを、私はどうしても他の伊右衛門役者に感じられなかった。
お岩が死んだ後で戻ってきた伊右衛門は、小仏小平、お梅、伊藤喜兵衛、と次々に人を斬る。このあたりになると、与兵衛、源五兵衛、大学之助と続く仁左衛門の人殺しシリーズを思い出す。おととい、染五郎のトークを聞いたときは、仁左衛門が三十年も伊右衛門を再演しなかったのは、気が滅入る役だからなのかと思ったが、きょう観た限りでは、そうでもないように感じた。

竹三郎は仁左衛門といつも息が合っている共演者なので、お岩が竹三郎で良かったと思う。先月の菊之助のお岩もうまかったのだが、竹三郎だと、もっと上級で、「大人だな」という感じがする。

孝太郎の役は隠亡堀の最後のだんまりに出るおたかだけだった。
最後のだんまりでは、竹三郎は佐藤与茂七の役で出た。


四谷怪談が終わり、終了のアナウンスもあったので外に出たら、中から拍手が聞こえたので慌てて戻った。竹三郎が幕の外で挨拶した。「仁左衛門さん、孝太郎さん、猿之助さんに出ていただいて、かくも賑々しく会を開くことができてありがとうございました。命の続く限りがんばります。皆さん、歌舞伎を愛してください」というような内容を、ときおり拍手に遮られながら言った。