「摂州合邦辻」についての感想2007/11/27 21:37

今月の国立劇場の「摂州合邦辻」は心に残る舞台だった。12月になれば歌舞伎座の演目に気持ちが移るだろうと思うので、今のうちに、感じていることを書いておきたい。

複数回観ているうちにこんなに自分の見方が変化、あるいは成長していった演目は初めてだ。特に「戻り」についての評価が正反対になった。最初観たときは、「戻り」にがっかりした。せっかく情熱的なラブストーリーなのに、世間の良識に妥協し、主人公をいい人にして終わるのかと思った。次に観たときは、「戻り」はない方が良いが藤十郎の芸で見せられてしまうな、と思った。3回目、4回目と重なるうちに、「戻り」も楽しめるようになった。今は、「戻り」の前は恋の明示的な表現で、「戻り」のところは「恋でない」と言う台詞とは裏腹に透けて見える恋心を表現するところだと考えている。観客はこの二通りの表現を楽しめば良いのだ。

「通し」でやるのは役者が次第に心を高揚させてクライマックスに到達するのに良いだろう。だから芝居自体は通しでやってもらいたいが、客の方としては3回目くらいからは説明の部分は省略して庵室の場だけ観たい。

ただ、庵室の場だけを他の演目に挟まれた形で観るのは嫌だ。国立劇場で一日に一回だけ、この演目だけの上演、という今回の形で観られて良かった。