新橋演舞場 六月大歌舞伎 初日 夜の部2011/06/04 23:17

2011年6月2日 午後4時半開演 1階5列23番

「吹雪峠」

松竹座のときは助蔵とおえんは雪といっしょにスッポンから出てきたが、今回は下手の後ろの方から出てきた。
獅童と七之助は若いカップルだったが、今回は孝太郎のおえんが中年女なので、もっと年のいったカップルの印象だ。

2人の台詞の間、プロンプターの声が聞こえていた。早いやり取りなので、プロンプなどかえって気が散らないかと思ったが、どちらにつけてるというのでもなく、台詞を読み上げてる声がずっと聞こえていて、不思議な感じだった。

孝太郎は、顔以外は色っぽかった。いかにも世話女房で、愛之助をひっぱっている年上女房に見えた。咳込む助蔵に、おえんが口うつしで薬を飲ませる場面も、七之助はさっと薬と水を口に含んでいたが、孝太郎は丸薬を何粒か口の中でよく噛んだ後、水を含んで、助蔵に向かって自分の口を指さし、飲ませていた。それを見て、直吉(染五郎)が手に持っていた煙管をポロッと落とすのが漫画の表現のようで面白かった。

松竹座の時の獅童は、かなり歌舞伎離れした芝居だったが、愛之助は普通の演技だった。 びくびくして直吉の顔色をうかがいながら少し離れたところに身を置くのが、とても愛之助らしかった。

松竹座のときも思ったが、直吉の役は難しい。助蔵の方がいろいろできるだけ簡単だ。愛之助もそれなりにうまく感じた。染五郎は、偉そうな雰囲気だけは「兄貴」と呼ばれる人間に合っている。直吉のおえんに対する未練が生々しく思い描けないのは、おえんが美女でないせいかもしれない。松竹座の時は七之助が若い美人だったので、愛之助の直吉に、女房を寝とられた男の悲哀と未練を感じることができたのかもしれない。

松竹座の時は喜劇だったが、今回は確かに「苦い話」。「あの女、殺しちゃってくれ」という助蔵の台詞に「あー」という客席の声。最後も、助蔵とおえんは松竹座のときのように取っ組み合いの喧嘩をしているのではなく、2人とも放心状態。松竹座の2人は、まだ仲直りをする可能性もあるように見えたが、今月の2人は、極限状態に置かれたときの互いの感情を露わにしてしまって、もう元には戻れない、吹雪に閉じ込められた小屋の中で2人きりでどうしよう、と絶望を感じている。

誰も意図したわけではないのに、見事に3人が3人とも不幸になる、良く出来た戯曲だ。


「夏祭浪花鑑」

序幕、団七の女房お梶(芝雀)が、倅市松(金太郎)を連れ、三婦(歌六)といっしょに花道から出てきた。
床几に腰かけた金太郎は、まだ下に足がつかない。おとなしそうな、きれいな顔。女形向きの顔かもしれないと思いながら、じっと見た。台詞は大きな声で言えていた。まだ物ごころつかないみたいで、可愛い。

歌六の三婦は若々しくて色気のある三婦で、今まで見た三婦の中で一番かっこよかった。

錦之助の磯之丞と孝太郎の琴浦は、贅沢な配役だと思う。前に見た薪車に比べると、さすがに錦之助は和事の身体の動かし方を心得ている。

吉右衛門の団七は、団七のイメージに合うのかどうか、よくわからない。団七が牢から戻ったばかりの格好で、三婦と話しているときは、しきりに身体を掻いていた。

仁左衛門の徳兵衛は言葉にも問題ないし、超安定。片方の足をもう一方の足に載せて床几に座り、髭を抜く。獅童が徳兵衛をやったとき、床几の上に台を置いて座っていたが足が震えていたのを思い出した。仁左衛門は、片方の足をくの字に曲げるような形で腰かけていた。

この後、団七と徳兵衛が表札を抜いて、2人で立ち回りをする。長身の2人だが、初日のせいか、まだ見ていて楽しめるほどではない。

次の幕で、おつぎ役は芝喜松。華はないが、そつのない演技。考えてみると、お辰に磯之丞をあずける相談をしてお辰が顔に焼き鏝を当てる原因を作ったり、団七の使いだという義平次に琴浦を渡したり、悪いことの原因を作っている女だ。

お辰の福助を観るのは二回目。吉弥のお国と同じ、色っぽい年増女の雰囲気。

段四郎は昔に比べるとずいぶん痩せたが、義平次の衣装だとますます痩せて見える。顔も体の骨格も亀治郎によく似ているので、最後の、団七と2人のシーンで笠を脱いだとき、亀治郎が化けて来たかと思った。段四郎は台詞がたまに出なくなり、プロンプターの声が聞きとれないこともあるらしくて、見ていてひやひやした。台詞があまりに出てこないため、ついに吉右衛門が台詞を教える瞬間があったほどだ。 台詞以外では段四郎は年寄りらしいし、泥にまみれて奮闘していて、素晴らしかった。


初日のせいか、この泥場のところが間延びしてるように感じた。元々好きではない演目で、団七がフラミンゴみたいな格好で立ったりする見得もちっとも楽しめない人間なので、別に役者が悪いわけではないのだろうが。

「かさね」

花道から与右衛門とかさねがいっしょに出てくる型だった。この型の方が好きだ。 七三のところで、与右衛門がゴザを開いて、その前で2人が決まる。ゴザを斜めに開いて、綺麗だった。

染五郎の与右衛門は顔も姿も色悪にぴったり。先月の牡丹灯籠の最後の幕と重なる。ただ、橋の上でかさねが傘をさし、その後ろで与右衛門がカマを振りかざして決まるとき、「かさね」の方は傘を破かない。

時蔵は、あまり踊りのうまい人だとは思わないが、かさねが怖くなる前の踊りは綺麗で良かった。かさねを踊るのはやっぱり美人がいい。

染五郎の与右衛門は、じっと座っているとき、かさねを殺す気でいるような、気難しい顔をしてるのがいい。

2人が戦うところは、玉三郎や亀治郎のかさねのような迫力はない。
しかし、今回のようにかさねが美人で与右衛門がいい男なら、それなりに楽しめる舞踊なのだとわかった。