松竹大歌舞伎 浅草公会堂2007/10/31 00:10

2007年10月30日 午後3時開演 1階た列36番

正月以来の浅草。緞帳の模様が懐かしい。きょうは花道がない。

「奥州安達原 袖萩祭文」

去年の亀治郎の会でも観たが、そのときは最初に出たのは腰元達だったが今回は郎党。そして、下手の、舞台にくっついた短い花道のようなところから亀治郎の袖萩登場。瓜生山歌舞伎のトークで亀治郎は「袖萩の出からやるのが普通だが、わかりにくいので中納言の入りからやった」と言っていた。だからこれが普通のやり方なのだろう。

亀治郎の会のときに観た同じ演目の、幕開きから中納言が引っ込むまでがなくなっている。だから宗任役の亀鶴が口で白旗に文字を書くシーンもないし、白旗の存在感自体が薄い。

今回は主要な配役以外の役者の人数が多いせいか、あのときのように全員うまいという感動はなかった。主要な配役はみんなうまいが、特に竹三郎が良い。彫りの深い顔と長身が、身分の高い女の役にぴったりだ。それでいてつんとした感じがなく、お君が父にすがろうとする様子を心配そうに見ている。

亀治郎は、袖萩は亀治郎の会のときと同じようなものだが、中納言が見劣りした。黒い衣装が似合わなくて子供が無理して大人の衣装を着ているみたいだし、袖萩と二役の様子も会のときのように際立っていなかった。

宗任役の亀鶴は今回もとても良く、バランをつけた動きのときは亀治郎がかすんで見える。

赤い幕を投げて形を作る幕切れは綺麗に決まっていた。

「吉野山」

休憩中に聞いたイヤホンガイドの解説で、亀治郎が静を「義経のガールフレンド」と言っていたのが面白かった。

幕が開く少し前に気づいたのだが、中央の一番後ろの補助席に猿之助が座っていた。時折隣りの人と話しているようだった。吉野山といえば私にとって最高の吉野山は玉三郎と猿之助の吉野山だし、澤瀉屋型の吉野山は猿之助の忠信でしか観たことがない。だから、チョウチョがヒラヒラしても狐の本性を現すのをじっとこらえている顔とか、傘を後ろに投げるシーンの猿之助が目に焼きついている。その猿之助と同じ客席で亀治郎の忠信を見るのも面白いものだ。

吉野山は何度も観たが、今回はじめてイヤホンガイドを借りたので、振りの意味がよくわかった。歌の意味がけっこうとんでもないこともわかった。

下手の、花道に擬せられたところから出てきた梅枝の静は長身で、まあまあ綺麗だった。踊りについてはあまりピンと来なかった。亀治郎は、顔が悪い。猿之助は中高のノーブルな顔立ちと切れ長の目で、美しい忠信だった。亀治郎は人間でいるときの忠信が全然美しくない。踊りは、ところどころでうまいとは思う。でも感心するほどではない。猿之助をずっと見て育った人だから猿之助に似るのはしかたないが、悪い癖まで似ている。亀鶴や薪車より若いのだから、技術やキャリアで勝るところがあるにしても、もう少し控えめな態度にしたらどうか。

薪車の逸見藤太は無難にやっていた。仁左衛門と薪車の藤太を続けざまに見ると、この役のイメージが変わってきそうだ。