国立劇場 11月歌舞伎公演 「摂州合邦辻」 ― 2007/11/24 18:55
2007年11月23日 国立劇場大劇場 午前11時半開演 1階7列32番
通しの方が面白さがよくわかるとは思うのだが、回数が重なると庵室だけ見たくなる。きょうは今までで一番舞台に近い中央の席だったので玉手御前役の藤十郎の表情を細かく見られた。あの部屋に俊徳と浅香が潜んでいるな、と気づくあたりなど。合邦夫婦が娘に意見したりかばったりしているときにそっぽを向いている玉手の無表情な顔の白さが印象的だ。叱っている親を無視している不良少女のような態度が、今まで見てきた歌舞伎の中では新鮮だった。油地獄の与兵衛も同じような表情をしているがだんだん借金の額を思い出して情けない表情になる。思いがけず親に刺されて死ぬ権太と違い玉手は初めから死は覚悟の上。それを知りながら見ると無表情な顔が決意の固さをあらわしているようだ。
藤十郎の「俊徳様の御事は~」から「あっちからも惚れてもらうキーー」は正に絶品。浅香姫への暴力沙汰は誰がやっても面白いだろうが、合邦に刺された後の長い「戻り」の間、観客を飽きさせずにひき付けておけるのは藤十郎の力だろう。技術とか芸とかいうものに気持ちの強さも加わった力。「恋ではない」と口で言いながら実は「恋である」のだ、と客に思わせる。
今月の玉手は私の藤十郎に対する認識を全く変えた。こんな偉大な芸術家だったのか。この人は上方歌舞伎の復興だの近松の上演だのにエネルギーを割かないで、もっと自分の役者としての可能性を追求してほしかったと思う。
愛之助は誉田主税之助のような役は安定してうまいと思う。主役級の役をどれだけ魅力的に演じられるかで将来が決まるだろう。今年は愛之助の舞台を観るのはこれで最後だが、正月の浅草では与三郎をやるそうで、とても嬉しい。楽しみだ。今月の摂州合邦辻は愛之助が出なければ絶対に観なかった。正月の浅草歌舞伎で七之助の典侍の局に感動したり、三響会で素囃子の素晴らしさを知ったのも愛之助を追いかけたおかげだ。愛之助の追っかけも来年で三年目となり、観劇も次第に惰性的になっていくかもしれないが、愛之助のおかげで自分の鑑賞範囲が広がったことは、多分一生感謝している。
コメント
トラックバック
このエントリのトラックバックURL: http://wonwon50.asablo.jp/blog/2007/11/24/2455849/tb
※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。