歌舞伎囃子 ~音と舞踊の魅力~2010/05/31 22:09

2010年5月31日 日経ホール 午後3時、午後7時開演

「一番太鼓」

傳左衛門が熨斗を巻いたバチを持って現れ、熨斗を抜いて懐にしまった後、バチを儀式風に動かし、その後、太鼓を打ち出した。夜の部での説明によると、「大入叶」と書いたのだという。

太鼓の演奏が終わって幕が下り、また幕が上がると傳左衛門と傳次郎が立っていた。これは大手町座の三回目になる(一回目は玉三郎、二回目は万作萬斎、忠雄広忠の親子)という話をして、昼の部では、楽屋にいた洋装の広忠がほんの一瞬出て来て挨拶した。

傳左衛門によると、一番太鼓は開場を告げる太鼓で、1642年に最初に演奏された。日本橋と京橋の間に中橋というところがあり、中村座は最初そこにあった。しかし、江戸城に近いため、登城の合図と間違えて登城してしまう大名がいたため、紛らわしいので禁止になった。その後、中村座が猿若町に移ったのを機に復活。明治になって途絶えていたが、当代の勘三郎と傳左衛門が復活した。聴く機会は少ないが平成中村座の開場のときに打つし、新しい歌舞伎座の開場のときにも打つだろうという。


「黒御簾音楽」

水の音、波の音、と傳次郎が次々に説明して傳左衛門がその通りに打つので、染之助染太郎みたいだなと思っていたら、傳左衛門が自分でそう言った。風の音、雨の音、雪おろし、ドロドロ等、前にも聞いたことがあるので大体知っていた。雪おろしは関東と関西で違うという話は今回初めて聞いた。関西の方が音の間隔が長い。関東のは闇の中を雪が降ってくるイメージで、関西のは、雪の上をゆっくりと足を運ぶイメージ。漫画には擬音語がたくさん出てきて、なくてはならないものだが、「擬音」そのものの黒御簾音楽も、あれと同じだろう。

三味線と太鼓の音を組ませたり、銅鑼を打ったりした。銅鑼はお寺の鐘の音に使うのだが、銅鑼そのものよりも、打つ道具が珍しかった。頭の片方に布を巻いた長い木槌のようなもの。本人達はちっとも珍しくないから説明する気が起きないのだろうが。

最後は傳次郎が「僕たちの譜面を言います」と言って「三つ太鼓、・・・・」のようにいくつか単語を言って、それで大太鼓の傳左衛門、三味線、笛、鼓、太鼓がいっしょに演奏した。息の合い方も大したものだが、演奏する姿が見ていて美しいことに今さらではあるが感動した。太鼓を打つバチの上下動とか、バチを持った手を反対側の肩に持って行く動きが、実に美しい。

舞踊「羅生門」「綱館」

演目を目にしたとき、羅生門で腕をとられた鬼が綱館に行く話しなんだろうから、「茨木」と同じで、亀治郎は鬼の真柴をやるに決まってる、愛之助は渡辺綱だろうと予想できた。だから愛之助の踊りには期待してなかったのだが、見てみたらものすごく良かった。

「黒御簾音楽」のときに傳次郎が「囃子の会」で吉右衛門が「羅生門」を踊ったと言ったので、見たことを思い出した。傳次郎によると、「茨木」は能のようにやっているけれども、実は能には、「茨木」はなく、歌舞伎には「羅生門」はない。(そのかわりに「戻橋」があったりする) しかし、「囃子の会」のときに勘十郎が「羅生門」を振りつけて吉右衛門が踊ったのだそうだ。あの吉右衛門の踊りは悪くなかった。

愛之助は長い太刀を佩いて素踊り。太い声の台詞があり、馬を駆る振りや太刀を抜くところなど、大きな動きが多く、勇壮で華やか。踊りはそんなにうまくなくても、歌舞伎がうまい人なら見応えのある踊りになる。歌舞伎をよく知っている勘十郎が振り付けただけあって、歌舞伎役者向きの良い踊りだと思う。最後の方に白い着物を被った亀治郎の鬼が出て来て、2人いっしょに踊ったのも良かった。吉右衛門が踊ったときは鬼が出た記憶がないと思ったら、夜の部での説明によると、この部分は振付を追加したものだそうだ。


愛之助は、顔が良く、声が良く、華があって良かった。この踊りについてだけは、背筋のまっすぐな、がっしりした肩の、しっかりした骨格の愛之助は「姿が良い」と言ってもおかしくないと思う。夜の部で最初に引っ込んだとき「松嶋屋」という声が掛かった。最後は太刀を振りかざして足を開いて決まった姿で明かりが落ち、盛大な拍手を受けていた。夜の部で、傳左衛門と傳次郎が、佐太郎さんが打ち始めるとお客さんが自分達ではなく、みんな佐太郎さんの方を見てしまう、と言っていたが、愛之助が踊っている間は囃子方は完全に私の視界から消えていた。


「綱館」も勘十郎の振付。鬼役の亀治郎は杖をついて出て来た。門の前に座って入れてくれるように頼むが、綱が門内には入ることを許さないと、後見の段之が渡した扇を持って、赤ん坊をあやすような所作で子供の頃に綱を可愛がった様子を踊った。 中に入ることを許され、酒を飲んで曲舞を踊る。花柳流襲名披露舞踊会で観た「茨木」と比べると、真柴が出てくるところから始まっていて、その前がない。なくなった部分は、なくてかまわないと思う。「茨木」よりも、「羅生門」プラス「綱館」の方が、どうでも良い部分がなくて、綱にも踊りの見せ場があり、左腕をとられる話と取り返す話がつながって、面白い。

亀治郎は登場のときから左腕を隠し、最後まで動かさなかった。動きは地味だが、わかる人にはうまいのがわかるんだろうな、という踊り。右手での扇の使い方が見事。亀治郎は踊りのときは、どうだ、うまいだろう、という動きはしない。

注連縄を巻いた箱の蓋を開けさせ、中の左腕をつかんだ直後から、跳びはねたりする激しい動きになる。最後は綱と鬼の立ち回りで、それぞれ太刀と左腕を掲げた姿で終わる。最後がとっても歌舞伎的、というか平凡。先日見た新作能「茨木童子」の最後の、橋懸りをツツーと逃げ去る鬼神の動きが気に入ったので、特にそう感じる。花道があれば、また違う動きになるのだろうか。