明治座 五月花形歌舞伎 初日 昼の部 ― 2013/05/03 22:29
2013年5月3日 明治座 午前11時開演 1階3列
「実盛物語」
勘太郎時代に松竹座でやった実盛を観たときはうまいと思っただけだったが、今回は、小万の腕を切り落とした様子を語るところの所作を初めとして、本当に楽しめた。
小万の腕が握っている白旗は、義賢が死ぬ前に小万に渡した白旗だ。小万は殺され腕を切り落とされてしまった。そして、身重の身体で逃げた義賢の妻葵御前は今、子供を産もうとしている。「義賢最期」の後の話なので、配役は違うが「義賢最期」を思い出しながら観る。
今回は小万が七之助、葵御前は高麗蔵。
葵御前の産室を覗こうとする太郎吉を実盛が止める。実盛の後ろをこっそりと産室に近づく太郎吉。その背中が、絵にかいたようなこっそりと近づく様子に見えるので笑える。子役は達者な子が多いが、台詞の息も良くて、なんかやたらにうまい子役だった。
太郎吉がいっしょに馬にのった時、勘九郎は小さな声で「しっかり持って」と言っていたようだ。太郎吉が馬上にいる間は、しっかり太郎吉のことを見ていた。
馬に乗って花道を引っ込むとき、南座は二階の下の天井が低くて菊五郎がぐっと前傾していたので、明治座をどうなのかと振り返って見ていたが、明治座の天井はそんなに低くなくてスレスレだがどうにかまっすぐに座っていられたようだった。
「与話情浮名横櫛」
染五郎の与三郎は与三郎に見える。それが一番重要。顔のキズも綺麗についているし、着物をまくって投げ出した立派なおみ足についてるキズも綺麗。台詞も全体的に与三郎らしい。ただ、「しがねえ恋の情けが仇」以下の有名な台詞が下手だ。それだけが残念。
七之助のお富は浅草の時と同じく、小山三といっしょに花道を出てくる。小山三が台詞を言うと拍手が起きる。
浅草のときの七之助は、つっこみどころだらけの愛之助と正反対に、何の文句もないお富だった。今回はもう余裕綽々。でも年齢的に年増になったせいか、「早く帰ってきておくれよ」のような台詞が少し乱暴に聞こえた。若い時は可愛く感じられるものが、年取ると不快に感じられるようになることがあるので注意すべきなのは女も女形も同じかもしれない。
勘九郎の金五郎は江戸っ子らしくて良い。2人が客席通路をお散歩しに降りて来たときはかなり近くに来たので、歯まではっきり見えた。「いい景色だねえ」と言っていた。客席の一番後ろを通って花道に行くときはつないだ手を離していた。狭い場所をカニ歩きで通るときも手はつないだままだった浅草の愛之助と獅童は仲が良かったなあ。
お富と与三郎が浜で互いを見初める場面では2人とも相手をじっと見ていた。
羽織落としが気になってしかたがないのは、私の病である。花道で酔っ払いが与三郎にぶつかった時、羽織の紐をほどいて引っ張り、羽織を右の肩から少し落とした。最後は、与三郎がお富に見とれながら左手で袖口を引っ張って肩から落とし、その後で腕をまっすぐにして落としていた。
今月は「赤間別荘の場」がある。仁左衛門と玉三郎で見たときはずいぶん色っぽい場だと思ったが、この2人だとさほどでもない。
玄冶店妾宅の場の藤八は浅草、南座と続けて松之助を観たので、今月の山左衛門は新鮮だった。下女およしは國久。
蝙蝠安は浅草のときと同じ亀鶴。浅草のときは与三郎と蝙蝠安が横に並んで花道を歩いて来て、ただ蝙蝠安が前のめりになっていた。今月は蝙蝠安が何歩か先を歩いてくる。南座の菊五郎と仁左衛門のときもそうだったような気がする。
きょうの席は真ん中だったので、与三郎が戸の外で小石を蹴っているところは見えなかった。戸口で後ろを向いて座っていた与三郎が、お富と蝙蝠安の争いに振り返り、顔を見てお富と気づく。与三郎はまた戸口の方に顔を戻すが、その後、お富の「立派な亭主のある身体」という言葉に反応する。この時、仁左衛門(と、仁左衛門に教わった愛之助)は、お富をキッと睨んだ後、ただではすまさないぞ、というような表情をするのだが、染五郎の場合、そこまでは読み取れない。
与三郎が立ち上がってから「ご新造さんへ」と始める何秒かは客席は静まり返り、掛け声も一切かからない特別な時間だと思っていたのだが、きょうは「待ってました」と「高麗屋」が掛かった。自分だけの思い込みだったのかもしれないが、聖なる時間を失ったようでちょっと残念。
染五郎は「しがねえ恋の~」以下の有名な台詞は下手だと思うが、全体的には与三郎らしくて良いと思う。
多左衛門に何か聞かれて、「あっちかい、あっちは~」と答えるとき、愛之助は(たぶん仁左衛門も)「あっちかい?」のように語尾が上がるが、染五郎は上がらない。平叙文のように「あっちかい」と言う。どちらもありなのだろうが、へー、と思って聞いていた。
七之助と亀鶴のお富・蝙蝠安は二回目だが、浅草のときは愛之助の与三郎ばかり気になって、亀鶴の蝙蝠安はあまり記憶にない。ただ、今月は自分でいろいろ考えた結果、浅草のときと変えてるような気がする。亀鶴を見てあまり感じたことがないのだが、蝙蝠安の役は気に入ってるように見える。
愛之助の多左衛門は、台詞はうまいと思うのに多左衛門という気がしない。今まで見た多左衛門が圧倒的に左團次だったので身体が大きくないと嫌なのか、自分でも理由がわからない。俯いて煙管をいじっている愛之助の顔を見ると、自分の気持ちが投影して、本人も多左衛門がこれで良いかどうか不安なんじゃないかと感じてしまう。
花道で蝙蝠安と立ち話しているときの与三郎の着物の裾のまくり上げ方を見たら、仁左衛門のように内側の裾の先が右足首あたりに来るように引っ張ってはいなくて、左足だけちょうど見えるようにまくり上げて内側の裾はあまり動いていなかった。これはこれですっきりしている。
最後の場面で、多左衛門が帰った後、お富が「これを早く与三さんに知らせなくては」と言った直後に与三郎が入って来るのは都合が良すぎて笑える。最後は「しょーげーおめえをはなしゃーしねーよ」だった。
「実盛物語」
勘太郎時代に松竹座でやった実盛を観たときはうまいと思っただけだったが、今回は、小万の腕を切り落とした様子を語るところの所作を初めとして、本当に楽しめた。
小万の腕が握っている白旗は、義賢が死ぬ前に小万に渡した白旗だ。小万は殺され腕を切り落とされてしまった。そして、身重の身体で逃げた義賢の妻葵御前は今、子供を産もうとしている。「義賢最期」の後の話なので、配役は違うが「義賢最期」を思い出しながら観る。
今回は小万が七之助、葵御前は高麗蔵。
葵御前の産室を覗こうとする太郎吉を実盛が止める。実盛の後ろをこっそりと産室に近づく太郎吉。その背中が、絵にかいたようなこっそりと近づく様子に見えるので笑える。子役は達者な子が多いが、台詞の息も良くて、なんかやたらにうまい子役だった。
太郎吉がいっしょに馬にのった時、勘九郎は小さな声で「しっかり持って」と言っていたようだ。太郎吉が馬上にいる間は、しっかり太郎吉のことを見ていた。
馬に乗って花道を引っ込むとき、南座は二階の下の天井が低くて菊五郎がぐっと前傾していたので、明治座をどうなのかと振り返って見ていたが、明治座の天井はそんなに低くなくてスレスレだがどうにかまっすぐに座っていられたようだった。
「与話情浮名横櫛」
染五郎の与三郎は与三郎に見える。それが一番重要。顔のキズも綺麗についているし、着物をまくって投げ出した立派なおみ足についてるキズも綺麗。台詞も全体的に与三郎らしい。ただ、「しがねえ恋の情けが仇」以下の有名な台詞が下手だ。それだけが残念。
七之助のお富は浅草の時と同じく、小山三といっしょに花道を出てくる。小山三が台詞を言うと拍手が起きる。
浅草のときの七之助は、つっこみどころだらけの愛之助と正反対に、何の文句もないお富だった。今回はもう余裕綽々。でも年齢的に年増になったせいか、「早く帰ってきておくれよ」のような台詞が少し乱暴に聞こえた。若い時は可愛く感じられるものが、年取ると不快に感じられるようになることがあるので注意すべきなのは女も女形も同じかもしれない。
勘九郎の金五郎は江戸っ子らしくて良い。2人が客席通路をお散歩しに降りて来たときはかなり近くに来たので、歯まではっきり見えた。「いい景色だねえ」と言っていた。客席の一番後ろを通って花道に行くときはつないだ手を離していた。狭い場所をカニ歩きで通るときも手はつないだままだった浅草の愛之助と獅童は仲が良かったなあ。
お富と与三郎が浜で互いを見初める場面では2人とも相手をじっと見ていた。
羽織落としが気になってしかたがないのは、私の病である。花道で酔っ払いが与三郎にぶつかった時、羽織の紐をほどいて引っ張り、羽織を右の肩から少し落とした。最後は、与三郎がお富に見とれながら左手で袖口を引っ張って肩から落とし、その後で腕をまっすぐにして落としていた。
今月は「赤間別荘の場」がある。仁左衛門と玉三郎で見たときはずいぶん色っぽい場だと思ったが、この2人だとさほどでもない。
玄冶店妾宅の場の藤八は浅草、南座と続けて松之助を観たので、今月の山左衛門は新鮮だった。下女およしは國久。
蝙蝠安は浅草のときと同じ亀鶴。浅草のときは与三郎と蝙蝠安が横に並んで花道を歩いて来て、ただ蝙蝠安が前のめりになっていた。今月は蝙蝠安が何歩か先を歩いてくる。南座の菊五郎と仁左衛門のときもそうだったような気がする。
きょうの席は真ん中だったので、与三郎が戸の外で小石を蹴っているところは見えなかった。戸口で後ろを向いて座っていた与三郎が、お富と蝙蝠安の争いに振り返り、顔を見てお富と気づく。与三郎はまた戸口の方に顔を戻すが、その後、お富の「立派な亭主のある身体」という言葉に反応する。この時、仁左衛門(と、仁左衛門に教わった愛之助)は、お富をキッと睨んだ後、ただではすまさないぞ、というような表情をするのだが、染五郎の場合、そこまでは読み取れない。
与三郎が立ち上がってから「ご新造さんへ」と始める何秒かは客席は静まり返り、掛け声も一切かからない特別な時間だと思っていたのだが、きょうは「待ってました」と「高麗屋」が掛かった。自分だけの思い込みだったのかもしれないが、聖なる時間を失ったようでちょっと残念。
染五郎は「しがねえ恋の~」以下の有名な台詞は下手だと思うが、全体的には与三郎らしくて良いと思う。
多左衛門に何か聞かれて、「あっちかい、あっちは~」と答えるとき、愛之助は(たぶん仁左衛門も)「あっちかい?」のように語尾が上がるが、染五郎は上がらない。平叙文のように「あっちかい」と言う。どちらもありなのだろうが、へー、と思って聞いていた。
七之助と亀鶴のお富・蝙蝠安は二回目だが、浅草のときは愛之助の与三郎ばかり気になって、亀鶴の蝙蝠安はあまり記憶にない。ただ、今月は自分でいろいろ考えた結果、浅草のときと変えてるような気がする。亀鶴を見てあまり感じたことがないのだが、蝙蝠安の役は気に入ってるように見える。
愛之助の多左衛門は、台詞はうまいと思うのに多左衛門という気がしない。今まで見た多左衛門が圧倒的に左團次だったので身体が大きくないと嫌なのか、自分でも理由がわからない。俯いて煙管をいじっている愛之助の顔を見ると、自分の気持ちが投影して、本人も多左衛門がこれで良いかどうか不安なんじゃないかと感じてしまう。
花道で蝙蝠安と立ち話しているときの与三郎の着物の裾のまくり上げ方を見たら、仁左衛門のように内側の裾の先が右足首あたりに来るように引っ張ってはいなくて、左足だけちょうど見えるようにまくり上げて内側の裾はあまり動いていなかった。これはこれですっきりしている。
最後の場面で、多左衛門が帰った後、お富が「これを早く与三さんに知らせなくては」と言った直後に与三郎が入って来るのは都合が良すぎて笑える。最後は「しょーげーおめえをはなしゃーしねーよ」だった。
明治座 五月花形歌舞伎 初日 夜の部 ― 2013/05/04 19:10
2013年5月3日 明治座 午後4時開演 1階4列
「将軍江戸を去る」
しょっちゅうやってるなあ、コレ。
いろんな人が出てくる「上野彰義隊の場」と、上さま、お名残惜しゅうございます、の人々が出る「千住大橋の場」の間の「上野大慈院の場」が長い。
愛之助は高橋伊勢守の役に合っている。慶喜を前にしてのよどみない長台詞が気持ち良い。この台詞の直後の慶喜(染五郎)の台詞が、ちょっと女々しすぎるように感じた。「頼朝の死」の頼家を思い出したが、頼家は終始ヒステリックで女々しくてもかまわなかった。慶喜はキャラが違うだろう。ただ、女々しすぎると感じたのは一瞬で、続く台詞では知的で思慮深い人になっていった。染五郎は今月、演じているうちに自分で声のトーンやしゃべり方を調整して慶喜像を完成させることだろう。
勘九郎の山岡鉄太郎はとても良いと思うが、私は中車の鉄太郎が忘れられない。
「藤娘」
七之助の藤娘は明るく華やかで大好きだが、錦秋公演のときの方が、無条件に綺麗だと思った。あの時が若さの絶頂だったのか。
「鯉つかみ」
腰元の「もうし、みなさん」で始まったので由緒正しい歌舞伎かと思ったが、間違いだった。
小桜姫は壱太郎。簪がキラキラして綺麗だ。壱太郎は、ただ可愛いだけでなく、台詞がしっかりして演技が安定してきた。伸び盛り。
釣家の小桜姫は恋煩いで、家老夫婦(薪車、吉弥)がその相手を探すと言ったのをきいて安心して居眠りを始める。
その夢の中のお話。 天井からすっぽんにワイヤーが通っていたので、そこから愛之助が出てくるかと思ったら、出て来たのは大きな鯉。その鯉が落ちて、中の愛之助が姿を現した。数馬のようなお小姓姿。空中に浮かぶお小姓は少し後ろに移動した後、どんどん高く上がって天井まで行った。こういう宙乗りは初めて見た。GOEMONのときの鷹のように鯉にまたがって宙乗りで引っ込むのかと思っていたので意外。
笛を吹きながら屋敷の庭に現れたお小姓は探していた相手で、滝窓志賀之助と名乗る。家老の女房は喜んで、「どうぞ姫様と奥でしっぽり」と勧める。何このイキナリ感? 家老の女房は更に、奥に行くのをためらう志賀之助に「何をウジウジ」と言う。先に立って志賀之助を奥に引き込む姫様。
奥の部屋の障子に映る影は、姫様と鯉。
2人が奥から出て来たとき、志賀之助が、いかにも脱いでいた着物を着なおしましたという風に着物を直していたのが面白かった。数馬が寝所から袴の紐を結びながら出て来たのを思い出した。
実は滝窓志賀之助と名乗ったお小姓は琵琶湖の鯉で、釣家の滅亡を企てていた。
本物の志賀之助が現れ、琵琶湖に鯉退治に出かけるところで幕。
ここまでの話はスカスカ。宙乗りを別にすれば見るべきものは壱太郎の踊りしかない。せめて踊りをもっと見応えのある振付にしてほしい。今のままでは冗長。
次の幕が開くと、舞台は琵琶湖。私の席からは水面は見えない。花道から出て来た志賀之助が湖にばっちゃーんと飛び込んで鯉つかみが始まる。大きい鯉の顔はとっても可愛い。バシャバシャ水が飛ぶので、客席2列目まではビニールが配られている。愛之助が手で水を飛ばしてもそんなにたくさん飛ばないが、鯉は身体をひねって尾ひれで大量の水を飛ばす。
サイズ違いの鯉がいくつか用意してあって、小さいのが何回か飛んだ。中くらいの大きさのを愛之助がキャッチして、それを両手でつかんで水面に叩きつけて振り回したときは最高に水が飛んで、四列目の私のところにも飛沫が届いた。
鯉は、最後は志賀之助に刺されて殺される。舞台の真中に白目をむいて倒れた。
全身びしょ濡れの愛之助は花道七三で立ち止まり、いかにも疲れたという様子を見せて盛大な拍手をもらった後、引っ込んだ。
「将軍江戸を去る」
しょっちゅうやってるなあ、コレ。
いろんな人が出てくる「上野彰義隊の場」と、上さま、お名残惜しゅうございます、の人々が出る「千住大橋の場」の間の「上野大慈院の場」が長い。
愛之助は高橋伊勢守の役に合っている。慶喜を前にしてのよどみない長台詞が気持ち良い。この台詞の直後の慶喜(染五郎)の台詞が、ちょっと女々しすぎるように感じた。「頼朝の死」の頼家を思い出したが、頼家は終始ヒステリックで女々しくてもかまわなかった。慶喜はキャラが違うだろう。ただ、女々しすぎると感じたのは一瞬で、続く台詞では知的で思慮深い人になっていった。染五郎は今月、演じているうちに自分で声のトーンやしゃべり方を調整して慶喜像を完成させることだろう。
勘九郎の山岡鉄太郎はとても良いと思うが、私は中車の鉄太郎が忘れられない。
「藤娘」
七之助の藤娘は明るく華やかで大好きだが、錦秋公演のときの方が、無条件に綺麗だと思った。あの時が若さの絶頂だったのか。
「鯉つかみ」
腰元の「もうし、みなさん」で始まったので由緒正しい歌舞伎かと思ったが、間違いだった。
小桜姫は壱太郎。簪がキラキラして綺麗だ。壱太郎は、ただ可愛いだけでなく、台詞がしっかりして演技が安定してきた。伸び盛り。
釣家の小桜姫は恋煩いで、家老夫婦(薪車、吉弥)がその相手を探すと言ったのをきいて安心して居眠りを始める。
その夢の中のお話。 天井からすっぽんにワイヤーが通っていたので、そこから愛之助が出てくるかと思ったら、出て来たのは大きな鯉。その鯉が落ちて、中の愛之助が姿を現した。数馬のようなお小姓姿。空中に浮かぶお小姓は少し後ろに移動した後、どんどん高く上がって天井まで行った。こういう宙乗りは初めて見た。GOEMONのときの鷹のように鯉にまたがって宙乗りで引っ込むのかと思っていたので意外。
笛を吹きながら屋敷の庭に現れたお小姓は探していた相手で、滝窓志賀之助と名乗る。家老の女房は喜んで、「どうぞ姫様と奥でしっぽり」と勧める。何このイキナリ感? 家老の女房は更に、奥に行くのをためらう志賀之助に「何をウジウジ」と言う。先に立って志賀之助を奥に引き込む姫様。
奥の部屋の障子に映る影は、姫様と鯉。
2人が奥から出て来たとき、志賀之助が、いかにも脱いでいた着物を着なおしましたという風に着物を直していたのが面白かった。数馬が寝所から袴の紐を結びながら出て来たのを思い出した。
実は滝窓志賀之助と名乗ったお小姓は琵琶湖の鯉で、釣家の滅亡を企てていた。
本物の志賀之助が現れ、琵琶湖に鯉退治に出かけるところで幕。
ここまでの話はスカスカ。宙乗りを別にすれば見るべきものは壱太郎の踊りしかない。せめて踊りをもっと見応えのある振付にしてほしい。今のままでは冗長。
次の幕が開くと、舞台は琵琶湖。私の席からは水面は見えない。花道から出て来た志賀之助が湖にばっちゃーんと飛び込んで鯉つかみが始まる。大きい鯉の顔はとっても可愛い。バシャバシャ水が飛ぶので、客席2列目まではビニールが配られている。愛之助が手で水を飛ばしてもそんなにたくさん飛ばないが、鯉は身体をひねって尾ひれで大量の水を飛ばす。
サイズ違いの鯉がいくつか用意してあって、小さいのが何回か飛んだ。中くらいの大きさのを愛之助がキャッチして、それを両手でつかんで水面に叩きつけて振り回したときは最高に水が飛んで、四列目の私のところにも飛沫が届いた。
鯉は、最後は志賀之助に刺されて殺される。舞台の真中に白目をむいて倒れた。
全身びしょ濡れの愛之助は花道七三で立ち止まり、いかにも疲れたという様子を見せて盛大な拍手をもらった後、引っ込んだ。
歌舞伎座こけら落とし 5月大歌舞伎 第三部 ― 2013/05/08 10:32
2013年5月6日 歌舞伎座 午後6時開演 2階1列19番
2階1列目はストレスなく観劇できていい。2列目以後はどうしても前の人に運命を左右される。
「梶原平三誉石切」
これもよく観る芝居だが、特に好きではない。それでも今月はほとんど最高のキャストで、みんなうまいのはわかる。
梢役の芝雀が下手に倒れているときの形が美しくて見とれた。
下手に並ぶ梶原方の大名4人は、真ん中に近いところから歌昇、弟の種之助、従弟の米吉、また従弟の隼人。台詞は、年長の歌昇に一日の長がある。種之助はまだ時々声が裏返る。
六郎太夫役の歌六は端正な老け役。隣りに座る囚人役で大きな人が来たなあと思ったら彌十郎だった。
目立つ赤っ面の俣野五郎は又五郎。台詞も所作も流石。以前、歌舞伎座で幸四郎が梶原をやった時、愛之助の俣野を見たのを思い出した。あれはずいぶん良い役をもらってたんだ。そして、あの時も「二人道成寺」を観た。上演記録をチェックしたら7年前だった。
「二人道成寺」
幕が閉まると、周りのお客さんが口々に「よかったねぇ」と言い合っている。感想はそれに尽きる。
きょうの舞づくしは萬太郎。元々声は良いし、こういうものはしっかり暗記してくるだろう信頼しているので、安心して聞けた。ころっと倒れる所化の役も萬太郎だったと思うが、それはあんまりうまくなかった。倒れるときの思いっきりに欠ける。
玉三郎と菊之助の「二人道成寺」は初演以来、松竹座での公演を含めて5回、全部観ている。以前は菊之助をどうこう言う余裕もあったが、今となっては、玉三郎のこの踊りを生で観られるのはあと何回かという気持ちが大きくなり、菊之助に目をやる余裕がない。ひたすら玉三郎の姿を目で追う。玉三郎の顔や、ひねった身体の形の美しさ。他の誰にも替えられない。
二人で踊るときの華やかさやレスビアン的耽美な場面も良いが、玉三郎が一人で踊る「恋の手習い」が、玉三郎ファンにとっては最高。
2階1列目はストレスなく観劇できていい。2列目以後はどうしても前の人に運命を左右される。
「梶原平三誉石切」
これもよく観る芝居だが、特に好きではない。それでも今月はほとんど最高のキャストで、みんなうまいのはわかる。
梢役の芝雀が下手に倒れているときの形が美しくて見とれた。
下手に並ぶ梶原方の大名4人は、真ん中に近いところから歌昇、弟の種之助、従弟の米吉、また従弟の隼人。台詞は、年長の歌昇に一日の長がある。種之助はまだ時々声が裏返る。
六郎太夫役の歌六は端正な老け役。隣りに座る囚人役で大きな人が来たなあと思ったら彌十郎だった。
目立つ赤っ面の俣野五郎は又五郎。台詞も所作も流石。以前、歌舞伎座で幸四郎が梶原をやった時、愛之助の俣野を見たのを思い出した。あれはずいぶん良い役をもらってたんだ。そして、あの時も「二人道成寺」を観た。上演記録をチェックしたら7年前だった。
「二人道成寺」
幕が閉まると、周りのお客さんが口々に「よかったねぇ」と言い合っている。感想はそれに尽きる。
きょうの舞づくしは萬太郎。元々声は良いし、こういうものはしっかり暗記してくるだろう信頼しているので、安心して聞けた。ころっと倒れる所化の役も萬太郎だったと思うが、それはあんまりうまくなかった。倒れるときの思いっきりに欠ける。
玉三郎と菊之助の「二人道成寺」は初演以来、松竹座での公演を含めて5回、全部観ている。以前は菊之助をどうこう言う余裕もあったが、今となっては、玉三郎のこの踊りを生で観られるのはあと何回かという気持ちが大きくなり、菊之助に目をやる余裕がない。ひたすら玉三郎の姿を目で追う。玉三郎の顔や、ひねった身体の形の美しさ。他の誰にも替えられない。
二人で踊るときの華やかさやレスビアン的耽美な場面も良いが、玉三郎が一人で踊る「恋の手習い」が、玉三郎ファンにとっては最高。
明治座 五月花形歌舞伎 夜の部 ― 2013/05/09 16:50
2013年5月8日 午後4時開演 1階14列17番
この席は2階最前列の下あたり。すぐ前の人の頭で舞台下手の一部が隠れる以外はよく見える。
「将軍江戸を去る」
どうして舞台も客席もこんなに暗いんだろう。前に座ってるお客さん達が闇の底に沈んでいる。ただでさえ眠気を誘う芝居なのに。
染五郎、勘九郎、愛之助の3人とも適役だが、一番のはまり役は鉄太郎の勘九郎だろう。ずっとテンション高い熱血漢。高下駄履いて出てくるところ、障子の向こうで怒鳴ってるところが良い。
愛之助は新歌舞伎の台詞でも古典のようにいかにも歌舞伎的な調子で言う。声の高低に幅があり、台詞にメリハリがきいている。
初日に観たときは気づかなかったが、染五郎は吉右衛門の台詞を真似ている。低い声のときはかなりよく似ている。高い声のときはいつもの染五郎に聞こえる。やっぱり一番難しい役だ。
観ながら、慶喜の役は幸四郎に合うんじゃないかと考えた。特に染五郎時代の幸四郎に。でも一度もやってないようで。
「藤娘」
きょうは後方の席から観たので初日より中央から観ている感じがする。爽やかな、藤娘らしい藤娘だ。
「鯉つかみ」
きょうの席からは、屋敷の庭に池があるのが見える。
すっぽんから出て来た鯉をきょうの席から見ると、ぶら下がっているときに尾を動かしたりしているのがわかった。脱いだ鯉が下のすっぽんにすっぼりと入っていくが、あれは何か秘密があるのだろうか。
夢の中の人物が宙のりというのは良い考えかもしれない。はじめに被っている鯉で鯉の精であることも表現できるし、空中を漂う非現実感が良い。舞台に戻ってから小桜姫(壱太郎)と愛之助が2人でいるシーンがダレる。
小桜姫が夢から醒めた後、鯉の精の志賀之助が笛を吹きながら庭に入ってきて、座敷に招き入れられてからは面白い。振袖の先を志賀之助の肩にかけてしきりに誘う小桜姫。志賀之助が座りなおしても、また誘う。その様子を見ていた家老の妻の呉竹(吉弥)が志賀之助に「姫様のお部屋でしっぽり」と勧める。「それではあまりに」とためらう志賀之助に「何をウジウジ」と畳みかける。小桜姫は志賀之助の腕をとって、自分の寝所に連れ込む。
壱太郎は喜劇のセンスが良さそうで先が楽しみだ。
小桜姫と鯉の影が障子に映り、部屋から出て来た志賀之助は問い詰められて鯉の精の姿を現す。鱗模様の着物が安っぽい。花道の後ろの方から声が聞こえて、舞台の志賀之助に矢が刺さり、志賀之助は逃げる。
やがて、花道の後ろから、弓と矢を持った本物の志賀之助が登場する。舞台の上では本物が出てきて目出度いことになっているが、姫と寝たのは鯉である。人間と鯉の間に生まれる子は人魚?
一度幕が閉まって、中で琵琶湖の準備ができるまで大薩摩がつなぐ。
幕が開いて浅黄幕が落ちると、私の席からは湖岸が見える。一度、水面を見てみたい。
衣装を替えた志賀之助が花道から出てきて、湖に入って大きな鯉と格闘を始める。愛之助は足も使って水を飛ばしていたが、やはり人力ではそんなに飛ばない。鯉の尾ひれ最強。
鯉は志賀之助に取り押さえられ、目を白黒する。白目をむいて動かなくなるがそれは死んだふりで、また立ち回りが始まる。志賀之助と鯉が左右に分かれて、互いに、行くぞっ!という感じになるのが格闘技のようで楽しい。鯉は口に仕込んだホースから水も噴き出す。
最後は小刀を突き立てられた鯉が白目をむいて湖岸に寄りかかって果てる。
最後、志賀之助役の愛之助は花道七三のところで疲労困憊の様子を見せる。飛んでくる水しぶきに大喜びだった客席は、お疲れ様、という感じで盛大な拍手。この後、六方で引っ込んだ。
花道は、大きな所作をする七三のあたりはびっしょり。その後も点々と水の跡がついていた。
この席は2階最前列の下あたり。すぐ前の人の頭で舞台下手の一部が隠れる以外はよく見える。
「将軍江戸を去る」
どうして舞台も客席もこんなに暗いんだろう。前に座ってるお客さん達が闇の底に沈んでいる。ただでさえ眠気を誘う芝居なのに。
染五郎、勘九郎、愛之助の3人とも適役だが、一番のはまり役は鉄太郎の勘九郎だろう。ずっとテンション高い熱血漢。高下駄履いて出てくるところ、障子の向こうで怒鳴ってるところが良い。
愛之助は新歌舞伎の台詞でも古典のようにいかにも歌舞伎的な調子で言う。声の高低に幅があり、台詞にメリハリがきいている。
初日に観たときは気づかなかったが、染五郎は吉右衛門の台詞を真似ている。低い声のときはかなりよく似ている。高い声のときはいつもの染五郎に聞こえる。やっぱり一番難しい役だ。
観ながら、慶喜の役は幸四郎に合うんじゃないかと考えた。特に染五郎時代の幸四郎に。でも一度もやってないようで。
「藤娘」
きょうは後方の席から観たので初日より中央から観ている感じがする。爽やかな、藤娘らしい藤娘だ。
「鯉つかみ」
きょうの席からは、屋敷の庭に池があるのが見える。
すっぽんから出て来た鯉をきょうの席から見ると、ぶら下がっているときに尾を動かしたりしているのがわかった。脱いだ鯉が下のすっぽんにすっぼりと入っていくが、あれは何か秘密があるのだろうか。
夢の中の人物が宙のりというのは良い考えかもしれない。はじめに被っている鯉で鯉の精であることも表現できるし、空中を漂う非現実感が良い。舞台に戻ってから小桜姫(壱太郎)と愛之助が2人でいるシーンがダレる。
小桜姫が夢から醒めた後、鯉の精の志賀之助が笛を吹きながら庭に入ってきて、座敷に招き入れられてからは面白い。振袖の先を志賀之助の肩にかけてしきりに誘う小桜姫。志賀之助が座りなおしても、また誘う。その様子を見ていた家老の妻の呉竹(吉弥)が志賀之助に「姫様のお部屋でしっぽり」と勧める。「それではあまりに」とためらう志賀之助に「何をウジウジ」と畳みかける。小桜姫は志賀之助の腕をとって、自分の寝所に連れ込む。
壱太郎は喜劇のセンスが良さそうで先が楽しみだ。
小桜姫と鯉の影が障子に映り、部屋から出て来た志賀之助は問い詰められて鯉の精の姿を現す。鱗模様の着物が安っぽい。花道の後ろの方から声が聞こえて、舞台の志賀之助に矢が刺さり、志賀之助は逃げる。
やがて、花道の後ろから、弓と矢を持った本物の志賀之助が登場する。舞台の上では本物が出てきて目出度いことになっているが、姫と寝たのは鯉である。人間と鯉の間に生まれる子は人魚?
一度幕が閉まって、中で琵琶湖の準備ができるまで大薩摩がつなぐ。
幕が開いて浅黄幕が落ちると、私の席からは湖岸が見える。一度、水面を見てみたい。
衣装を替えた志賀之助が花道から出てきて、湖に入って大きな鯉と格闘を始める。愛之助は足も使って水を飛ばしていたが、やはり人力ではそんなに飛ばない。鯉の尾ひれ最強。
鯉は志賀之助に取り押さえられ、目を白黒する。白目をむいて動かなくなるがそれは死んだふりで、また立ち回りが始まる。志賀之助と鯉が左右に分かれて、互いに、行くぞっ!という感じになるのが格闘技のようで楽しい。鯉は口に仕込んだホースから水も噴き出す。
最後は小刀を突き立てられた鯉が白目をむいて湖岸に寄りかかって果てる。
最後、志賀之助役の愛之助は花道七三のところで疲労困憊の様子を見せる。飛んでくる水しぶきに大喜びだった客席は、お疲れ様、という感じで盛大な拍手。この後、六方で引っ込んだ。
花道は、大きな所作をする七三のあたりはびっしょり。その後も点々と水の跡がついていた。
歌舞伎座こけら落とし 5月大歌舞伎 第二部 ― 2013/05/17 00:27
2013年5月14日 歌舞伎座 午後2時40分開演 1階15列11番
花道のすぐ内側のブロックは前は6席並びだったが今は8席に増えたので、席につく時は花道の横に座るような感じがしなかった。座った後、そういえばここは花道の近くなんだと思った。舞台からは遠いが舞台を見るのは楽で、花道の上の役者の姿もよく見える良い席だ。
「伽羅先代萩」
私が一番好きな、八汐が政岡に嫌味を言って鶴千代にやり込められる場面がなかったのがすごく残念。あれは面白いと同時に、政岡と反対派の対立を観客に印象付ける場面だと思うのだが。
政岡(藤十郎)、鶴千代、千松(福太郎)の花道の出はない。何年か前に花道のすぐ横で観たとき、花道を歩いて行く千松の足があまりに小さくて、あんなに小さい子が死ぬのかと涙が出そうになった。
政岡が用意する御膳を2人が待っている場面で、千松の台詞、「さむらいの子というものは~おなかがすいてもひもじゅうない」の最後の「い」が頼りなくて、それがいかにもお腹をすかしている雰囲気で可愛いので客が笑う。
ここの場面は、小さい千松の折り目正しい動きや挨拶があって、千松が目立つ。今月は政岡をやっつける場面がないので鶴千代はいつもより目立たない。
栄御前役の秀太郎は、身分の高い老女の役はうまい。今月は少し太い声の台詞が特に良いと思う。
八汐の役は梅玉だが、千松を殺して、後で自分が殺されるだけで、一番面白い場面がないのでもったいない。
最近翫雀を観る機会が増えたせいか、藤十郎を見ていたら声が翫雀に似ていると思った。藤十郎は隙のない演技で素晴らしいが、千松が殺されたのを嘆く場面は泣けなかった。
床下は、吉右衛門の男之助と幸四郎の仁木で兄弟共演。ほんの短い場面だが吉右衛門の台詞が素晴らしい。ネズミも活躍。前後に面灯りを伴った仁木の引っ込みが堪能できる席でラッキーだった。
「廓文章」
伊左衛門役の仁左衛門は、もう何回観たことか。 薄い肩とほっそりした長身に、紫色の紙衣がよく似合う。
吉田屋の座敷は正月のルテアトル銀座のように繭玉がたくさん飾ってあって、華やかな舞台だ。
喜左衛門は彌十郎で、おきさの秀太郎とは身長差夫婦。秀太郎の声が時々聞こえにくかった。弥十郎は良かったと思う。
何度も観たお決まりのやりとりが続くが、いちいち楽しい。炬燵を踏み越えていくだけで楽しい。楽しいが、夕霧役の玉三郎が出てくるまでが長い。
夕霧の役は、懐紙で顔を隠して登場するときや、黙って座っているときに美しいことだけが玉三郎に求められているような気がする。後ろ向きになって豪華な打掛を広げて見せるとき以外は、ワーーーッと拍手するところがない。だから玉三郎ファンとしては物足りない。
玉三郎が出てくるまでは可愛い仁左衛門が拗ねてるので良かったが、玉三郎が出てきてからは、玉三郎の方が拗ねてる方が、このコンビのファンとしては嬉しい。
しかし、2人が立ち上がった姿はやっぱりお似合いだ。久しぶりに見る、背中合わせに互いの顔を見かわす姿は美しい。
最後は勘当が解けて千両箱が運び込まれ、こけら落としにふさわしい目出度い演目だ。
花道のすぐ内側のブロックは前は6席並びだったが今は8席に増えたので、席につく時は花道の横に座るような感じがしなかった。座った後、そういえばここは花道の近くなんだと思った。舞台からは遠いが舞台を見るのは楽で、花道の上の役者の姿もよく見える良い席だ。
「伽羅先代萩」
私が一番好きな、八汐が政岡に嫌味を言って鶴千代にやり込められる場面がなかったのがすごく残念。あれは面白いと同時に、政岡と反対派の対立を観客に印象付ける場面だと思うのだが。
政岡(藤十郎)、鶴千代、千松(福太郎)の花道の出はない。何年か前に花道のすぐ横で観たとき、花道を歩いて行く千松の足があまりに小さくて、あんなに小さい子が死ぬのかと涙が出そうになった。
政岡が用意する御膳を2人が待っている場面で、千松の台詞、「さむらいの子というものは~おなかがすいてもひもじゅうない」の最後の「い」が頼りなくて、それがいかにもお腹をすかしている雰囲気で可愛いので客が笑う。
ここの場面は、小さい千松の折り目正しい動きや挨拶があって、千松が目立つ。今月は政岡をやっつける場面がないので鶴千代はいつもより目立たない。
栄御前役の秀太郎は、身分の高い老女の役はうまい。今月は少し太い声の台詞が特に良いと思う。
八汐の役は梅玉だが、千松を殺して、後で自分が殺されるだけで、一番面白い場面がないのでもったいない。
最近翫雀を観る機会が増えたせいか、藤十郎を見ていたら声が翫雀に似ていると思った。藤十郎は隙のない演技で素晴らしいが、千松が殺されたのを嘆く場面は泣けなかった。
床下は、吉右衛門の男之助と幸四郎の仁木で兄弟共演。ほんの短い場面だが吉右衛門の台詞が素晴らしい。ネズミも活躍。前後に面灯りを伴った仁木の引っ込みが堪能できる席でラッキーだった。
「廓文章」
伊左衛門役の仁左衛門は、もう何回観たことか。 薄い肩とほっそりした長身に、紫色の紙衣がよく似合う。
吉田屋の座敷は正月のルテアトル銀座のように繭玉がたくさん飾ってあって、華やかな舞台だ。
喜左衛門は彌十郎で、おきさの秀太郎とは身長差夫婦。秀太郎の声が時々聞こえにくかった。弥十郎は良かったと思う。
何度も観たお決まりのやりとりが続くが、いちいち楽しい。炬燵を踏み越えていくだけで楽しい。楽しいが、夕霧役の玉三郎が出てくるまでが長い。
夕霧の役は、懐紙で顔を隠して登場するときや、黙って座っているときに美しいことだけが玉三郎に求められているような気がする。後ろ向きになって豪華な打掛を広げて見せるとき以外は、ワーーーッと拍手するところがない。だから玉三郎ファンとしては物足りない。
玉三郎が出てくるまでは可愛い仁左衛門が拗ねてるので良かったが、玉三郎が出てきてからは、玉三郎の方が拗ねてる方が、このコンビのファンとしては嬉しい。
しかし、2人が立ち上がった姿はやっぱりお似合いだ。久しぶりに見る、背中合わせに互いの顔を見かわす姿は美しい。
最後は勘当が解けて千両箱が運び込まれ、こけら落としにふさわしい目出度い演目だ。
明治座 五月花形歌舞伎 夜の部 水かぶり席 ― 2013/05/25 21:07
2013年5月23日 明治座 午後4時開演 1階1列
「将軍江戸を去る」
きょうは最前列で、勘九郎が風邪をひいてたら絶対にうつるだろうと思うような近さだった。
慶喜役の染五郎は、結局最後まで未完成だったように感じた。特に大慈院の場。やっぱり声が問題かもしれない。声は染五郎の弱点だとしても、大抵はそれを忘れさせるくらい役の表現力が豊かなのだが、大慈院の場では、時に女々しい響きになったり、頼りない感じがしたりした。最後の千住大橋の場は悪くなかった。
山岡鉄太郎の勘九郎は熱血漢すぎて、三回目ともなると飽きた。大慈院の場で慶喜に謁見し、ツツツーと後ろに下がるようなところは流石にきれいな所作で嬉しい。
慶喜と鉄太郎を見ていたら「御浜御殿」を思い出した。染五郎の助右衛門はすごく良かったから、この芝居の中でも、役を逆にしたらよかったかもしれない。
「藤娘」
近くで見るともっぱら衣装に目が行く。左右の色が違うとか帯の色が変わったとか。
「鯉つかみ」
きょうはいよいよ水かぶり席。幕間に席を立って戻ったら、三角に折ったビニールが座席に挟んであった。
七三から上がって来た鯉が、少し上に行ってから皮を脱いで稚児姿の愛之助が現れるが、脱いだ鯉は、本当にうまくすっぽんの穴に落ちる。尾のところに錘でもついているのだろうか。下から引っ張っているのかときょうは目をこらしていたが、もっと上の方から落とすので、下から引っ張るようなことはできない。
夢の中で踊る小桜姫(壱太郎)。綺麗だが、あの踊りで客をうっとりさせられるのは玉三郎だけだろう。(ごめんねー) 玉三郎と仁左衛門で踊ってくれればいいのに。ありえないか。
志賀之助の姿の鯉の精が庭から笛を吹いて現れると、座敷にいる全員が喜んで上がれ上がれと勧める。あまりの大歓迎ぶりに、つかまえて鯉こくにするつもりではないのか、と危険を感じるほどだが、躊躇せず誘いにのる鯉さん。
小桜姫が志賀之助を誘うシーンは大受けで、後ろから笑い声がたくさん聞こえた。あの、あくまでも上品で可愛くて、しかし大胆な誘い方は、本当に素晴らしい。
鯉の精が逃げようとして庭の池に飛び込むと、周囲から噴水のような水が出る。それを見て両隣の人がさっとビニールを被ったので、おかしかった。客席に水が飛んでくるのは次の幕で~す。
次の幕が開き、浅黄幕が落ちて鯉と琵琶湖が現れると、さっそく花道に登場する、本物の志賀之助。
前に見た二回は普通に水槽に飛び込んでいたが、きょうは、トンボを切って飛び込むサービスが追加になっていた。
大きなビニールで下半身をしっかり包み、飛んでくる水に備えてビニールごしに立ち回りを見た。鯉が尾ひれで大量の水を飛ばすと、膝のあたりに水がビシッとかかるのを感じた。
鯉との戦いに勝った志賀之助は、全身ずぶ濡れで花道七三に立ち、疲労困憊の様子を見せる。客席から盛大な拍手を受ける愛之助。昔の猿之助のようだ。喝采を受けている愛之助はもちろん嬉しいだろうが、客の方も、こんな風に思い切りお疲れ様と拍手できるのはめったにないことで興奮する。
「将軍江戸を去る」
きょうは最前列で、勘九郎が風邪をひいてたら絶対にうつるだろうと思うような近さだった。
慶喜役の染五郎は、結局最後まで未完成だったように感じた。特に大慈院の場。やっぱり声が問題かもしれない。声は染五郎の弱点だとしても、大抵はそれを忘れさせるくらい役の表現力が豊かなのだが、大慈院の場では、時に女々しい響きになったり、頼りない感じがしたりした。最後の千住大橋の場は悪くなかった。
山岡鉄太郎の勘九郎は熱血漢すぎて、三回目ともなると飽きた。大慈院の場で慶喜に謁見し、ツツツーと後ろに下がるようなところは流石にきれいな所作で嬉しい。
慶喜と鉄太郎を見ていたら「御浜御殿」を思い出した。染五郎の助右衛門はすごく良かったから、この芝居の中でも、役を逆にしたらよかったかもしれない。
「藤娘」
近くで見るともっぱら衣装に目が行く。左右の色が違うとか帯の色が変わったとか。
「鯉つかみ」
きょうはいよいよ水かぶり席。幕間に席を立って戻ったら、三角に折ったビニールが座席に挟んであった。
七三から上がって来た鯉が、少し上に行ってから皮を脱いで稚児姿の愛之助が現れるが、脱いだ鯉は、本当にうまくすっぽんの穴に落ちる。尾のところに錘でもついているのだろうか。下から引っ張っているのかときょうは目をこらしていたが、もっと上の方から落とすので、下から引っ張るようなことはできない。
夢の中で踊る小桜姫(壱太郎)。綺麗だが、あの踊りで客をうっとりさせられるのは玉三郎だけだろう。(ごめんねー) 玉三郎と仁左衛門で踊ってくれればいいのに。ありえないか。
志賀之助の姿の鯉の精が庭から笛を吹いて現れると、座敷にいる全員が喜んで上がれ上がれと勧める。あまりの大歓迎ぶりに、つかまえて鯉こくにするつもりではないのか、と危険を感じるほどだが、躊躇せず誘いにのる鯉さん。
小桜姫が志賀之助を誘うシーンは大受けで、後ろから笑い声がたくさん聞こえた。あの、あくまでも上品で可愛くて、しかし大胆な誘い方は、本当に素晴らしい。
鯉の精が逃げようとして庭の池に飛び込むと、周囲から噴水のような水が出る。それを見て両隣の人がさっとビニールを被ったので、おかしかった。客席に水が飛んでくるのは次の幕で~す。
次の幕が開き、浅黄幕が落ちて鯉と琵琶湖が現れると、さっそく花道に登場する、本物の志賀之助。
前に見た二回は普通に水槽に飛び込んでいたが、きょうは、トンボを切って飛び込むサービスが追加になっていた。
大きなビニールで下半身をしっかり包み、飛んでくる水に備えてビニールごしに立ち回りを見た。鯉が尾ひれで大量の水を飛ばすと、膝のあたりに水がビシッとかかるのを感じた。
鯉との戦いに勝った志賀之助は、全身ずぶ濡れで花道七三に立ち、疲労困憊の様子を見せる。客席から盛大な拍手を受ける愛之助。昔の猿之助のようだ。喝采を受けている愛之助はもちろん嬉しいだろうが、客の方も、こんな風に思い切りお疲れ様と拍手できるのはめったにないことで興奮する。
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