市川猿之助奮闘連続公演 十月花形歌舞伎 昼の部2014/10/04 01:18

2014年10月3日 新橋演舞場 午前11時開演 1階12列13番

「俊寛」

俊寛の右近、千鳥の笑也、少将成経の笑三郎、康頼の弘太郎、瀬尾の猿弥 、とおなじみの顔ぶれ。丹左衛門尉基康の男女蔵だけがゲスト、という感じ。
私はミーハーで「俊寛」はほとんど寝ていた時代もあったのだが、何度も観た結果、繰り返しの上演に耐える出来の良い劇であることがわかるようになった。
初日から完成度が高い俊寛で、最初から最後まで集中が途切れずに見られた。互いに「未来で~」と手を振り合うところが感動的だったし、俊寛が岩の上に上って(右近は岩を登るときに滑るが、亀治郎のようにコロコロ転がったりはしない)松の枝を折って座り込むところの絵柄が綺麗だった。
右近は所作がきれいな俊寛だった。笑也はお転婆な千鳥で、この二人はとても役に合っている。個人的には、少将の笑三郎の若い男感が足りなくて、南座の歌昇のように千鳥と別れさせるのは可哀想、という気持ちが湧かなかった。弘太郎と役を取り換えた方が良かったかもしれない。


「金幣猿島郡(きんのざいさるしまだいり)」

如月尼は懐かしい歌六。私が猿之助の歌舞伎を観始めた頃は、亀治郎は子役で、歌六は若手で良い役をやっていた。奥から声がして、米吉にしてはかすれた声と思ったら猿之助。如月尼の娘、清姫だ。目が見えない。黒地の着物にうろこ模様の帯で、裏が蛇腹模様。後で、この帯と同じ模様の蛇が宙を泳ぐシーンがある。
安珍(門之助)と七綾姫(米吉)は恋人で、村雨の宝剣を探している。七綾姫は追われていて、如月尼は我が子清姫を殺して七綾姫の身替りにしようとする。清姫も納得して殺されようとするが、剣で殺そうとすると雷が鳴って、清姫の目が開く。そして、安珍の姿を見て一目惚れする。剣は村雨の宝剣だった。二人を追おうとする清姫を如月尼は刺し殺し、
清姫は蛇体となる。
この最初の幕では、清姫が鐘につながれながら安珍と七綾姫の障子にうつるラブシーンを見て嫉妬する姿など、猿之助の女形がたっぷり楽しめる。

次の幕では猿之助は藤原忠文で、恋文を読みながら花道から出てくる。忠文は七綾姫が好きで、安珍との仲を裂きたい。橋姫社に願掛けしていると、落雷があって、中から女の声がする。それが七綾姫で、忠文が思いをとげようとするところに安珍が来る。二人がもみ合っているところに寂寞(猿弥)が来て、宝剣を取り返した安珍を助ける方が得策だと安珍を助ける。このとき、台詞に「経済効果」「アベノミクス」という言葉が入っていた。
立ち回りのときの役者の顔を照らすスポットライトが、普通の歌舞伎よりも強く光を当てている時があった。
忠文は安珍と七綾姫の仲睦まじい姿を見て生きながらにして鬼になり、川に飛び込む。そこに清姫の帯が流れて来て、忠文は清姫の霊と合体する。
そして、これが宙乗り。上の方からキラキラした紙が舞い落ちて、宙乗りの猿之助の姿がその中に見え、とても美しかった。

休憩の後の最後の幕は、双面道成寺。
花道から「聞いたか聞いたか」と出てくる能力白雲は隼人。「聞いたぞ聞いたぞ」の黒雲は弘太郎。二人が鐘を持ち上げると、中にいたのは七綾姫(米吉)。
烏帽子をつけた猿之助は、くるりと回りながらすっぽんから上がって来て、出てくる。この前、七之助の下に見える着物の色の話が出たが、きょうの猿之助の下に見える着物は黒地で、ただ、その下に白い着物も着ているようで、引き抜きがありそうだった。
その姿で踊る。猿之助の扇の動かし方、手のしなやかさにはいつも魅了される。猿之助が引っ込んで、米吉が、言わず語らずわが心~、を踊る。綺麗だった。
猿之助は唐衣を脱いで黒い着物になり、面をつけて再登場する。隼人が花道から出てくるときにかついでいたササを手にして踊り出す。面を男にしたり女にしたり、そのたびに踊りも男になったり女になったり。きょうはゴールデンコンビの段之ではなく段一郎が後見で、目まぐるしく変わる面を手渡していた。猿之助が赤姫の衣装を持って踊る少し前に段之が上手から来て、二人後見態勢になった。
白雲、黒雲の「あれは今はやりの女装男子でござるか」「女装男子とはなんぞや」「ゲイボーイのことでござる」「ゲイボーイとはなんぞや」「おとこおうなのことでござるよ」というやりとりが楽しい。
この二人が「おきゃがりこぼーし」と言いながら踊るところがあって、自分はこの演目を昔観たことがあることがはっきりした。右近が踊るのを見ながら右近はうまいな、と思った記憶があるからだ。筋書の記録を見るともう一人は猿弥だったが、猿弥の方は覚えてない。

「金幣猿島郡」は、女形をたっぷり見せるし踊りがあるしで、先代より当代の猿之助にぴったりの演目だと思う。