鹿鳴館2008/06/29 23:30

新橋演舞場 午後4時半開演 2008年6月25日 1階1列24番、2008年6月29日 3階2列22番

第一幕で貴婦人達が遠眼鏡で天長節の観兵式を見ながらしゃべっているのは天守物語で侍女達が地上の様子を見ながらしゃべっているときのようだ。ここに出ている大徳寺夫人役の英太郎が全編を通じて一番はまり役だった。

個人的には、次に良かったのは団十郎。25日に観たときはやっぱり下手だと思ったが、きょうは、下手だが結構良いと思った。二幕目は団十郎の台詞が多いあたりは25日も今日も寝てしまったが、三幕、四幕は良い。 嫉妬にかられ、若い男を騙して、最終的にはその父を殺させる目的でピストルを持たせる狡猾な中年男の雰囲気がよく出ている。台詞は時々気持ち悪かったり、どういう効果を狙っているのかわからないものもあったが。

団十郎が良く見える一つの理由は、朝子役の八重子があまりにも弱いからだ。この役は美人オーラのある役者がやらないと説得力がない。久雄が朝子の自由な生き方を是認する台詞や、舞踏会のときの「影山夫人は噂にたがわぬ美形」という台詞が、その裏づけを持たない。乱入してきた壮士を追い払う場面も壮士を圧倒するような迫力がない。玉三郎で見たい。

顕子と久雄役の瀬戸と井上は若手の美人と二枚目で、自然に回ってくる役どころなのだろうが、顕子は若手の美人なら誰でも良いとして、久雄の方はもっと透明感があって旅について語る台詞が美しく響き、影山に騙され、父に撃ち殺されるのが非常に痛ましく感じられるような役者にやってほしかった。

西郷輝彦の清原は良かったが、声を聞いてると今にも歌いだすような気がした。

飛田の役で出ていた安井昌二が腸閉塞できのうときょうは休演で、田口守の代演だった。

私は三島ファンだが「鹿鳴館」は読んだことがないし、芝居を観るのも今回が初めてだ。この芝居のところどころに知っているところがあるのは、たぶんテレビで昔の公演を観たからだろう。

芝居の中でありきたりな台詞をきかなくてすむのは嬉しい。「本当の公家の血は過激派の血だ」のような台詞が三島らしいと感じた。

一度幕が下りた後、カーテンコールがあった。八重子はじめ幹部が新派120年の挨拶をし、最後に新しく幹部になった川上弥生の紹介があった。その川上が迎えに行って、舞踏会の招待客のように名前を呼び上げられたゲストが川上に手をとられて出てくる。

25日は愛之助と林与一、きょうは千秋楽で、坂田藤十郎だった。愛之助は昼の三越のトークのときは浴衣だったが、カーテンコールはスーツ姿だった。新派の人たちの方を向いて120年おめでとうございます、の挨拶をした後、八重子姉さんには○○と○○のときお世話になり、8月には紙屋治兵衛の役をやらせてもらい(ここで客席から「ああ」という納得の声)、9月には南座で、みたいな必要最小限の挨拶だった。

その後、林与一の名前が呼び上げられると客席がざわめき、真打登場といった雰囲気で林与一が出てきた。着物音痴の私にもわかるくらい上等な材質の羽織袴姿。八重子先生はお稽古が嫌いな方で、芝居は台詞覚えておけばどうにかなるからといってちっとも稽古してくれなかった、というような思い出話。「遊女夕霧」というとんでもなく難しい芝居もやった、と言っていたが、役どころはおそらく愛之助が9月にやる与之助だろう。難しいのか。私は久里子と太地喜和子の夕霧を観たことがあるが、 与之助役の記憶がない。

藤十郎も何か思い出話をするのかと思ったら、昔の役者さんの名前を挙げただけで特に具体的な思い出話はなく、新派百三十年のときはお蔦と朝子の役をやらしてもらいたい、とあの人らしい前向きの話をしていた。