演劇フォーラム2008/08/18 22:18

2008年8月18日 三越劇場 午後3時半開演 1階2列16番

演劇フォーラム 特別企画「新派の120年」をふり返る 「紙屋治兵衛」作品について

舞台の真ん中後方にスライドがあり、その下手に椅子が一つ、上手に二つ。最初に出てきた演劇協会の人によるとこのフォーラムは7回目とか8回目とかで、それも1回目は去年だったそうで、知らなかったが頻繁に開催されているのだ。

下手の椅子に水落潔、上手の椅子の一つに水谷八重子が座った。まず新派の歴史から。手元に資料を持っている観客もいたが私はいつ配られたのかも気づかなかった。スライドに明治時代の新聞記事などが映り、新派は自由民権運動を鼓吹するものとして作られたとか言っていた。

八重子は新派のことを「いつの時代も現代劇をやるもの」と認識しているらしい。川上音二郎、貞奴の名前が出て、水落氏は喜多村録郎が川上を嫌いだったのは有名で・・・というような話をしていた。八重子は貞奴が好きだそうで、音二郎が死んで未亡人になった貞奴がどうすべきかという意見を(新聞社が?)募集したら意見が二千通も来たが貞奴がもう一度女優になるべきだという意見は一通もなかったという事実から、当時の女の地位の低さを結論づけていたが、貞奴が女優として大根だった可能性はないのだろうか。また、女形より女優が下に見られていて、国立劇場ができたときに母の八重子が「お国の劇場には女優は出られないんだって」とがっかりしていたという話もしていた。八重子は女形中心の新派から女優中心の新派へ、という話をしたかったのかもしれないが、新派のほとんどのヒロインは玉三郎で見たいと思い、今月の小春は初演の扇雀のが見たかったと思っている私としては、あまり共感できなかった。

正直言ってフォーラムというのはパネリストがいてもう少し知的な議論を戦わすものかと思っていたが期待外れだった。「母と私は芝居の話はしませんでしたから」という八重子の話からも新派に歌舞伎のような芸の伝承があるように思えないし、役者として厳しい訓練をしているようにも思えなかった。観客にとっても役者を目指している者にとっても魅力のない劇団なのではないか。

間に休憩が入るわけでもなく後半の今月の演目の話に移って愛之助が出てきた。「滝の白糸」、「恋女房」、それに「狐狸狐狸ばなし」の写真が一つずつスライドに映った。私は見たことがないので嬉しかった。水落氏は、愛之助は「滝の白糸」の村越欣也に大抜擢されて・・・と言い、「起用の理由は?」と八重子に尋ねたら、「私、(起用しろなんて)そんなこと言えません。会社が・・・・・」ということだった。愛之助によれば、周りの役者は全員何度も「滝の白糸」をやっていて、そこに自分だけが未経験で村越欣也として入って演技するのは大きなプレッシャーなのだそうだ。愛之助の前に村越欣也をやった辰巳琢郎はタバコが吸えなくて、キセルをふかすところでゴホッとしてしまうのが欣也らしいと思ってそのままにさせたのだが、愛之助は本当はスパスパ吸えるのに辰巳に倣ってゴホッとする演技をしていたのが可愛かった(「ラブリンてなんてかわいいんだろうと思った」)と八重子が言った。愛之助はビデオか何かで辰巳の演技を見て、それが良いと思って取り入れたらしい。

八重子が、最近では芝居に出てくる言葉もわからなくなっているという話の中で「婦系図」に出てきた別当とは厩務員のことだと知った。 今月の紙屋治兵衛の話のなかで「サンザイバ」と言われてもわからなかった。「散財場」で、男達と白人達が騒いでいる座敷の場をいうらしい。