歌舞伎座さよなら公演 吉例顔見世大歌舞伎 昼の部 ― 2009/11/24 01:15
2009年11月21日 歌舞伎座 午前11時開演 1階9列5番
「大序」
人形の口上が始まる。座席の位置のせいか、御園座のときは人形の方から声が聞こえていたが、歌舞伎座では、人形は舞台中央にいるのに、声は下手から聞こえる。
幕が開くと、役者が皆、目をつぶっている。首の角度は人によってまちまち。目をつぶっている若狭之助の顔は、御園座の愛之助の方が梅玉より綺麗だった。富十郎の師直は二十年以上前にも観た。あの頃は役者として全盛期だったのだろう。今でも足元は不自由なものの口跡は素晴らしくて師直らしい憎々しさがある。
夜の部は、七段目の福助が御園座の時より良かったと思う以外は、今月の芝居が同等かそれ以上に良かったのだが、昼の部は特に御園座のメンツが懐かしかった。富十郎は良いが、左団次の師直はニンに合って今が全盛と言える好演だったし、直義の七之助が普通にうまいのが、ちょっと浮世離れした進之介に比べて物足りない。
一番懐かしかったのは、「性格温厚」と顔に書いてあるような橋之助の判官。勘三郎の判官は良いだろうと予想していたし、確かにイメージ通りの判官ではあるが、温厚な人間というより、感情を表に出さない人間に見える。判官が性格温厚に見えなければならないのかどうかは知らないが、橋之助の判官に魅せられてしまった。
「三段目」
刃傷の場で緊張が高まって以降は、きっちりした雰囲気の勘三郎の判官の魅力が増す。
「四段目」
石堂(仁左衛門)と薬師寺(段四郎)は御園座とは逆だが、やはり身長差コンビ。
きょうの席は花道のすぐ横で、花道を通る役者の表情がよく見えた。 花道を引き揚げる家臣達がそれぞれ皆悲しそうな顔をしているのに感心した。
城明け渡しの場では家臣達がたくさん花道にいて、互いに議論を戦わせる様子をすぐ横で見られて迫力があった。佐藤与茂七役の萬太郎の顔がよく見えて、声も聞こえた。
四段目の大石は御園座の団十郎には満足できなかったが、今月の幸四郎もイマイチ気に入らなかった。団十郎は貫録不足、幸四郎は気持ちの不足。
「道行」
時蔵の衣装も御園座の孝太郎と同じ矢絣。時蔵は美人なんだから玉三郎のように派手な衣装にすれば良いのに。踊りは孝太郎の方がうまかった。
御園座でもやっていたが、久しぶりに歌舞伎座で、上手から巻いた長い御座を投げて下手までびしっと引く技を見られてうれしかったが、昼の部を二十年も見なかった理由がわかった。御園座の時は久しぶりに観たので新鮮で面白かったが、夜の部の五、六、七段目のように何度観ても面白いような話ではない。
田中傳左衛門プロデュース 「歌舞伎の未来」 ― 2009/11/24 01:17
2009年11月23日(月) 東京芸術劇場・中ホール 午後3時開演 1階G列24番
きょうの催しは傳左衛門のプロデュースで千之助が中心だ。傳左衛門は今月は八千代座の公演に行っていたはず。傳次郎は演舞場に出ている。仁左衛門は歌舞伎座に出ている。
最初の「口上」の幕が開くと、大きな松の絵を背景にして、千之助が真ん中にちょこんと座っていた。「待ってました」「松島屋」と声が掛った。すました顔は利口そうで成長を感じさせるが、笑うとタレ目になるのが松嶋屋の証明か。「皆様本日は・・・・・隅から隅までずずずいっと請い願いあ~げたてまつります~」と立派に挨拶できた。
次は私の一番好きな「道成寺組曲」の素囃子。南座で聴いて三響会にはまった曲だ。三兄弟と、笛は福原寛。広忠はきょうも激しくシャウトしていた。
この後、10分休憩。休憩時間には、千之助のクラスメートらしい子供達が、私の何列か前に座っていた担任の先生と思われる女性のところに来ていた。
休憩の後は藤間勘十郎の踊り、傳左衛門の鼓、福原寛の笛で「一調 獅子」。二枚扇を使った踊りだ。勘十郎の表情は時に白目を剥くような感じで人によっては笑うかもしれないが、私は彼の確信に満ちた迷いのない踊りが好きだ。
この後、20分休憩。
休憩後は仁左衛門の「ご挨拶」。幕が上がると羽織袴の仁左衛門が1人で立っていた。千之助も交えて三兄弟とお話するのかと予想していたのだが、こんな偉い人相手にいつもの乗りのトークは無理ということか。
仁左衛門は、孫につられて、芝居中の孝太郎のかわりに来た、ようなことを言っていた。三兄弟と勘十郎の名を挙げて褒め、傳左衛門が十六歳で立鼓で歌舞伎の舞台にデビューしたことを話した。 兄弟の母の佐太郎さんは「残念ながら」女性で歌舞伎の舞台には立てないけれども、三兄弟が生まれて活躍している、という話から兄弟の祖父の傳左衛門に言及し、今はもう覚えておられる方が少なくなったと思われるが、格調高い演奏で、とても腰の低い人だったという話をした。また、囃子方の仕事は客の前で演奏するだけでなく、「ゴーン」という鐘の音や、時計の音も、囃子方が出している、と言った。 歌舞伎は、きれいな女の人が殺されて、それに拍手するような変なところがあるが、それをおかしいと感じさせない力が歌舞伎にはある、という話もした。また、役者だけでなく客の方も成長しないと「あきません」とも言った。「歌舞伎の未来」というのは御大層なタイトルだが、五條橋の千之助と勘十郎を見て観客がこの人達の二十年後三十年後を考えてくれたら良いのではないか、というようなことを言っていた。仁左衛門がこんなに長く1人でしゃべったのを聞いたのは初めてだ。 襲名の口上も苦手そうなのに、こんなところでしゃべらされて気の毒な気がした。
最後は「五條橋」。牛若丸の千之助と弁慶の勘十郎の、素踊り。広忠はいなくなっていて、大鼓は住田長十郎。傳左衛門、傳次郎が小鼓で、笛は福原寛。 怪獣のような勘十郎の弁慶と、果敢に戦う小さい千之助の牛若丸が、この踊りのイメージにぴったりだ。千之助がかぶっていた薄い白い着物を勘十郎に投げ、それを勘十郎が薙刀の先にひっかけて後ろに飛ばしたのが良いチームワークでかっこ良い。2人とも真剣で、とても見応えがあった。 観客のほとんどが千之助の成長を楽しみにしている人たちで、その人たちといっしょに盛大な拍手を送るのは気持ちの良いものだ。
終演は4時20分を少し回った頃。一時間半弱の短い公演だったが、好きな人ばかり出て、とても楽しかった。
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