歌舞伎座さよなら公演 十二月大歌舞伎 夜の部2009/12/08 20:02

2009年12月5日 歌舞伎座 午前11時開演 1階12列5番

「操三番叟」

最初に出てきた千歳の鶴松は踊りがとってもうまかった。3年前は完全に子供だったのにずいぶん成長した。翁の獅童は足元はおぼつかないが、相変わらず顔が素敵。後ろ姿も立派。

人形遣いは松也。三番叟の手の動きとちょっと合わないところはあるが、綺麗な人形遣いだった。勘太郎の三番叟は予想通りうまくて、まっすぐな脚を左右に滑らせて身体を上下するところとか、後ろに足を跳ね上げて跳び回る動きが、目が覚めるように綺麗だった。

「野崎村」

福助のように姿の良い人がお光をやるのは無理なのではないか。田舎娘に全然見えない。

「身替座禅」

勘三郎の右京は初めて観たが、やっぱりとってもうまい。特に踊りは間違いなく今まで観たどの右京よりもうまい。8回も観た勘太郎の右京をうまいと思っていたが、花子との逢瀬を語るときの踊りが、勘三郎は更にうまいし、完全に練れた芸で、成熟した右京だ。 三津五郎の玉の井は前にも観たことがあるが、立役が加役でやっている女形、という感じではなく、美人ではない女形という感じだった。 太郎冠者の染五郎は、滑稽さより華やかさが勝っているところがあって、それも悪くなかった。右京と並んで「ぐふふふふ」と言うところは、好色男が2人揃った感じ。 千枝小枝は巳之助と新悟。巳之助は前にも千枝をやったことがあって、その時美人なのに気付いたが、新悟もずいぶん綺麗になった。

「大江戸りびんぐでっど」

これは、染五郎が主役やるのがぴったりの、パルコ歌舞伎(見たことはないが)や、コクーン歌舞伎風のものだった。幕開きは七之助がくさや売りの女で、七之助が「安いよー」と叫ぶと、横に立っている干物二つが「寒いよー」と叫ぶ。干物は亀蔵と染五郎。干物同士が話しているときに七之助が、掛け声のように「くさや」「くさや」と何度も声をかけるのが面白かった。干物は開いているときはアジのような魚に見えたが、両腕を閉じると亀蔵はイルカ。染五郎は蛙? 染五郎は干物の着ぐるみを脱ぐときにカツラもいっしょに脱げてしまい、すぐにかぶりなおしたが、しばらくは笑いがこみ上げてきていたようだ。 一幕目はとても良かった。

たくさんのゾンビの手が障子を破って、ゾンビが出てくるところは、猿之助の歌舞伎でカラス天狗が天井からワラワラと出てきたのを思い出した。

最後のシーンで、七之助が乗った板を大勢の人が支えて、真ん中が落ちた橋の片方からもう片方へ渡らせるような人海戦術はコクーンでやりそうなことのように見えた。

勘三郎が七之助の前夫役で、今の夫役の染五郎と対決するときに、照明の当て方によって回想シーンに変わるのは、今まで見たことがなくて新鮮だった。

他には年増女郎役の扇雀が面白かったり、それぞれニンに合った役をやっていて、なかなかの娯楽作だ。

つまらないのは、みんなで踊るシーン。三回くらい群舞のシーンがあって、そのうちの一回はトンボのうまい人がバック転をするような技術的に高いもので面白かったが、それ以外は、素人のお遊戯になっている。ブロードウェイのオーディションには絶対合格できない人たちの素人ダンスを見せないでほしい。

マリインスキー・バレエ 「イワンと仔馬」2009/12/12 18:06

2009年12月9日 東京文化会館 午後7時開演 1階R11列

これは旧題「せむしの仔馬」で、アラベスク第二部でノンナとヴェータが団員になれるかどうかの卒業コンサートでこのタイトルロールを踊った。「せむしの仔馬」は有名なのになかなかやらないなとずっと思っていて、今回やっと見られた。

振付は最近のものらしく、新しい感じがした。いくつかのグループが次々に踊る感じがくるみ割り人形と似ていて、作曲がチャイコフスキーなら良かったのにと思った。作曲はプリセツカヤの旦那のシチェドリンという人で、映画化されたこともあって有名だけれどもバレエ音楽として一流なわけではないのが、上演頻度が(少なくとも日本では)高くない理由かもしれない。

一幕目は上半身裸のイワンとかわいい仔馬が踊って、ものすごく私好みのバレエだった。二幕目ではお姫様のソロがあり、お姫様いらないのにと思ったが、踊りだしたら良かった。音楽も、お姫様の踊りの時に限ってすごく良い。これでシチェトリンがプリセツカヤを落としたわけか。

仔馬を踊ったのはノンナ・ペトロワならぬイリヤ・ペトロフ君。去年ワガノワバレエ学校を卒業したばっかりの子で、写真で見ても肉眼で見ても可愛い。イワンに追い払われるあたりのしぐさがうまくて、なかなか芝居心がありそう。イワンはロブーヒンだった。写真で見るとサラファーノフが可愛くてロブーヒンはイマイチだが、肉眼では十分可愛かった。姫君はテリョーシキナ。腕が非常に長い、という印象。

主役級がうまいのはもちろんだが、群舞の1人1人のレベルが揃っているのが流石にマリインスキー。

レニングラード国立バレエ「くるみ割り人形」2009/12/29 18:21

2009年12月23日 東京国際フォーラム ホールA 午前11時開演 1階17列17番

この場所、このバレエ団のくるみ割りは3度目だ。一年おきに行っている。2年前に見たときは、その前に見たときと同じだという記憶がなかったが、今回は、クリスマスツリーや衣装に見おぼえがあった。

バレエに「後見」があるわけでもないだろうが、最初の方でドロッセルマイアーがジャンプするところでマントを持っている人が手を貸して少し長く飛ばせたり、王女様のリフトの時に、持ち上げる人とは別に王女様の手をとっている人がいて、身体を前に乗り出すのを助けたり、後見のような役割が振付の中に含まれているのだと、今回初めて気付いた。

正味一時間四十分くらいで、特に二幕目は名曲に次ぐ名曲なので、クリスマス気分に浸るために気楽に見るのにはとても良い作品だ。劇場の外は雪が降りしきっている、なんていう状況で観たらどんなに幸せだろうと想像した。

終わったのが一時で、東京駅でランチをしたら、隣りのテーブルには青森から着いたばかりという人がいて、東京は春のようだと言っていた。

国立劇場 平成21年12月歌舞伎公演2009/12/31 23:35

2,009年12月26日 国立劇場大劇場 3階10列4番

「頼朝の死」

頼朝は本当は若い女に夜這いしようと出かけたところを警備の者に見とがめられ、斬られて死んだが、頼朝夫妻と斬った武士だけがその秘密を知っていて、表向きは安徳天皇の霊を見て驚いて落馬して死んだことになっている、それを訝った頼家が問い詰めても真実を教えてもらえない、という話。

外聞の悪い死に方を内密にする気持ちはわかるが、跡取りの頼家には教えてやってもよいではないかと思った。

頼家役の吉右衛門が凄く良かった。新歌舞伎に合う。

「一休禅師」

これは舞踊。富十郎は、前の演目の政子役では台詞が立派だったが、踊りになると上半身だけで、年とってからのマヤ・プリセツカヤと同じ状態になっている。娘の愛ちゃんはずいぶんしっかりしてきて、しきりに「姫天王!」と掛け声が掛っていた。

「修善寺物語」

これにも頼家が出て、こちらは錦之助。貴公子然としていて、ぴったり。50年近く前の舞台を去年テレビで見たが、段四郎は、その時に先代の段四郎がやっていた春彦役だった。当時のお父さんの方が今の段四郎より若く、もっとさわやかな感じだった。主役の夜叉王は吉右衛門。この役も普通に良かった。種太郎は、猿之助が二十歳の頃にやった下田五郎の役で、飛び蹴りが入っているようなかっこいい立ち回りがあった。少しウトウトしていたが、立ち回りですっかり目が覚めた。