秀山祭 3月大歌舞伎 又五郎、歌昇襲名披露 夜の部 ― 2012/03/04 21:11
2012年3月3日 南座 午後4時半開演 1階右ニ
「俊寛」
浅黄幕が落ちて、鬼界ヶ島。長い杖にすがって、リア王のような吉右衛門の俊寛がよろよろと現れる。少将成経(歌昇)と、康頼(吉之助)が花道を歩いてくる。
南座で前に観た「俊寛」では、少将が秀太郎、康頼が愛之助だった。少将が歌昇だと、全然違う。千鳥(芝雀)より可愛い少将が、俊寛に千鳥のことを打ち明けるときの初々しさ。そもそも、俊寛が鬼界ヶ島に残ることになったのは、少将が千鳥を都に連れ帰りたかったからなのだから、少将は大事な役だ。当たり前なのだが、私の脳みそは、今月、若くて可愛い歌昇の少将を見て、はじめて本当に理解できたのだった。
歌昇の顔があんまり可愛いので、女形もやってみれば良いのにと思った。
歌昇と芝雀が並ぶと、やっぱり芝雀は太ったおばさんに見える。千鳥が壱太郎ならもっと良かったのにと思ったが、芝雀は吉右衛門と並ぶと可愛い。千鳥が俊寛、瀬尾(歌六)の争いに絡んで戦うところでは、千鳥の芝雀はバランスが良かった。
吉右衛門の俊寛と、歌六の瀬尾はこの芝居の中心だが、抜きん出てうまく、2人の対決に見ごたえがあった。
錦之助の丹左衛門は瀬尾と並んでいるときは下手でつまらないが、俊寛と瀬尾の争いを「基康ここにて見物いたす」と、船の上から文字通り高見の見物を決め込むところは面白い。こういうときは、貴公子系の顔が物を言う。
丹左衛門の後ろではらはらと成り行きを見守る少将。顎が震えている。口元が似ているせいか、顎の動き方がお父さんそっくりだ。少将は千鳥も連れて帰りたいが、俊寛のことも慕っている。それが吉右衛門に憧れている現実の歌昇と重なって、現実感が増す。
俊寛と少将たちとの心の結びつきが実感できると、「未来で~」と手を振りあう別れの辛さもわかる。
一人島に残る俊寛は、最初、船の綱を握るが、それは遠ざかる船とともに離れて行く。花道の方に行くと浪布が舞台へ舞台へと近づく。俊寛は岩の上に上る。岩がぐるりと動き、絶壁の上で遠ざかる船をじっと見つめる俊寛。その目には絶望の果ての諦念があった。
「口上」
三色の裃は一人だけで、愛之助はすぐにわかる。
吉右衛門が口火を切るが、しゃべり方が滑らかでなかった。先代の又五郎の話やロビーの展示の話をした。
翫雀。又五郎が歌昇襲名のときにも船弁慶をやり、自分はそのとき23くらいで、歌舞伎の世界に戻ってきてまもなくだったから、ただ素敵だと思ってみていた、今回は弁慶をやる、という話と、新歌昇は息子と親しくしていて、憎めない奴という話。
愛之助。新又五郎には子役の頃から可愛がってもらい、役も教わった。新歌昇とは縁がなかったが、1月に浅草でいっしょだった。好青年で、お稽古ばかり行っている。自分も精進したい。
錦之助。中村きーんーのーすけでございます、と錦之助を強調して言ったので、何か面白いこと言うかと期待したが、いたって平凡。自分も昔は播磨屋だった、襲名おめでとう、みたいな感じ。
一番上手は芝雀。新又五郎とは同年輩。
一番下手は歌六。母は京都生まれ京都育ち。だから自分達は半分京都の人間。吉右衛門のおかげで弟達が襲名することになって感謝している。微力ながら自分も力になりたい。
その隣りが種之助で、新歌昇、新又五郎が並び、真ん中に吉右衛門。
このあたりは、通りいっぺんの挨拶。
「船弁慶」
立鼓は傳左衛門。俊寛のときに黒御簾から聞こえた声が傳左衛門だった。
最初に揚幕から出てきた弁慶役の翫雀。先月の花魁とは打って変わった役だ。顔が藤十郎に似てみえる。実は先月も感じた。役のせいではなく、年とったせいかも。弁慶の所作が綺麗だった。奥さんに個人指導を受けるのか、翫雀の踊りは案外いい。
義経(愛之助)が四天王を引き連れて花道から登場。30代最後の役はこれ。四天王のうち、一番後ろの背が高いのが隼人なのはすぐわかったが、種之助と米吉の区別がつかなかった。米吉は女形のときとはずいぶん違う顔をしている。
静(又五郎)が揚幕から出てくる。 義経と静に、伊勢三郎(米吉)が盃を差出し、駿河次郎(隼人)が酒を注ぐ。
別れの前に舞を舞う静。能っぽいところは多少ぎごちない感じで、歌舞伎舞踊っぽくなると、お手のものという感じになる。静は、摺り足で花道から引っ込んだ。
揚幕から、舟長の三保太夫(吉右衛門)が、舟子2人を連れて出てくる。この2人が歌昇と壱太郎なので、私のテンションが一気に上がった。最初に吉右衛門が踊るが、踊りとしては2人の前座。でも、2人とも吉右衛門の踊りをじっと見ている。 壱太郎は1月、2月はお姉さんの役ばかりだったので、久しぶりの立ち役が嬉しい。壱太郎は芝居は女形の方が良いが、踊りは、永楽館の「茶壷」のような男の踊りの方が合っていると思う。2人が並んで踊るのを見るのは楽しい。2人とも小柄だが、壱太郎は顔が小さい。
この後は、三保太夫が「波よ、波よ、波よ」といいながら、3人で棹を動かす。やがて嵐が来て、必死に漕ぐ。
亀井(桂三)が、舟にあやかしが憑いたかと言う。桂三の声が好きだ。
知盛の亡霊(又五郎)が薙刀を持って現れる。染五郎とは頭身が違うが、踊りの切れは良い又五郎の知盛。義経たちと戦い、最後は弁慶の祈りにやられて逃げていく亡霊。最後は、義経と四天王が刀をふりかざして、舞台の幕が閉まる。これが30代の愛之助を見た最後だった。
舞台の幕が閉まってからが、この演目の最高に盛り上がるところだ。笛と太鼓に、なぜか傳左衛門まで幕外に出てきた。笛と太鼓の音に送られて、又五郎の知盛は薙刀を肩にかけてクルクル回りながら引っ込んだ。
良かったが、初日のせいか、又五郎の踊りがまだ最高レベルに達してない。
「俊寛」
浅黄幕が落ちて、鬼界ヶ島。長い杖にすがって、リア王のような吉右衛門の俊寛がよろよろと現れる。少将成経(歌昇)と、康頼(吉之助)が花道を歩いてくる。
南座で前に観た「俊寛」では、少将が秀太郎、康頼が愛之助だった。少将が歌昇だと、全然違う。千鳥(芝雀)より可愛い少将が、俊寛に千鳥のことを打ち明けるときの初々しさ。そもそも、俊寛が鬼界ヶ島に残ることになったのは、少将が千鳥を都に連れ帰りたかったからなのだから、少将は大事な役だ。当たり前なのだが、私の脳みそは、今月、若くて可愛い歌昇の少将を見て、はじめて本当に理解できたのだった。
歌昇の顔があんまり可愛いので、女形もやってみれば良いのにと思った。
歌昇と芝雀が並ぶと、やっぱり芝雀は太ったおばさんに見える。千鳥が壱太郎ならもっと良かったのにと思ったが、芝雀は吉右衛門と並ぶと可愛い。千鳥が俊寛、瀬尾(歌六)の争いに絡んで戦うところでは、千鳥の芝雀はバランスが良かった。
吉右衛門の俊寛と、歌六の瀬尾はこの芝居の中心だが、抜きん出てうまく、2人の対決に見ごたえがあった。
錦之助の丹左衛門は瀬尾と並んでいるときは下手でつまらないが、俊寛と瀬尾の争いを「基康ここにて見物いたす」と、船の上から文字通り高見の見物を決め込むところは面白い。こういうときは、貴公子系の顔が物を言う。
丹左衛門の後ろではらはらと成り行きを見守る少将。顎が震えている。口元が似ているせいか、顎の動き方がお父さんそっくりだ。少将は千鳥も連れて帰りたいが、俊寛のことも慕っている。それが吉右衛門に憧れている現実の歌昇と重なって、現実感が増す。
俊寛と少将たちとの心の結びつきが実感できると、「未来で~」と手を振りあう別れの辛さもわかる。
一人島に残る俊寛は、最初、船の綱を握るが、それは遠ざかる船とともに離れて行く。花道の方に行くと浪布が舞台へ舞台へと近づく。俊寛は岩の上に上る。岩がぐるりと動き、絶壁の上で遠ざかる船をじっと見つめる俊寛。その目には絶望の果ての諦念があった。
「口上」
三色の裃は一人だけで、愛之助はすぐにわかる。
吉右衛門が口火を切るが、しゃべり方が滑らかでなかった。先代の又五郎の話やロビーの展示の話をした。
翫雀。又五郎が歌昇襲名のときにも船弁慶をやり、自分はそのとき23くらいで、歌舞伎の世界に戻ってきてまもなくだったから、ただ素敵だと思ってみていた、今回は弁慶をやる、という話と、新歌昇は息子と親しくしていて、憎めない奴という話。
愛之助。新又五郎には子役の頃から可愛がってもらい、役も教わった。新歌昇とは縁がなかったが、1月に浅草でいっしょだった。好青年で、お稽古ばかり行っている。自分も精進したい。
錦之助。中村きーんーのーすけでございます、と錦之助を強調して言ったので、何か面白いこと言うかと期待したが、いたって平凡。自分も昔は播磨屋だった、襲名おめでとう、みたいな感じ。
一番上手は芝雀。新又五郎とは同年輩。
一番下手は歌六。母は京都生まれ京都育ち。だから自分達は半分京都の人間。吉右衛門のおかげで弟達が襲名することになって感謝している。微力ながら自分も力になりたい。
その隣りが種之助で、新歌昇、新又五郎が並び、真ん中に吉右衛門。
このあたりは、通りいっぺんの挨拶。
「船弁慶」
立鼓は傳左衛門。俊寛のときに黒御簾から聞こえた声が傳左衛門だった。
最初に揚幕から出てきた弁慶役の翫雀。先月の花魁とは打って変わった役だ。顔が藤十郎に似てみえる。実は先月も感じた。役のせいではなく、年とったせいかも。弁慶の所作が綺麗だった。奥さんに個人指導を受けるのか、翫雀の踊りは案外いい。
義経(愛之助)が四天王を引き連れて花道から登場。30代最後の役はこれ。四天王のうち、一番後ろの背が高いのが隼人なのはすぐわかったが、種之助と米吉の区別がつかなかった。米吉は女形のときとはずいぶん違う顔をしている。
静(又五郎)が揚幕から出てくる。 義経と静に、伊勢三郎(米吉)が盃を差出し、駿河次郎(隼人)が酒を注ぐ。
別れの前に舞を舞う静。能っぽいところは多少ぎごちない感じで、歌舞伎舞踊っぽくなると、お手のものという感じになる。静は、摺り足で花道から引っ込んだ。
揚幕から、舟長の三保太夫(吉右衛門)が、舟子2人を連れて出てくる。この2人が歌昇と壱太郎なので、私のテンションが一気に上がった。最初に吉右衛門が踊るが、踊りとしては2人の前座。でも、2人とも吉右衛門の踊りをじっと見ている。 壱太郎は1月、2月はお姉さんの役ばかりだったので、久しぶりの立ち役が嬉しい。壱太郎は芝居は女形の方が良いが、踊りは、永楽館の「茶壷」のような男の踊りの方が合っていると思う。2人が並んで踊るのを見るのは楽しい。2人とも小柄だが、壱太郎は顔が小さい。
この後は、三保太夫が「波よ、波よ、波よ」といいながら、3人で棹を動かす。やがて嵐が来て、必死に漕ぐ。
亀井(桂三)が、舟にあやかしが憑いたかと言う。桂三の声が好きだ。
知盛の亡霊(又五郎)が薙刀を持って現れる。染五郎とは頭身が違うが、踊りの切れは良い又五郎の知盛。義経たちと戦い、最後は弁慶の祈りにやられて逃げていく亡霊。最後は、義経と四天王が刀をふりかざして、舞台の幕が閉まる。これが30代の愛之助を見た最後だった。
舞台の幕が閉まってからが、この演目の最高に盛り上がるところだ。笛と太鼓に、なぜか傳左衛門まで幕外に出てきた。笛と太鼓の音に送られて、又五郎の知盛は薙刀を肩にかけてクルクル回りながら引っ込んだ。
良かったが、初日のせいか、又五郎の踊りがまだ最高レベルに達してない。
秀山祭 3月大歌舞伎 又五郎、歌昇襲名披露 昼の部 ― 2012/03/18 01:11
2011年3月4日 南座 午前11時開演 2階1列
「御浜御殿綱豊卿」
幕開き、舞台に人はいるが、綱引きはやってない。花道から壱太郎のお喜世と、上臈が出てくる。上臈は、お喜世に手紙を見せろといい、お喜世は拒んでいる。そこに、芝雀の江島が出てきて、お喜世を庇う。芝雀は流石に貫禄があるが、情もある。
巡礼(吉太朗)が出てきて引っ込んだ後、上手から、酒に酔った綱豊が出てくる。愛之助はきょうから40歳。
隼人は中臈お古宇で、太刀持ちのような役。綱豊について出てくる。
また巡礼が出てきて、上手にひっこむ。
お喜世が見せるのを拒んでいた手紙は兄の助右衛門からのもので、お浜遊びを覗かせてほしいというものだった。お喜世が綱豊に言うと、綱豊は助右衛門は上野介の顔を見たいのだろうと推測する。このあたりは他の役者が花形のせいか、江島役の芝雀が一番偉い人に見える。愛之助は、長い台詞で大変だが、つい熱くなってしまったのをごまかそうとするところは、もう少しそれとわかるようにやった方が良いかもしれない。
新井白石が出てくる次の場は、動きがなくて眠くなるのだが、今月の歌六はうまくて助かった。愛之助は、虚仮がネズミを捕まえようとする話のところはうまい。
助右衛門は錦之助。二枚目役でも貴公子役でもない、顔がものを言う役ではないのに、案外良かった。
役を作ってる感じがせず、本来の明るい持ち味のままやっている。浅草でやった亀治郎はかなりけたたましい助右衛門で、それと愛之助綱豊の重い台詞がぶつかって、バランスをとっていたが、錦之助のさらっとした助右衛門だと愛之助の台詞は重すぎる。
愛之助も錦之助も二枚目で、どちらがうまいかと言うと愛之助だが、錦之助は年長な分、自分を知っていると感じた。遠くから舞台を見ていると、錦之助の助右衛門が綱豊より大人に見える。愛之助の綱豊は、助右衛門より身分が高そうな威厳がない。その分、助右衛門が綱豊につっかかっていくときの面白さが不足する。
浅野家再興が成れば仇討は許されなくなると焦った助右衛門が、綱豊が去った後、上野介を討ちに行こうとするのを、お喜世が身体を張ってとめる。壱太郎は「いいことがあるっ」と助右衛門を止める台詞等に必死な感じがあっていい。錦之助と壱太郎には普通の男女と同じくらいの体格差があるし、ここは2人の自然な必死さが伝わって客席も息を呑んだ。
最後の場で能舞台から人が出てきて裏の建物に入っていくのを以前は単なる通行人のように眺めていたが、今は、間狂言が終わって狂言師が戻っていくのだということがわかる。その後、後シテの望月の衣装をつけて綱豊が現れる。
愛之助は、大仰な衣装と台詞がよく似合って、助右衛門といっしょに「おそれいりましてございますー」とひれ伏したいほど良かった。
「猩々(しょうじょう)」
最初に種之助の酒売りが出てきて、台詞を言い、一人で踊る。種之助がこんなに長く一人で踊るのを観たのは初めてかもしれない。真面目そうな感じだ。
歌昇、翫雀の猩々が続いて下手から出てくる。私はなぜか今まで猩々のことを猿だと思っていたが、番付によると、霊獣だそうだ。小柄な2人は、かわいい霊獣だった。いろいろな足の動きを見せるのが特徴の踊りなので、その点は若い歌昇が有利だったと思う。
「熊谷陣屋」
何回も観ているが途中で眠ってしまったりして全体がわからない。今回やっと、弥陀六が重要な役であることと、どうやら敦盛は実は生きているらしいことがわかった。
一番注目していたのは、堤軍次役の歌昇。
俊寛の少将みたいに可愛かったらどうしようと思ったが、この役はちゃんときりっとしていた。相模とできてるように見える役だそうだが、熊谷の横で2人で手を動かしてるのを見ると確かにそんな気がする。
壱太郎は藤の方の役で、いつもより低い声を出す。そうすると藤十郎に似る。藤の方のゆっくりした動きを見ていると、壱太郎はきびきびした動きは良いが、ゆったりした動きはイマイチだと思う。女踊りより男踊りを観たいと思うのもそれが原因かもしれない。
吉右衛門はやや苦手な役者だが、敦盛の死について語るところは、やっぱりうまいなと思う。
「御浜御殿綱豊卿」
幕開き、舞台に人はいるが、綱引きはやってない。花道から壱太郎のお喜世と、上臈が出てくる。上臈は、お喜世に手紙を見せろといい、お喜世は拒んでいる。そこに、芝雀の江島が出てきて、お喜世を庇う。芝雀は流石に貫禄があるが、情もある。
巡礼(吉太朗)が出てきて引っ込んだ後、上手から、酒に酔った綱豊が出てくる。愛之助はきょうから40歳。
隼人は中臈お古宇で、太刀持ちのような役。綱豊について出てくる。
また巡礼が出てきて、上手にひっこむ。
お喜世が見せるのを拒んでいた手紙は兄の助右衛門からのもので、お浜遊びを覗かせてほしいというものだった。お喜世が綱豊に言うと、綱豊は助右衛門は上野介の顔を見たいのだろうと推測する。このあたりは他の役者が花形のせいか、江島役の芝雀が一番偉い人に見える。愛之助は、長い台詞で大変だが、つい熱くなってしまったのをごまかそうとするところは、もう少しそれとわかるようにやった方が良いかもしれない。
新井白石が出てくる次の場は、動きがなくて眠くなるのだが、今月の歌六はうまくて助かった。愛之助は、虚仮がネズミを捕まえようとする話のところはうまい。
助右衛門は錦之助。二枚目役でも貴公子役でもない、顔がものを言う役ではないのに、案外良かった。
役を作ってる感じがせず、本来の明るい持ち味のままやっている。浅草でやった亀治郎はかなりけたたましい助右衛門で、それと愛之助綱豊の重い台詞がぶつかって、バランスをとっていたが、錦之助のさらっとした助右衛門だと愛之助の台詞は重すぎる。
愛之助も錦之助も二枚目で、どちらがうまいかと言うと愛之助だが、錦之助は年長な分、自分を知っていると感じた。遠くから舞台を見ていると、錦之助の助右衛門が綱豊より大人に見える。愛之助の綱豊は、助右衛門より身分が高そうな威厳がない。その分、助右衛門が綱豊につっかかっていくときの面白さが不足する。
浅野家再興が成れば仇討は許されなくなると焦った助右衛門が、綱豊が去った後、上野介を討ちに行こうとするのを、お喜世が身体を張ってとめる。壱太郎は「いいことがあるっ」と助右衛門を止める台詞等に必死な感じがあっていい。錦之助と壱太郎には普通の男女と同じくらいの体格差があるし、ここは2人の自然な必死さが伝わって客席も息を呑んだ。
最後の場で能舞台から人が出てきて裏の建物に入っていくのを以前は単なる通行人のように眺めていたが、今は、間狂言が終わって狂言師が戻っていくのだということがわかる。その後、後シテの望月の衣装をつけて綱豊が現れる。
愛之助は、大仰な衣装と台詞がよく似合って、助右衛門といっしょに「おそれいりましてございますー」とひれ伏したいほど良かった。
「猩々(しょうじょう)」
最初に種之助の酒売りが出てきて、台詞を言い、一人で踊る。種之助がこんなに長く一人で踊るのを観たのは初めてかもしれない。真面目そうな感じだ。
歌昇、翫雀の猩々が続いて下手から出てくる。私はなぜか今まで猩々のことを猿だと思っていたが、番付によると、霊獣だそうだ。小柄な2人は、かわいい霊獣だった。いろいろな足の動きを見せるのが特徴の踊りなので、その点は若い歌昇が有利だったと思う。
「熊谷陣屋」
何回も観ているが途中で眠ってしまったりして全体がわからない。今回やっと、弥陀六が重要な役であることと、どうやら敦盛は実は生きているらしいことがわかった。
一番注目していたのは、堤軍次役の歌昇。
俊寛の少将みたいに可愛かったらどうしようと思ったが、この役はちゃんときりっとしていた。相模とできてるように見える役だそうだが、熊谷の横で2人で手を動かしてるのを見ると確かにそんな気がする。
壱太郎は藤の方の役で、いつもより低い声を出す。そうすると藤十郎に似る。藤の方のゆっくりした動きを見ていると、壱太郎はきびきびした動きは良いが、ゆったりした動きはイマイチだと思う。女踊りより男踊りを観たいと思うのもそれが原因かもしれない。
吉右衛門はやや苦手な役者だが、敦盛の死について語るところは、やっぱりうまいなと思う。
三月大歌舞伎 昼の部 ― 2012/03/20 22:00
2012年3月20日 新橋演舞場 午前11時開演 1階10列37番
「荒川の佐吉」
筋書に写真が載っている。ラッキー。
幕開きに千壽郎とりき弥が茶店の前に座っている。今月は2人揃っている。
きょうの席は通路際で、人の頭に邪魔されることなく舞台を見通せる、良い席だ。ただ、開演直後は、遅れて来た人が私の前を通るたびに舞台が全部見えなくなる。下手から佐吉が出てくる瞬間を待っていたのでひやひやした。
佐吉の役は染五郎に合うだろうと思っていた。合うには違いないが、染五郎の持ち味が生きて凄く良い、というのでもなかった。茶店の前で成川(梅玉)と話しているとき、染五郎の台詞が少し聞き取りにくかった。真山青果の台詞を客の耳に正確に届ける仁左衛門の口跡の良さ、あるいは台詞術を再認識した。
夜、赤ん坊の卯の吉をあやしながら歩いているシーンでは、仁左衛門は、子供向けの甘い声を出して、あきれ返るくらいうまかったが、染五郎は、子供用に特に違う声を出してる風でもなかった。
染五郎は、助右衛門の再演を繰り返すうちに役を磨いていったので、佐吉も何回かやるうちにもっと良くなるかもしれない。
第二場は、隅田の清五郎が中心。幕開きに、上手側を向いて上手に腰掛けている。愛之助がこの役をやったときは私の席は花道近くばかりで、愛之助がすごく遠かった。今月は高麗蔵だが、先月の「おかあさま~」と違いすぎて、筋書を見るまで誰だかわからなかった。
お八重役の梅枝は、気の強い性格を良く出している。若さに似合わぬ安定感。
辰五郎役の亀鶴は、同い年ということもあって、弟分というより、お友達の感じ。
成川役の梅玉が良かった。佐吉の「勝つ者が強い」という言葉に納得して生き方を変えるような近代性のある人間に合っている。
「仮名手本忠臣蔵 九段目 山科閑居」
加古川本蔵の女房戸無瀬(藤十郎)は、婚礼衣装の娘小浪(福助)を連れ、小浪の許婚者力弥の家を訪ねてくる。由良之助の女房お石(時蔵)が応対する。
2人を結婚させるかさせないか、戸無瀬とお石が言い合う。面白い。はっきりした台詞の時蔵が、きっぱりと断る。反論する藤十郎。こういうテンション高い女のときの藤十郎は最高。女形対決が凄く良かった。
それなのに、この後睡魔に襲われ、かなり最後の方まで断続的に眠ってしまった。はっきり目覚めたのは、袱紗の入った絵図面をもらうあたりからである。あらすじを読むと、途中の話が非常に面白い。激しく後悔。
「荒川の佐吉」
筋書に写真が載っている。ラッキー。
幕開きに千壽郎とりき弥が茶店の前に座っている。今月は2人揃っている。
きょうの席は通路際で、人の頭に邪魔されることなく舞台を見通せる、良い席だ。ただ、開演直後は、遅れて来た人が私の前を通るたびに舞台が全部見えなくなる。下手から佐吉が出てくる瞬間を待っていたのでひやひやした。
佐吉の役は染五郎に合うだろうと思っていた。合うには違いないが、染五郎の持ち味が生きて凄く良い、というのでもなかった。茶店の前で成川(梅玉)と話しているとき、染五郎の台詞が少し聞き取りにくかった。真山青果の台詞を客の耳に正確に届ける仁左衛門の口跡の良さ、あるいは台詞術を再認識した。
夜、赤ん坊の卯の吉をあやしながら歩いているシーンでは、仁左衛門は、子供向けの甘い声を出して、あきれ返るくらいうまかったが、染五郎は、子供用に特に違う声を出してる風でもなかった。
染五郎は、助右衛門の再演を繰り返すうちに役を磨いていったので、佐吉も何回かやるうちにもっと良くなるかもしれない。
第二場は、隅田の清五郎が中心。幕開きに、上手側を向いて上手に腰掛けている。愛之助がこの役をやったときは私の席は花道近くばかりで、愛之助がすごく遠かった。今月は高麗蔵だが、先月の「おかあさま~」と違いすぎて、筋書を見るまで誰だかわからなかった。
お八重役の梅枝は、気の強い性格を良く出している。若さに似合わぬ安定感。
辰五郎役の亀鶴は、同い年ということもあって、弟分というより、お友達の感じ。
成川役の梅玉が良かった。佐吉の「勝つ者が強い」という言葉に納得して生き方を変えるような近代性のある人間に合っている。
「仮名手本忠臣蔵 九段目 山科閑居」
加古川本蔵の女房戸無瀬(藤十郎)は、婚礼衣装の娘小浪(福助)を連れ、小浪の許婚者力弥の家を訪ねてくる。由良之助の女房お石(時蔵)が応対する。
2人を結婚させるかさせないか、戸無瀬とお石が言い合う。面白い。はっきりした台詞の時蔵が、きっぱりと断る。反論する藤十郎。こういうテンション高い女のときの藤十郎は最高。女形対決が凄く良かった。
それなのに、この後睡魔に襲われ、かなり最後の方まで断続的に眠ってしまった。はっきり目覚めたのは、袱紗の入った絵図面をもらうあたりからである。あらすじを読むと、途中の話が非常に面白い。激しく後悔。
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