六代目中村勘九郎襲名披露 二月大歌舞伎 昼の部2012/02/05 00:42

2012年2月4日 新橋演舞場 午前11時開演 1階5列28番

「鳴神」

しばらく観たくないと思っていたので気が進まなかったが、実際に観たら楽しかった。七之助の雲絶間姫が綺麗で、語りがうまいからだと思う。

橋之助は顔自体が好色に見えて、私の理想とする鳴神上人から外れている。「クリクリ坊主」の「クリクリ」を強調して言うところはうまいと思ったし、飛び六方の引っ込みもうまかった。しかし、胸に手を入れた後で「やわらかくて」を強調して言ったりするのは好色そうで嫌い。橋之助はうますぎる。
私の鳴神上人の理想は最初に見た団十郎。

「土蜘」

前の芝居で最後に飛び六方で引っ込んだ橋之助が平井保昌で、最初に揚幕から出てくる。

新春浅草歌舞伎で勘太郎の土蜘を観たとき、土蜘の出まで起きているのが辛かった。胡蝶の舞が退屈だったのだ。今月は福助の舞が良かったので助かった。

土蜘の勘九郎は気配を殺して花道から出てくる。出てきたと気づかないうちに七三から声がした。どこか人間離れした感じ。踊りがかっこよかった。

「河内山」

上州屋の場では、河内山の仁左衛門、後家おまきの秀太郎に、和泉屋清兵衛役の我當、と松嶋屋三兄弟が思いがけず揃う。我當は、段の上り下りのときに番頭役の松之助に手をとられていた。

次は、松江邸広間。後家おまきの娘ふじは、ここでは浜路という名で腰元をやっている。浜路役の隼人が真っ先に走り出てきて、それを追って浜路を妾にしたい松江候の勘九郎と、近習の宮崎数馬役の錦之助が続いて出てくる。

以前、松江候の錦之助が良いと思ったが、ずっと若い勘九郎も悪くなかった。

今日の睡魔との闘いはここまでが限界で、書院の場の仁左衛門と勘九郎2人のところで眠ってしまった。

玄関先の場の前には起きて、仁左衛門のかっこいい啖呵をきくことができた。しかし眠ってしまったので、なぜ松江候が最後まで憮然としているのかはわからずじまい。

六代目中村勘九郎襲名披露 二月大歌舞伎 夜の部2012/02/08 00:13

2012年2月4日 新橋演舞場 午後4時半開演 上手桟敷

「鈴ケ森」

吉右衛門の長兵衛は、「ぐわっけえの~」みたいなすごく歌舞伎っぽい言い方。白井権八(勘三郎)と台詞のやり取りがけっこうあり、珍しい顔合わせが嬉しかった。


「口上」

はじめに勘三郎が挨拶した後、我當から順に口上。

最初の方の勘九郎は江戸時代で、昭和34年に五代目勘九郎を襲名したそうだ。勘九郎から勘三郎になったんだから、勘太郎もそのままで勘三郎になればいいじゃないかと、勘九郎は今の勘三郎以外に考えられない私は思う。勘太郎を勘太郎と呼べなくなるのもさびしい。

「鏡獅子」

勘三郎と顔が似ているせいか、勘九郎の弥生、獅子を見ると背の高さを感じる。

後見は七之助。後ろにそっと手を伸ばした弥生に扇を渡したり、弥生から受け取ってしまったり。四半世紀くらい前に、当時の勘九郎の鏡獅子で息子2人が胡蝶を踊るのを見た。あれも演舞場だった。

前シテの最後は、七之助が蝶のついた差し金を持って花道を後ずさり、それを追って弥生が引っ込んだ。演舞場の桟敷に座ったのは初めてだが、踊りのときは足もとまでよく見えるのと、花道が端から端まで見渡せるのが良い。

勘九郎の獅子は初めて見る。鬣を垂らして出てきて、後ずさりでひっこむ前に鬣が動き、花道の内側にかかった毛の先がそのまますーっと後ろに動いていった。

獅子より弥生の方が観たかったのだが、実際に観たら獅子の方に感動した。足拍子とか毛振りとか、普通に獅子のときに注目される動きよりも、ただ舞台を動き回るときの足の動きに魅了された。

「ぢいさんばあさん」

昼夜通してみたので、きょうは時おり睡魔に襲われたが、この演目だけは睡魔から解放されて、一番じっくり鑑賞できた。

橋之助の下嶋がうまい。

松竹座 二月花形歌舞伎 夜の部2012/02/12 22:25

2012年2月11日 松竹座 午後4時半開演 1階3列15番

「義経千本桜 すし屋」

最初に花道から鮓桶をかついで出てくるのは、弥助実は維盛役の染五郎。お里役の壱太郎は、奥から顔を出した瞬間から可愛い。お里が弥助を寝ましょう寝ましょうと誘うシーンはいつも面白いが、こんな可愛い子の誘惑はたまらない。 今月の松竹座は昼も夜も喜劇が出るが、それでも、これより笑えるところはなかった。やっぱり古典って凄い。

権太役の愛之助は、5年前の浅草でも後半はうまいと思ったが、今月はずっと余裕が感じられて、前半も後半も良い。「びびびびびー」の壱太郎とは仲の良い兄妹に見える。

母のお米との会話で、「おいとまごいにむぁいりむぁしたぁ」みたいな言い方が懐かしい。「どうで死なねばなりませぬ」と、手ぬぐいで首をつる格好が面白くて、可愛かった。仁左衛門の権太のときの竹三郎の方が母性が強くて、甘ったれ権太の仁左衛門と良いコンビだった。愛之助の権太は、「はいはい」と膝に頭をのせたりしても、あんなに甘ったれには見えず、きりっとした雰囲気の吉弥と合う。

リアル小金吾のような米吉が、若葉の内侍。先月の毛野は男の子なので、あれを女形に含めなければ、米吉の女形を初めて見た。おっとりした雰囲気が身分の高い女性に合っている。1つ1つ丁寧で、折り目正しい演技。声や台詞には若さと不慣れさを感じるが、大きな欠点はないと思う。御台様の格好も地味な女房の格好も似合っていて、可愛い。


若葉の内侍と六代君が尋ねて来て、維盛は、「お里とは親への義理で契った」と言い切る。これを聞いて泣き伏すお里。壱太郎は女っぽい。米吉と比べると一日の長がある。

「親への義理で契った」とは酷い言いぐさだが、人に身分の上下がある時代、貴族の維盛にとって庶民のお里は、供された料理のようなものである。
染五郎は、そういう高い身分であることを理屈抜きで客に納得させてしまうのが凄い。

染五郎のおかげで、この芝居に違う見え方があることに気づいた。いつもは権太一家の悲劇を見ているうちに、平然と横に座っている維盛一家が憎くなる。しかし今月は、最初に出てきて見せ場も多い染五郎が主役に見えないこともなく、「権太さんは気の毒だったけど、おかげでハッピーエンドでよかったわ」と、維盛主役の話として見ることも可能ではないか、と。そうすれば、権太が死ぬ前の「僕ってかわいそうでしょ」的な長台詞も、ハッピーエンドにいたる過程の話として、うんざりしないで耳を傾けることができる。

今月の染五郎の維盛は本当に素敵、大好きなのだが、上演記録を見たら、吉右衛門権太のときにも見ている。なぜか全く覚えていない。

愛之助は、妻子を縛って花道から出てきてからの悲劇の権太は、5年前も良かった。今回の席は前方中央だが、もっと後ろか、下手よりからの方が、襷を目に当てたり、花道で行きあぐんでいる妻子に行けと目くばせする様子がよくわかると思う。仁左衛門は、最後に羽織をかぶってつっぷしていたが、愛之助はやらない。最後の長台詞は、とてもうまかった。金の入った鮓桶を持って行ったのは、御台様に路銀として渡したいからだというのも初めてわかった。
あの台詞は、漫画や映画なら「回想シーン」にするところを、歌舞伎では役者の言葉として語って聞かせて観客を納得させなければならないので、大変だと思う。

獅童の梶原を見るのは2度目。浅草のとき、獅童はこんなに古風な、歌舞伎向きの顔なのかとびっくりした、懐かしい役である。今回も、まず顔が立派、柄が立派で、地位の高い侍らしさが出ていた。

弥左衛門役の歌六も良い。権太が2人を縛って花道から出てきたときに、がっくりと腰を下ろす後姿。小金吾の死体をみつけて、維盛の首のかわりに小金吾の首を差し出そうと持ってきたのに、権太が若葉の内侍と六代君をつかまえて連れてきてしまった今となっては、そういう自分の苦労も水の泡になって気落ちしてるのだろう、と思った。

自分としては、この「すし屋」が今月の松竹座で一番面白かった。他がつまらなかったというわけではない。過去に何度も見て、やっと今回、話の流れが細部まで理解できたので嬉しかった。

浅草のときもそうだったが、「木の実」「小金吾討死」がなくて、いきなり「すし屋」なので、弥左衛門が小金吾の首を取り出して鮓桶に隠すのを見ても、この話の前段を知らない観客にはわけがわからないだろうし、苦しい息で笛を吹いても、あれが息子の持っていた笛とはわからないだろう。

今月の配役も良かった。去年の巡業の配役がほとんどパーフェクトで、あれ以上は望めないと思っていたのだが、仁左衛門より愛之助の方が権太のニンだし、役者が全体に若く、未熟さはあってもリアルさでは巡業に勝っていた。


「研辰の討たれ」

私は野田版は観たことがなく、前に観たのは演舞場で今の勘三郎がやったときだ。三津五郎との共演と記憶していたが、上演記録を見たらそれは間違いで、橋之助だった。

幕開きは城の中。愛之助が笑ったときみたいに可笑しな顔をした染五郎がニコニコして座って扇子をパタパタやっていた。これが主役の辰次。周りに、亀鶴、松也、宗之助らが朋輩の侍役でいて、辰次と口げんかをしている。

奥方役の高麗蔵がいい。御台様、奥方様系の役がとっても似合う。

奥方に、あることないこと告げ口する辰次。こいつは実社会ではいじめにあうタイプだ。

家老の平井(友右衛門)は、そんな辰次を嫌って罵り、つばを吐きかける。

次の幕で、辰次は平井を騙し討ちにする。そこに駆けつけた、平井の息子2人。それが愛之助と獅童。この2人が辰次を敵として追うことになる。

次の幕では、倶利伽羅峠を越えるロープウェーの籠に乗る愛之助と染五郎が出てくる。宙乗りみたいな籠が面白いので写真を買った。

次の幕は宿屋。辰次が泊まっているところに、平井兄弟が来て、追っかけ、立ち回りがある。

私が覚えていたのは、この場の階段でのダンマリだ。記憶の中ではもっと階段が広くて、辰次と、兄弟の動きも、もっと微妙に階段を上ったり下りたりするもので、すごく可笑しかったのだが、今回の立ち回りは記憶のものとは少し違う。でもやっぱり可笑しかった。

逃げた辰次を兄弟が追いかけて、3人が客席を駆け回るときがある。私は前の方の席だったので見づらかったが、客席は盛り上がっていた。

最後に辰次が討たれるところも、前に観たとき、最後まで斬らないでくれと嘆願してゴマをする男が、歌舞伎の登場人物としては新鮮で強い印象を受けた。今回もその人間像は基本的に変らないが、前に観たときよりも間延びして感じる。たぶん、辰次が刀を持って立つのを拒んでいろいろやっている時間が、今回の方が長いのだ。それが客を笑わせるサービスシーンでもあるのだろうが。もう最後かと思うところで、染五郎が、客の指摘に反応して「あ、ヒモ?」と言ってヒモを締めなおし、獅童と愛之助が、指摘した客を責める。

僧の良寛役の翫雀が面白い味を出していた。

松竹座 二月花形歌舞伎 昼の部2012/02/18 22:10

2012年2月12日 松竹座 午前11時開演 1階5列13番

「慶安の狼」

本郷の居酒屋「柳屋」では、浪人たちが幕府批判をしている。子連れの浪人が入ってきて、子供の食べ物を頼んだ後、財布の中を確認し、酒を一本頼む。田中格之進(亀鶴)、石山平八(松也)も入ってきた。
下手の一段高いところで、奥にいる浪人と子供の隣りのテーブルについたが、テーブルの間が狭かったようで、松也がちょっと戸惑っていた。どうにか座った後で、テーブルを亀鶴の方に少し押していた。

丸橋忠弥(獅童)と、格之進、平八は由比正雪の道場に出入りしている。忠弥の幼馴染の小弥太(愛之助)は悪い評判がある道場に忠弥が出入りするのを心配している。

子連れの浪人をつかまえようと役人が来て、浪人は忠弥に助けを求めるが、忠弥は浪人は金をやって、町人になるように言う。

次の幕は忠弥の家。槍の稽古の声が聞こえている。金井半兵衛(友右衛門)は、将軍家光が死んで十歳の家綱が将軍になることを話し、由比正雪の統幕の決行は7月に決まったという。そして、正雪の命令なので小弥太を殺すように言う。驚いて断る忠弥。このとき、小弥太の来訪が告げられて、半兵衛は帰る。友右衛門が、昨夜に続き大人の雰囲気で良かった。

小弥太は、忠弥が頼んでいた仕官の話がまとまったと言いにきたのだった。忠弥は感謝するが、鳥籠を持った母(竹三郎)が出てきて、年取ってから出羽の国のような寒いところに行くのは嫌だ、槍の指南を始めてからは以前より暮らし向きも楽になったのだから、たいした禄高でもないのに江戸を離れるより、このままの方が良い、という。 忠弥が母に「黙っていなさい」と制止すると、母は怒ってひっこんで行き、妻(高麗蔵)が、「おかあさま、おかあさま」と後を追う。

竹三郎と高麗蔵が上流婦人の雰囲気で秀逸。高麗蔵は一心太助で家光の御台所だったし、上流婦人がニンだが、竹三郎は、権太の母のお米の役なんかも良いのに、この芝居のような我侭な武家の女もはまり役。長身で美形なのでさまになる。いつも思うが竹三郎は凄い。

仕官の話を受けたものの忠弥には迷いがあり、小弥太が帰った後、激しく槍の稽古をする。

柳屋で忠弥が飲んでいると、小弥太が駆け込んできて、それを追って格之進と平八が入ってきて、小弥太を斬ろうとする。忠弥は格之進と平八を斬って小弥太を助け、仕官の話はないことにする。

由比正雪の屋敷で、忠弥は正雪(染五郎)に酒を控えるように言われる。それは聞き入れたが、本吉新八(宗之助)と喧嘩になる。
正雪は新八に拳銃を渡し、忠弥を殺すように言う。そして、舞い始める。しばらくして、拳銃を手にした忠弥がよろよろと戻ってくる。正雪は舞い続ける。

数日後、柳屋で会った忠弥と小弥太。小弥太は酒を勧めるが、忠弥は正雪の言葉を守っていて断る。しかし、正雪の動静を探っている小弥太の言葉から正雪の本心を知った忠弥は、急に飲み始め、正雪の統幕計画をほのめかす。

佐竹家に戻った小弥太は、家老(歌六)に正雪の計画を告げる。家老は小弥太の忠義を褒めるが、小弥太が去ると、内藤主膳(薪車)に、小弥太を斬るように命じる。

忠弥の家では、加賀に仕官することになったと言って母と妻が旅支度をしている。そこに、忠弥を捕まえるために役人達が入ってくる。小弥太も来るが、いっしょに来た内藤主膳に斬られる。役人達と忠弥・小弥太組の立ち回りが始まる。真ん中に植え込みがあり、廻り舞台が回って、槍を持った忠弥と、刀を持った小弥太、それと役人たちが戦う。先に小弥太がやられたので、忠弥は紐で2人の身体を縛りつけ、そのままで戦い続ける。

正直、何を見せたい芝居なのかよくわからなかった。好みで言うと一番かっこ良いのは正雪。非情な男が染五郎のニンに合う。次は佐竹の家老。2人とも、考えてることがはっきりわかるのが良い。主人公とその友達の忠弥と小弥太は、若くても十代というほどではないだろうに、あまりにも迂闊で同情できない。死体を自分の身体にくくりつけてまでいっしょに戦うほど深い友情も読み取れなかった。男同士の友情ものだったら、数年前に浪花花形でやった大塩平八郎の乱の「浪華騒擾記」の方が遙かに面白かった。「慶安の狼」はひょっとすると男好みの話なのかもしれないが、少女マンガ脳の私の記憶に残るのは高麗蔵の「おかあさまー」だけだろう。

「大當り伏見の富くじ」


この芝居は普通の歌舞伎とは違うが、歌舞伎のモチーフは満載。

まず、基本的なストーリー。水島藩の家老は御家の重宝「稲穂に雀」の屏風を紛失したため浪人し、屏風を預かっていた佐野屋は潰れる。家老の娘は身を売って島原の太夫となり、佐野屋の息子は紙くず屋になる。実は2人は親が決めた許婚で、落としたお守りからそれが知れる。そして最後に御家の重宝が戻ってめでたしとなる。

その紙くず屋が、主人公の幸次郎。幕開き、また真ん中に染五郎が座っているが、研辰と違って二枚目のまま。自分の名前は幸次郎、幸四郎ではない、と幸四郎の話をし、その息子の染五郎のことは「アホや」という。

伏見稲荷の神主(千壽郎)が階段を下りてきて、富くじを買うように勧めるが、値段が一分と知って断る。幸次郎の言葉によると、一分は一両の四分の一だそうだから、2万5千円くらい? 宝くじとしたら、とっても高い。

家老の娘は身を売って鳰照太夫(翫雀) となった。その花魁道中に出くわした幸次郎が、鳰照に一目惚れ。このシーンは籠釣瓶のパロディ。花道七三で、翫雀がニマッとする。鳰照太夫は、履物が脱げ易いという設定で笑いをとる。

幸次郎が河原で見つけた財布を河童と取り合いするシーンが、水中ダンマリのようで面白かった。染五郎が上半身だけ見せてしゃべっている間に、下を着替えているみたいだったが、実は、別の足をつけていた。着ぐるみの河童も別の足をつけて、舞台の真ん中で2人が、つけた足を動かして水中で泳いでいるように見せる。横向き、前向き、いろいろに泳いで財布の奪い合いを見せる。ここは本当に感心した。で、最後に幸次郎が財布をゲットして、財布の中に手を入れ、「ゴジューリョー~」とやる。

幸次郎は、その五十両を持って鳰照太夫のいる島原へと向かう。花道七三で、染五郎の着替えがあった。私は役者が自分でちゃんと帯を結ぶのを見物するのが好き。

島原の遊郭には、遣手婆のお爪(竹三郎)、仲居頭のおとり(吉弥)、新造の雛江(米吉)などがいる。幸次郎はここで、お爪から富くじを買わされる。そして、太夫の千鳥の話から、自分の拾った財布は千鳥の恋人のものだと知り、金を全部千鳥に渡す。

水島藩家老黒住の役の獅童は目張りを思いっきり入れて、しりあがり寿のあやしいキャラみたいな顔になっている。カツラがしょっちゅう動いて、そのたびに直しているが、完全にとれてツルッとした頭になった方が二枚目に見える。幸次郎の妹お絹(壱太郎)をカワユシ、カワユシと言って、不思議な口調の台詞で口説く。

お爪は、お絹をどうにかしてやると持ちかける。竹三郎はこんな役でも面白い。家政婦のミタのパロディもやる。

黒住と鳰照太夫が伏見稲荷で話しているところを幸次郎が隠れて見ていた。幸次郎が去った後、落とした守り袋を鳰照が拾って、自分の許婚と知る。そして、島原に来た幸次郎に愛想尽かしをする。「次は勝手口からおいで」と。この時の翫雀は、恋人のためを思って心にもない愛想尽かしをする情のある女で、実に良い。

奇抜で新鮮でストーリー上も重要なキャラなのが、狆の小春。小春は人形のときと、千壽郎が特殊メイクで演じるときがある。人形を黒衣が漕ぐ車の前につなげ、走っているように見せたり、愛之助が抱えて話しかけたりしていた。
千壽郎の小春は、幸次郎と橋の上で友達のように話す。富くじの大当たりの番号は「1111」で、それを「わんわんわんわん」と読む。

富くじが当たった幸次郎は喜びのあまり、富くじを入れたくずかごを川に放り投げてしまう。

お爪たちが川をさらってくずかごを探しているところに現れるのが、舟に乗った信濃屋傳八(愛之助)。実は小春に話を聞いていて、偽の当たりくじの入ったくずかごを渡したのだった。

ショックで阿呆になった幸次郎。店にやってきた絵師の雪舟斎は、屏風をじっと見て、そこに絵を書き加えると、雀が戻ってきて、御家の重宝「稲穂に雀」が元通りになる。

最後は、全員で踊り。壱太郎と米吉が花道から出てきて七三で2人で踊ってから、舞台に行った。米吉は若葉の内侍と違って年齢に合った可愛い役。

亀鶴と松也は幸次郎の友達の役だった。リビングデッドで見たような町並みの書割を背景に登場するが、ストーリーにはあまり絡まない。この2人は今月、いつもいっしょに出てくる印象。

幕がしまったが、客はカーテンコールがあるのを知っているので、みんな手を打ちながら待つ。一度立ち上がった人も座りなおす。

真ん中の階段から役者が次々に登場。獅童と愛之助は2人で組んでポーズをとる。最後に染五郎が派手な衣装で扇子をもって踊りながら登場。

舞台に一列に並んで、真ん中は染五郎。その隣りに獅童。顔の左右で手を広げて、顔をいろんな方向に向ける獅童。方向を変えるたびに、客先が「かわいい~」と反応するので、染五郎が笑いながら、獅童を叩く仕草をした。

今月の公演は、染五郎と獅童の絡みを見るのが一番の楽しみだった。観る前は、染五郎が獅童に食われるときがあるのではないかと思っていたが、そんなことはなく、カーテンコールで初めて食われた感じ。今月は、獅童のキャリア負けといったところか。