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2012,年11月11日　国立劇場大劇場　正午開演　1階10列37番

この芝居は「鈴ｹ森」しか知らないが、今月は通し。

序幕の「東海道境木の場」では、真ん中に標識が立っていて、「武蔵」と書いてある面と「相模」と書いてある面が見える。

この場で出てくる不破伴左衛門(幸四郎)が主役の悪役。中間の又平は彌十郎。　この一味が名古屋山左衛門と白井左兵衛門を殺すのが話の発端。

「鎌倉初瀬寺の場」では、佐々木家嫡子桂之助(友右衛門)と、妾腹の額五郎(右之助)との跡目争い。家老の玄蕃(市蔵)と不破伴左衛門は額五郎を推し、名古屋山左衛門の息子の山三(錦之助)は桂之助を推している。
山三と伴左衛門は2人とも奥女中の岩橋(福助)に気がある。
山三と伴左衛門が対決するシーンは、山三が染五郎の方が面白かったろうと思った。

白井権八は高麗蔵。叔父の助太夫に対する孝と、主君桂之助に対する忠に迷っている権八に、「武士ならば忠が大事」という山三は、ちょうど今「平清盛」でやっている重盛の話と重なった。

「助太夫屋敷の場」で権八は叔父を殺し、叔父の息子助八も殺して神妙剣の一巻を取り返す。ここは、話の筋を読むと権八は正義の味方だが、それを意識せずに見ていると前髪が２人を殺す衝撃的なシーン。

二幕目「鈴ｹ森の場」では、幸四郎は幡隋院長兵衛。「おわけーの、おまちなせーやし」でお馴染みの長兵衛の台詞だが、高麗屋は「おまちなせーやし」ではなく「またっせーやし」と言う。

飛脚の役は宗之助。この場のだんまりの立ち回りは鑑賞教室でも観たし、有名だ。ここは高麗蔵を中心にたっぷり見せた。

三幕目「山三浪宅」は初めて観たが、面白かった。ここの錦之助は良い。

小汚い長屋に二枚目が住んでいて、後ろに禿が座っている様子も面白いが、ここに、花魁行列の花魁が入ってくる。
福助は、下女お国と、傾城葛城実は岩橋の二役。
彌十郎と錦之助がいるところに、息子の新悟と隼人が振袖新造の役で入ってくる。新悟はいつも綺麗で女らしいが、隼人も女形がずいぶん身について、おかしくなくなった。

大詰の「鞘当」では廣太郎、廣松兄弟が茶屋廻りで、花道と仮花道から出てきて舞台ですれ違い、また花道と仮花道から去る。　去った後、伴左衛門(幸四郎)は花道から、山三(錦之助)は仮花道から出てくる。
2人シーンになると、やっぱり染五郎で観たかったと思う。

この後、16時40分から同じ大劇場でトークショーがあった。7月に愛之助がゲストのときは伝統芸能情報館の３階の部屋で自由席だったが、今回は指定席。3列目だったので、染五郎がいなくて残念だと思った。

聞き手はこの前と同じ河村さん。最初に予定していた染五郎が出られなくなって申し込みの前に告知したが、それでも260名の申し込みがあったそうだ。

現われた幸四郎は羽織袴姿。「(芝居の中では悪役だったが)もう良い人ですから」と言う。文化功労者に選ばれたことについて、皆さんのおかげ、そして、河村さんは昔は厳しい劇評家だったが、そういう劇評家の皆さんたちのおかげ、というようなことを言っていた。

今月の芝居について。三代目菊五郎と七代目団十郎が不仲になったのを仲直りさせるために書かれた。「鈴ｹ森」では「またっせーやし」ということ。長兵衛の台詞の入れごとについて。「鼻の高いのが五代目」「恰幅が良い八代目」と。

日本全国に歌舞伎を観て喜んでくれるお客様がいるので、全都道府県で巡業を行ったそうだ。東北のお客様が、先日さんまを送ってくれたそうだ。

歌右衛門には一度も褒めてもらえなった、という話もした。「照暁ちゃん、照暁ちゃん」と手招きされ、「よくなったと思うのは慣れから来る錯覚だよ」と言われた。中村屋のおじさんは調子がいいところがあるから、「うまいね～」とか言うけど、という話も。

河村さんが、幸四郎は歌舞伎以外にもミュージカルやドラマやいろいろやって、昔は歌も歌った、「野ばら咲く道」とか～と言った。懐かしいなあ。野ばら咲いてる～山道を～。当時、私は染五郎に憧れていた。テレビで見るたびに、なんて知的な人だろう、私もああなりたいと思っていた。　今回トークを聞いていて、長い文を破綻なく、噛まずに言うのに改めて感心した。声も良い。素顔を見ていると、若いときの吉右衛門の顔に似ているような気がした。