2013年 南座 顔見世 夜の部2013/12/10 19:08

2013年12月9日 午後4時15分開演 2階1列11番

「御浜御殿綱豊卿」

御浜御殿といえば綱豊と助右衛門の対決だが、助右衛門が出てくるまではけっこう長い。
江島の時蔵ははまり役。豪奢な柄の打ちかけが似合う。先月の道行も矢絣でなく御所模様の着物で踊った方が綺麗だったのにと思う。孝太郎のお喜世が出てくると、そういえば仁左衛門がやる予定だったのだ、と思い出す。仁左衛門ファンだが、綱豊役に限っては梅玉の方が好きな私。新井白石役の我當は流石に顔立ちが綺麗だ。

きょうの席は花道の役者がよく見える。助右衛門役の中車が出てきて、ちょうど私に見えるくらいの位置に来たときに横を向いたので顔が見えた。あたりを心配そうにうかがうような顔を見て、最初、亀治郎によく似ていると思ったが、しばらくしたら浜木綿子に似てたような気もしてきた。

中車の助右衛門役は楽しみだったが、期待はずれだった。下手な人がやると役の難しさがわかることはよくあるが、これもそうだ。「なあに、たかが甲府三十五万石くらい」と憎まれ口をきくところで、笑いがとれない。ちょっと気持ち悪く歌舞伎口調になる場所があるが、全く効果的でない。テンション高く「放埓が原因でお取りつぶしになった例はなく~」というあたりは、まあまあ聞ける。
「けたたましい」という印象を持った亀治郎の助右衛門と比べて静かだったので初めの方は好感を持ったが、歌舞伎の技術がないと、この役の微妙な表情を表現するのはムリなようだ。客観的にそうだと言ってるだけで、中車を非難する気持ちは毛頭なく、先代猿之助の夢は息子の歌舞伎役者としての可能性は犠牲にして成就したものなのだなあと思った。山岡鉄太郎の役の方が直線的で簡単だったのだろう。

綱豊がいつになくテンションが高いと感じたのは、がっぷり組むような力が助右衛門にないからかもしれない。

「口上」

懐かしい、福山雅治の祝い幕。
口上は下手から中車、猿之助、藤十郎の3人。藤十郎の「新猿翁さんのご長男の照之さんが~」のような紹介の後、猿之助が挨拶。猿之助の名前が南座のまねきに上がったのは○年ぶり、中車は○年ぶり、猿翁は初めて、という話をした。そして、猿翁はきょう無事に74歳になった、という話。中車は、精進してまいります、という話。そして、藤十郎が、皆さんお待ちかねでしょう、と言って猿翁が登場。演舞場の口上のように正座しているように見せるために高さのある緋毛氈の台に「はめた」のではなく、イスに腰掛けた姿で、下の緋毛氈の台がこちらに動いてきて、藤十郎と猿之助の間に入った。顔の綺麗な骨格が露わになった老人。猿之助が、挨拶を代読する、というと、どうぞお願いしますというように、猿之助の方に手を伸ばした。代読の間も、胸の前に両腕を交差させたり、広げたりして、声は出さないが腕の動きで気持ちを伝えようとしているようだった。今後もおもだか屋をよろしく、というところでは、猿之助と中車の方に腕を伸ばす。3人が頭を下げて幕が降りるときは、猿翁は両腕を持ち上げようとするかのように上に動かしていた。

「黒塚」

去年初めて観て大好きになったから、また観られて嬉しい。阿闍梨役は梅玉。演舞場では団十郎だったな、と思い出す。

前半の動きが少ないところが内容としては深いのかもしれないが、私は後半、猿之助(鬼女)の踊りも動きが速くなったところからが好きだ。連理引きもすごくて、強力の猿弥はくるくる回ったりして大変だ。老女がススキの原に消えるところは、ロビーのテレビで観ると宙返りしているが、肉眼で速すぎて確認できなかった。

鬼女の姿で現われる猿之助は、ちょっと可愛い。鬼女が花道七三のところでまっすぐに前向きにバタッと倒れ、その瞬間スポットライトが落ちて黒くなるが、次の瞬間にはスポットライトがまたついて、その時には鬼女は倒れたときと逆の方向に身体を向けている。すさまじい速さだ。それで、後ろに跳びながら舞台に戻る。ここまでが圧巻だろう。

「新口村」
藤十郎(梅川)と翫雀(忠兵衛)で、新口村の舞踊仕立て。
意外と眠らないで最後まで見られた。

「児雷也」
花道を出てきたのはまたまた梅玉(児雷也)。夜の部は梅玉奮闘公演になっている。
児雷也が一夜の宿を求めた家に住む美しい越路の役は笑也。2人とも綺麗だ。

最後の幕になってやっと松緑(夜叉五郎)と愛之助(勇美之助)が出てくる。愛之助ははじめは狼の頭のようなものをかぶっている。横浜で言っていたように台詞はほんの一言。松緑の衣装は派手で、だんまりの所作は綺麗だった。
最後に出てきた蝦蟇がとても可愛かった。幕が閉まる前の背景にはレインボーと呼びたいよう虹が出ていた。

2013年 南座 顔見世 昼の部2013/12/10 21:46

2013年12月10日 午前十時半開演 2階1列9番

「厳島招檜扇」

舞台は厳島神社で、後ろに鳥居が見えている。
上の段の真ん中は清盛〔我當〕。上手には宗盛〔進之助〕。
下手には維盛〔萬太郎〕、重衡〔亀寿〕。
下には家臣役の月乃助、亀鶴、名代昇進の千次郎がいる。
舞を舞うために祇王〔壱太郎〕と仏御前〔笑三郎〕が入ってくる。
短い間だが壱太郎の踊りを楽しませてもらった。
仏御前が「親の仇!」と清盛に懐剣で襲い掛かり、清盛は檜扇でこれを打ち落とす。
仏御前は義朝の娘の九重姫とわかる。清盛は義朝は親友だったからと言って九重姫の命はとらない。
清盛が夕日を招き返した理由は、夕刻になるのに大経堂の建築が終わらず、遷座の式に間に合わないから。
式を延期するようなことになれば人々の嘲りを受けると重衡が言うので、清盛が檜扇で夕日を招き返した。
客席側が西になるわけで、舞台の役者たちに光が当たってきて、西から太陽が上がってきといるのがわかった。

「道行旅路の嫁入」
梅枝が踊るのを客席から見守る時蔵の姿はよく見かけたが、親子で踊るのは初めて見る。
二人並ぶと梅枝は顔が長い。でも踊りは梅枝の方がうまい。花嫁行列を見て、長い袖をつかんでうつむいて嘆くような仕草がかわいい。一人で踊るところもあって、うまいのだけど、可愛い若女形というタイプではないから、もっと違う踊りが見たいと思った。
翫雀の可内〔べくない〕。翫雀は踊りを捨ててなくてちゃんと稽古してるように見える。同じ奴でも、先月の松也とはずいぶん足の長さが違う。
可内は伴内と違って二人にからむわけではない。

「ぢいさんばあさん」

先代猿之助の美濃部伊織を観たことがある。無難にこなしていたがすごく良かったわけではなく、その後、同じ役の孝夫を観たときに演技のきめ細かさに感動したものだ。中車はもちろん下手だが、とぼけたおかし味があって、それがこの役で良い味を出している。「こんなところにホクロがあったかなあ」とるんの顔に顔を近づけるところ、京都の酒席で「奥方に会いたかろう」と言われて「会いたい」と言うところ、ぢいさんになってからるんと再会したときに「今度はほめてくれか」と言うところなど、面白かった。お父さんには無い持ち味だと思う。

るんの扇雀がすごく良かった。ばあさんになってから、坊が死んだことを詫びる場面も泣けた。普通の奥さんの役で、この人をこんなに良いと思ったのは初めてだ。頭の良い人だから中車と気が合って、愛情深い妻になっているのかもしれない。若妻のときは落ち着きすぎているくらい落ち着いているが、ふっくらとして美人だ。

下嶋〔右近〕といっしょに出てくる伊織役の中車は、着流しだと着物を着慣れてない印象が強い。私も着物のことは全くわからないのでどこがどうとは言えないのだが、右近と全然違う。立っているときも正座しても。京都の料亭の場でも、他の同輩たちと比べて、足がぴっちりして苦しげに正座しているように見えた。

泥酔して乱入してくる下嶋の右近は、ものすごくうまい。最後に落ちるときに不自然にたくさん歩いたように感じたのは、不慣れな中車が相手で自分で全部どうにかしなければならないから大変なのかもしれない。

甥夫婦役は月乃助と春猿。満開の桜もあって、目が覚めるように綺麗なシーンだった。月乃助は今年の元旦に踊りを観て、それ以来か、と最初の幕でも月乃助は見ているのに今更ながら考えた。

扇雀のばあさんは、今まで観たばあさんの中で一番立派。扇千影が白髪になって出てきたようだ。
中車のぢいさんは、今まで観た中で一番貧相。それでも、最後にるんに手を握られる場面などを見ると、一番可愛がってもらえそうに見えた。

中車は、昨夜の助右衛門はダメだったが伊織の役は良い。NHKの放送が助右衛門の方なのは気の毒だ。

「二人椀久」

椀久は初めは仁左衛門の予定だったが、休演になったので、代わりは愛之助。こうなると、顔見世昼の部の顔ぶれはすごく若い。ほとんど花形歌舞伎じゃないか。
愛之助は、花道を出てきて後ろを振り向いたときに顔がよく見えた。前に舞踊会で亀治郎の松山といっしょに踊ったのを見たことがある。亀治郎は弾けるように陽気な感じで踊っていたが、孝太郎はしっとりと踊っている。8年前に歌舞伎座で観たときのように「美しかったなー」と思うほどではないが、悪くはなかった。

「四の切」

10年くらい観ないでいたいと思っているのにまたまた観ることになってしまった「四の切」。
猿之助は回を重ねただけあって、階段を下りてくる足の様子が、より狐らしくなったし、階段から急に出てくるところのスピードも増したと思う。
亀井六郎が松緑で、駿河次郎が愛之助。この3人が並んだのを初めて観るような気がする。
松緑は夜も最後に少ししか出ないし、使い方が贅沢。これだけのために京都に来たのか。海老蔵と染五郎といっしょに出た追善興行の口上で学校時代の話をして「染五郎が卒業したと思ったら一年下にきのし君というのが入ってきて」と言ってたから、友情出演なのかもしれない。赤っつらの化粧だと辰之助に似る。
秀太郎が静御前。瞼の母のときは台詞がよく聞こえなかったりしたが、古典の役だと声量も十分だし、台詞もはっきりしている。