歌舞伎座こけら落とし12月 夜の部2013/12/14 01:07

2013年12月13日 午後4時半開演 1階14列26番

「五段目、六段目」
染五郎の勘平は五段目は菊五郎よりスラッとしてるな、と思った程度で、文句のない勘平だったが、六段目はあまり感心しなかった。どこが悪いというのではなく、ただ自分が感動しなかっただけだ。

七之助の女房おかるを観るのは二回目。玉三郎の雰囲気だが、声が少し福助に似てきたと思った。

千崎弥五郎は、五段目で出て来た時わからなかったが、高麗蔵。不破数右衛門が弥十郎なのですごく身長差がある。高麗蔵の千崎は連判状を出す前に外を確かめるとき、戸を開けてあたりを見るが外には出ない。又五郎は外に出て確かめていたような気がした。

「七段目」

この段の幸四郎の由良之助を観たことがあるかどうか記憶にないが、悪くなかった。特に今月は平右衛門が海老蔵で玉三郎と親子ほど年の差があるので、玉三郎と適当な年齢差でお兄さんの幸四郎と二人の場面が良かった。
海老蔵の平右衛門も悪くなかった。幸四郎も玉三郎もよく受けてくれていると思う。由良之助とのやり取りのところは、海老蔵の目立ち方がうっとうしく感じた。
おかるとのからみは、無骨な兄に見えて、なかなか良い。「髪の飾りに化粧して~」で悲劇調に転じるところも良かった。たまに怪獣みたいな顔になることがあるし、勘平が腹を切って死んでしまった、という前に「は、は」というのが不自然で下手とか、おかるに耳を貸すときの形がイマイチ綺麗じゃないとかいろいろ欠点はあるが、全体的には合格。

仲居役で小山三が出ていて、受けていた。獅子くたようなお侍、と言うのが小山三。
見立ては、長い布を波のように動かして海に見立てた「あまちゃん」と、燭台を聖火に見立ててオリンピックだった。

「十一段目」

獅童の小林平八郎と松也の竹森喜多八の泉水の立ち回りは先月の錦之助と歌昇にはかなわないだろうと思ったが、松也が投げられる場面が二回あったし、一応許せる範囲だった。

国立劇場 12月公演と研修発表会2013/12/14 23:23

2013年12月14日 国立劇場大劇場 正午開演 2階1列17番

きょうは討入りの日なので、入り口で四十七士の絵のクリアファイルをくれた。
忠臣蔵のスピンオフ。先月の歌舞伎座と同じ役の人が何人かいて、面白かった。

「主税と右衛門七」
設定は12月13日。主税(隼人)が滞在している家の娘(米吉)は主税のもとに通ってくる右衛門七(歌昇)が好きで、婿にしたいと思っている。
少女漫画的でとても面白かった。二十歳の隼人を観る最初の役が主税なのは嬉しい。
主税の部屋と娘の部屋を廻り舞台で見せる。その間をトボトボと歩く右衛門七。このトボトボ歩く感じがいかにも歌昇。娘の部屋から主税の部屋に来る途中で座り込んで泣き崩れるところが可哀想で、歌昇の魅力が爆発。
隼人は台詞がそれほどうまくないところが、15歳の役にあっていた。まだ幼さが残る声で「母上」と言うだけで母恋しの気持ちがわかる。隼人が自分で鼓を打ち歌もうたって、それに合わせて歌昇が「足軽踊り」を踊るのは素晴らしい観客サービス。

娘と右衛門七のシーンは、いまどきの少女漫画だったら絶対ベッドインがあるぞと思った。前に隼人が商業演劇で主税役をやった時は、討入りの前に黒木瞳に筆おろしをしてもらう話だった。赤穂浪士の中でも十代の2人については、みんないろいろ考えて話を作りたくなるのだろう。

「弥作の鎌腹」

又五郎が、先月歌舞伎座と同じく千崎弥五郎。吉右衛門はその兄の弥作で、百姓。
弥作は代官の娘と弥五郎を結婚させると七太夫(橘三郎)に約束するが、弥五郎は討入りに加わるからダメだから断ってくれという。弥作は断りに行くが、固く口止めされた討入りの話を仕方なく七太夫に漏らす。それを弥五郎に打ち明けると、弥五郎は七太夫を殺して自分は切腹する、と言うので、七太夫に言ってはいない、と言う。弥作は切腹の作法について弥五郎に聞き、紙に書き留める。弥作は七太夫を撃ち殺し、切腹の手順を書いた紙を見ながら腹を切る。

こういう役の吉右衛門は好きだ。弥作のゆるい百姓らしい雰囲気と、弥五郎の武士っぽい雰囲気の対比が面白い。「討入りに加わるのなんかやめろ」というのが人間の自然な感覚だと思う。

「忠臣蔵形容画会(ちゅうしんぐらすがたのえあわせ)」

最初にえっへん人形まで出て、七段目までを踊りで要約して見せる。
大序は高師直の又五郎、若狭之助の歌昇、判官の種之助が目を閉じて下向き加減に座っている。歌昇はイケメン、種之助は可愛い。2人とも声が良くなったと思う。歌昇は扇子の投げ方がかっこいい。若狭之助が怒りで肩を上下させ、その前に判官が腕を伸ばしている形で、この場は終わる。
その後、三人並んで、後ろで黒衣さん達が動いていたので雰囲気的にぶっかえりか、と思ったら、大序の時の衣装から奴が「抜け出て来た」という感じだった。これで二段目になる。
歌昇と種之助はニコニコして、掃除の道具を持って踊る。種之助が箒を持っていると、この前の櫂を思い出す。三人で酒を飲み、歌昇が泣き上戸(ぴったり!)、又五郎が怒り上戸、種之助は笑い上戸。三人それぞれ一人で踊る見せ場があり、最後は又五郎を先頭に上手に引っ込んだ。全員踊りがうまい。
次は三段目。矢絣の着物のおかる(米吉)が花道から出てくる。若い子だから矢絣が似合って可愛い。恋人の勘平(隼人)と会おうとしている。邪魔に入る伴内(吉之助)。隼人がすごく良い男。声がお父さんに似て来て、台詞が良くなった。
四段目。顔世は魁春。腰元吉野は廣松。力弥は先月に続き鷹之資で、花道から来る。廣松と鷹之資は踊りがうまい。
五段目は、歌六が与市兵衛と定九郎の二役。最初に、花道から出て来た定九郎が、稲叢に入る。しばらくして与市兵衛が花道から出てくるので、それが早変わりかと思ったがそうではなく、花道から出て来た人は舞台の木立の後ろへ行き、木立から出て来たときに歌六と入れ替わっている。その与市兵衛が握った50両を稲叢から出て来た手がひっぱり、与市兵衛はそのまま稲叢の中へ引っ張られる。そして、定九郎が出てくる。与市兵衛が稲わらの束を頭にかぶり縛ったところが鼻になっているような猪が出てくるが、この猪の造形は歌舞伎の猪よりずっと芸術的だ。それが定九郎にからむ。この定九郎は最後にすっぽんからせり下がる。
六段目。先月に続きおかやの東蔵。猟師三人は歌昇、種之助、松江。勘平が死んで14日、おかやは村の衆に念仏踊りを教えている。「自分が踊る通りに踊れ」と言うおかや。東蔵が踊りがうまくて面白い。最後に、おかやが目をまわして倒れる。
七段目。人形振りの前に出てきて口上を述べる黒衣が出る。平右衛門(錦之助)とおかる(芝雀)が人形振り。由良之助が出てくるところからは、普通の芝居になる。由良之助の吉右衛門は先月と同じ。討ち入りに加われると聞いて喜ぶ平右衛門の錦之助が綺麗。親子そろって同時期に綺麗なのは、稀有なことなのではないか。

本公演はこれで終了。
6時から研修発表会。2階11列13番で観た。

最初に伝統歌舞伎保存会の人が挨拶し、続いて吉右衛門が挨拶した。

「七段目」

最初からではなく、九太夫が一人で座敷にして、そこに伴内が来るところから。だから、由良之助、平右衛門、おかるのうち、最初に登場するのがおかる(米吉)だ。米吉は見た目は良い。

次に由良之助(歌昇)が出てくるが、手順を追うのが精一杯の印象。台詞は、関西風のイントネーションが自然に言えてない感じ。難しい役なので仕方ないが、縁の下にいる九太夫が文の一部を破ったことに気づくところは、昨夜観た歌舞伎座の幸四郎は観客にそれとはっきりわかる演技だったが、きょうのお客さんはあれで気づいたろうか。おかるに「三日さま三日さま」というところも遊び心が足りない。実年齢より二十年も上の人間の役だからしかたないか。

平右衛門の種之助は、一番期待していた。ニンに合ってるし、変な話、自分で台詞言いながら泣き出してしまうのではないかと思うくらい、性格に合っている役だと思った。実際には、おかると再会して、はじめの方は決まった台詞を言うだけで終わってしまうのかと思ったが、由良之助がおかるを身請けするという話のあたりから良くなった。チャラチャラしたおふざけシーンより内容のある話をするのが得意なんだろう。刀を抜いておかるを追いかけるところは立ち回りが得意な種之助なので安心して見られる。「髪の飾りに化粧して~」もちゃんと言えていた。これに続く台詞には涙を誘われた。「腹切って死んでしまった」は今月の海老蔵よりうまく言えているかもしれない。由良之助に討入りを許され、喜ぶシーンも良かった。

米吉は全体的に安定しているが、もっと「勘平のことで頭がいっぱい」感があった方が良いのではないか。玉三郎の台詞では、今、勘平と言おうとしたな、とわかる「カン」という小さな音が何回か聞こえるが、米吉の台詞では聞こえない。

種之助と米吉は、双子の兄妹のようだった。ともに二十歳。良い思い出になるだろう。

歌昇は、最後に出て来たときの台詞は良かった。

「乗合船恵方萬歳」

隼人が萬歳鶴太夫、廣松が才造亀吉。
最初に乗合船が着いて、いろいろな職業の人が乗っている。
隼人と廣松は花道から出て来る。
船の乗客が一人ずつ踊り、最後に萬歳の二人が踊る。隼人はここでも鼓を持っているが、音は別の人。2人とも歌って踊る。廣松は元々踊りがうまいが、隼人の踊りもうまくなった。見映えがする。二十代は伸び盛りか。