市川猿之助特別舞踊公演2014/07/09 21:19

2014年7月9日 浅草公会堂 午後4時半開始 2階つ列20番

見晴らしが良い席だ。

「吉原雀」
素踊りだ。笑也の素踊りを観るのは初めてだと思う。「古典芸能の今」の初回あたりの猿之助は素踊りのときの顔が野良犬みたいだったが、今は端正になった。いつもながら指先の動きが素敵。
黒御簾の方から傳左衛門の「よおぉ」という声が聞こえた。

「座談」

舞台中央に置かれた二つの床几。「本日はお足下のお悪い中~」と猿之助が挨拶した後、上手に猿之助、下手に笑也が座って座談が始まった。きょうは午前の部もあったので、同じことを話してもあれだし~、と猿之助。午前中は一般家庭出身の笑也がどうやって歌舞伎役者になったか、その手続きについての話だったとか。

国立の研修所について。年齢制限は原則として23までだが、例外もある。25歳で入った人もいる。

猿之助 立役と女形、両方の修行をしないと相手役がつとまらない。猿翁は難しい相手か 

笑也 合わせてくれるが、一度、中日劇場のヤマトタケルで当時の児太郎の代役をやったとき、芝居の後で「笑也さん、ダメ出しがあります」というので師匠のところへ聞きに行ったら、明石の浜で二人がキスするシーンがあるが、「顔があの角度じゃ吸えないだろう」と言われた。「吸えない」のところで二人でプッと噴き出した。

猿之助が芝翫に聞いた話。女形は普通、立役よりも後ろで台詞を言う。しかし揚巻が意休に言葉をかけるとき、芝翫は意休よりも少し前で台詞を言った。揚巻が後ろにいると意休はそちらを向かなければならず、客席に横顔を見せることになる。少し前にいた方が意休は正面を向いたままでかっこよく見えるから。
仮名手本忠臣蔵六段目、勘平がお軽を呼び戻すところも、普通に抱き合ってはいけない。女形をどう綺麗に見せるか、立役をどうかっこよく見せるか、そういう格好をする。

猿之助 猿翁はスーパー歌舞伎のとき、役について、「あの芝居のあの役のようにやってくれ」というように指示する。その役を知らないと「バカだねぇ」で終わってしまう。自分はなんでも知ってるから。

笑也 師匠は「わからなかったら聞けばいいんだよ。知らないのに聞かないのがいけない」というので、ある時、聞きにいったら、「そんなのは常識だ!」と怒られた。

猿之助 女形をやるとき現実の女の人を参考にしますか、と聞かれることがあるが、はっきり言ってなんの参考にもなりません。女形と女性、立役と男性は、全く別の生き物だと思ってください。
どうすれば女らしく見えますか、とか聞かれる。そんなものは「ない」と答えたいところだがそういうと話が終わってしまうので。
写真に写るときは斜め45度で。

笑也 スーパーで、鏡の後ろを通ってむこうに行く場面があって、そのとき、金田龍之介に言われた。背中が男だと。油断するとそうなる。
普通は、女形を演じるときは、肩甲骨を、貝殻骨をくっつけて、肩を落として、こうするんです、と説明するが、実はそうすると、肩が動かせない。実際は胸郭を前につき出すようにすると肩が動く。

猿之助 紙を一枚膝に挟んで歩く修行なんて、本当にするんですか、都市伝説じゃないんですか

笑也 研修所では一応やった

猿之助 あんなに膝くっつけて歩いたらかえっておかしな歩きになる

笑也 ただ、歩幅を大きくしない、ということを心掛ければいい

自分を指さす仕方が、年齢によって違う。娘のときは、手の甲を自分の方に向けて、手を反らして自分を指さす。年増になると手の平を自分の方に向けて自分を指さし、老女になると手を顔の目の前に持ってきて指さす。笑也が先にやったが、後でやった猿之助の指先が綺麗だった。

猿之助が死んだ宗十郎に教わったこと。男を知らない生娘と、それ以外の演じ分けについて。「今はそんな恥じらいはないでしょうけど、昔は、生娘は恥ずかしくて男の顔をまともに見られない。胸あたりを見ている」

猿之助 笑也さんは今でもお姫様の役をやる

笑也 お姫様、つまらないんですよー、しどころがなくて。動かなくてすんでいいですね、と言われますが、動かなくていいんじゃなくて、動いちゃいけないんです

化粧について。鬢付油を下に塗ってから化粧をする。冬は水溶きの白粉が冷たい。お湯では溶けない。笑也は自分で首の後ろにも塗る。
猿之助  腕が上がらなくなると困りますね
笑也  それが、あったんですよ、上がらないことが。そういう年齢の方はおわかりだと思いますが
猿之助 ナントカ肩ですね

笑也 化粧を名題さんに教わった。京屋のきょうか(京葭?)さん。鼻は、鼻筋だけ立てちゃいけないと言われた。馬みたいでしょ、と。脇の方から立てる。
猿之助 あんまり鼻筋を立てすぎると、「天皇陛下の馬じゃないんだから」と言われたりする

猿之助が「きょう初めて歌舞伎観る方」と客席に問いかけると、後ろの方に一人いたようだ。
猿之助 いいですね。いろいろ説明する必要なくて。初めての方は、隣りの方に訊いてください。

二人の座談の後、段一郎が「吉野山」について説明。「義経千本桜」は三大義太夫狂言の一つ、という基本的な話から、「鳥居前」で佐藤忠信が静たちを助け。それで義経が忠信に初音の鼓を託し、静の護衛を頼んだ、しかし実は忠信は狐で、初音の鼓が両親の皮でできていたから、という流れがよくわかった。「初音の鼓」は狐忠信の母の皮かと思っていたが両親の皮だったのか。段一郎はもっとクールな感じの人かと思っていた。

「吉野山」
今度は2人とも拵えをして踊る。
静の笑也は綺麗だ。二人が雛の形になると拍手が湧き、「ご両人」という声がかかった。「思いぞいずる壇ノ浦~」に始まる踊りが一番の見せ場で、「待ってました」と声が掛かった。最後は二人が舞台中央にいて、終わり。藤太は出ないし、忠信が蝶につられて狐の本性を表したり、笠を投げたりするところはないし、花道の引っ込みもない。
高くジャンプしたり、鼓にツツツーと近づいたり、猿之助の踊りはうまいと思うが、どうもこの踊りは、私が好きな系統の猿之助の踊りではないようで、何度見ても感動しない。

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