第六回 三響会2007/10/28 18:43

2007年10月27日(土) 新橋演舞場 昼の部 午後1時開演 1階17列17番、夜の部 午後5時開演 1階19列34番

両方とも前あるいは斜め前の人の頭で舞台の一部が見えなくなる席だった。

「能楽五変化」と「月見座頭」は昼夜の共通演目。 最後の演目だけが違う。昼は「獅子」、夜は「一角仙人」。

昼夜通して一番気に入ったのは「獅子」。昼の部のチケットは愛之助が出るという発表があって急遽買い足したのだが、おかげでこの演目を見られてラッキーだった。

イヨーッ、オーッ、ハーッという掛け声の中でそろそろ獅子が現れるぞと待っていると、お囃子の前方左右の台の上の、南座の道成寺組曲のとき上から下がっていた鐘のようなものが割れて、中から能の白獅子が現れた。 歌舞伎の獅子は、七之助が花道から出てきたので、亀治郎はもったいぶって後から出るのかと思ったら、囃子方の後ろに掛かっている橋の上にピョーンと飛び出して来たので客席が沸いた。

三響会の後の十周年記念祝賀会で、傳次郎「あのときの客席の反応がすごくて」広忠「僕たちも生き返りました」というやりとりがあった。傳次郎が「ポップアップで飛び出すのは、七之助さんと亀治郎さんのどちらがやるか、ということになったら亀治郎さんが、僕がやる、と言ったので」と言ったので、いかにも亀治郎らしくて笑った。 七之助は前日まで獅子をやっていたせいか亀治郎に負けてなくて、毛振りの最後は若さを発揮してブンブン回していた。立ち姿も、痩せすぎの体形が獅子のたっぷりした毛でカバーされ、身長がある分立派に見えた。その点亀治郎はやや子供っぽい。 獅子が四頭いると、歌舞伎の二頭を見るのが精一杯で能の獅子が見られない。

昼夜とも最初の演目は「能楽五変化」。

暗闇を笛の音が貫き、誰の声ともわからない掛け声と鼓、太鼓の音がしばらく聞こえていて、これもいいなと思っていると舞台が明るくなって能装束をつけた5人が勢揃いしているのが見える。神・男・女・狂・鬼だ。全員引っ込んだ後、一人ずつ出てきて舞う。能の舞はあんまり得意でないので、なるべく広忠の顔を見ているようにした。特に昼の部はほとんど真正面だったのでよかった。5人の中では狂の被り物が面白いと思った。同じ人が舞っているのに、神は夜の方が良く思えた。理由はわからない。広忠は祝賀会のときにこの演目のことを30分打ちっぱなしのフルマラソンと表現していた。最初、広忠が考えたときには12分の演目だったが傳次郎に相談したら短すぎると言われ結局30分になったそうだ。

「月見座頭」には昼は愛之助、夜は萬斎がスペシャルゲストとして追加された。何の役かと筋書きを見ると2人の役は「語り」。演目の最初に花道のすっぽんから愛之助が出てきた。拍手したかったが他の観客がしないので我慢。素顔に羽織袴。舞台上で素顔を見るのは初めてだったが照明があまり明るくないし遠い席だったので顔がよく見えなくて残念だった。舞台の月を眺めて「おお、出たわ出たわ」で始まる歌舞伎調の台詞をひとしきり語り、「座頭はどれに~」と言いながら舞台下手に引っ込んだ。得意の台詞術を生かせる役で良かったと思ったが、パーティの時の茂山逸平の話では「虫の名前が覚えられない」と言っていたそうだ。最後にもう一度出てきたときは花道の後ろから歩いてきたので、そのときは最初より近くで顔を見ることができた。台詞は何もなく、口元に手をやって笑う様子をしてすっぽんから引っ込んだ。

萬斎は狂言調で同じ内容を語るのとかと思っていたら全然違った。座ったまますっぽんから現れ、「これはこのあたりにすまいいたす者・・・・ではなくて、野村萬斎でございます」とお辞儀。客席が拍手。その後、「出演を頼まれたのが数日前」という話をしてから、本来の語りを始めたが、愛之助の語りの内容とは最後に座頭を探しに行くところだけが同じだったような気がする。 祝賀会のトークで聞いたところによると広忠が萬斎に原稿をファクスしたのが2日前だったそうで、慌しい内幕をばらしたかったのかもしれない。萬斎は舞台に行った後、この演目を演出した傳次郎の前に行って「演出家ー」と客に紹介。次に傳左衛門のところで「家元ー」と紹介した。広忠はこの演目には出ていなかった。最初の演目がフルマラソンなので休息が必要なわけだ。最後に花道から出てきてすっぽんから引っ込むとき、萬斎は「ハハハハハ」と笑いながら引っ込んだ。

この演目の主な出演者は座頭役の藤間勘十郎と、男役の茂山逸平と勘太郎。勘十郎の踊りは今までで一番うまいと思ったが、勘太郎にももっと踊ってほしかった。勘太郎の使い方が勿体ない。

今回の舞台は、舞台後方に長く掛かっている橋と、そこから舞台にスロープで降りてくる橋が橋掛かりのようになって大きく囃子台を囲んでいる。祝賀会で聞いた話ではそのスロープが急で、私は気づかなかったが勘太郎は夜の部で滑ったそうだ。勘十郎は目をつぶった状態で降りてくるので怖かったと言っていた。それと、夜の部の「一角仙人」の最後に出てくる龍神二人は、面をつけているので目が見えないのと同じで、やはり降りてくるのが怖かったらしい。

祝賀会でこの演目の話をしているとき、広忠が「実は目はあいていた、という設定で」と言い、傳次郎に「違います」と即座に否定されていたが、私も昼の部を見たときは座頭は本当は目が見えたのかと思っていた。そもそも私は「座頭」を「ざがしら」と読んでいたくらい無知だったのだが。

「一角仙人」は歌舞伎の鳴神にあたる演目だそうで一番期待した演目で、そのために初めは夜の部だけ買ったのだが、実際に観て見たら一番つまらなかった。鳴神は雲絶間姫の語りがないと魅力の大半がなくなるし、亀治郎は前日までやってた玉三郎の天女みたいな格好で出てきて、比べると顔が不細工すぎるし、染五郎がやる一角仙人も特に魅力はなかった。これに七之助が加わって歌舞伎のような芝居を始めるとお囃子も沈黙してしまうし、ただ退屈な歌舞伎の芝居を見ているようだった。亀治郎と七之助が花道を引っ込んで、ああ、つまらなかった、と思ったら、舞台に能装束の龍神が2人現れ、一角仙人を攻撃し始めた。龍神は見た目がかっこよかったし、能と歌舞伎の戦いというのも面白いと思って、救われたような気がした。 最後はこの龍神たちと一角仙人が生き残って幕となるが、龍神には一角仙人をぶちのめしてほしかった。

三響会の後八時半から東京會舘で三響会十周年記念祝賀会があった。三兄弟が来るまでの時間、プロジェクターで過去の三響会でやった「船弁慶」の映像や、昭和56年の亀井兄弟会の映像を映していた。

お父さんの忠雄さんの音頭で乾杯した後しばらく歓談の自由時間があり、その後三兄弟プラス藤間勘十郎、茂山逸平の5人のトークがあった。私は会場に行ったのが早かったので前のテーブルに陣取り、至近距離でトークの様子を見ることができた。5人ともスーツ姿で、左から逸平、傳左衛門、勘十郎、広忠、傳次郎の順。みんなスーツ姿で両端の2人はノーネクタイ。皆さん飲み物をお持ちだったが傳左衛門だけウーロン茶。他の方々はシャンペンを何度もおかわりしていた。逸平は細身ですらっとして素敵。勘十郎はわりと色白で特に手の肌が綺麗。目張りを入れたように見える目は素顔だったんだ。

司会もいなくて自由にしゃべっているのだが、このトークがすごく面白かった。芝居後の役者の素の顔を見るのは興ざめだが、演奏者の話を公演のすぐ後に聞けるのはいい。右の3人に比べて左の2人がややボルテージが落ちている感じ。落ち着いていて、あらゆる意味で羽目をはずしそうもない傳左衛門と、「今笑ったのは歌舞伎ファンだけ。ここには能のファンも狂言のファンもいる」みたいに気配りのできるプロデューサーの傳次郎がしっかりしているので、広忠がやんちゃのまま居られるように見えた。

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