歌舞伎座さよなら公演六月大歌舞伎 千秋楽 昼の部2009/07/02 00:02

2009年6月26日(土) 歌舞伎座 午前11時開演 1階10列15番

仁左衛門の最後の与兵衛を観るためにチケットを買った。できれば油地獄だけ見たかったが、気が咎めて最初の演目から見た。

「正札附根元草摺」

正面を向いているときは感じないが、後ろを向いた松緑の肩がとても華奢に見えた。骨細なのか?

「双蝶々曲輪日記 角力場」

染五郎の与五郎は、見染の場の与三郎のようだ。つっころばしとしてそれで良いのかどうかはわからないが、前回同様楽しかった。

濡髪の幸四郎と吉右衛門の放駒の場もやっぱり良い。今月は仁左衛門一世一代の与兵衛が話題をさらっているが、この二人の共演も記憶に留めておくべき良い舞台だと思う。なんて良く合うのだろうと改めて感心した。放駒が若く攻撃的で濡髪がどっしりと受けている様子がいかにも兄と弟で、吉右衛門は幸四郎が受けてくれることを信頼して伸び伸びと演技しているように見えた。

「蝶の道行」

派手だけれども花が燃え上がって蝶が死ぬ、悲劇の踊り。

「女殺油地獄」

私の隣の席の人は最後の演目だけ来た。しかし、これを見るために気合いを入れて来たわけではなく、「もったいないから最後だけでも見て」とチケットをもらったような雰囲気の人だった。

仁左衛門が花道に登場したときは万雷の拍手。仁左衛門が出てきただけでこんなに拍手をもらったのは過去に経験がない。最後の与兵衛だから気合いが入ってるかと思ったが、客席で見てる限りは特にそんなこともなくいつも通りだった。お吉役の孝太郎、お光役の千之助と三人だけの舞台になることがある。与兵衛の初演からこの45年の開に息子と孫が生まれたわけだ。

妹のおかちへの合図で動かす白い足が綺麗だった。家を出て行く時、「出て行くわい」「おお、行け」と秀太郎と何回かやり取りするが、この辺は兄弟でやり慣れているのを感じる。花道すっぽんで、金を数えて途方に暮れた姿を徳兵衛が見ているのに気づくところの一瞬の身体の動きが大きく美しく決まる。

豊嶋屋で、「いっそ不義になって・・・・」とお吉を襲おうとして拒否された後、頭を下げて金の無心をする。その間にお吉はほだされて一度は抽斗を開けようかと鍵を取り出して抽斗に向かうが思い直し、与兵衛が頭を上げるまでに座りなおす。そして、借金を断りホホホと笑う。それを聞いて両腕を震わせる与兵衛。鐘がゴーンと鳴って、与兵衛の目が何事かを決意したような光を帯びる。殺人の始まりである。

お吉を殺し、最後にすっぽんのところで持ち上げた白い顔は二十歳の孝夫(見たわけではないが)のように若々しかった。

私の与兵衛が引っ込んだ後、拍手がなかなか鳴り止まず、カーテンコールがあるような雰囲気になった。あの与兵衛が戻ってきたら終わりの美学に反すると半信半疑でいたら、幕が上がり、上手に、髪を長く垂らして仰向けに倒れて死んでいるお吉の孝太郎が見え、幕はまた下がった。それでも拍手は続いていたが、結局その後は何もなく終わったのでほっとした。油地獄の最後はいつも与兵衛にばかり気をとられていて豊嶋屋の様子には思い至らなかったが、あのカーテンコールは、殺人の直後の豊嶋屋を初めて観客に見せてくれたのだ。

歌舞伎座さよなら公演七月大歌舞伎 初日 夜の部2009/07/04 00:19

「夏祭浪花鑑」

海老蔵は男っぽさと爆発力が団七に合っている。義平次を突き飛ばすところなどが乱暴な感じがするのも、役作りではなく、海老蔵本来の持ち味だろう。ただ身体つきがスポーツマンすぎて、殺しの場で褌姿になっても、刺青模様の水着の上にさらに褌を締めているように見えるあたりは好みが分かれると思う。

獅童の徳兵衛は下半身不安定で、歌舞伎役者用の筋肉ができてないのがわかる。徳兵衛の最初の出の時、団七の海老蔵は床屋で髭を剃ってすっきりした後で、祭りの浴衣を着ていなせな感じなので、徳兵衛はなんでこんな寝巻きみたいなものを着て出てきたのかと思った。 団七を呼び留め、床几に座るシーンでは、黒衣が床几の上に置いた補助の台に腰を載せると伸ばした両足がグラグラしているように見えた。足の長さに不足があるはずもないのに、あれは何なのだ? 海老蔵の団七と二人で組んで高札を持って跳んだり跳ねたりする時に、獅童は一度高札を取り落としそうになってハラハラした。二人の背丈が合っていて見栄えのする所作になりそうなものを、技量に差があるのでそうならない。

錦之助がやった徳兵衛を見たことがあるが、錦之助は一応形になっていた。獅童は錦之助よりかっこいいから徳兵衛向きかと思ったが、かっこ良さだけではできない役だったようだ。

三婦役の猿弥がとてもうまい。もっとベテランの名優が演じているように錯覚するくらいだ。それでも、浴衣を着るときは女房役に手伝ってもらって前をきちんと合わせてから着る。私は松竹座で見た我當が一人で着ていた様子が忘れられない。はじめから裾を持ち上げて適当に帯を締め、その後で形を整えて、最終的には凄く格好良くなっていた。

お辰の勘太郎は、顔はともかく姿と動きが綺麗だった。台詞も良く、怪物系の面白いキャラで、笑也の磯之丞を取って食いそうな勢いがあった。

義平次の市蔵も良かった。いろんな役をこなす人だと感心した。

「天守物語」

玉三郎の富姫は永遠だが、図書之助には賞味期限があると思っている。海老蔵は前回で賞味期限切れかと思っていたが、また見られて嬉しかった。

勘太郎の亀姫も良かった。玉三郎と立派に渡り合っている。声を聴いてると波野久里子を思い出すときがあった。勘太郎は、お辰にしても亀姫にしても「ブスとは言わせないわ」みたいな迫力がある。

獅童の朱の盤坊は、ポスターの赤っ面と違い、顔を真赤に塗っていて、赤鬼のお面のようだった。

最後にカーテンコールがあり、玉三郎、海老蔵と、我當が出ていた。

歌舞伎座さよなら公演七月大歌舞伎 昼の部2009/07/05 20:28

2009年7月4日 歌舞伎座 午前11時開演 1階10列18番

「五重塔」

普通の時代劇のようなものなので、獅童は不得意分野に足を引っ張られることがなく、背が高くて立派な親方。台詞も、普段のしゃべり方が生きていて江戸の職人ぽい。十兵衛の女房のおなみがしゃべりすぎるのを「おなみさん」と制するのに親方の貫録を感じさせる。

勘太郎は腕の立つ職人だが人とのつきあいが下手な十兵衛をそれらしく演じていた。女房おなみ役の春猿が亭主のかわりにペラペラしゃべるのが吃又のおとくのようだ。春猿は腰元のような役よりおかみさんの役の方がうまい。

十兵衛と源太は、いわば専門職タイプと管理職タイプ。何人も職人を使わないと建たない五重塔の場合、管理職タイプを棟梁にするのが当然だと思うのだが、なぜか源太の協力さえ拒否する十兵衛の方が棟梁になり、結局、職人達をうまく使えない。基本的には十兵衛タイプの人間の気持ちは理解できるが、人づきあいが苦手なら、この仕事の棟梁になろうとするのは間違ってるし、設計がうまかったり技術的に優れてることに自信があるのなら、源太だけ自分の直属の部下にして、他の職人達への指示は源太にさせるような形をとれば良いのだ。それでも結局、台風でも瓦一枚落ちない五重塔が出来、最終的に「十兵衛これを作り源太これを成す」と二人の協力で建ったことになるのだが、源太が具体的にどう協力したのかわからなかった。原作は読んでないが、はしょりすぎてる箇所があるためにわかりにくくなっているのかもしれない。

十兵衛の後ろに浮かびあがる五重塔が美しい。十兵衛の家に置いてあるミニチュアの五重塔、台風の中で十兵衛と源太がかけつけた、五重塔の下層階のリアルな形。いろいろな五重塔を楽しんだ。

「海神別荘」

この演目は前の演目よりも更に歌舞伎離れして主役二人が洋装。見るのは三回目だが、前回は何を見てたのかと思うくらい、今回やっと筋がわかった。千と千尋の神隠しに出てきたような白い龍も、今回初めて目に入った。

平成21年松竹大歌舞伎東コース 鎌倉2009/07/20 12:48

2009年7月19日 鎌倉芸術館 午後5時開演 一階6列37番

東コースは都内が会場のときはいつも平日なので、去年に続き今年も鎌倉に行った。しかし、チケットは会場に電話して取るべきだった。去年は下手の通路際で見やすかったが、今年は上手の端で、私の列までは段差なしなので、前の人たちの頭でかなり見えないところがあった。

このホールは浅草よりも残響が大きい。

「正札附根元草摺」

6月の歌舞伎座とは振り付けが違うそうだが、元々この演目の見方がよくわからないので、振り付けの違いもわからなかった。愛之助の五郎は、化粧した顔が歌舞伎の様式美にマッチし、がっしりした肩が強そうで、役に合っていた。

「義経千本桜」

プログラムでは「茶店の場」「釣瓶鮓屋の場」となっているが、いわゆる「木の実」「小金吾討死」「すし屋」だ。

木の実で出てくる仁左衛門の権太は、最初はそんな悪い人には見えない。途中から悪い人になって愛之助の小金吾をいじめるのがツボだった。ゆすりとった金を掌に載せて、小金吾にわざとちらっと見せたりするときの目つきが可笑しい。いじめっ子の仁左衛門、最高。愛之助は白塗りの前髪姿はぱっとしないが、熱演していた。

秀太郎の小せんと仁左衛門の権太の夫婦は前回歌舞伎座で見たときと同じく、愛情があって良い。確かに、ここの場からやらないと「すし屋」の悲劇の実感が薄くなるだろう。プログラムに、秀太郎は平成中村座の芝のぶの小せんに発見するところがあったと書いてあった。秀太郎は芝のぶのファンだそうだが、ずっと年下の女形の芝居を見ていて発見したりする秀太郎の柔らかい感性に感心した。

「小金吾討死」はもっと上の方から見ないと舞台の綺麗さがわからなそうだった。猪熊大之進の役で薪車が出る。プログラムに写真と言葉が出ているわりには、この役ひとつなのか。

「すし屋」では秀太郎の弥助実は維盛はよくない。品もないし、台詞が始まると眠くなる。この場の小せんもやるのだから、頑張って二役やらないで、この役は愛之助にやらせて、梶原は薪車にやらせたらどうなんだろう。

愛之助の梶原は普通に良かった。

仁左衛門は、ゾロゾロした格好で出てきたときから格好良い。若葉の内侍と六代君に仕立てた妻子との別れのシーンでは泣いている人もいた。よく見えなかったのだが、仁左衛門は、最後に陣羽織をかぶって突っ伏していたように見えた。愛之助の権太もあんなことしていただろうか?

私はどうも権太が父親に刺されてから死ぬまで延々と語るのが「僕ってかわいそうでしょ」に聞こえて、「すし屋」は嫌いな演目なのだが、、きょうの仁左衛門の台詞を聞いて、少し説得された。父に刺されたのは自業自得だとは思うが、自分がいがみでなければ「梶原ほどの侍が」やすやすと騙されたはずはない、と言うので、権太がいがみだったからこそ、若葉の内侍と六代君を救うことができたわけだ、と納得できた。

父親役の竹三郎は、父親の役は自分の役ではないと思ったそうだが、実際にはとてもうまかった。仁左衛門が、とても信頼している共演者なんだと感じる。仁左衛門は「わっと一声泣いたので」のところも「うぇあっと~」みたいにリアルさを追求して言っていて、歌舞伎座で見たときよりも自分の好きなようにやっているようで、それは語っている相手の竹三郎が、ちゃんと受けてくれることを確信してるからだろうと思った。

若葉の内侍の高麗蔵は品があって、初めから通してずっと良かった。

紀尾井舞の会2009/07/23 19:17

パンフレット

2009年7月22日 紀尾井小ホール 午後6時半開演

いつもギリギリに行くのにきょうは珍しく開場前に行って、小ホールが開場するのをしばらく待っていた。客席に座っていたらお囃子が練習している音が聞こえた。

きょうは上方舞四流派の家元の舞の会なのだが、このホールだけあって音の良さの方に感動した。いつもは耳を素通りする唄の文句が頭に入ってきた。入口でもらったパンフレットに唄の文句が書いてあるのも良かった。

間に二十分の休憩があり、八時に終わった。

地唄 「竹生島」 山村若、 唄、三弦 富山清琴、箏 富山清仁

山村若は大好きだが、きょうは何故かあまりのめりこんで見られなかった。うまいとは思うのだが。

地唄 「綱」吉村輝章、唄、三弦 富山清琴、箏 富山清仁

渡辺綱が馬に乗って羅生門に行く話。吉村雄輝の振り付けで、この流派の代表作だそうだ。面白かった。

一中節「辰巳の四季」 井上八千代、浄瑠璃 宇治はる、三味線 宇治をと

陰囃子もついていた。色っぽい人が踊ったら色っぽくなる踊りだろう。井上八千代の踊りは無駄がなく端正だがつまらない。

義太夫「都みやげ」 楳茂都扇性、浄瑠璃 竹本愛太夫、三味線 野澤松也(義太夫)

愛之助は今日は巡業が休みの日で、いっしょに巡業している愛太夫もいっしょだ。襲名のときと同じ振り付けだそうで、見覚えがあった。今回は下手、襲名のときとは逆側から見だので、狐の手つきがよく見えた。歌舞伎の所作などが入っていて愛之助が踊りやすいもののようだ。愛之助は他の舞手と比べて表情豊か。 やっぱり座敷で舞う人ではなく舞台で舞う人という感じがした。